サイエンスライターの渡辺政隆著「科学で大切なことは本と映画で学んだ」(みすず書房/古書1800円)は、新しい科学理論を生み出した科学者、その理論についての基本的な解説書なのですが、ほうぼうに話が脱線してゆくので、全く肩の凝らない読み物です。

先生は、なんせ「映画と本」ですから、ハメット、ブォネガット、ショーン・コネリー、「アナ雪」に「時をかける少女」「ガケの上のポニョ」、そして「ひょっこりひょうたん島」が登場します。もちろん、本筋のダーウィン、グールド、ドーキンス、寺田寅彦、中谷宇吉郎は、バッチリです。

「私の名前はボンド。ジェームズ・ボンド。職業は鳥類学者。1900年、フィラデルフィア生まれだが、イギリスに移住してケンブリッジ大学を卒業した。その後再びアメリカに戻り、いったんは銀行勤めをしたのだが、子どもの頃からの鳥好き、蝶好きの情熱抑えがたく、フィラデルフィア自然科学アカデミーの研究員に転じた。」

これは007映画の宣伝文句ではありません。このジェームズ・ボンドは、バードウォッチャーの間では有名な「フィールドガイド西インド諸島の鳥」(1936年)の著者です。

「007」生みの親、イアン・フレミングが勝手に主人公にジェームズ・ボンドという名前を使ってしまったのです。しかも1958年に出版された第6作「007ドクター・ノオ」ではボンドは鳥類学者となって、ジャマイカに潜入するという設定なのですからややこしい。

こういう小ネタからお話が始まるので、へぇ、そうだったんだと親しみを感じながら読み進めることができます。蛇足ながら、映画版「007ドクター・ノオ」のショーン・コネリーは鳥類学者という設定ではなかった気がします。鳥の羽より、女性ばかり追っていたはず。

数学者の岡潔(当店でもロングセラー)についても、著者は面白い話をしてくれます。1961年松竹映画「好人好日」は、偏屈だが人のいい数学者の物語で、演じるは笠智衆。この映画のモデルになったのがどうも岡潔らしい。彼は多くの奇行のある人物で、在野の研究者として長い間数学の研究に打ち込み、国外で高い評価を受け文化勲章をもらいます。

「一躍時の人になった岡をいっそう有名にしたのが、犬の散歩中の途中、長靴を履いて空中に飛び上がった写真だった。

あるいは、数学は情緒の表現であり、情操教育を怠ると国が亡びるなどの発言で注目を浴び、毎日新聞に連載して1963年に出版した随筆集『春宵十話』により、教育や文化に一言家をもつ文化人としても知られるようになった。」

門外漢には彼の数学上の業績についてさっぱりわからないが、そんな岡の奇行伝説と映画が、数学者像を定着させたのではないか、と著者は言います。

後半の「進化の話」で、「進化論」のダーウィンや、「利己的な遺伝子」でお馴染みのドーキンスが登場しますが、ここは熟読したいところ。

本書で紹介された本については、各章ごとに出版社、発行年が記載されていますので検索がしやすくなっています。