今年の短編小説集としてはイチオシの「サキの忘れ物」(新潮社/売切)を発表した津村紀久子が、2016年に出した「枕元の本棚」(実業之日本社/古書950円)を面白く読みました。

第一線級の作家の読書案内って、いかにもという内容が多いのですが、津村が選んだ本はちょっと違います。例えば、ナンシー・リカ・シフ著「世にも奇妙な商業案内」。これは、へぇーこんな職業があるんだ、ということをルポした本です。なんでも小川洋子が自身のエッセイで取上げていたのを読んで購入した本だとか。興味深い仕事としては「ゴルフボール・ダイバー」。これは、ウエットスーツを着込み、池に落ちたゴルフボールを拾い上げて再生会社に売るらしい。

「どの人も、とても自然な顔をしてその職業におさまっている。そこには、幸せそう、などというありきたりの物言いでは説明できない、矜持と満足が漂っているように見える。」

そして、最後をこう締めくくっています。

「昔は、ドモホルンリンクルのコラーゲンの抽出を見張る人、カウンターを持って通行人の人数を数える人などをやりたがったが、今は京都の六角堂で白鳥の世話をしている人になりたい。収入や名誉やありきたりな夢を脇に置くならば、職業とはこんなに豊かで、それはすなわち人間の生活の豊かさを意味しているのだと本書は教えてくれる。」

津村流の文学案内でもなければ、この本を読みなさい的な読書案内でもありません。彼女の人生の中で、折に触れ、心を動かし、生き方に影響を与えてきた本を並べて、彼女が何を考え、行動してきたかを綴っています。

石垣りん著「ユーモアの鎖国」の中の「事務員として働きつづけて」について、津村は「戦後も今も職場での女の人の立場はほとんど変わっていないように思われる。男女が同じ権利を持つ職場は、たぶん今もほんの一握りだ。でも石垣さんは『私は会社にとり入る心、会社が必要とする学問、栄達への努力をしないで働くことが可能でした』と、会社に魂まで売り渡さなくてもすむ働く女の人の自由も提示してくれる。制限されたり、月給が低かったり、立場が弱いこととも裏腹のこの自由は、わたしが会社員をやってきた中で強く感じたことだった。」と書いています。

作家の拠り所とする思想を背中から支えた本を集めた優れた読書案内です。

 

★発売決定!町田尚子さんのおなじみ猫のチャリティーカレンダーを、10月中旬より販売いたします。価格は550円(税込)です。今年のテーマは日本映画です。

ARK(アニマルレフュージ関西)の2021年度カレンダーを入荷しました。

・大きいサイズは1000円(撮影は児玉小枝さん)・卓上サイズは800円(ARKスタッフ撮影)

売り上げは全てARKに寄付します。ぜひ店頭で手に取ってください。