フリーの森林ジャーナリスト、田中淳夫の著書「森は怪しいワンダーランド』(新泉社/古書1200円)は、著者が世界各地の森林で体験した不思議な出来事やとんでもないトラブルに巻き込まれた体験、そして、今、普通に流布している森林に関する常識の本当の姿が書き綴られています。

ソロモン諸島にあるシンボ島でのこと。深夜聞こえてくる祭りのような音に、ひょいとテントから顔出すと、誰もいない。「何もなかった。生ぬるい風は吹いているが、光も音も聞こえない。黒々とした森が広がっているだけだ。祭りどころか、人っ子一人歩いていない。太った月だけが深夜の村に陰翳をつけていた。」

精霊だった……?そんな体験からお話は始まります。森林で生きる民族と暮らす中で、そこに息づく伝説や神話を聴いたり、自らその渦中に入ったりして、こう考えます。

「彼らのような自然の中で暮らす民族は、伝説と現実の経験談の区別が判然としないことを、私はニューギニアだけでなく各地で経験している。だが近代教育が行われる過程で、そうした世界は科学的に否定されてゆくのだ」

また、ボルネオの奥地では、自分自身どう判断していいのかわからない現場に立ち尽くします。テレビをつけると「美川憲一と研ナオコの歌謡ショーが始まったのである。ボルネオ奥地で『かもめはかもめ〜』と聴く、この違和感。しかし、思わず聞きほれてしまう私がそこにいたのだった」

第2章「遭難から見えてくる森の正体」は、まさに映画「インディージョーンズ」の世界です。テントの上の木の葉を食べる多くの虫が、糞をして、それが「テントをたたいて雨の音に聞こえるなんて」虫嫌いの人なら卒倒しかねません。それでも著者は、秘宝を求めてジャングル奥地に踏み込むジョーンズ教授よろしく、森の奥地へと入っていきます。

笑ったのは、勝手知ったる生駒山でのこと。「斜面を登る途中で滑り落ちた。沢に足を突っ込んだ。一瞬、悲鳴が口を突いた足元は濡れて泥だらけになった。遭難…….という文字が脳裏に浮かんだ。」その時、携帯のメールに着信が入ります。「娘からだった『帰りにキャベツ買ってきて』」さらに「玉ねぎと牛乳も買ってきて」と…….。なんとか無事下山し、娘さんの買い物も部終了したとか。やれやれでしたね。

第3章では、常識として受け入れている森の現象の本質を見抜いていきます、例えば森林セラピー。「森林浴」「森林療法」「森林セラピー」という言葉の裏に潜む、トンデモ科学とごまかし。その姿を読者に示して、「森林散策が心地よいことは、誰もが感じる経験則だ。しかし、トンデモ科学の装いを施して、トンチンカンな期待だけが膨らまされているのが森林セラピーではないか。」と結論づけています。

森という大きな存在を、様々な角度から教えてくれる格好の一冊です。アウトドア派必読!