森岡書店店主が推薦する写真集をまとめた「写真集 誰かに贈りたくなる108冊」(河出書房コロナブックス1500円)は、ユニークな本です。

森岡さんが気になる人、平松洋子、大竹昭子、坂口恭平、辛酸なめこ、ピーコ、しまおまほ、など様々なジャンルで表現活動をしている人に、貴方にはこんな写真集がお薦めという切り口で、本と推薦した理由を書いた文章を添えています。

例えば、坂口恭平には、こんな文章でスタートします。

「海には『海の幸』があり、山には『山の幸』がありるように、都会には『都市の幸』があるという坂口さん。『都会の幸』という観点からすれば、路肩にすてられているゴミや、川面に漂う廃材は、一転して実り豊かな生活資源として立ち現れます。」

そんな都市の幸を巧みに生活に取り込み、小さなダンボールハウスに住まいする人達の豊かな想像力に共感する作家へ送る写真集はフィリップ・モリソン他による「POWERS OF TEN」です。その推薦理由は

「本書は、宇宙の果てから、物質の最小単位までを旅するように構成されていて、目には見えない世界の広がりを見るという意味で、やはり想像力が要になっているといえます」

また、ピーコに贈りたいという写真集は、資生堂初代社長にして、写真家だった福原信三が、1922年ヨーロッパ滞在中に撮影した「巴里とセイヌ」。

ガンを告知され、片目を摘出し、数年間死と向き合ったピーコの著書「片目を失って見えてきたもの」を読んだ森岡さんは

「作者の『人格・個性』が『写真芸術』の『内容』を作る、と強調していた福原信三の観点からすると『巴里とセイヌ』に写しこまれた写真の美しさと、『片目を失って見えてきたもの』でピーコさんの伝えたい人間の美しさは、同じ意味といってもよいと思うのです。」と書いています。

写真集を贈る側と贈られた側の思想、美意識をみることのできる一冊です。

筆者が自ら経営する書店のことを書いた「森岡書店のこと」も収録されています。オープンから今日までの、長いようで短い道程を読むことができます。ぜひ行きたい書店です。

 

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東京にある写真集、美術書を扱う古書店「森岡書店」は一度は訪ねてみたい本屋さんです。

店は静謐な雰囲気が漂っています。その店主、森岡督行さんの「荒野の古本屋」(晶文社1000円)が入荷しました。お店の雰囲気とは全く違うようなタイトルですが、こう書かれています

「街の姿がいつもと違って見えた。アスファルトは乾いた土の大地。ビルは赤茶けた岩山。電柱は灌木。見渡すかぎりの荒れ地。風はそのあいだを土煙を巻いて、寂しく吹き抜けた。住所はさしずめ東京都中央区無番地といったところだろう。私はそこに古本屋を開いてしまった。これでは、まるで『荒野の古本屋』である。」

どうしようもなく古いビルに憧れる著者は、ふとしたことで昭和2年建築のビルの出会い、その瞬間から、ここで古本屋を開きたいという強い衝動に動かされて、「森岡書店」を開業する。そこまでの悪戦苦闘の日々を描いたのが本書です。

本と散歩の日々から、古書店勤務を経て、自分の店を持つことになり、初めての海外買い付けを経験し、やっとこさ開店。初日大入り満員、二日目の好調、しかし、三日目ぱたりと客足が止まる。

「店をはじめて一ヶ月もすると私の表情には完全に敗北感が漂っていた。」

そして、ここから店主の様々なチャレンジが始まります。自分が納得する店作りは、そのまま自分が納得する働き方であり、生き方へ繋がるということを教えてくれる一冊です。

この本は晶文社「就職しないで生きるには」シリーズの一冊。同シリーズでは、以前ご紹介した島田潤一郎「あしたから出版社」、矢萩多門「偶然の装丁家」が出ていますが、どの方も個性的で、人としての不思議な魅力に溢れています。それが、成功の秘密なのかもしれませんね。

蛇足ながら、森岡さんはミニプレス「Bon Appetit」で、毎回様々な方と本談義をされています。これ、一冊の本にして欲しいものです。

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