山田洋次監督「男はつらいよ お帰り、寅さん」を観ました。若い頃、私は寅さんシリーズが大嫌いでした。ロードショー公開されていた時、何本かは映画館で観ましたが、全く受け付けませんでした。日本的情緒たっぷりの登場人物たち、湿り気のあるユーモアセンス、そして何より渥美清演じる寅さんの行動が陳腐すぎて、何でこんな映画観るんだ!と怒りまくって映画館を出た記憶があります。

しかし、年を取るというのは恐ろしいというか、素敵というか。何年か前にBS放送で全作品を放映していた時、何気なく観たら、なんと完全に引き込まれてしまったのです。寅さんて粋だなぁー、カッコイイと思ってしまい、全作観たその上に、再放映されるごとに観るという熱心なファンになってしまいました。(もともと寅さんファンの女房は呆れ顔)

渥美清亡き後、再度寅さんをスクリーンに戻そうとして企画された本作品、最初はかなり??でした。かつてのマドンナが大挙登場して、同窓会みたいなお祭り映画になってしまうのでは、という懸念がありました。

いやぁ〜、流石に山田洋次監督は凄い!脱帽です。むやみと寅さんの映像を出さずに、きちんと一本の映画にしているのです。抑制が効いています。あくまでもさくらの息子満男を主人公にした物語として仕立てていました。小説家になった満男が、かつて結婚の約束までした初恋の人・イズミ(後藤久美子)と偶然出会うことから物語は始まります。彼女との過去を思い返すとき、そこに寅さんの姿が一瞬蘇ります。ストイックな演出が冴え渡ります。

私が感心したシーンがあります。イズミがお母さんと一緒に、老人ホームにいる父親に会いに行った帰りに、過去の母と娘の関係を巡って言い合いになり、母親が車を飛び出します。その背後に夕闇迫る空が広がります。暗闇とほんの少しの夕焼け。親子の行く末を象徴している風景のようでした。

そしてわずかな出番でしたが、やっぱり寅さんを演じた渥美清はかっこいい存在でした。こんな着こなしは、台詞回しや所作も含めて誰も出来ません。

★連休のお知らせ 1/20(月) 1/21(火)連休いたします

★1/22(水)〜2/2(日) レティシア書房冬の古本市プレ企画「こんな本が揃いました」展

★2/3(月)2/4(火)古本市準備のため連休いたします

★2/5(水)〜2/16(日) 恒例となりました女性店主による『冬の古本市』を開催します。今年も神戸・大阪・岐阜・東京・御殿場・京都などの女性店主の選書です。ぜひお立ち寄りください。


 

 

Tagged with:
 

大学時代、映画館で「男はつらいよ」を観た時、設定のバカバカしさと、日本的なペーソスと全然乾いていない笑いにヘキエキして、途中で席を立ちました。それ以降、一切観ていませんでした。あんなもん、時間の無駄やと。

しかし、歳をとるっていうのは良いことですね。数年前BSで寅さん全作品放映していたのを、なんとほとんど全て観てしまいました。どうしようもないダメ男は、上方歌舞伎や古典落語に多数登場します。しかし、寅さんはダメ男でありながら、極めてダンディだったんですね。あ、こりゃ偉大な作品!だとコロッと180度転換しました。先日、シリーズの中でも傑作と言われる「寅次郎忘れな草」を再度観て驚愕しました。

例えばこんなシーン。寅さんがマドンナの下宿にやってくると、そこは、場末の、汚い木造アパート。電気もついていない暗い階段で立ち止まる寅さん。遠くからは子供の泣き声。「自転車泥棒」以来、都市の貧困階層を描いて来たイタリアの「ネオ・リアリズム」を彷彿とさせます。例えば、ピエトロ・ジェルミ監督の「鉄道員」みたいな世界。苦しい生活と悲哀が微妙にブレンドされていました。もちろん、山田洋次監督は「故郷」、「家族」等で時代から取り残される家族の姿をドキュメント的に描いた人だけに、ネオ・リアリズム的作品は作れます。しかし、それまで寅さんの明るい世界だったのに、たったワンカットで、裏道の世界を象徴的に描きました。

さらに、凄いのはその次のカットです。マドンナの部屋に入った寅さんは、その部屋の荒れ具合に彼女の人生を理解するのです。生活の臭いのない、荒れ放題の部屋は、暗澹たる気分にさせますが、さらに追い打ちをかけるように、カメラはそのアパートの屋上で遊ぶ子供と母の笑い顔を捉えます。それを見た寅さんの顔。幾重にも重なった複雑な深い感情表現が際立つ、渥美清の名演です。単純に女性にすぐふられる男の笑い話ではすみません。

もうこうなると、この映画、イタリア映画のようであり、あるいはフランス映画のように人生の哀愁と希望を描く作品でもあり、とてつもなくインターナショナルな映画にみえます。「男はつらいよ」は「人であることは、こんなにつらいことなのか」というタイトルが正確なのかもしれません。

蛇足ながら、私の映画鑑賞のスタイルは、もちろんストーリーを追っかけることが第一ですが、何気ないワンカットに、役者も、脚本家も、監督もが意図していない「思い」が立ち表れる瞬間を探すことです。だから、好きな映画は二回、三回と観ます。

Tagged with: