梨木香歩の「家守綺譚」(新潮社700円)の続編、「冬虫夏草」(新潮社1100円)が入ってきました。ファンタジー小説といえば、そうなんですが、この作家にしか描き得ない独特の世界です。「家守綺譚」はこんな風に始ります。

「床の間を見ると、掛け軸の中のサギが慌てて脇へ逃げ出す様子、いつの間にか掛け軸の中の風景は雨、その向うのボートが一艘近づいてくる。漕ぎ手はまだ若い……….高堂であった。近づいてきた。」

と、亡くなったかつての友人が、掛け軸の中からひょいと出てくる。えっ、怪談? では、ないんです。京都、疎水べりの古い家に住まいする文筆家が、日々の暮らしの中で、移ろってゆく自然の風景を見つめたエッセイのような、小説のようなものです。

「疎水の両岸の桜が満開のまま、しばらく静止を保っていたが、ついに堪えきれず、散りに入った。疎水の流れはその花びらが、まるで揺れ動く太古の地表のように、大きな固まり、小さな固まり、合体したり離れたりを繰り返し、下手に流れてゆく。」

そんな桜をじっと見つめていた作家の枕元に「桜鬼」と呼ばれる女がやって来る。木の精が入れ替わり立ち代わりしたりして、作家と交流する様が、美しい日本語で綴られていきます。

で、その続編が「冬虫夏草」というわけです。これは、主人公がイワナの経営する宿屋??を探すお話です。正確には、その宿を探すまでの山や村のことを描いたお話です。小説のラストの盛り上がりを期待してはいけません。主人公はこう言います。

「天地の運行は、私など、一被造物の測り知れないものである。ただ呆然と見ているのが関の山だ。いやそれこそが正しい被造物の在り方というものであろう」

読者も、話の流れを「呆然と見ている」のが、この本の正しい読み方なのかもしれません。

 

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朝から、本降りの雨です。できることならこんな日は家にいて、ゆっくり本でも読んでいたいものです。

雨音に妙にマッチする音楽が韓国から届きました。本名チョ・ユンソクは、2001年にルシッド・フォールというソロプロジェクト名義でファースト『Lucid Fall』(=『輝く秋』)を発表しました。その後スイスのローザンヌ連邦工科大学大学院に留学して博士号を取得している期間もありつつ、2011年までに5枚のオリジナルアルバムと、映画のサントラアルバム1枚を発表しています。

今、手元にあるのは「花は何も言わない」というアルバム。シンガ&ソングライターの彼の音の基調をなしているのは、ボサノヴァです。ブラジル音楽のリズムに、韓国語が微妙にブレンドされて、どこの国の言葉??と不思議にステキです。雨の日には雨の、晴れの日には晴れの、と、うつろう空気を感じさせる音楽です。ライナーノーツを書いている渡辺了は

「光の温もりが感じられ、若木の匂いがする。かすかにそよぐ葉音や穏やかな渓流の音も聴こえてくる。」と書いています。

例えば、梨木香歩の「家守綺譚」(新潮社700円)を読んでいると、伝わってくる四季おりおりの自然の気配を五線譜にしたら、こんな音楽ではないでしょうか。(「家守綺譚」の続編「冬虫夏草」は、近日入荷します)

こんな素敵なミュージシャンがいるなんて、知りませんでした。録音も素晴らしく、ピアノの細かい音の変化や、ギターの弦の軽やかな雰囲気、さぁ〜っと消えて行くシンバルの余韻まで完璧に収録されています。少々、大きな音で聴いても問題なしです。名曲「あなたは静かに」の収録されているベストCD(写真右)も見つけたいです。

やっぱり、ワールドミュージックは一番楽しい音楽ですね。

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個人的に新刊が出るとつい買ってしまう作家に、堀江敏幸がいます。古本市でもわりと見かけますが、「象が踏んでも」(900円)は知りませんでした。タイトルになっている作品は小説ではなく、初の長編の詩で、

「象が踏んでも 世界が本当に壊れないかどうかを いま一度たしかめるために」

という詩句で終わり、なんだか澄み切った気持ちにさせてくれます。その他、色んな雑誌に掲載されたエッセイ、評論を集めたものです。この作家は、短篇小説がいいのですが、短いエッセイも素敵です。全45編、堀江ワールド全開です。

堀江好きの中には、池澤夏樹の本を読まれる方も多いかと思いますが、彼の本も古本市では人気なので何冊か出品されています。その中に、「戦艦奪取大作戦」という海外ものの翻訳という珍しい本を見つけました。これ、全くの戦争サスペンス小説なんですが、なんで池澤夏樹が翻訳したんだろ?と思い、解説を読みました。少人数のスペシャリストが圧倒的に強い鉄のかたまりを奪取するという、不可能に立ち向かう実に映画的な冒険小説に魅かれたことが書かれていました。誰をキャスティングするか、など想像しながら読んでみるのもいいかも。

出品作品ではありませんが、梨木香歩が、昨年出版したエッセイ「鳥と雲と薬草袋」(新潮社950円)が早くも古書で入荷しました。挿画は西淑さん。西日本新聞に連載した短い随筆集ですが、やはり上手いですね。

冬の一箱古本市も明日で折り返し点を迎えます。いい本と巡り会えますように!!!

★一箱古本市は2月9日(日)まで。3日(月曜日)はお休みです。

 

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