昨年だったでしょうか、「翻訳できない世界の言葉のことば」という本がベストセラーになっていました。著者はエラ・フランシス・サンダース。彼女の新しい著書「ことばにできない宇宙のふしぎ」(創元社/古書1300円)をご紹介します。全51章で、左ページに彼女の描いた素敵なイラストが、右ページに文章が載っています。

第1章「私は炭素でできている/ I am made from carbon」は、こんな文章で始まります。

「恒星は、死ぬとき最後に大きな一呼吸を終えると、焼きすぎたスフレのように中心に向かって潰れていきます。このとき、星の外側の物質が、広大な無で在り同時にすべてでもある宇宙空間に放出されます。毎年4万tものこんな星くずが地球に放り注ぎ、そして、その星くずは、地球上の命の絶え間ない営みに使われる元素を含んでいます。」

科学で解明された事実を、文学的な文章で表わすためには高度な技術が必要でしょう。著者は時にクールに、時にユーモラスに、宇宙を、原子の世界を、自然界の摂理を、語っていきます。「私たちは、太陽を食べていきます」なんて一文に出会うと、え、ホンマかいな?と思いつつ、引き込まれていきます。

静かな空間を滑るように進む宇宙船が登場するSF映画の影響かもしれませんが、なんとなく宇宙って静謐な空間だと思っていますよね。しかし「実際には、宇宙はとんでもない騒音と、絶え間ない大混乱に満ちているのです。」と著者は言います。60年代に天文学者は、鬱陶しい雑音が宇宙から聞こえてくることに気づきました。これは、「ビッグバンの残滓である『宇宙マイクロ波背景放射』で、宇宙で最も古い音だったのです。それ以来、私たちは宇宙の奏でる精巧で不思議な音を知るようになりました。」と続けているのですが、天文学や、宇宙物理学の難しいことばを使わずに、この宇宙空間の不思議さを解説していく手腕がお見事です。現代科学で解明されていった事実が少し身近に感じられる、小さな、でもとても美しい本なのです。

私が一番気に入ったのは、「私たちのDNAは、チンパンジーとも1.3%しか違わないのです。また、90%は猫と、80%は牛と、60%をニワトリと、もしくはショウジョウバエと共有し、バナナとさえも50%の遺伝子を共有しています。」という件りです。

地球上の全ての生きものは、程度の差こそあれ、遺伝的に共通している。”We are The one”という所ですね。アメリカ第一主義という単語しか知らないトランプ氏の脳細胞に刷り込みたいものです。