矢田勝美さん著「いのちをつなぐ海のものがたり」(ラトルズ/新刊1540円)が届きました。5月初め、矢田さんが育った漁村のこと、漁師をしている父親のこと、そしてこれからの漁業のことをまとめた本を出しました、とメールが入りました。

「幼いころは両親の手伝いが好きじゃなかった。でも、海の幸の恵みを受けられなくなるかもしれないという危機感、漁師がいなくなる、海が危ない……..そんなことを記録に残し、伝えていかなければならない」

そんな思いが、彼女にペンを握らせました。イラストレータの矢田さんが、ここではイラストを使わず、写真と文章で漁師の家庭、暮らし、仕事を丹念に追いかけていきます。令和4年度高校の国語の教科書に採用されるぐらいですから、決して難しい文章ではありません。私たちが知っているようで知らない漁師さんの姿を教えてくれます。

「魚の供養?私は漁師が魚を供養をしていることを、この時まで知らなかった。なんと『漁師は魚を殺生していることへの弔いをする』のだ。海の恵みを捧げてもらっている全国の至るところには、魚の供養塔も建てられているという。」

供養の様子が写真で紹介されています。また、彼らは漁で海亀がかかると、縁起を担いで海に返すといいます。彼女のお父さんは「ようけ魚取らせてくれよ。はよ竜宮に帰れよ〜、いうて放したるんや。そうやって声をかけると亀は必ずふり返る。」と話します。

「海は怖い」が口癖のお父さん。暮らしのために殺生をせざるを得ない彼らは、いのちに敏感になります。そして、海で漁師が亡くなると、海や、生き物に引っ張られたという言い方をします。

「船底一枚下は、たくさんの恵みを与えてくれるありがたい天国でもある。しかし、同時に、日々いのちがけの漁師とその家族にとっては、世にもおそろしい地獄なのだ。」常に死と隣り合わせである漁師が例える海の怖さは、漁師でない者にはきっとわからない。

ところで、伊勢湾奥部の鈴鹿の貝って極上の味だということをご存知ですか。貝はミネラル豊富な川の水が流れ込む干潟に育ちます。その点、木曽川、長良川、揖斐川の三つの川が流れこんでいる伊勢湾奥部は、よく肥えた干潟なので、ここで取れる貝は味がいいのだそうです。特にアサリは最高級とか。

そんな情報もゲットしながら、私たちは海に囲まれた国で育ったんだという事実を思い起こすのです。これからの漁師たちの暮らしがどうなってゆくのか、漁業がどうなってゆくのかは、他人事ではないのです。

本書は、海藻を使ったステキな栞付き。また、著者の前作「大地をまるごとやさしいごはん」(1980円)も同時販売中です。