目取真俊(めどるま・しゅん)の「風音」(リトル・モア/古書700円)は、沖縄出身の作家だからこそ書ける色彩感覚で、沖縄県の過去の歴史を知っている作家にしか書けない力作です。彼は1997年、「水滴」で芥川賞を獲得しています。

海岸の崖に人の手で積み上げられた石の壁があり、その壁の奥にあるもう一つ空間。そこには、銃弾が貫通して穴のあいた白い頭蓋骨が置かれています。その穴を風が通り抜ける時、不思議な音が発生します。

「音が泣いているように聞こえるだろう。だから泣き御頭というんだ。」

この頭蓋骨をめぐって、物語は始まります。暴力を振るうだけの夫を東京に残し、故郷に戻ってきた和江と息子のマサシ、和江の母マカト。沖縄戦の戦火をかいくぐって生き延びた清吉と、孫のアキラ。沖縄戦の特攻で死んだかつての恋人の骨を探しもとめて、毎年東京から来る藤野。彼らの人生が徐々に、徐々に語られていきます。

「泣き御頭といってもですね、いつも泣いているわけではないんですよ。海から吹いてくる風がですね。こう、何かの拍子であの骨の中を通り抜けたときに、音が鳴るんです」と、現地を案内する男が藤野に説明します。

登場する男たち、女たちはそれぞれに悲しく、辛い過去を背負っています。戦後生まれの和江にとって、故郷は「村には楽しい記憶よりも、つらく、苛立たしく、いつも誰かの視線に脅かされているような記憶が推積していた。」場所でしかありませんでした。だからこそ、東京へ逃げた。この人ならと思って所帯を持ち、息子を育てたが暴力をふるう男であることが分かり、故郷に戻ってきたのです。

清吉は、アメリカ軍の艦砲射撃の中を這いずり回りなんとか生き延びたが、戦後の沖縄返還と同時に本土企業による乱開発、土地搾取で海が荒廃し、漁師として生き残れず、やむなく建築現場で働かざるを得ない日々を送ります。

「自分のやっている工事が、雨が振るたびに海を駄目にしていくことが分かっていても、その矛盾から抜け出すことができない。そのことに悩んで追い込んでしまい、酒浸りにな男たちもいた。」

そんな一人が清吉でした。ヤマトンチュウ政府に滅茶苦茶にされた歴史が、今も続いていることはご存知の通りです。それぞれに背負ったまま、和江の夫が沖縄に現れることで、血なまぐさい悲劇的なラストを迎えます。

けれどもこの小説には救いがあります。それは、アキラとマサシです。二人の人生にどんな未来が待っているか分からないけれど、この地で育んだ二人の友情があれば乗り越えられるかもしれない。そんな僅かの希望を思わせつつ小説は終わります。

映画にもなった名曲「スタンド・バイ・ミー」に、こんな歌詞があります。「君がそばにいてくれたら、怖いもの なんてない」  歌が聞こえてきた気がしました。

 

★年内は12月30日(日)まで営業いたします。年始は1月8日(火)より通常営業いたします。

★イベントのお知らせ「宮沢賢治 愛のうた 百年の謎解き」

2019年1月18日(金)19時より、「新叛宮沢賢治 愛のうた」を出された澤口たまみさんとベーシスト石澤由男さんをお迎えしてトーク&ライブを行います。ご予約受付中(1500円)

 

 

 

 

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池澤夏樹が、沖縄のボーダーインク社から出版した「沖縄への短い帰還」(古書/1600円)は、沖縄について書いたエッセイ、書評、インタビュー、講演などをまとめた一冊です。著者は、1994年から10年間沖縄に住んでいました。都会である那覇から、田舎の知念へ引越もしています。

戦争末期、軍部は時間稼ぎに沖縄を戦場にし、20万以上の民間人が犠牲になりました。戦後はアメリカによって好き放題使われていることは、皆さんご存知のことです。日本は沖縄をいいように扱ってきました。著者は、そんな現状への鋭い意見を発表しています。しかし、この本はそういう面だけでなく、様々な顔を持つ沖縄を紹介しています。

彼が移住を決心したのは、「東京という大都会が提供してくれるさまざまな魅力が色あせて見えるようになったからだった。もうあの喧噪はいらない。」でした。「感動的においしいものはなくても、まずくないものが手に入ればいい。沖縄ならばそういう食生活になりそう。」

ここから、地元の食材の話が展開されていきます。そして、当然、泡盛の話題になっていきます。「酔うために飲んで、気持ちよく喉を通り、素直な酩酊に入れる。翌日はすっきり目が覚める、という意味では、泡盛はよい酒である。」

沖縄ぐらしのエッセイの後に、沖縄についての本の書評が集めてあります。本土の出版社から出たものもありますが、沖縄の出版社の本が多いです。その中で、宮城文著「八重山生活誌」(沖縄タイムス社)に驚きました。

「一人の女性が自分が経てきた時代の生活文化すべて書き記そうと決意した。九年あまりかけて知るところを書き、不明な点は調査を重ね、ついにA5判で六百ページの大著を完成した。検索項目だけで二千を越える綿密な生活誌である」この本が完成した時、著者はなんと数え年で81歳でした。

続く第三章は、著者が受けた沖縄に関するインタビューがまとめてあります。1995年、地元雑誌の載ったインタビュー記事を少し長いですが紹介しておきます。

「地方にもっと強い力をというのは、言ってみれば『強い国」』か『幸せな国』かの選択なんだな。『強い国』が欲しいのであれば、みんな中央のことをきくというのがいい。日本の会社が軍隊をまねて人を使うのと一緒でしょ。一糸乱れず行進する兵隊が強いんですよ。だけど『幸せな国』ってのはそうじゃない。みんなしたいことして、ばらばらで、しかもなんとなくまとまっているというふうが幸せなんですよ。やっぱり日本というのは、明治以来の西洋コンプレックスがあってどうしても『弱い国』にはなりたくないんだ。力の神話にすがっている。ぼくなんか『弱いけれど幸せな国』の方がいいんだけれど………。琉球はかつて『弱いけれど幸せな国』を実現していたから、そこへ返りたいという思いも強い。」

あるべき国の姿をこの地に求めた愛情と、ここを見捨てた日本という国への辛辣な意見が交差する一冊です。 

沖縄、那覇の市場通りにある日本一狭い本屋「ウララ」の店主、宇田智子さんの「市場のことば、本の声」(晶文社/古書1200円)を入荷しました。

宇田さんの「那覇の市場で古本屋」(ボーダーインク/古書850円)は、大きな新刊書店から、畳三畳分のスペースしかない小さな古本屋店主へとなった経緯が中心に描かれ、軽妙な文章で楽しく読みました。

単行本第二作となる「市場のことば、本の声」は、廃刊となったミニプレス「BOOK5」の連載コラムや、その他の小冊子に書かれていた文章を集めたエッセイ集です。沖縄に憧れて、移住し、地元で地元沖縄の本を売り出して9年の間に、沖縄の人々のこと、考えてきた本のことが、一杯詰まっています。

「沖縄時間=ウチナータイム」という言葉をご存知でしょうか。

「沖縄には独特の時間が流れているとよく言われる。確かにこうして市場で人を見ながら時間をはかっていると、多少のずれはどうでもよくなる。営業時間を明記している店のほうが少ないし、腕時計をしている人も見ない。業者との打ち合わせでも、何時に、と約束している人はほとんどいなそうだ。店は待つのが仕事であるから、相手にはいつ来てもらってもかまわない。こちらは開けたら閉めるまでそこにいる、それだけだ。」

そういう風土のもと、このお店には様々な人達が訪れます。日本中を回っている船乗りは、沖縄に寄港する度に、この本屋に立ち寄るお客さんで、船室に一杯ある本を譲りたいと申し出ます。「あした出航して今度は北海道から東北にまわって、次に沖縄に来るのは来年なのですが。」と、時間のかかる話です。でも著者は、「来年は、船旅を終えた本たちに会えるかもしれない」と楽しみに、その日を待つ事にしました。

きちんとお盆をやりたいという奥さんを亡くした男性に、「沖縄の冠婚葬祭祭」の本を売った話、市場通りの店舗にはトイレがなく、遠くの、しかも早く閉ってしまう公共施設まで行く不便さの話など、本を通して触れ合った人たち、市場通りの商店で、商いを営む地元の人達との交流がスケッチ風に描かれています。ですから、古本屋店主が書いた本とはいえ、けっして古書のウンチク本ではありません。素敵な、或は面白い人達に囲まれて、身の丈サイズで生きている一人の女性の幸せな日々報告と言ってもいい本です。

「ものを片づけて手入れをするのは、すぎた時間に向きあうことであり、さらなる時間を迎えるための準備でもある。掃除して洗濯して、時間は一日ずつ刻まれていく。どんなに断捨離しても家事は終わりにできない。勇ましい三文字よりずっと地味な日々が、死ぬまで続く。」

いい文章ですね。

安曇野発の沖縄紹介リトルプレス「ぱぴる文庫」1〜3号が入荷しました。
ページを開いた瞬間、眩しい!と感じるリトルプレスですよ、これは。
そして、各号で紹介されている沖縄野菜の写真やら、お料理を見て猛烈な食欲が襲ってくるアブナイ本でもあります。「ゴーヤーのサラダなんとなくベトナム風」、「タイ風かぼちゃのオレンジカレー」「ナーベラーとエビの卵炒め」(ナーベラーはへちまの事です)等々、名前を聞いただけでお腹が減ってきますね。
連載記事もユニークです。題して「沖縄おべんとうウォーズ」。1号の巻頭文にこうあります。
「ここに記すのは、沖縄おべんと修行の記録である。真夏の暑くて倒れそうな日も、台風の暴雨風が吹き荒れる日も、北風が吹きつけ凍え上がる日も、毎日毎日ここにたたずみその熾烈な争いを乗り越えてきたのだ。たかがおべんと、されどおべんと、たったひとつのおべんとの中にも、さまざまなドラマが詰め込まれているのである。」
と、日々灼熱の沖縄のストリートで繰り広げられるおべんとの顧客争奪合戦をレポートしてあります。その涙ぐましい努力。もちろん、写真入り。これが、また胃袋を刺激します。調査した久茂地交差点のマップと、どこでどんなおべんとを売っているかまで網羅されています。「今日のランチボックス」というコーナーでは、レシピも載っています。もう拍手、拍手です!
で、こんな沖縄100%の雑誌が、沖縄ではなく信州の安曇野発というのが面白い。このリトルプレスの主催者の方が、沖縄に移住し、また故郷に戻って来られたという経緯が創刊号に書いてありました、なるほどね。
そして、ここからもう一冊「くっきりと安曇の光の中で」という本も出版されています。循環型エココミュニティ「シャロムコミュニティー」を丸々紹介した本です。大地とともに共生し、自然と共に行きて行く実践の場としてのコミュニティーの姿が、美しい写真と共に掲載されています。こちらは、全く沖縄とは違う自然が楽しめる一冊に仕上がっています。
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