「都市と野生の思考」(インターナショナル新書400円)は、京都大学総長の山極寿一と、京都市立芸術大学学長の鷲田清一との対談集です。

二人の知識人が、様々なテーマで縦横無尽に語り合います。大学の存在意義、老いと成熟を学ぶ場としての京都、これからの家族の在り方、アートの起源、自由の根源、ファッションに隠された意味、食の変化がもたらすもの、教養とは何か、AI 時代の身体性まで語り尽くします。優れた知識人の話が、読者の知的好奇心を膨らますというのは、こういう本のことですね。私は1章づつ、電車の中で読みました。

ところで、東京生まれで生粋の京都人ではない山極先生は、京都をこう語っています。

「京都ではいまだに、衣食住にかかわるしきたりがきちんと保たれている。これが根っこを共有する意義でしょう。これは表に現れないからこそ大切なものだった。そんな根っこを日本の多くの地域は失ったんですね。」

へえ、そうなの?と思わないこともないんですが……..。

山極寿一は、ご存知のように霊長類の研究者として、研究発表、執筆など様々な活動をされています。その中の一冊「ゴリラの森に暮す」(NTT出版/絶版1400円)はお薦め。アフリカのザイールで野生のゴリラを追い求めてジャングルを駆け巡った日々を中心に書かれた本ですが、文章が平易で、専門用語が少ないので誰でもスルリと読めます。第一章の「原生林の世界」だけでもお読み下さい。ジャングルで道に迷い野宿をしたその夜、すぐ側に何頭ものゴリラたちが集まっていた時のことなど、小説みたいに面白く読めます。

山極寿一が原生林を歩きはじめたのは、数十年前。日本でサルを観察するために、各地で餌付けが始まり、成果は大いにあったみたいです(京都なら嵐山のサルが有名)。しかし、その一方、これで本当に野生に生きるサルの生態が解るのだろうか、と、人間からエサをもらうために道路沿いにズラ〜ッと並んで待ち続ける彼らを見て、疑問に思い始めます。それで日本各地を巡り、最後に屋久島に行き着きました。

屋久島に棲息するサルたちの生態を追って、彼らの社会を描いたのが「サルと歩いた屋久島」(山と渓谷社1200円)です。当時、大学院生だった著者は、各地で餌付けされて、やけに人間に親しいサルたちに違和感を抱いていました。ところが、屋久島のサルたちは、まるで人間なんて存在しないかのように振る舞っていました。そんな野生のサルに引込まれてゆく姿が描かれたネイチャーエッセイです。

笑い顔が素敵な著者の研究の原点を読むような二冊のサル本です。

 

 

 

 

★安藤誠ネイチャートークショー「安藤塾」今年も開催決定しました。

北海道のネイチャーガイドで、釧路ヒッコリー・ウインドオーナー安藤誠さん(写真右・愛犬キャンディと)のトークショーを10月25日(水)19時30分より開催します。(要・予約 レティシア書房までお願いします) 

 

 

2014年「ふたりのねこ」で絵本作家としてデビューしたヒグチユウコは、グロテスクさと可愛らしさをブレンドしつつ、奇妙な世界を、これでもかという過剰な描きっぷりで人気急上昇です。

しかし、奇抜な発想と画力だけではないとう事が、今回入荷した3冊の絵本を通してわかりました。2015年に発表された「せかいいちのねこ」(白泉社1512円)は、深く心に染み込む物語です。

本物の猫になりたいと願う、ぬいぐるみニャンコと、旅先で出会う本物の猫との交流を描くハートウォーミングな絵物語。登場する猫たちは、当然細かいところまで描き込まれていますが、ぬいぐるみニャンコが見せる様々な表情は、擬人化されたようなものではなく、ヒグチの猫だから出せる独特の魅力があります。そして、ニャンコをいじめる、一見イヤミな猫が、実はそうではなかったことが明らかになる所は、この絵本のクライマックスで、映画なら儲け役と呼べるキャラ。

 

「おれたちねこは、人間より寿命が短いからたいてい先になくなるんだ。でも、おまえはずっといっしょにいられるじゃないか」と、本物の猫になろうとするぬいぐるみ猫を説得して、泣かせます。

その翌年、発表した「ギュスターブくん」(白泉社1512円)は、作家の奇抜な発想力満開の一冊です。上半身は猫で下半身は、ヘビのような、蛸のような、グロテスク極まりない奴なのですが、猫の無邪気な可愛らしさと、底知れない不気味さを持ち合わせて、実にチャーミング。その他の奇妙な動物も、ここまで書き込まれるとアートですね。

そして同年出版された「すきになったら」(白泉社1512円)には、猫は登場しません。少女とワニの恋愛物語です。ワニは極めてリアルに描かれているのですが、とても優しい感情が伝わってきます。このワニ、前作の「ギュスターブくん」にも登場していますが、今回は少女と愛し合う二枚目の主役でした。とても素敵な恋する絵本です。

摩訶不思議な世界に遊ばせてくれるヒグチユウコは、これからも目の離せない作家の一人でしょう。

 

★8月9日(水)〜20日(日)「レティシア書房 夏の古本市」を店内で開催します。

個性的な28店のよりすぐりの古本が大集合です!(14日は休み)


 

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6月28日のブログで、マイケル・D・ヴィットの絵本「レッドタートル」の事を書きましたが、スタジオジブリで映画化されたDVDを購入してやっと見ることができました。全編、台詞、音楽なしの実験的なつくり方で、心に残る良い作品でした。

海で遭難した男が、南海の孤島に辿り着きます。孤独な生活から逃れようと何度も脱出を試みるのですが失敗。そうしているうちに、彼に恋したウミガメの化身の女性と暮らしはじめ、男は幸せを得て、子どもを育てます。やがて成長した子どもは、島を出て、大きな世界へ旅だってゆき、男は年をとります。男の最期を看取った女性はウミガメに戻る、というストーリー。

スタジオジブリ初の、海外共同制作映画として公開され、フランスのカンヌ国際映画祭では、作家性の高い作品に与えられる「ある視点」部門特別賞を受賞しました。でも、決して小難しい映画ではありません。余計な欲望をはぎ取った究極の状況で生きること、死ぬことの意味を描いています。秀逸なのはラストシーンです。年老いて亡くなってゆく男を見つめる女性。満点の星の下で、彼は一生を終えますが、翌朝、ウミガメに戻った女性はゆっくりと島を去っていきます。聞こえるのは波の音だけ。静かな、静かな幕切れです。

私たちの人生は、この惑星の大きな何かに見守られているのかもしれないという想いに涙せずにはいられません。

マイケルが、「レッドタートル」以前に作った傑作短編アニメ「岸辺のふたり」の絵本(くもん出版/絶版950円)が入荷しました。幼い娘を置いてボートに乗り込み、戻ってくることの無かった父。その面影を求めて岸辺に通い続ける娘。やがて、娘は大きくなり、伴侶を得て、子どもを育て、老いてゆく。そして、ある日、彼女は、あの日戻ってこなかった父と再会する。ここでも、死ぬ事と生きることは一体であることが描かれています。

娘をおいて、水平線の彼方に向かう父をシルエットで描いたカットや、眩しい青春時代を送りながらも、父のことがふと頭をかすめる彼女の背後に、影を落とす林を描いたカットに、マイケルの人間の生と死への思いが込められています。ラスト、再会した二人の横に広がる影の長さに、読む者はそれぞれ、いろんな想いを重ねるかもしれません。

「レッドタートル」のDVDは、おそらくレンタルショップで見つかると思いますが、気に入ったら買われることをお薦めします。この先、多くの死に立ち会わざるを得ない時、きっと支えてくれることでしょう。

 

古いフランス映画(1956年)に「赤い風船」という作品があります。少年と風船の友情を詩情豊かに描いた短編映画です。後年、いわさきちひろが絵本化を熱望し、68年に「あかいふうせん」として出版されました。

同じタイトルの絵本、イエラ・マリ作「あかいふうせん」(ホルプ出版850円)が入荷しました。この絵本には、全く言葉がありません。少年が膨らましていたチューインガムが、大きくなり赤いふうせんになり、フワリと大空へ旅立ちます。やがて、その赤いふうせんは、リンゴに形を変えて、地上に落ち、今度は赤い蝶々になり、可愛らしい赤い花へと変身していきます。赤い花は、にわかに曇ってきた空から落ちて来た雨粒に対して、赤い傘へ。その傘をさして雨の中を行く、最初に登場した少年の姿を真上から捉えたシーンで絵本は幕を閉じます。

極めてシンプルな絵本ですが、デザインのセンスが冴えています。「きょうのおやつは」や「かがみのサーカス」等の絵本で注目の作家、わたなべちなつは、この本への思いをこう書いています。

「グラフィックデザインを学んでいた学生時代に、書店で初めてこの絵本を手に取りました。文字がなく、絵のみで表現された潔い画面に、目が釘付けになりました。ページをめくりながら、心臓がどきどきしたのを覚えています。絵本は大人をも魅了する造形であると確信した一冊です」

風船がどんどんとフォルムを変えてゆくという場面転換には、確かにドキドキする楽しさがあります。それに、流れるように展開する一つ一つの絵が、とても素晴らしく、赤い傘を持った少年を上から捉えた絵は、そのまま”FIN”という文字が出る洒落たフランス映画のラストシーンみたいです。

イエラ・マリは、この本以外にも、文字のない絵本として「りんごとちょう」など多くの作品を残しています。当店には「にわとりとたまご」がありましたが、現在は売切です。

 

スタジオジブリのプロデューサー、鈴木敏夫の「ジブリの文学」(岩波書店1400円)は、著者の文学体験や、映画製作者としての人生が満喫できる一冊ですが、その中に、作家と縦横無尽にトークする企画があります。登場するのは、朝井リョウ、中村文則、又吉直樹等の話題の作家ばかりです。その一人として、マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィットというアニメ作家と池澤夏樹が著者と語り合う企画がありました。マイケルは、スタジオジブリ制作の長編アニメ「レッド・タートル」を監督した人物です。

著者はマイケルの絵を気に入り、絵本にならないかと思案し、ファンだった池澤に構成と文章を頼みました。その絵本が出来上がるまでを三人が楽しそうに語りあいます。映画は全く台詞のない作品で、そのままでは絵本にならないので、池澤が、登場人物達が過ごす「島」がこの男と女について語るという構成を思いつきます。マイケル監督は、映画では「沈黙の美しさ、そういったものを表現したかったんです」と発言しています。池澤は、監督のその思いを見事に絵本にしました。

「レッドタートル」(岩波書店1400円)は、切なく、美しい物語です。無人島に辿り着いた男が、島に育てられ、海の彼方からやって来た女性(ウミガメの化身)と共に暮らし、子供が生まれます。その子供は大きくなった時、文明世界を見たいと島を離れます。やがて、年老いた男は島で亡くなり、女はウミガメに戻って海にかえります。ラストの島の台詞です。

「女は伴侶を看取った後、ウミガメの姿に戻って、海に帰っていった。

残された私はまた無人島、ただため息をつくしかなかった。」

著者が惚れ込んだ絵は、宮崎駿曰く、日本のアニメの影響を全く受けていないオリジナルなもので、極めて美しいものです。海の深いブルーが目に焼き付きます。女がウミガメに戻って大海原に戻ってゆくラストショットに込められた、生きることへの切なさをたった一枚の絵と、短い文章で表現しています。優れた表現者同士のコラボレーションを見せてもらいました。

マイケルは絵本としては、傑作「岸辺のふたり」を出しています。あぁ〜、あの本かと思われた方もおられるかもしれません。

残念なことに、私はこの映画を見ていません。しかし、既にDVD化されている!これは即買い!とワンクリック。楽しみです。

 

 

 

 

 

 

絵本作家の村上浩子さんは、2015年1月にレティシア書房で、「新作絵本の原画と雑貨デザイン展」をして頂きました。独自のキャラクター「メルシーにゃん」はパリの二人展をはじめ、イタリア、イギリス、フロリダのディズニーランドなどで発表されています。自作の絵本を精力的に作り続けている一方、絵本作りの教室を主宰されて20年以上になります。

前回の個展の際には、いくつもの教室を抱えて大忙しの最中だったようですが、ここ2年の間にお仕事を整理されて「えほん作家養成教室」に力を注がれています。今回、その教室の修了生5人のデビュー展になりました。

教室は6ヶ月で1冊作り上げます。絵本を作るって、スゴく楽しそうですが、何も描かれていない真白の紙に、お話を立ち上げていくのは、口で言うほど簡単なことではないでしょう。生徒さんの中には、デザインの仕事をしていても、筆を使って絵を描くのは何十年ぶり、と言う方もおられました。絵は苦手だけれど何か表現してみたいという方や、描くのはやめて造形物を手づくりの万華鏡で、写真を撮って一冊に仕上げられた方など、個性的な原画と、手づくり絵本が並んでいます。本という形になった自分の絵を手にする喜びは、もの凄く大きいと思います。教室では、次期受講生を募集されています。

マリリン・モンローが好きで、そこからイメージした卵が主人公というユニークな『みみみちゃん』(写真右上・たにゆかりさん)、上手い絵と美しいレイアウトの『すてきなブラウス』(写真左上・かなたにななさん)、達者な筆使いで躍動的な絵と本音のお話が面白い『ロボかいじゅう』(写真左中・かわいみゆきさん)、可愛いアリの生活を丹念に描く『ありさん』(写真左下・ふじむらまりこさん)、万華鏡の面白い世界『まんげきょうえほん なにかな』(写真右中・かわばたひでとさん)など、どれも世界でたった一冊の宝物のような絵本です。村上浩子さんの絵本原画(写真右下)、手づくりグッズも生徒さんの作品とともに展示しております。(女房)

 

村上浩子のえほん作家養成教室京都2期修了生の『えほん展』は7月2日(日)まで

 最終日は17時半まで。月曜日定休

 

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80年代半ば、アート系出版社として、ユニークな本を出していたリブロポートが 「うたの絵本」シリーズという子供向けのシリーズ本をリリースしました。

その第一作が「なかよしともだち」(初版900円)というタイトルで、装本が平賀甲賀、挿絵が武井武雄でした。「なかよし小道」、「どんぐりころころ」等の懐かしい唱歌12曲に武井の絵が付いています。どの絵も愛らしく、手元に置いて見ていたいものばかりです。北原白秋の「雨ふり」や、「かくれんぼ」(作者不明)に用いられている独特の鳥のデザインなどは、さすが洗練されています。

京都在住の版画家、木田安彦の2002年京都大丸で開催された個展の図録「異才・木田安彦」(1500円)が入りました。図録といっても400ページ以上あるぶ厚い一冊です。この個展では、木田が魅了されていた歌舞伎の舞台の臨場感あふれるスケッチが並んでいます。役者のダイナミックな動きをスピーディーに捉えた素描は、歌舞伎好きでなくとも面白い。木田のライフワークとなった「三十三間堂」シリーズ、日本の祭シリーズ等の傑作も収録されています。

 

歌舞伎絡みでもうひとつ。通称「武智歌舞伎」を立ち上げた武智鉄二の芸術と生涯を追いかけた森彰英著「武智鉄二という藝術」(水曜社1500円)も入りました。

昭和24年、彼の演出による実験的歌舞伎公演が行われました。これが、武智歌舞伎の始まりです。しかし、数年で活動は終息し、その名前だけが残りました。その後、映画界へ転出し、なんとハードコアポルノ映画「白日夢」でセンセーショナルな話題を世間に投げかけます。さらに、彼の監督作品「黒い雪」が猥褻文書図画公然陳列の疑いで訴えられ、「黒い雪裁判」に巻き込まれていくという波乱の生涯でした。伝統芸能の伝承者が、なぜポルノ映画を作り始めたのか、1人の芸術家の内面に迫ってゆくノンフィクションです。

 

 

 

★勝手ながら、5/8(月)、9(火)連休いたします。

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松岩達(文)、冨田美穂(絵)による「おかあさん牛からのおくりもの」(新刊・北海道新聞社1836円)が届きました。

当然ですが、日々口にしている牛乳、チーズ、バター等々は牛からの贈り物です。そんな牛たちを飼っている酪農家の毎日を追いかけた絵本です。牛をよく観察して描き込まれています。

この絵を担当した冨田美穂さんの個展が、来週火曜日から当店で始まります。東京生まれ、武蔵野美術大学卒業後、北海道に渡り酪農業に従事しながら、牛の木版画、絵画を制作されています。知床発のミニプレス「シリエトクノート」に掲載されていた作品に出会ったのをきっかけに、京都初の個展をしていただくことになりました。

リアルな牛の作品を制作されていて、右の作品展のような大きなものが特徴的です。こんな大きな作品、小さな本屋のギャラリーに飾れるの?と思いましたが、今回は、中サイズと小サイズの牛が並びます。

絵本では、反芻する牛とか、牛舎のお食事タイムとかに描かれている牛はリアルであり、また愛嬌たっぷりです。生まれてから、最後に屠殺場に送られるまでの牛と農場との生活が解りやすい文章で書かれています。小学校中学年以上に向けられて書かれた本ですが、大人にも読んでもらいたい内容です。

子牛は、生まれて14ヶ月程で、オッパイが大きくなり、発情期を迎えます。そうすると酪農場に人口授精師が来て、人工授精を行い、赤ちゃんを生ませます。そしてお乳が出ます。そのお乳を分けてもらっているのが私たちです。因みに酪農場にオス牛はいません。彼らは生まれた後、肉牛牧場に引越して、牛肉になるために育てられます。何度かの妊娠後、雌牛は、「おつかれさま」という言葉と共に解体牧場に運ばれていき、加工用の肉にされます。我々は、牛乳から、お肉まで牛にお世話になっているということです。

 

 

そんな牛について、冨田さんは、「初めて間近に見た牛は、とても大きくて。あたたかくて、ふわふわしていてとてもかわいいものでした」と語っています。そして、酪農家が大切に育て、獣医さん、授精師さん、工場の人達など多くの人が誇りを持って働いている姿をしってほしい。食卓に並ぶ肉や、牛乳のことを知ってほしい、とこの本ができました。

個展最終日の5月7日(日)には、知床から作家が来廊予定です。動物好き、北海道好きの方、彼女とお話してみてはいかかでしょうか。東京から北海道に住まいを移し、牛を見つめて暮らしている彼女のハートウォーミングな眼差し溢れる作品展に、ぜひお越しくださいませ。

★冨田美穂「牛の木版画展」 4月25日(火)〜5月7日(日) 月曜定休日

”La casa sull’altura”(イタリア語版2500円)という洋書の絵本。文章はNino De Vita 、イラストはSimone Massi。”casa”は日本語に直すと「家」ですが、”sull’altura”は私にはわかりません。イタリア語の読める方ぜひ、翻訳してください。

物語もわからんのに、何が良いの?

ハイ、それは絵です。

大草原の中にポツンとある家。突如登場する悲しそうな目つきの大きな、黒い犬。蜘蛛の巣がいっぱいのなので空き家なんでしょう。その家に向かう少年、その関係は??。家の中に横たわる少年を見つめる犬。その絵のバックは真っ黒に塗りつぶされています。観るものに様々な感情を呼び起こす絵です。背景は真っ黒なために、私には、震えるような少年の孤独が伝わってきました。

 

 

絵本後半に少年が手にミミズクを載せているページが登場します。この少年の家族は?友だ

ちは??(何しろ言葉がわからないから想像がふくらむばかり)そして突然家を飛び出した後少年の姿は物語から消えます。家の前に所在なげに立つ犬、屋根に止まる鳥。そして、まるで映画の如く、倒れた椅子やハシゴのカット、一気にカメラが屋外に飛び出し、半分壊れた家を捉えて、終りです。

文章が理解出来ない分、どのようにも捉えることができるので、100人いれば、そこに100の物語が出来上がりそうです。まだ字が読めない子どもが、勝手に物語を紡ぐように。

私は、怒ったような目つきで正面を見つめる少年の顔を描いたページにくぎ付けになりました。この少年の怒りは何なのか?いや、本当に怒りなのか??

絵に力があるとはこういう事なのだと思わせた一冊です。このイラストを書いたSimone Massiをグーグルの画像検索してみると、ステキな作品がズラリと登場しました。

 

 

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絵本作家、町田尚子さんの個展を観に行った時、いやぁ〜人を食った顔だなぁ〜と拍手喝采したのが彼女の新作絵本「ネコヅメのよる」(WAVE出版/新刊1512円)でした。この表紙を見ればわかりますよね。昨今猫ブームとかで、大量に猫本が出版されていますが、この本がピカイチだと思っています。

 

主人公は家猫ですが、人間が一人も出て来ません。そして、極端に少ない言葉。「おや?」「あれ?」「もしかして」「そろそろかもしれない」なんてフレーズに絵が一枚づつ付いているのですが、猫を見つめる視線が、まるで映画のカメラを覗いているみたいです。ローアングル、ロングショット、超アップ、大俯瞰と変化していきます。そしてある夜、猫達が行き着くステキな場所へと我々を誘ってくれます。妙に擬人化を施さないとこがいいです。猫に興味のない人もフフフと笑えてきそうな一冊。玄関に立てかけておいたら、この顔ですから厄払いもしてくれるかもしれません。

 

 

さて、もう一冊、やはり素晴らしい絵本の紹介です。酒井駒子(絵)、LEE(文)による「ヨクネルとひな」(ブロンズ新社/新刊1620円)です。仔猫のヨクネルのかよわい表情、女の子ひなちゃんの素直な感情が、酒井駒子さんらしい繊細なタッチで描き込まれていて、高いクォリティーの絵本に仕上がっています。ひなちゃんの顔、手の動き等隅々にまで、仔猫への愛しさが溢れています。ぐっすり眠っているヨクネルの表情も、よく猫を観察されているなぁ〜と感心します。駒子ファンなら、必読の一冊です。古書では、「金曜日の砂糖ちゃん」(850円)、「BとIとRとD」(1300円)、「ビロードのうさぎ」(1250円)、「くまとやまねこ」(1050円)もあります。

さて、こちらも新刊ですが、五味太郎「絵本図鑑」(青幻舎3024円)も見逃せません。1973年から2016年までに発表された、五味太郎の作品が網羅されています。全作品の表紙を収録、またエポックメーキング50と題して本人のコメント付きで中身が紹介されています。後半には五味太郎覚え書きがあります。

また、メリーゴーランド店主、増田喜昭さん他の方々が、五味太郎について語っていますが、その中で、編集者の小野明さんが興味深い指摘をされています。

「五味太郎は垂直好きだ。ビル、煙突、立木、塔、灯台、殿中、旗、信号、標識、杖…….。 絵本のそこかしこに立っている。」

絵本はページをめくる行為が水平方向の動きを促進するので、そちらに強い。だから垂直なものは、水平方向の動きに対して読点を打ち、画面全体をリズミカルにもする。画面がはずみ、軽快にする作用を持っている、との指摘です。これから五味太郎の絵本を見るときには、この点を注意して見てみるのも面白いかも。

★レティシア書房では、新刊書・古書の色々な絵本を置いています。