恒例の夏の古本市です。今回は28店ご参加いただきました。さてどんな本が出ているか、最終日まで紹介していきます。

京都在住のエッセイスト、山田稔の本は必ず一冊は出品されます。今回も「太陽の門をくぐって」(編集工房ノア3000円)がありました。アンダルシア、シチリア等ヨーロッパ各地を旅した時のエッセイ集です。ふとした風景や、街中の雑踏を見つめる山田の文章は、技巧を凝らしたものではありませんが、魅力的です。

この人の紀行文も、魅力に溢れています。池内紀の「小さなカフカ」(みすず書房800円)です。これ、カフカの周辺をぶらりぶらりと巡りながら、等身大のカフカに迫ってゆく趣向の文芸エッセイでもあります。カフカと宮沢賢治が同世代で、二人とも、数多くの動物物語を書き残していたという指摘から、二人の作家の本質に向かう「動物物語」には驚かされました。

さて、かつて「フォーククルセイダーズ」という才気溢れるフォークバンドがありました。「帰ってきたヨッパライ」や「イムジン河」等のヒット曲を残して解散しました。そのメンバーの一人で、現在は精神科医の北山修が、昭和46年に発表した詞詩集「ピエロとサム」(ブロンズ社500円)は、珍しい本です。巻頭には、ヒットした「白い翼に乗って」、「青春のわかれ道」、「戦争を知らない子供たち」等が譜面付きで掲載されています。オジさん、オバさん歌えますね?

変わった雑誌も出ています。「グラフィックマガジン 世界の秘境」(双葉社700円)です。「最後の秘境ニューギニア」、「世界の海底に秘められた財宝」、「漂流船その戦慄の記録」、「裸族 大アマゾンの謎を探る」など、各号度肝を抜かれそうな特集です。発行されていたのは昭和40年代。今は「未開人」なんて呼称は、使えませんね。

 

★8月9日(水)〜20日(日)「レティシア書房 夏の古本市」開催。個性的な28店のよりすぐりの古本が大集合です!(14日は休み)

暑い日が続きますが、お立ちよりください。

8月21日(月)〜25日(金)は、夏期休業いたします。よろしくお願いします。


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ドイツ文学者池内紀、昆虫学者奥本大三郎、そして映画&文芸評論家川本三郎という無類の本読みが集まって、様々な本について語る「快著会読」(リクルート出版/初版/帯付き1400円)は、極上の座談会です。オタク的知識のひけらかしでもなく、小難しい文学談義でもない、三人の個性溢れる意見が飛び交う読書談義です。

先ず、この本、判型がいいですね。ほぼ正方形の変型盤に、表紙にはウィリアム・モリスの「チョ−サー著作集」のタイトル部分がレイアウトされて、持った感じ、見た感じから、中身が楽しみです。

藤沢周平「蝉しぐれ」の項では、各々が好きな文章を読み上げます。奥村は「今から読みます。七ページです。」とことわって、数行読み上げ、「ぼくはここら辺、幸福感にひたってなんべんんも読み直したんです。」といかにも楽しそうです。これだけで、こちらに本を読む楽しさが伝わってきます。

取り上げる本は千差万別です。元々、雑誌文学界に88年から89年にかけて連載された鼎談ですので、今から見ると古い本が多いのですが、村上春樹「ダンス・ダンス・ダンス」、山田詠美「ひざまずいて足をお舐め」、澁澤龍彦「高丘親王航海記」、小出楢重「小出楢重随筆集」、鶴岡眞弓「ケルト/装飾的思考」、田中小実昌「アメン父」など31冊が語られています。

池内、奥本の関西人が、大阪出の小出楢重を語り合う大阪風土記や、小林信彦の「小説世界のロビンソン」を、川本がこれ程ユニークな文学論はない、「基本的には小林信彦本人の断固たる好みで論じている、その凄味があります。気持ちのいいタンカを聞いたという気がしました。」と言い切っていますが、ほんとにズバズバと切り込んでゆく面白さに満ちていました。

31冊、すべて読んでみたいと思わせる座談会なのですが、とりわけ吉行淳之介の短篇集「目玉」に心魅かれました。いわゆる「私小説」のジャンルに入るのだろうが、池内は、この短篇集を「『私』という要素はあまり感じられない。むしろ『私』の肉体、もう少し即物的にいえば、『私』という物体の物語であって、私小説の『私』性は少なくて、病んだ肉体、物体を冷静に観察している人物の語り手がいる、そんな感じです」と解説しています。そこから、座談会は方々に話が飛び、そして、吉行を「生活の匂いのない作家」という意見で一致していきます。

ここで紹介されている本を読まなくても、三人の話がスリリングに、軽妙に進行してゆくので、紹介されている本の世界に知らず知らずに入ってしまいます。この三人でなければでない旨味なんでしょうね。

●「快著会読」は売り切れました。

★2月8日(水)〜19日(日)レティシア書房恒例「女子の古本市」を開催いたします。

東京、岐阜、神戸、大阪、滋賀、京都から20数店の女性店主がセレクトしたステキな本が、所狭しと並びます。ご来店お待ちしています。


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ドイツ文学者で、名エッセイストの池内紀の「戦争よりも本がいい」(講談社2000円)が入荷しました。

「偏愛的人間」、「異能、奇才、名人、達人」、「旅と民俗」、「人生のデザイン」等全九章に分けて、様々な本が手短かに紹介され、そして著者の思いが的確に書き込んである大著(約400ページ)です。

章の中に「戦争よりも本がいい」があり、12冊の本が紹介されています。その中の一編「甘党のお守り」は、松崎寛雄「饅頭博物誌」という1973年に発行されたもので、これ、「饅頭の生成、ひろがり、変化、饅頭文化の諸相、詩歌、演芸、小咄などにみる饅頭」を解説したものです。池内は最後にこのようにしめくくります。

「この民間の饅頭博士は召集を受け、戦場を飢餓を体験した。身にしみて戦争の時代を知っている。非常時になると、なぜかまっ先に甘味が姿を消していくものである。津々浦々、多彩な饅頭と対面できるのは、二つとない平和の証し。」

或は、明治40年生まれの伊藤芳夫著「サボテン百科」の中で、何故か戦争直前になると、サボテンが流行ると指摘されています。日露戦争前、大正初期、第一次大戦前、そして昭和10年代、国中がキナ臭くなってきた時に、自発的流行があったという。ここでも、池内は、著者伊藤を「こころならずも軍国主義の時代にいき合わせた。過酷な条件にあって生きのびるすべてをこころえたサボテンに、ことのほか愛着を覚えたのではあるまいか。」と思いやっています。

このボリュームたっぷりの書評集を、ぱっと開いたページから読み始めることをお薦めします。池内の文章が、素晴らしく、かなり前に書かれた本の事でも、興味深くへぇ〜と熱中して読んでしまいます。

池内のエッセイなら、ほかに、「なじみの店」(みすず書房500円)や、世紀末ウィーンで、辛辣な言葉で、時代に喧嘩を売り続けたカール・クラウスが出版していた「炬火」を中心に描いた「闇にひとつ炬火あり」(筑摩書房1000円)も面白いです。

 

★レティシア書房 夏の一箱古本市のお知らせ 

8月9日(火)〜8月20日(土)20数店が今年も店内に出店します!