アメリカの物理学者ケネス・リブレクトと写真家のパトリシア・ラスムッセンが組んだ「スノーフレイク /SNOWFLAKE」(古書/山と渓谷社1500円)は、「森の生活」のソローのこんな文章で始まります。

「こんなものを生み出すとは、空気とはなんと創造の才に溢れていることか!夜空の星たちが降ってきてジャケットに張りついたとしても、この星たちの美しさにはきっとかなわないだろう。」

ノースダコタの農場育ちのケネス・リブレクトには、幼い頃から雪は身近な存在でした。雪の結晶の美しさに惚れ込み、その研究へ向かいます。本書では、雪の結晶を撮影する研究をしていたパトリシア・ラスムッセンの写真を駆使して、この美しい存在を解明していきます。

科学者の書いた本なので科学論文的な部分もありますが、決して専門家向けの難しいものではありません。そして随所にちょっと面白い表現があります。例えば「第6章 雪結晶の気象」では

「雪結晶は大気中で大量に生産されます ー毎秒10億✖️100万個という驚異的な速さです。10分ごとに無敵の雪だるまの軍隊ができるほどの雪が作られます。世界の人口と同じだけの雪だるまができるでしょう。地球誕生以来、地球丸一個分の小さな氷の結晶が、10回ほど降った計算になります。」なんとなくその多さがわかるような表現だと思いませんか。

本書にいっぱい収録された雪の結晶写真を眺めていると、美しさに魅了されます。こんな複雑なデザインをしているのか!と驚くものや、優雅なスタイルをしているものもあります。もう、宝石の世界です。よくもまあこんな写真を撮影したものです!とりわけ、「十二花/Twelve-Sided Snowflake 」と呼ばれる結晶の見事な姿をここまで完璧な形で撮影した技術には目を見張ります。こんなにも美しいものが空から降ってくるんですね。

そういえば、「雪は天から送られた手紙である」という名言を残した物理学者中谷宇吉郎も、結晶には深い興味を持ち研究していました。

「兎の毛の先に六花の結晶が白く光っている。そっと取り出して顕微鏡で覗いてみると、この出来立ての雪は天然の雪よりも一層の見事さである」

「中谷宇吉郎森羅万象の手帖」(LIXIL出版/新刊1980円)で、カメラが捉えた結晶の写真を楽しむことができます。

ひょっとしたら、この冬は、天から降ってくる雪を見る目が変わるかもしれません。

赤祖父俊一という名前をご存知でしょうか。

オーロラの研究者です。「ドクター・アカソフは、アラスカで最も有名な日本人よ。アラスカを旅する日本人なら、知ってなきゃダメよ」と言われたのは、ノンフィクション作家の廣川まさき。彼女がアラスカにいる赤祖父先生の研究室まで押しかけて、オーロラについての個人授業を受けた様子を一冊の本にしたのが、「ビッグショット・オーロラ」(小学館/古書1050円)です。

オーロラって、ただ見る分には、綺麗!幻想的!とウットリなのですが、解説となると物理学やら天文学の理論が入り込んできて、あぁ〜難しい!!!という気分になるところ、本書はそんな心配を一掃してくれます。 大笑いした箇所もいくつかありました。著者のノリの良さで、どんどん読ませてくれて、しかもオーロラの科学的お勉強もそこそこできてしまいます。

「マイナス40度の世界に身を置くと、外気にさらされている肌は、無数の針に刺されたように痛み、息をする度に、鼻の中の粘膜が一瞬でピリリと凍る。」

そんな状況下で彼女は、撮影用に購入したカメラを携えてオーロラの観測を開始します。しかし大体マイナス40度での使用なんて想定外。なんとか撮影が終わって、彼女が居候している友人の室内がこれまた問題?

「アラスカでは、基本的に家の中ではTシャツで過ごし、暖かい部屋でアイスクリームを食べるというのが、一般的な冬の過ごし方であるから、ストーブは蒸気機関車の罐のようにカッカしている。」

外はマイナス40度、家の中は30度というのだから、その温度差は70度。人間はサウナに飛び込む感じでいいですが、カメラはそうはいかない。さて、著者はどうしたか? そんなトライ&トライの数々がユーモアたっぷりに描かれています。

オーロラの素人同然の著者が、世界的科学者にトンチンカンな質問を浴びせますが、赤祖父先生は、嫌な顔をせず、丁寧に説明してゆくのです。その説明を著者がかみ砕いて書いているので、私のような素人読者もスラスラと読んでいけます。

「科学は全て、基本が大事。その基本というのは、小学校で習う理科なんだよ」

とは赤祖父先生の言葉です。膨大なデータを処理し、高度な科学式で宇宙を読み解く先生ですが、基本はここなんですね。子供の頃の理科への好奇心を持ち続けることなのです。

この先生の言葉を、著者は「最も子供に届けたい言葉だと、強く思った」のです。そして彼女もあくなき好奇心を持っていたからこそ、マイナス40度も平気だったんですね!

 

 

昨年だったでしょうか、「翻訳できない世界の言葉のことば」という本がベストセラーになっていました。著者はエラ・フランシス・サンダース。彼女の新しい著書「ことばにできない宇宙のふしぎ」(創元社/古書1300円)をご紹介します。全51章で、左ページに彼女の描いた素敵なイラストが、右ページに文章が載っています。

第1章「私は炭素でできている/ I am made from carbon」は、こんな文章で始まります。

「恒星は、死ぬとき最後に大きな一呼吸を終えると、焼きすぎたスフレのように中心に向かって潰れていきます。このとき、星の外側の物質が、広大な無で在り同時にすべてでもある宇宙空間に放出されます。毎年4万tものこんな星くずが地球に放り注ぎ、そして、その星くずは、地球上の命の絶え間ない営みに使われる元素を含んでいます。」

科学で解明された事実を、文学的な文章で表わすためには高度な技術が必要でしょう。著者は時にクールに、時にユーモラスに、宇宙を、原子の世界を、自然界の摂理を、語っていきます。「私たちは、太陽を食べていきます」なんて一文に出会うと、え、ホンマかいな?と思いつつ、引き込まれていきます。

静かな空間を滑るように進む宇宙船が登場するSF映画の影響かもしれませんが、なんとなく宇宙って静謐な空間だと思っていますよね。しかし「実際には、宇宙はとんでもない騒音と、絶え間ない大混乱に満ちているのです。」と著者は言います。60年代に天文学者は、鬱陶しい雑音が宇宙から聞こえてくることに気づきました。これは、「ビッグバンの残滓である『宇宙マイクロ波背景放射』で、宇宙で最も古い音だったのです。それ以来、私たちは宇宙の奏でる精巧で不思議な音を知るようになりました。」と続けているのですが、天文学や、宇宙物理学の難しいことばを使わずに、この宇宙空間の不思議さを解説していく手腕がお見事です。現代科学で解明されていった事実が少し身近に感じられる、小さな、でもとても美しい本なのです。

私が一番気に入ったのは、「私たちのDNAは、チンパンジーとも1.3%しか違わないのです。また、90%は猫と、80%は牛と、60%をニワトリと、もしくはショウジョウバエと共有し、バナナとさえも50%の遺伝子を共有しています。」という件りです。

地球上の全ての生きものは、程度の差こそあれ、遺伝的に共通している。”We are The one”という所ですね。アメリカ第一主義という単語しか知らないトランプ氏の脳細胞に刷り込みたいものです。