シンガー&ソングライターの矢野顕子って、こんなに宇宙好きだったのか。「宇宙に行くことは地球を知ること」(光文社新書/古書650円)を読んで分かりました。

対談の相手は、スペースX社の新型宇宙船クールドラゴンで宇宙へ飛びだす予定の野口聡一です。宇宙滞在日数177日を誇る宇宙飛行士。NASAの宇宙に関する情報を、細かくチェックしてツイッターで発信しているほどの矢野にとっては、待ってました!の対談です。「わたしはうんと歳をとってから宇宙に強い興味を持った。大人だって、特に大人の女性だって宇宙が知りたい」という彼女は、質問やら意見をどんどん言って、野口との対話を深めていきます。

野口は船外活動に出る瞬間をこう表現しています。

「エアロックで空気を抜いていくにつれて、最初はシューシューと聞こえていた音が徐々に小さくなってきます。ゼロ気圧になるとほとんど音は聞こえません。危険な領域に入ったことが本能的に分かります。不気味なほどの寒さと静けさ、増してゆく緊張感。エアロックの中は、もはや宇宙です。」

そして、船外へ。400キロメートル下の地球がみえます。その時彼が感じたのは、「地球に落っこちそう!」という恐怖でした。

そんな空間で対峙する地球が放つ眩しさに圧倒されながら、彼は死の世界にいることを感じていました。「宇宙空間に出た途端、『ここは生き物の存在を許さない世界である』『何かあったら死しかない』ことが、理屈抜きにわかります。」

宇宙服の指の先に死の世界がある。それに対して、矢野は「絶対的な孤独こそ、宇宙へ出たものものだけが味わう特権なのかもしれません。」と答えています。

この対談には難しい言葉や、宇宙物理学の理論などは全く登場しません。でも、ミーハーちっくにもならず、SF映画的展開にもならずに進んでゆくのは、この二人のパーソナリティーに拠るところが大きいと思います。きちんとした哲学を備えた二人だからこそできた対談です。

「宇宙空間の黒は『何もない黒』なんです。それは光の反射ではありません。行った光が永遠に戻ってこない。吸い込まれてしまうような黒。『漆黒』というと色のようですが、色ではない。『絶対的な闇」といったらいいでしょうか」

という野口の表現がとても印象に残りました。

 

古本市も前半一週間が過ぎようとしています。京都市内だけでなく、寒い中、遠方からも多くのお客様にお越しいただき、ありがとうございます。本日も面白い本を紹介いたします。

我が国における本屋の歴史を知る上で、資料的価値の高い鈴木敏夫著「江戸の本屋」(中公新書上下セット600円)は、上方で生まれた本屋という形態が、江戸時代最初の頃の活字版ブームと共に、広がっていく過程を資料をもとに解説してあります。上巻の「大阪出版界の興隆」は、近松門左衛門の人気に伴って浄瑠璃本がブームとなり、それまで出版界のイニシャティブを取っていた京都に迫る勢いをもった時期を描いていて、地元の話だけに興味津々でした。この新書発行は昭和55年。絶版です。

図録も何点か出ていますが、ロバート・キャパ&コーネル・キャパ「キャパ兄弟子どもたちの世界」(東京冨士美術館700円)は珍しいかも。ロバート・キャパの弟のコーネルも、写真家だったとは知りませんでした。この写真展は、二人が撮影した世界の子どもたちを一堂に並べたものらしく、兄ロバートは、日本軍が侵略する中国大陸に赴き、戦地の子供たちのスナップ写真を撮っています。弟の方は、60年代から70年代にかけて、貧困にあえぐラテンアメリカ諸国を撮影しています。報道写真に近いのですが、子供たちを通して平和への希求を表現しようとする姿勢も見えてきます。なお、弟コーネルの方は2008年90歳でこの世を去りました。

村上春樹関連本って山のように出版されていますが、飯塚恒雄著「ポピュラリティーのレッスン」(シンコーミュージック800円)は、サブタイトルに「村上春樹長編小説音楽ガイド」とあるように、音楽的側面から論じた一冊です。著者は、かつて新谷のり子の「フランシーヌの場合」とか、ベッツィ&クリスの「白い色は恋人の色」などのヒット曲を生んだプロデューサーです。1960年生まれ。アメリカンポップスと荒井由美と村上春樹にはまった青春時代を送った人物です。村上春樹と荒井由美という二人に類似点を探すくだりは、この二人のファン必読です。

音楽関係では、ミュージシャンの矢野顕子のレアな文庫が二点出ています。「きょうも一日楽しかった」、「街を歩けばいいことに当たる」(どちらも角川文庫各300円)写真をいっぱい使った、好奇心旺盛な彼女らしいエッセイ集です。「街を歩けばいいことに当たる」は、矢野顕子ならではのNYガイド。「きょうも一日楽しかった」には、忌野清志郎とのツボ押し、東洋医学談義という楽しい企画もあります。

★古本市は19日(日)18時までです。13日(月)は定休日です。

 

矢野顕子のアルバム「矢野顕子 忌野清志郎を歌う」がアナログレコードとして発売されたので、購入しました。彼女のピアノはアナログで聞かないと、ホントの良さはわからないと思います。硬質なピアノタッチを楽しんでいると、最後のナンバー「ひとつだけ」が聞こえて来ました。これは清志郎とのデュオです。

「離れているときでも、私のこと忘れないでほしい」と彼の声がスピーカーから聴こえてきた瞬間、目頭が熱くなりました。

鶴見俊輔の死去に対して、池澤夏樹が新聞で、無頼の輩が、よってたかってこの国を滅ぼそうとしている時、鶴見俊輔がいないのは痛手だとコメントしていました。私的には、彼の名前に変えて、忌野清志郎の名前を入れます。

傑作「カバーズ」(1900円)で、原発を、戦争を痛烈に皮肉り、怒りをぶちまけたのが1970年。今、もし彼が生きていたら、さてどんな行動を取っていたのか。

「どれだけ風がふいたら 解決できるの どれだけ人が死んだら 悲しくなくなるの どれだけ子供が飢えたら 何かが出来るの」

きっと国会議事堂前で歌っていたはず。

2004年に発行された「新・戦争のつくりかた」(マガジンハウス・新刊1080円)が再発されました。当時、日本の歩むべき道に漠然とした不安を持っていた人達が、その思いを一冊にしたものですが、え?これ今の時代のことじゃないの?と驚かされます。詩人のアーサー・ビナードがこんな推薦文を書いています。

「『平和』の反対語は『戦争』じゃなくて『ペテン』だとわかります。ぼくらがペテンにひっかかるところから、もう戦争は始まっています」

そうか、もしかしたらアベちゃんはペテン師なのか・・・。

もう一冊、メッセージ&フォトブック「No Nukes」(講談社・新刊1620円)。広島大学、長崎大学、福島大学の学生の共同編集で練り上げられた「反核」の”ビジュアルブック”です。坂本龍一、渡辺謙、吉永小百合、美輪明宏、井上ひさし、重松清、益川敏英等々の著名人のが参加していて、しっかりした本になっています。もう亡くなっていましたが、清志郎も一曲提供しています。日本の原発を笑いとばした「サマータイム・ブルース」です。

この本で、広島大学の福岡奈織さんが「土は覚えている」という詩を書いています。被爆の記憶は忘れられてしまうかもわかりませんが、土は覚えているということを表現していて、最後はこう終わります

「どうして核兵器がいけないのか どうして反核を訴えるのか。数字でもデータでも理屈でも表現できない、大切な気持ちを。この土はずっとずっと覚えています。」

清志郎はもういませんが、そうそう、こんな本が欲しかったたんだよ、と言われるようなものを集めるのも、本屋さんの仕事だと思っています。