町田智浩の「映画と本の意外な関係」(集英社/古書400円)は、最近読んだ映画、書物に関する本の中では、最も刺激的な一冊でした。

この本の最初に、映画に映し出されたいくつかの本棚の紹介があります。昨年「ダンケルク」で話題になったクリストファー・ノーランのSF映画「インターステラー」は、重力論、量子力学果ては五次元論まで飛び出す、わかったような、わからないような、しかし何度観ても飽きない作品でした(10回は観たなぁ〜)。映画の冒頭、主人公の家の本棚の移動ショットがあるのですが、町田は、ここにある本をピックアップしていきます。時間を逆にたどってゆくマーティン・スミスの小説「時の矢」や、マデレイン・レングルの「五次元のぼうけん」をみつけ、これらの本がノーラン監督の映画の原型になったことを見逃しません。

さらに、ボルヘスの短篇集をみつけ、こう書いています。

「クーパー(映画の主人公)が迷い込んだ五次元空間は、マーフ(主人公の娘)の本棚が上下左右に連結されて無限に続く図書館のように見えます。まさにボルヘスが想像した『バベルの図書館』です。」

面白かったのは「007」シリーズの言葉をめぐる章です。2012年に公開された「スカイフォール」のタイトル”Sky Falls” はローマ時代の法格言「天堕つるとも、正義を成就せしめよ」から取られています。物語は、まさに天が堕ちるような事態が勃発して、窮地にたった007の上司Mを助けるべくロンドン市内を疾走するボンドに、Mのこんな言葉が囁かれます。

「我らの英雄的な心はひとつなのだ 時の流れと運命によって疲弊すれど 意志は今も強固だ 努力を惜しまず 探し求め 見つけ出し 決して挫けぬ意志は」

これ、1800年代に活躍した詩人テニスンの「ユリシーズ」という詩からの引用でした。大活劇のスパイ映画なのですが、方々に、こんな知的遊びが隠されていたなんて。

ご存知アラン・ドロン主演の「太陽がいっぱい」の原作はパトリシア・ハイスミス。彼女は50年代に「よろこびの代償」というタイトルで女性同士の恋愛小説を発表しています。後年、彼女は自分が同性愛者だとカミングアウトしました。そして、この原作は2015年に「キャロル」というタイトルで映画化されました。ところが、彼女がカミングアウトするまでに、「太陽がいっぱい」における隠された同性愛を指摘していた人物が日本にいました。映画評論家、淀川長治です。

主人公トムが親友フィリップを殺すシーンを、淀川はこう解説したといいます。

「実はトムはフィリップに恋しており、自分のものにならない彼を殺して、同一化する物語だ。フィリップの胸に突き立てられるトムのナイフはペニスの象徴だ」

当時、作家の吉行淳之介など多くの人がそれは深読みすぎると批判しましたが、彼女の死後書かれた伝記から、「太陽がいっぱい」に流れていた同性愛的メタファーが証明されたのです。ここまで読み込む淀川の力量は恐ろしいほどです。

この本を読んで、紹介されている作品をご覧になってはいかがでしょうか。きっとスリリングな映画体験になりますよ。

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