当店で配布しているJAZZの無料ペーパー「WAY OUT WEST」というミニコミ紙から、影響を受けたジャズの本を3冊選んでくださいという企画がありました。何を紹介したかは次号をご覧いただくとして、ジャズプレイヤーとしても、人間としても、この凄味と深い思想には、敵わないと思える人物が一人います。

ピアニスト、作曲家、オーケストラ指揮者の秋吉敏子。大学時代のこと、高野悦子の「二十歳の原点」にも登場するジャズ喫茶「シアンクレール」で、煙草プカプカさせながら、うつらうつらジャズを聴いていた時、いきなり小鼓と大鼓の音が巨大なスピーカーから流れてきました。なんだ、なんだ、ここは邦楽も鳴らすのか?と思っていたら、まるで尺八みたいなフルートが流れてきたのです。そして分厚いホーンセクションが、能の地謡みたいな重々しいサウンドを奏で出しました。

レコードを見せてもらうと、「秋吉敏子&ルー・タバキンビッグバンド/孤軍」と書かれていました。ここからです、彼女の音楽家としての人生に興味を持ったのは。1956年、たった一人で渡米して、ジャズプレイヤーとしての修行が始まります。日本から来た女性ということで、バカにされたり差別されたりした事がたくさんあったと思いますが、着々と頭角を表わし、なんと自分のオーケストラを持つに至りました。しかも、このオーケストラは、彼女の作曲したものしか演奏しない、スタンダードナンバーなんて絶対にやらないという、あり得ないビッグバンドです。

当然「孤軍」も彼女の作曲です。おそらく、たった一人でアメリカで音楽を追求した自分の人生を象徴させたタイトルなんでしょう。深く心に突き刺さってくる音楽です。このアルバムの2年後、「インサイツ」という作品を発表。この中に「ミナマタ」という組曲が入っていました。観世寿夫、亀井忠雄らの能楽家も参加したこの曲は、タイトルから分かるように水俣の公害病と、病に苦しむ街を音楽で表現したものです。凄いな、ジャズでここまでやるんだ!と驚きました。

その後、「ヒロシマーそして終焉から」とうアルバムで、未来の平和を祈るアルバムを発表します。原爆記念日の8月6日、ヒロシマでお披露目公演が行われ、CD化されました(1300円)。曲は三章に分かれていて、第二章で、重森涼子さんが原爆落下直後の惨状を朗読します。そして、第三章では「これは原爆の無い世界、そして願わくは平和な世界を、と云う、広島からの愛と希望を込めた、全世界へのメッセージです」というナレーションと共に、力強いジャズサウンドが爆発します。会場にいた人達は恐ろしいほど深い感動に包まれたことでしょう。

1929年満州生まれ、今年88歳。長い人生をひたむきにジャズに生きてきた女性です。彼女の音楽に出会えたことに感謝します。

蛇足ながら、you tubeで彼女のオーケストラと和太鼓奏者林栄哲のNYでのコラボライブが観ることができます。夫君ルー・タバキンと林の凄まじいアドリブはジャズも、邦楽も飛び越した唯一無比の音楽を作り出しています。

なお「孤軍」はアナログレコードのみ在庫があります。(800円)

 

★レティシア書房臨時休業のお知らせ 4月17日(月)18日(火)連休いたします。

 

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