実相寺昭雄。男子ならご存知ですよね。(もちろん女子も)円谷英二のもと、あのウルトラマンシリーズの監督をした人物です。誰もやった事のないTV30分特撮番組を、手さぐり状態で始めた苦労も多かったが、熱かったという時代を語った文庫が、3冊揃いました。

『熱い。熱い、あち、ち、ち、………助けてくれ」 ぶ厚いラテックスの縫いぐるみを通して、かすかな悲鳴が耳に届いたときスタッフはわれに帰り、ぼくは「カット!カット!」という声をかけた。』

これ、怪獣の縫いぐるみの中に火薬が入りこんだ時の様子を描写した一節です。ゲテモノ扱いされて、周囲からバカにされたシリーズ創成期の現場の失敗と、試行錯誤の日々を振り返る「ウルトラマン誕生」(ちくま文庫750円)は、怪獣達に魂を吹き込んだ職人たちの世界が生き生きと描かれています。

『ガソリンが縫いぐるみに燃えうつって火傷を負ったり、曳光弾が空気穴を突き破ってはいってきて顔にけがをしたりってことは、たまにあったんですが、縫いぐるみを着たまま、ステージにつくった特設のプールにとびこむシーンではえらい目に会いました。』

と、語る役者は、ほんとに死にかけたそうです。でも、みんな面白いものが作りたいからやるんですね。ひたすらトライ&エラー。読む方は、わははっ、と笑えますが、現場は修羅場だったことでしょう。ものを作る、表現することの愛しさに溢れた一冊です。これはドキュメントですが、実相寺は、あの時代を「星の林に月の舟」(ちくま文庫400円)で小説にもしています。以前NHK が、ウルトラマン創成期に現場をドラマ化していましたが、この本が元になっているのではないでしょうか。涙が出てくる青春小説です。(朝ドラでやってほしい!きっと毎日元気に通勤、通学できると思います。)

この本のタイトルは「空の海に 雲の波立ち 月の舟 星の林に こぎかくる見ゆ」という柿本人麻呂の歌から取っているとか。

最後の一冊は、「ウルトラ怪獣幻画館」(ちくま文庫700円)。これは、作り出した怪獣達を実相寺自身が描き、一言つけ加えたもので、みうらじゅんは「素晴らしい!全作品、掛け軸にして床の間に飾りたい」と帯で絶賛していますが、そう思います。「女心と秋の空」と書かれたページの怪獣ガマクジラには笑えるし、「宇宙人には座布団をすすめるべきか」に登場するメトロン星人には、そうだよなと思ってしまうし、「怪獣よはるか宇宙の星となれ」に登場するテレスドンは、掛け軸にして床の間に飾りたい。

「怪獣たちは何を夢見る」と書かれたページには、役目を終えた怪獣達の着ぐるみが吊られています。過ぎ去った熱い時代に思いを馳せる実相寺の思いが一杯の作品です。

ところで、先程紹介した「ウルトラマン誕生」の表紙を飾るのは、フィギュア製造で世界的に注目されている海洋堂が作ったウルトラマンの横顔です。暗闇にすっと立っている姿は、まるで悟りを開いた僧みたいな趣きさえ感じられて、とても素敵な表紙です。