ミニプレスに目を通していて楽しいのは、この地方には、こんな作家がいたのかという事実を知る時です。

三重県津市から発行されている「Kalas」最新36号を読んでいると、今井貞吉という作家のことが書かれていました。この雑誌の発行責任者西屋真司さんが、伊勢市にある「古本屋ぽらん」の店主から「津を舞台にした小説みたいだから、あなたにと思って取っておいたんです。」と手渡された今井貞吉の「鄙歌」という小説を読み著者のことを調べ始めたのだそうです。

「それは一組の男女の逢瀬を主軸にした物語だった。昭和初期という舞台設定に即した穏当な内容で、この後も派手な事件など起こりそうにない。三分の一程度まで読み進んだ印象はそんなところだ。それで退屈な話かと言えばそんなことはなく、丁寧に記述された戦前の津の風景にいつしかひきこまれている。」

どんな人物なのか、調べてみたものの手がかりが無かったみたいです。しかし、この地方の文化に詳しい市職員の中村光司さんを紹介され、早速会うことになります。中村さんは、伊勢出身の詩人竹内浩三の研究者であり、三重文学協会会長という肩書きの人物です。

氏との会談で今井貞吉のことが明らかになってきました。今井は、明治37年津市で砂糖商を営む家に生まれます。兄の俊三も、昭和12年「饗宴」という長編小説を発表していました。その兄の影響もあって、貞吉は文学に傾倒していきます。兄と共に上京し、小林秀雄、中原中也、中島健蔵らの文人たちと交流していきます。しかし、昭和20年津市への空襲で家財全てを失い、戦後は兄弟の面倒を見ながら、困窮の生活を送ります。こつこつと作品を発表しますが、話題にもならず、昭和60年八十一歳でこの世を去ります。

こうして詳しいことが判明するなんて、地方の文化研究者や、郷土史家の人たちの知識は半端じゃないですね。好きなことをコツコツと、地道にやるって本当に大事なことです。

西尾さんは、最後にこう書いています。

「三十幾つか過ぎた定職もない男の心理描写には、借り物とは思えない追憶と寂蓼がある。津に暮らす読み手としては、全編を通して流れる街への心情に共感するところも多く、確かにこれは同じ土地で生きた人の手による物語だとの印象を強くする。」

一地方都市で、ひっそりと人生を終わらした作家の本。機会があったら読んでみたいものです。

 

★ただ今開催中の「福井さとこ絵本原画展」に伴い、2月3日(日)18時から、福井さんによるスロバキアのお話会を行います。参加ご希望の方はレティシア書房までお申し込み下さい。(075−212−1772)

★レティシア書房 恒例「女子の古本市」は2/6(水)~2/17(日)です。出店者は女子ですが、もちろんどなたでもご来店くださいませ!今回も27店程にご参加いただきます。お楽しみに!

三重県津市のミニプレス「カラス」から、素敵な本に関するガイドブックが届きました。タイトルは「ホンツヅキ」(500円)。サブタイトルに「本と津に出会うためのブックガイド・ガイドブック」とあります。この街で、様々な店をされている22名の方が、お気に入りの1冊の解説と、それぞれのお店の紹介をしています。プロの書評家や、作家の推薦する一冊にはない、真っ正直さが溢れていて、好きな本など載っていると、この本の好きな店主さんの店ってどんな所かなぁ〜と興味が湧いてきます。

他に「大切な地元書店」とう特集があり、ホントに地元の本屋さんが6店舗紹介されています。セレクトショップやオシャレなブックカフェではなく、その街の人達に愛されている小さな本屋さんです。そして、そのお店のオーナーが足を運ぶカフェが一緒に載っています。地元本屋+地元カフェなんて企画は初めてじゃないでしょうか。このコーナーの最後に紹介されている「奥山銘木店」は、津市ではニューフェイスで、本業の銘木業と本屋をされていますが、木の香りが漂ってくる本棚が、いい感じです。

今回の「夏の古本市」にもご参加いただいている「古本屋ぽらん」の店主が、ご当地の老舗カフェにお邪魔して、その店に似合う一冊を置いてみるという面白い企画もあります。紹介されている「中村珈琲」にはサリンジャーの「フラニーとズーイ」が雰囲気にピッタリだとか。行ってみたくなりますね。

これから、サマーバケーションの皆様。この本をちょっとバッグに入れて、津の街をブラリブラリするプランは如何でしょうか。

 

配布開始しました

徳島県が発行しているミニプレス「あおあお」1号から4号まで入荷しました。20ページの小冊子ですが、中身は充実。各号の特集もバラエティーに富んでいます。で、これがすべて無料!です。ご希望の方はカウンターまでどうぞ。

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