武田百合子といえば「富士日記」が思い浮かびますが、私はこの本の良さがいまいち分かりませんでした。文庫なら上中下3巻という量で、結局パラパラとつまみ食いみたいな読み方で終わってしまいました。

が、久々に手に取った「日日雑記」(中央公論社/1050円)を、面白く感じました。

「玉(うちの飼猫)は今朝八時までに、日光浴をし水を飲んで牛乳を飲んで『北海しぐれ(カニアシの名前)』を食べ、毛玉を吐いてゲロも吐いて、うんことおしっこをした。あっという間に、そのうちにすることを全部してしまった。玉は十八歳、ヒトの年齢でいったら九十歳である。若い。えらい。すごいと思う。」

何気ない文章なのですが、あっという間に、猫の一日を簡潔な言葉で書いているところがいいですね。因みに、この文章、音読するとさらに良い。「ヒトの年齢でいったら九十歳である。」まで一気に喋り、「若い。えらい。すごいと思う。」を上がり調子で発声してみてください。

難しい言葉や、美辞麗句は全くなく、適度なユーモアと洒落っ気が、読者をニンマリさせるところがこの作家の真骨頂なのかもしれません。彼女が偶然見つけたポルノ映画館の宣伝ポスターには、「老人福祉週間。証明書をお見せください。半額」と書かれていました。その宣伝文句から、彼女はこんなことを想像します。

「辛うじて残っているポルノ映画館。ゆらゆらと老人が自転車を漕いで一人やってきて、自転車を立てかけ、汚れた厚ぼったい黒いカーテンをまくって吸い込まれて行く。」

なんか映画のワンカットみたいにリアルな情景ですね。そういえば、大阪環状線に乗っていた時、ラブホテルの看板に「全館バリアフリー」と言う大きな看板を見つけた時、大笑いしたことを思い出しました。彼女ならどんな情景を描写をしたでしょうか。

おいおい、そんな風に考えるか?という発想が随所にあるのも、この本の楽しさです。水族館にある爬虫類を集めた場所で、大型の毒ヘビのボアとアナコンダを比較して、こんなとんでもないことを言います。

「ボアは丁度あくびをしたところだった。隣のアナコンダに比べると、ずんと顔立ちもよく可愛らしかった、飼うならこれだ。」

「飼うならこれだ」で締めくくるか?と突っ込みたいところですが、ちょっと人を食ったところや、クールで投げやりな視線が魅力的です。

「夕方まで、だらだらと雨が降った。少し裁縫をし、少し本を読み、電話がかかってきて、ちょっと喧嘩した。夜になると、ざんざん雨が降った。レコードを出してきてかけた」

本書に収められたエッセイは、当時ハイブロウだった女性誌「マリ・クレール」に連載されていたものです。今の作家でも書きそうなことを、彼女はすでに80年代後半にすでに書いていたんですね。

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