本に関わっている様々な人たちが、自分の仕事への思いを綴った「本を贈る」(三輪社/新刊1944円)は、本への愛に溢れた素敵な書物です。編集者、装丁家、校正者、印刷、製本、取次、出版営業、そして書店員たちが登場します。

トップバッターで登場するのは、島田潤一郎さん。隅々まで神経の行き届いた本をリリースする夏葉社を主宰されています。島田さんは、出版する姿勢をこう語っています。

「ぼくが本をとおして伝えたいのは、メッセージでもなく、主張でもなく、婉曲的ななにかでもない。ぼくは、なにかの全体をだれかにまるごと伝えたい。大げさにいえば、人生の全体。物語の、感情の、思いの全部。そのひとの全部。そういう全部を伝えるのには、本がいちばんいいと思っている。」

この島田さんの思いの一端を担うつもりで、当店では夏葉社のすべてのラインナップを揃えています。

二番目に登場するのは、京都在住の装丁家矢萩多聞さん。型破りな生き方を通して、本当に大切な暮らしと仕事を見つめた「偶然の装丁家」(晶文社/古書850円)を、是非お読みください。装丁家として仕事をされる一方で、インドのタバブックスの本の仕入れ、業務もこなされています。手仕事で作られたタバブックスの本は、どれも魂がこもっています。彼は常々「人間はいったいなんのために本をつくりつづけるのか。」という問いを持っていました。

「ちいさくても、ゆっくりでいい。他人の本をデザインして終わりではなく、自分で本をつくり、届けるところまでやってみたい。それをやらないと、気持ちもバランスもとれなくなって、このまま慌ただしい流れのなかにうずもれてしまうんじゃないか」

その思いから、自分たちで本を作り、販売していきます。小さく、小さく売ってゆく…..。手間をかけて、その本が必要としている人の元に届ける。それは収入は少なくとも好きなことを細々と続け、慎ましく幸せに暮らす「小さな暮らし」へと結びつきます。経済成長なんて言葉に踊らされずに、小商いに生きる人達が増えているのは、正しいことですね。

ミニプレス「ヨレヨレ」(当店のロングセラーでした/絶版)を作っていた鹿子裕文さんが、「ヨレヨレ」に登場する「宅老所よりあい」という施設の顛末記「へろへろ」(ナナロク社/新刊1620円)を書いた時の、校正を担当した牟田都子さんが登場します。

本の校正って、赤鉛筆で間違いを直す仕事というイメージがありますが、彼女の話から、中々奥の深い仕事であることを納得しました。送られてきた原稿にペンを入れることで、著者とのコミュニケーションをはかっているのです。過剰なペン入れは著者の表現を逸脱するのではという不安が常に頭をよぎる作業です。言葉の一つ一つに対する徹底的な調査には脱帽です。

「贈るように本をつくり、本を届ける10人のエッセイ」というのは、帯の言葉ですが、そんな人達の努力と手間が、書店に置かれたとき、この本は何か違うとキラリと光るものを生み出しているのでしょう。

 

 

 

 

★釧路ヒッコリーハウスオーナー安藤誠の「ネイチャートーク」が決定しました。

 

10/27日(土)19時スタートです。参加費は2000円です(要予約)


 

 

 

 

京都在住の装丁家、矢萩多聞さんの新刊が、ミシマ社の「コーヒーと一冊」シリーズとして出ました。タイトルは「たもんのインドだもん」(1080円)です。

インド暮らしの長い多聞さんが、何、それっ?と思いつつも、そういう生活もありか、と納得してしまうインドの人々の日常を書いたエッセイです。

すぐに、お前の家を見せてとズカズカ入ってくる話や、別に性的関係があるわけではなく、恰幅のいいおじさん同士や、女性たちが手をつないで闊歩している街中の光景とか、笑える話がリラックスした文章で語られていきます。

いいなぁ〜と思うのは、17歳の頃、はじめてインド人の友だちの家に泊った時のこと。お母さんの手料理がどんどん出て来て、矢萩さんは、どれから食べるのと訊いたところ、こんな答えが返ってきました。

「あなたのお皿はあなたの宇宙よ。順番なんてない。好きに混ぜ、食べなさい。人生を楽しみなさい。」

著者は「皿のなかの自由。なんて美しい言葉だろう。」と感動して、モリモリ食べるのですが、ホント美しい言葉ですね。

楽しい話、ひっくり返りそうになる話の中に、生きることの根本的姿勢にまつわる、著者の経験に出会います。それは、彼が町を歩いてた時、突然、看板が落ちてきたのです。幸いけがはなかったのですが、この国では、路肩にバスが横転していたり、いきなり車が炎上したりなどはよくある事らしい。そういう日常の中で、彼は「たまたまで生きている」ことを確信します。

「大きな事故も、小さなミスも、日々のささいな選択肢の末に、起こるべくして起きているような気がする。良いことも悪いこともごったまぜ。複雑にからまった縦横の糸と糸の間を、祈りながら、忘れながら、綱渡りのように歩くほかない。」

人生は綱渡りだ!多分、日本ではなかなか納得できない考えかもしれません。

著者が晶文社の「就職しないで生きるには」シリーズの一冊として出した「偶然の装丁家」 も近日中に再入荷いたします。併せてお読み下さい。