昨日より始まりました福井さとこ銅版画展は、仁木英之の小説「マギオ・ムジーク」の挿絵の原画展。では、どんな小説かなと思って読んでみました。

おぉ〜正統派ファンタジー小説!小学6年の翔馬が、ある日突然、異次元の世界へと迷い込み、そこで悩みながらも成長してゆくという王道の物語です。こういう物語にはお約束の、大きな龍や虎も登場します。けれども、翔馬と龍やモンスターの大バトルは、メインイベントではありません。

翔馬が迷い込んだ世界は、音楽に該当するムジークという魔法が絶大な力を持っています、都市を破壊するほどの力もあれば、世界を美しくする力も備えています。こちらの世界でピアノを弾いていた翔馬は、自分の持っているムジークの力強さに驚きながら、この力を巡って対立する二つの勢力の中で、自分が何をすべきなのかを探し求めていきます。

「旋律は奏でる者のこ……心だ。もし、めちゃくちゃな音しか出ないとしたら、それはお前の心が乱れているだけに過ぎない」

と言われるのですが、自らの力を制御できない。

「音がとまらない。翔馬はこわくなって楽器を放り投げようとした。だが、触手が数本のびて翔馬の体に絡みつく。その一本が腕のところから皮膚の中へ入ろうと口を開けたのを見て、翔馬は悲鳴を上げた。」

そういう世界で、翔馬は仲間を作り、より良き世界のために、そしてなんとか元の世界へ戻るために行動を開始します。ムジークのことを深く知るために、ムジーク使いを養成する学校に入ります。

「願いをかなえるために学ぶ。それは君の世界でも変わらないはずだ」

という先生の言葉は、学ぶことの本質を言い当てた言葉ですね。音楽をムジークという魔術に置き換えて物語は進んでいきます。そして、音楽の力をこんな風に表現しています。

「音楽は人を傷つけたり悲しませたりするかもしれないけれど、こうして何かをこわすために、だれかをひざまずかせるためにあるんじゃない。悲しみの向こうへ行くためのものだ」

確か坂本龍一だったと記憶しているのですが、音楽は人を救わない、けれども人に寄り添うことができると言っていました。寄り添って悲しみの向こうに連れて行ってくれる、なんて素晴らしいことでしょうか!

音楽とずうーっと付き合ってきた私には、とても心に染みる物語でした。

なお限定ですが、現在店内で販売している本は、仁木英之さんと福井さとこさんのサインが入っています。お早めに!

 

ARK(アニマルレフュージ関西)の2021年度カレンダーを入荷しました。

・大きいサイズは1000円(撮影は児玉小枝さん)

・卓上サイズは800円(ARKスタッフ撮影)

今年はコロナの影響で撮影ができるか懸念していました。毎年カレンダー発売に合わせて写真展を開催してきたのですが、春の段階で、どうなるかわからないとキャンセルの連絡が入ったので販売できて嬉しいです。売り上げは全てARKに寄付しますので、ぜひ店頭で手に取ってください。

福井さとこさんは、京都嵯峨芸術大学デザイン科卒業後、手描きのアニメーション制作をしていました。その後、世界的絵本作家ドゥシャン・カーライに魅了され、一発奮起、スロバキアのブラチスラバ芸術大学に留学してカーライ氏のもとで版画と絵本の挿絵を学びました。

今回は日本デビュー作「スロバキアのともだち・はなとゆろ おるすばんのぼうけん」(JULA出版局)の原画展を開催します。この本は、2017年ブラチスラバ芸術大学版画学科大学院の卒業制作ですが、スロバキアの最も美しい絵本賞(学生部門)を受賞しました。

お留守番中のゆろとはなの兄妹が、想像の世界で様々な冒険をするお話です。お母さんがお出かけした後、寂しがる妹はなを、お兄ちゃんのゆろが、想像という魔法で、はなにステキな世界の扉を開けてくれます。身の回りのものを、何かほかのものに見立てるのは、子どもたちが得意な遊びですよね。二人は椅子の馬やはさみの鳥たち、くつ下のうさぎ、本のフクロウなどと出会い、テントウムシを救い出します。テントウムシはスロバキアでは神様のお使いとして幸せをもたらすと言われているのだそうです。

福井さんがスロバキアで学んだのは、西洋木版。木版画には板目木版と小口木版があり、我々がよく知っている日本の浮世絵などは、板目木版画。小口木版は銅版画のような細かい表現が可能な手法です。ヨーロッパでは、聖書の絵として発達した細かい描写はこの小口木版画や銅版画を駆使したものになります。刷る技法も日本ではバレンで刷り取りますが、西洋木版はプレス機を使います。版木、紙、インクの素材にも違いはあります。福井さんの今回の絵本の原画は、板目木版で、プレス機もバレンも使い、ウィーンで入手した水性インクによる落ちついた色合いで、シンプルで伸びやかな作品に仕上がりました。

絵本の中で、スロバキアのわらべうたが出て来ます。現地で時々ベビーシッターをしていて、小さな子どもたちと接する中でできあがったお話だそうです。勢いのある構図、繊細な色使い、和紙を使って刷った絵には、日本で培ったものとスロバキアで学んだことが、お話の中だけではなく、絵の表現にも混ざり合い、福井さんならではの独特の世界が広がっているように思います。瑞々しい絵本作家の楽しい原画をお楽しみ頂けたら幸いです。ぜひお出かけ下さいませ。(女房)

福井さとこ絵本原画展『スロバキアのともだち・はなとゆろ おるすばんのぼうけん』は1月22日(火)〜2月3日(日) 12時〜20時 月曜日定休  なお、最終日2月3日(日)18時から福井さんによるスロバキアのお話会を行います。参加ご希望の方はレティシア書房までお申し込み下さい。(075−212−1772)