コミックの世界は面白い!と思わせる新旧の作品を入荷しました。

前作「うとそうそう」(光文社/古書800円)では、極端に少ない線でアーティスティックな世界を作り上げた森泉岳士は、「報いは報い、罰は罰」(角川/古書/サイン入り上下巻1700円)で、圧巻のゴシックホラーが展開させています。塗り潰した様な真っ黒の画面の彼方に広がるおぞましい世界を堪能して下さい。古い館で起こる惨劇好き、なら必読ですぞ。

暗黒漫画から、ガラリと変わって「団地マンガ」の新星?、石山さやかの「サザンウインドウ サザンドア」(祥伝社/.古書700円)をご紹介します。昨年、団地小説の傑作、柴崎友香の「千の扉」(中古公論新社/古書1000円)を読んだり、坂本順治監督の映画「団地」や、サミュエル・ベンシェトリ監督の「アスファルト」といった、内外の団地映画に出会いましたが、コミックの世界にもあるんですね。

このコミックは、団地に住む様々な人々の、人生のある瞬間を切り取ってゆくという手法で、映画や小説ではお馴染みのスタイルです。団地を舞台にしているところがミソです。リアルに描いてしまうと、現代の悲惨なドラマの集大成になってしまうところを、懐かしさという感情を巧みに織り込みながら、団地の住人の人生を肯定していきます。妻に先立たれ、一人暮らしをする夫と、一人娘の交流を描いた「わたしの団地」は、いい短篇小説を読んだ気分です。

もうひとつ、ほっとリラックスできるコミック。益田ミリ「結婚しなくていいですか」(玄冬舎/古書650円)は、40才が見えてきたOL、すーちゃんと仲間の日々の暮らしのスケッチ集です。老後のことを心配したり、このまま1人で生きてゆくのかなぁ〜と不安になったりしながら、それなりに元気に毎日を送る彼女と、同世代の女性たちへの応援歌みたいな作品です。一日一日、歳をとってゆくという現実を、淡々と描いた作品です。

最後にご紹介するのは、小林エリカの「親愛なるキティーたちへ」(リトルモア/古書1400円)です。彼女には放射能をテーマにした「光の子ども」という傑作がありますが、「親愛なるキティーたちへ」はアンネ・フランクがテーマです。しかも、これはコミックではなく、エッセイです。

幼少の頃、彼女は家の本棚の奥で、「アンネの日記」を読み、いかなる不条理にも困難な状況にも立ち向かってゆくアンネの姿に感動します。そして、それから21年が過ぎ、30才を越した彼女は再び実家の古びた本棚の奥でもう一つの日記を見つけます、それは、アンネと同じ年に生まれた自分の父親が敗戦の日々を綴ったものでした。

「ユダヤ人たちを虐殺したナチス。ドイツと日本は同盟関係にあった。歴史的な事実を考えると、戦争の中で、彼女は死に追いやられ、彼は間接的に彼女を死に追いやったということになる。それと同時に、彼女は私が心から尊敬し夢中になったアンネ・フランクであり、彼は愛する私の父小林司だった。」

二つの日記に誘われるように、著者はアンネが収容されていた強制収容所を巡る旅に出掛けます。それは2009年3月のことでした。アンネがタライ回しにされた強制収容所のあった場所に立ち、著者の心の中に浮かび上がってきたものが描かれていきます。

アンネが死ぬ、ほぼ一年前の1944年4月16日の日記と、同じ頃の昭和21年4月15日の小林司の日記、そして、著者が旅から戻ってきた2009年4月15日の思いが並ぶラストまで一気に読んでしまいます。