池澤夏樹編集による「日本文学全集」全30巻もいよいよ大詰めです。

「古事記」からスタートしたシリーズをすべて読破したわけではありませんが、エキサイティングな読書体験でした。古典から現代まで、編集者の巧みな切り口で堪能し、大いに勉強させてもらいました。今回入荷したのは近現代作家集の第三弾。「近現代作家集3」は、まだ第一線で活躍中の作家が多く収録されていて、へぇ〜、この人こんなに面白かったんだと再認識しました。

筒井康隆「魚藍観音記」は抱腹絶倒でした。観音菩薩と悟空のセックスを描いた前代未聞の爆笑話です。著者がわざわざ巻頭に「頁を繙くのに用いぬ方の手で静かに手淫行わば、結末間近にして大いなる歓喜法悦に導かれること間違いなし、ゆめゆめ疑うことなかれ」と断っていますが、そういう艶話です。このキャスティングが絶妙ですね。

これを載せてくれたか!さすが、と感心したのは野呂邦暢「鳥たちの河口」、村上春樹「午後の最期の芝生」、堀江敏幸「スタンド・ドット」、多和田葉子「雪の練習生」。多和田葉子の作品は長編で、その一部のみ掲載されています。主人公は立派な「人格」を持ったホッキョクグマの雌で、作家。ソ連の国籍を持ち、亡命し西ベルリンに向い、カナダへ移住するという破天荒なお話です。でもファンタジーではありません。因みにここに収録されたのは第一部で、この先は彼女の娘と息子の「ホッキョクグマ三代期」へと進んでいきます。笑いとカオスに満ちた物語で脳内洗浄してみたい方は、本編(新潮社800円)をご一読下さい。

う〜む、もっと読まねばと思った作家がいました。それは、津島佑子です。太宰治の娘で、数々の小説を発表していますが、実は全く読んでいませんでした。取り上げられた短編は「鳥の涙」という寓話めいた作品です。

強制労働で駆り出されて帰ってこない父親。その父親のことを子守唄代わりとして聴かされた私が、母を回想します。連行される父は、まだ幼かった私を抱きしめて、こんなことを言いました。

「もし私がずっと帰ってこなかったら、気持ちのいい軽い風が海から吹いてこないか、気をつけるんだよ。そうしたらおまえは海辺に出て、遠い沖を見つめるんだ。すると鳥の群れが陸に向かってくるのが見える。いいね、その先頭に首のない鳥が一羽飛んでいる。それが、私なんだ。ちゃんとその私を見つけて、拝んでくれるね」

父を失った子どもの嘆きを、極めて音楽的に響かせた希有な小説だと思いました。

この全集には、月報が封入されていて、毎回多彩な作家が文章を寄せています。今回は編者の娘で作家の、池澤春菜がこんな文章を書いています。

「『近現代作家集3』は今、この世界の境界に立つものたちの言葉だ。暗さを増していく今の中で、星のように、灯台のように、波打ち際を示す夜光虫のように光る言葉だ」

この一冊が、読者の道しるべになってくれますように…….。

 

★安藤誠ネイチャートークショー「安藤塾」今年も開催決定しました。

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