湯本香樹実(文)&酒井駒子(絵)という二人の名前で、傑作絵本「くまとやまねこ」を思い出される方も多いと思います。あの本から14年、二人のコンビが復活しました。

「くまとやまねこ」よりも大きな版型で作られたの新作絵本「橋の上で」(河出書房新社/新刊1650円ポストカード付き)です。

橋の上から川を見ていた少年の横に、気がつくと全く知らないおじさんが立っていました。少年は、ボロボロになったセーターを着て話しかけるおじさんをうっとおしく思います。実は、少年はいじめられたり、万引きの濡れ衣を着せられたりして、ここから川に飛び込もうと思っていたのです。

「みずうみを見たことある」とおじさんは聞いてきます。「ただのみずうみじゃない。その水は暗い地底の水路をとおって、きみのもとへとやってくる」

きみだけの湖があって、どんな時もそこにあるとおじさんは言い、「こうやって、耳をぎゅうっとふさいでごらん。遠くからやってくる 水の音が、きこえるよ。」聞こえたら早くおかえり、と言って去っていきます。少年はもう一度耳を抑え、手を離すと、川の音がさっきより大きく感じて、急いで家に帰ります。

その後、おじさんに出会うことなく、少年は大人になっていきます。橋は建て替えられて、昔の面影は残っていません。でも、彼は時々耳をふさいで、地底の水の音を聞くことがあります。

「かすかなきらめきが見えてくる。いまでは、みずうみははっきり見える。わきだす水の、ちいさな波紋まで」

湖の水辺には、死んでしまった人も含め、彼の友達や大事な人が集まっています。微笑んでくれたり、話かけてくれたするのです。

「あのときもし川に飛びこんでいたら、会えなかったひとばかりだ。」

あのおじさんは誰だったのでしょうか。少年にここで死んではいけないと教えてくれた人。少年の寂しさと切なさが詰まったような表情を描く、酒井駒子が見せてくれる命の物語。

幼い時に、怒られたり失敗したりして、生きていくのが嫌になって、橋の欄干のようなギリギリのところでしょぼんとしたことを、忘れてしまっているのかもしれませんが、こんなおじさんが救ってくれたのかもしれませんね。大人は子どもに、今ここで死んではいけないと伝えなくてはなりません。いつも、手元に置いておきたい絵本だと思います。