西子智編集の「ライフ 本とわたし」(ミニプレス594円)の販売を始めました。

何人かの執筆者が、巡りあった本と、自分の人生がクロスしてゆく様を綴ったものです。選ばれている本が刺激的です。宮内勝典「ぼくは始祖鳥になりたい」、リチャード・ニクソン著・星野道夫写真の「内なる鳥 ワタリガラスの贈りもの」、山田詠美「ぼくは勉強ができない」等々、オーソリティある方々がいかにも大御所の本をあげた、という本とは一線を画しています。

宮内の本を選んだ浅野卓夫さん(編集者)は、「自分探しはしない。自分ではない誰かから託された声を記録し伝えること。このときの旅の経験が、のちに編集という仕事を選択することにつながった。」と、宮内の本と自分の南米行きが、その後の人生を決定したと書いています。本が、その人の人生に何らかの影響を与えるって素敵なことですね。

「ライフ 本とわたし」に収録されている写真は、疋田千里さん。老人の手と本とペンを捉えた写真の佇まいがこの本を象徴しています。疋田さんの写真集は、当店でも販売しています。

 

南陀楼綾繁さんの「編む人」(ビレッジプレス1728円)は、様々なアプローチで本を作り続けている人達9人へのインタビューをまとめたものです。「入谷コピー文庫」という、わずか15部しか作らない小さな本があります。編集者は堀内恭さん。ご縁があって、毎号送っていただいていますが、内容が濃いので、楽しみにしています。インタビューでは15部しか作らない?!というその辺りのことを話されています。(入谷コピー文庫の小栗康平監督特集では、わたしの拙文も掲載して頂きました。)

画家の牧野伊三夫さんが立ち上げた、美術専門のミニプレス「四月と十月」。1999年から、年二回発行を続けています。牧野さんは、画家、ミニプレスの発行以外にも、マルチな活動をされています。その一つが飛騨にある家具メーカー飛騨産業の広報誌「飛騨」の創刊です。単なる広報誌ではなく、飛騨高山の魅力も伝える無料冊子で、当店にも20冊程入荷しますが、すぐに無くなります。「飛騨」に描かれている牧野さんの絵を楽しみにしておられる方も多いはずです。インタビューの最後で、こう話されています。

「一見何でもないものなんだけど、よく見ると奥深いというようなものの方が好きなんですね。あいまいな何かを見つめた方が、広がりがあって面白くなる。絵を描くときも、仲間たちと本をつくるときも、ぼくはいつの間にかそんなことを考えています。」

牧野さんは絵だけでなく、文章も素敵です。食べることを楽しく描いた「かぼちゃを塩で煮る」(玄冬舎1404円)を是非お読み下さい。

 

ある日のこと。大手出版社、幻冬舎からお手紙が届きました。はてさて、こんな小さな書店に何用かと思って、封を切ると、牧野伊三夫さんの新刊のご案内でした。

牧野伊三夫さんは画家として、また美術系ミニプレス「四月と十月」の編集者として活躍されている方で、個展を観に行った時にお会いしました。そうか、大手出版社からも注目されているんだと驚き、早速注文しました。タイトルは「かぼちゃを塩で煮る」(1404円)。もちろん、絵もご本人が書いておられます。

「台所に立つことうん十年。頭の中には 寝ても覚めても 食う事ばかりー美味探求の記」と帯に書かれている通り、食に関するエッセイです。表紙に、美味しそうな濃い黄色のカボチャが描かれているとおり「かぼちゃの塩煮」で本は始まります。

小さい時、母親が作る砂糖醤油で甘辛く煮たかぼちゃが苦手だった筆者が、美味しそうなカボチャをスーパーで見つけて買おうか、買うまいか悩んでいたところ、「塩で煮たら美味しいよ」というお店の人の言葉に押されて塩煮に挑戦します。ここからわかるように、通り一遍のグルメ料理評でも、珍しい料理探して世界を駆け回る探訪記でもありません。

極めてフツーの家庭料理のことを綴った内容です。たまに出掛ける山歩きで、口に入れるキャラメルがいかに美味しいかとか。

「夏でも冬でも。夕食の食卓には炭火を使う。食卓の傍らに小さな七輪を置き、夏は羊肉やとうもろこしを焼き、冬は小鍋をかけて湯豆腐やとり鍋などをやる。」

これ、別に風流人を気取っているわけではなく、食事の間、炭が燃えているとホッとするという、著者の気分を文章にしてあるのですが、確かにチリチリと炭が燃えている横で食事をし、一杯やるといのは心落ち着く時間でしょうね。

日々の食事で、旬のものを口に入れてゆっくりと楽しむことをどれだけ出来るかが、人の幸せに繋がるということをこの本で示しています。冬の夜、鮟鱇鍋をすすっていると、「うまくて、おおうとため息が出る。」とありますが、「おおうと」という言葉に、満面の笑みを浮かべて鍋をつついている姿が見えてきます。

著者の本で、マイナー系出版社から出ている「僕は、太陽をのむ」(港の人1296円)は昨年刊行された文庫サイズの本ですが、こちらにはスケッチを含む多くの絵画作品が収録されています。私が好きなのは、「ある春の記録」と題された2011年の冬から春にかけての記録です。数ページに一枚のスケッチがレイアウトされていて、その絵を見ながら、文章を読んでゆくと、日々の何気ない時間に潜む幸せが染み込んできます。何も考えずに、ふらっと電車に乗って、四国までいった道中を描いた「喫茶セザンヌ」などは、あぁ〜こんな旅してみたいね、と思わせる文章です。

 

★レティシア書房 年末年始休業のお知らせ

12月29日〜2017年1月4日まで休業いたします。新年は1月5日から平常通り営業いたします。


美術系ミニプレス「四月と十月」を主宰されている画家、牧野伊三夫さんが「僕は、太陽をのむ」(四月と十月文庫6 1296円)を「港の人」という出版社から出されました。ミニプレス「四月と十月」に連載されたエッセイと未発表のものを一冊にしてあります。もちろん、彼の絵画も載せてありますので、そちらも楽しめます。

高校の美術教師の井上先生のことを書いた文章が素敵です。

「君たちが絵を描いているときも、地球の裏側では、羊がのんびりと草を食んでいるんだよ。」

この先生の言葉を牧野さんがどう感じ、解釈したかが綴られています。先生の言葉から数十年経て、画家として活動されている今日でも、時々この言葉を思いだされるようです。

「技術や手数にばかり執着することは、かえって自由に宇宙へと広がる意識を閉ざしてしまい、絵にとっては障害ですらある。悲しいかな、絵の本質は、自分が意識してやることとはちがう次元に存在している。この言葉は、そんなことを考えながら絵を描くきっかけをくれたのだった。」

牧野さんとは、一度お会いしたことがあります。ほのぼのとした感じで、笑顔の素敵な方でした。そして、その通りの本でした。画家の本とはいえ、難しい文章など全くなく、伸びやかに絵画に接する自身の姿を描いておられます。

出版社「港の人」は、この「四月と十月文庫」以外にも、いろんな本を出版しています。今回、その中から、これはと思う本をセレクトしました。例えば「胞子文学名作選」(2808円)。苔やきのこ、かび等の胞子によって増える生物が登場する小説、詩を集めたアンソロジーです。収録されている作家は、太宰治、松尾芭蕉、小川洋子、内田百間、谷川俊太郎等々数十名。装幀も、デザインも凝りに凝った一冊です。

もう一冊ご紹介。橋口幸子著「珈琲とエクレアと詩人」。戦後、田村隆一らと「荒地」を創刊した詩人北村太郎と晩年交流していた著者が、詩人の日々の暮しを綴ったエッセイです。挿画・装幀の清水理江もとても楽しめます。

店内に「港の人」のコーナーを作ってありますので、ご覧下さい。