毎年8月15日の敗戦記念日には、原民喜の「夏の花」を読みます。原爆で命を奪われた妻の墓参りに行くところから物語が始まります。原爆投下の日、「私は廁にいたため一命を拾った。」ここから広島の地獄絵が書かれていきます。この本と共に、岡本喜八監督の映画「日本の一番長い日」を観たりします。ポツダム宣言受諾から玉音放送までの間に、権力者の中で何が起こったのかをリアルに描いた傑作です。最近リメイクされてましたが、重厚感ではオリジナルに敵いませんでした。

さて、今年は少し違う本と映画に出会いました。映画は、堀川弘通監督「軍閥」(1970)です。海軍と陸軍の権力闘争で、日本が戦争の深みにはまってゆく様が描かれています。印象に残ったのは、一人の特攻隊員と、毎日新聞社の記者との会話です。出撃したものの敵艦を見失い帰ってきて、再び特攻命令を待つという立場の彼が、やってきた新聞記者を激しく詰ります。メディアが戦争を賛美し、東條英機を祭り上げたのだと。記者が、負けていることを国民に知らせて早く終結させるべきだというのに対して「勝てる戦争なら、やってもいいのか」と詰め寄るのです。この問いかけは衝撃的でした。勝とうが、負けようが戦争の全否定を特攻隊員が口にするのですから。

今回読んだ本は、濱田研吾著「俳優と戦争と活字と」(ちくま文庫/古書700円)です。これは労作です!よくこれだけの資料を集めたものです。著者は、京都造形芸術大学を卒業して、映画、放送、鉄道など多彩なジャンルで執筆活動をしています。

「昭和に活躍した俳優が好きで、そうした人たちが書いたり、語ったものを高校時代から蒐めてきた。映画・演劇・放送関係の本や雑誌、俳優が書いた(語った)本、プログラムや広告の類いまでいろいろである。」おそらくそれらの膨大な資料(巻末に参考・引用文献の一覧が載ってますが、おそろしい量です)から、俳優たちが戦争について、疎開について、原爆について、そして玉音放送について語ったものを拾い上げたのが本書です。

多くの演劇人、俳優たちが、自分たちが経験した戦争を語っています。最初に紹介した「日本の一番長い日」のパンフレットで、8月15日に何をしていたのいか、その時の気分はどうだったのかを出演俳優たちに問うアンケートの回答が載っています。

例えば、当時八歳だった加山雄三は「小学校二年生の時だった。家に憲兵がいて、あの放送をきいて泣いていたのを覚えている」と回答しています。笠智衆は41歳。「玉音にタダ涙。カンカンでりの青空が空しかった」と答えています。

悲惨な戦闘を繰り広げた中国戦線、大陸からの引き揚げ、シベリア抑留など多くの俳優たちが経験した戦争の姿が迫ってくる一冊です。