レティシア書房は、本日が今年最後の営業日となりました。今年も様々な面白い本に巡り会うことができました。

小説は、松家仁之「光の犬」(新潮社)、川上弘美「森へ行きましょう」(講談社)、柴崎友香「千の扉」(中央公論新社)などの新刊書が強い印象を与えてくれました。偶然かもしれませんが、三作とも、長い時間を生きた人達の人生が語られていて、時の流れをじっくりと描くという長編小説の醍醐味を味わうことができました。数年後、もう一度読んでみたら、どんなふうに感じるのか、ちょっと楽しみにしています。

久々に読んだ沢木耕太郎の「流星ひとつ」(新潮社/古書700円)は、ちょいと変化球ぎみのノンフィクションでした。演歌歌手、藤圭子の波瀾の生涯を、差し向かいでお酒を飲みながら語り尽くすという構成です。彼女の心の奥底にどんどん降りてゆく技術はさすがベテランの作家の力量です。一緒に「旅の窓」(幻冬舎700円)という写真エッセイを読みましたが、上手いなぁ〜と思いました。

数多くの京都本が今年も出ましたが、その中では、吉田篤弘の「京都で考えた」(ミシマ社1620円)はお薦めです。吉田の文体って、わからん理屈で迷路に引っぱりこまれたりして、読みにくいなぁと思うこともありますが、これはストンと腑に落ちました。吉田の文体と京都の露地がシンクロして、あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。

この本を出した京都のミシマ社は、相変わらずいい本を出しています。山口ミルコ「似合わない服」(1620円)、安田登「あわいの力」(1836円)、「うしろめたさの人類学」(1836円)は中身の濃い傑作です。最新作の北野新太「等身の棋士」(1728円)は藤井聡太、羽生善治らの棋士を描くノンフィクションで、将棋のことを全くしらない私のような者でも面白く読めます。

来年、レティシア書房でミシマ社の展示会をするので、さらに充実したコーナー作りを計画中です。

ミシマ社と同じように小さな出版社ながら、書物への愛情一杯の本を出し続けている夏葉社からも、尾形亀之助著、松本竣介画による「美しい街」(1728円)や、「東京の編集者 山高登さんに話を聞く」(2484円)など、机の上に置いて、ずっと眺めているだけでも幸せになってくる本が出ました。特に最後に出た埴原一亟 「古本小説集」(2376円)は、よう出した!!と拍手です。殆どの人が知らない作家、埴原一亟の短編を集めたもので、古本を拾い、古本屋を始め、そして続けてゆくその姿を、様々な角度から描いていきます。帯にこうあります

「小売商人は何を犠牲にしても店を守らなければならない」

この言葉を肝に銘じて、来年も頑張ります。

ギャラリーでも新しい作家さん達との出会いが多くありました。一方、2回目3回目と個展を開いて下さる作家さんと親しくさせて頂き、実りの多い1年間でした。

得地直美さん(初)、福原真理子さん(初)、呑海龍哉さん(初)、高原啓吾さん(初)、中西敦浩さん、棚からうさもちさん、森野有子さん(初)、上仲厚志さん、冨田美穂さん(初)、もじゃハウス&小嶋雄之さん、大島尚子さん(初)、ARKさん、村上浩子さんと絵本教室の皆さん(初)、「震災で消えた小さな命展」の皆さん、土本照代さん、たがわゆきおさん、長元宏さん(初)、朝野ペコ&楠木雪野さん、白崎和雄さん、沢朱女さん、梶間千草さん、山中さおりさん、澤口弘子さん、越智信喜さん(初)、そして「贈り物展」の作家の皆さん、本当にステキな展覧会をありがとうございました。

そして、雨にも風にも負けずご来店頂きましたお客様に心よりお礼申し上げます。来る年も、いい本と巡り会えることができますように。(店長&女房)

★新年は1月5日(金)より営業いたします。最初のギャラリー展示は、いま人気の絵本作家町田尚子さんの絵本「ネコヅメのよる」原画展です。著者の”ご当地サイン”入の絵本や、手ぬぐい、町田尚子キャットカレンダーなども同時に販売いたします。おたのしみに!

 

 

 

 

松家仁之の「光の犬」(新潮社/古書1950円)は、今年最大の収穫でした。過去に出された「火山のふもとで」「沈むフランシス」「優雅なのか、どうか、わからない」のどれも期待していた以上に楽しめた小説でしたが、4作目の「光の犬」には敵いません。

この小説には年齢制限があります(と勝手に思っています)。30代以下の人、読む必要がありません。40代の方には出来ればお読み頂きたい。50代は必読。60代は、何をおいても読まねばなりません。いや、若い時に一読して、歳を重ねて再度読めば、さらに味わいが濃くなる、そんな本です。私も70代までに再読するつもりです。

舞台は北海道。道東の小さな町、枝留に暮らした一族三代の物語です。戦前、この小さな町に信州からやってきて、助産婦となった祖母、地元の工場長を務める祖父。二人には一人の男の子と三人の女の子がいます。男の子は、大きくなって川釣りと北海道犬が趣味の真面目なサラリーマンになり、結婚し、一男一女が生まれます。そして、いずれも独身の三人の姉妹、男、専業主婦の妻、二人の子ども、北海道犬が、同じ敷地内で暮らすことになります。やがて、二人の子どもたちは、独立し、この地を離れていきます。残ったのは老いてゆく両親と三人の伯母。この一族の、若い時から人生の終わりまでを描いています。

この作家は、あまり大きな出来事を物語に組み込まずに、何気ない日々の暮らしを描きながら、主人公の人生を掘り下げてゆくのが通常ですが、さすがに440ページに大長編ともなると、登場人物それぞれに、人生を左右する事件が起こります。しかし、基本は日々の暮らし、出来事を緻密に描くことにあります。

それぞれの人生を描いて、生きるとは辛いことなんだという真実を見つめます。辛いからこそ、命燃やそうとか、生きる幸福を味わおうとか、そういう方向へも向かわず、又ことさら辛さを誇張したような世界でもありません。読んだあと、しばらく黙っていたくなるような力のある作品です。

「消えてゆく準備ーそれは大きな輪を、中くらいの輪にちぢめること。小さな輪をさらに中心点に向かって縮めてゆくこと。輪だったものはやがて点になり、その小さな点が消えるまでがその仕事だった」

歳をとると、これが何を意味するかはよく分かります。何かと騒がしい年末年始などには、こういう長編を読んで、静かな気分で過ごしたいものです。