当店絵本人気No.1「ネコヅメのよる」(WAVE出版1512円)の著者、町田尚子さんの新作、「なまえのないねこ」(小峰書店1620円)入ってきました。

文は、竹下文子さんが書いています。主人公は、のらねこです。

「ぼくは ねこ。なまえのない ねこ。だれにも なまえを つけてもらったことが ない。 ちいさいときは ただの『こねこ』だった。 おおきくなってからは ただの『ねこ』だ。」

彼の周りの猫は、みんな名前を持っています。

本屋さんの猫は「げんた」という白黒のねこです。八百屋さんの猫は、どこがチビというぐらいの大猫(これ笑います)。町の多くのお店に猫がいるようです。お店ばかりか、お寺には「じゅげむ」という名前をつけてもらった猫までいます。

自分も何とかして名前が欲しい。そんなある日、雨宿りしていたベンチの下を小さな女の子が覗いて、「きみ、きれいな メロンいろの めを しているね」と声をかけられた彼は、気づきます。「そうだ。わかった。ほしかったのは、なまえじゃないんだ。」

じっと女の子を見上げる猫の横顔に、思わず泣いてしまいました。そうです。のらねこは、名前を呼んでくれる人が、愛してくれる人が欲しかったんです。町田さんの丁寧な絵に心を掴まれ、とっても幸せな気持ちになります。猫好きなあなた!必見です。

「ネコヅメのよる」も再入荷しました。ふてぶてしい猫が魅力的なこちらもお楽しみください。

 

 ♫トーク&ライブ決定 7月13日(土)澤口たまみ(かたり)石澤由男(ベース)

今年1月、当店で行われた「宮沢賢治愛のうた」(澤口たまみ著)出版記念イベントのお二人のトーク&ライブが決定。ゆったり、そして豊かな時間の流れた前回同様、今回も期待度大です。賢治の言葉とウッドベースの響きが心地よく胸に伝わってくること間違いなしです。

 

 

世界を変える美しい本」(売切)、「フェルメール」(2160円)、「はじめまして、ルート・ブリュック」(2160円)などアート系の良質の本を出しているブルーシープが、新刊を出しました。なんと、スヌーピーです。正式のタイトルは「スヌーピーミュージアム展図録」(3024円)。

これは、2016年から18年まで期間限定でオープンしたスヌーピーミュージアムで、5回にわたって開催された企画展を凝縮した一冊と、「THE BEST OF PEANUTS」と題されたスヌーピーコミックのベストを二冊組みにしたものです。世界一有名なビーグル犬スヌーピーは、50年も連載を続けていました。

スヌーピーにたいして興味のない私でも、この図録は、思わず読んでしまいました。コミックはもちろん、グッズ、本、ペナント、おもちゃなどあらゆるものが集められています。登場人物の詳細な紹介に、かなりのページを使っていて、著者はここまで描き分けていたのかと、驚きました。最後に作者チャールズ・ M・シュルツの未亡人ジーン・シュルツ(シュルツ美術館理事長)と、日本で翻訳を担当してきた谷川俊太郎の対談まで用意されています。その中で、谷川が、スヌーピーのコミックについて「まずは品がいい。露骨な笑いではないのです。」と語り、そのユーモアのセンスは井伏鱒二に通じるものがあると話しています。資料としても価値があります。

さて、独特の文章と、モノクローム線画でユニークな作品を発表してきたエドワード・ゴーリー。柴田元幸によって数多くの作品が翻訳されて日本でも人気の作家になり、2016年には大規模な巡回展がありました。そのゴーリーの「ぼくたちが越してきた日から そいつはそこにいた』(河出書房新社/古書1150円)は、従来のゴーリーのイメージと違い、モノクロームではなくカラーです。

とある一家が、新居に引っ越してきた時、庭に大きな犬がいたのです、そのセントバーナードみたいなムク犬は、家族が近づこうが、雨が降ろうが、ただ黙ってそこにいるだけなのです。柴田曰く「はじめから終わりまで名前さえない そもそもこの犬の正しい名前は何なのか?が物語のテーマなのだ」

「ゴーリー自身、ほろっと泣かせるような物語なんて間違っても書かない」という柴田の指摘通り、子供と犬の涙の感動物語ではありません。しかし、ゴーリーと組んだことのある作者ローダ・レヴィーンの、じっと止まる大きな犬と、それに名前をつけようとする少年の物語は、少しだけ感傷的な味わいがあり、ゴーリーの中では珍しいと思います。

「いつかはきっと、正しい名前が見つかるとぼくは思う。ぼくはいまもしっかり取り組んでいる。犬は待っている。ぼくは考えている。ぼくたちはどちらも、がんばっている。」という少年のセリフで物語は幕を閉じます。二人、いや一人と一匹に、頑張れと声をかけたくなるラスト。ゴーリーファン必読です!

 

福井さとこさんは、京都嵯峨芸術大学デザイン科卒業後、手描きのアニメーション制作をしていました。その後、世界的絵本作家ドゥシャン・カーライに魅了され、一発奮起、スロバキアのブラチスラバ芸術大学に留学してカーライ氏のもとで版画と絵本の挿絵を学びました。

今回は日本デビュー作「スロバキアのともだち・はなとゆろ おるすばんのぼうけん」(JULA出版局)の原画展を開催します。この本は、2017年ブラチスラバ芸術大学版画学科大学院の卒業制作ですが、スロバキアの最も美しい絵本賞(学生部門)を受賞しました。

お留守番中のゆろとはなの兄妹が、想像の世界で様々な冒険をするお話です。お母さんがお出かけした後、寂しがる妹はなを、お兄ちゃんのゆろが、想像という魔法で、はなにステキな世界の扉を開けてくれます。身の回りのものを、何かほかのものに見立てるのは、子どもたちが得意な遊びですよね。二人は椅子の馬やはさみの鳥たち、くつ下のうさぎ、本のフクロウなどと出会い、テントウムシを救い出します。テントウムシはスロバキアでは神様のお使いとして幸せをもたらすと言われているのだそうです。

福井さんがスロバキアで学んだのは、西洋木版。木版画には板目木版と小口木版があり、我々がよく知っている日本の浮世絵などは、板目木版画。小口木版は銅版画のような細かい表現が可能な手法です。ヨーロッパでは、聖書の絵として発達した細かい描写はこの小口木版画や銅版画を駆使したものになります。刷る技法も日本ではバレンで刷り取りますが、西洋木版はプレス機を使います。版木、紙、インクの素材にも違いはあります。福井さんの今回の絵本の原画は、板目木版で、プレス機もバレンも使い、ウィーンで入手した水性インクによる落ちついた色合いで、シンプルで伸びやかな作品に仕上がりました。

絵本の中で、スロバキアのわらべうたが出て来ます。現地で時々ベビーシッターをしていて、小さな子どもたちと接する中でできあがったお話だそうです。勢いのある構図、繊細な色使い、和紙を使って刷った絵には、日本で培ったものとスロバキアで学んだことが、お話の中だけではなく、絵の表現にも混ざり合い、福井さんならではの独特の世界が広がっているように思います。瑞々しい絵本作家の楽しい原画をお楽しみ頂けたら幸いです。ぜひお出かけ下さいませ。(女房)

福井さとこ絵本原画展『スロバキアのともだち・はなとゆろ おるすばんのぼうけん』は1月22日(火)〜2月3日(日) 12時〜20時 月曜日定休  なお、最終日2月3日(日)18時から福井さんによるスロバキアのお話会を行います。参加ご希望の方はレティシア書房までお申し込み下さい。(075−212−1772)

 

これはタイトル通り、北半球に生きる動物達を描いたイラスト絵本(洋書5000円)です。著者はDieter Braun。動物のイラストとなると、可愛らしいものが大半ですが、これは全く違います。動物達が持っている野性的な姿を、木版画のような手法で色彩豊かに描いてあります。表紙の狼からして、俺たちは荒野で生きているという気合いが漲っています。

第一章は北米大陸で、先ず登場するのはPuma(ピューマ)です。ブラウン系の色を巧みに組み合わせたピューマの横顔(写真右下)。解説(英語)にこうあります。

The Light puma goes by many names:the silver lion,the mountain lion,or the cougar.Measuring up to 1.4meters in Length,it’s one of the Largest big cats in North America.

ピューマは別名を幾つか持っていて、北米大陸では、最も大きいネコ科の動物の一種だということが分かります。てっきりピューマはアフリカだけだと思っていました。(そんなに難しくない英語ですので読めます)

ページを捲ると、Bald Eagle(白頭鷲)、polar Bear(北極グマ)などお馴染みの動物が、大胆にデフォルメされたり、眩しいくらいの色で彩られ、ビビッドな姿を楽しむのと同時に、英語でこの動物はこう呼ぶのかということが解り、思わず発音したくなったりします。

Peregrine Falcon,

Great Spotted Woodpecker,

Hedgehog

Puffin

Mandarian Duck

なんの動物かわかりましたか?

Japanese Macaqueは、日本のお猿さんで、雪深い森にありそうな温泉につかっているところが描かれています。流れる様な白い模様が美しいEuropean Badger(アナグマ)や、赤い嘴をシンボリックに使ったWhite Stork(コウノトリ)等、どれも大胆でシャープなデザインの美しさに驚かされます。

個人的には、Snow Leopard(ユキヒョウ)のイラストが一番好きです。写真左のカッコいいフォルムの次のページには、こちらを睨みながらソロリと向かって来るユキヒョウの、威厳がありながらどこかユーモラスな正面の顔が掲載されています。作者は、たぶん意識的に動物を正面から捉えた顔を多く製作していると思います。真っ直ぐにこちらを見つめる顔はとても魅力的で、自然界に生きる彼らの美しい姿が集約されてる一冊です。

 

★イベントのお知らせ「宮沢賢治 愛のうた 百年の謎解き」

2019年1月18日(金)19時より、「新叛宮沢賢治 愛のうた」を出された澤口たまみさんとベーシスト石澤由男さんをお迎えしてトーク&ライブを行います。ご予約受付中(1500円)

 

 

 

 

mikihouseが出している宮沢賢治絵本シリーズは、とても素敵なセレクトです。スズキコージ「注文の多い料理店」、黒井健「水仙月の四日」、田島征三「どんぐりと山猫」、あべ弘士「なめとこ山の熊」など、数え上げたら限りがありません。今回ご紹介する「氷河鼠の毛皮」(古書/1100円)は、賢治の小説の中でも、それほど有名な物語ではないかもしれません。

「十二月の二十六日の夜八時ベーリング行の列車に乗ってイーハトヴを発った人たちが、どんな眼にあったのか、きっとどなたも知りたいでしょう。これはそのおはなしです。」

猛吹雪の中、出発した列車にはひとくせもふたくせもありそうな男たちが乗車していました。「毛皮を一杯に着込んで、二人前の席をとり、アラスカ金の大きな指輪をはめ、十連発のぴかぴかする素敵な鉄砲を持っていかにも元気そう」な紳士が登場します。おいおい、列車内に銃器持ち込んでいいの?と思うのですが、物語は進みます。賢治の登場人物の描写力が冴えています。

「痩せた赤ひげの人が北極狐のようにきょとんとすまして腰を掛け、こちらの斜かいの窓のそばにはかたい帆布の上着を着て愉快そうに自分にだけ聞こえるような微かな口笛を吹いている若い船乗りらしい男が乗っていました。」

この二人の人物が後半の物語の主人公です。かなりサスペンスに満ちた展開になっていくので、ここではこれ以上書きません。読んでのお楽しみ。

で、この物語の絵を担当しているのが堀川理万子さんです。寒い駅で、たき火にあたって列車の出発を待つ男たちの背中を描いたページに魅かれました。吹雪の寒さとたき火の暖かさが見事に表現されています。次に、毛皮を一杯に着込んだ紳士を、ローアングル気味でやや誇張し、どうもこの人物が良からぬ奴らしいと読者に思わせます。そして、今度は俯瞰気味に列車内を捉え、痩せた赤ひげの人の人を目立たないように描き、前方にはかたい帆布の上着を着た若者を描いています。

彼の着ているコートの色が黄色なんですが、この色がラスト近くで強烈な印象を残すことになります。「俄に窓のとこに居た俯瞰の上着の青年がまるで天井にぶつかる位のろしのように飛びあがりました」という場面で、カメラを下に置いて、その上を飛び越えてゆくような黄色いコートがダイナミックに翻ります。映画的な作風だと感心しました。賢治作品にしては、最後にスパイまで登場する荒唐無稽さもあるのですが、この不思議な物語を躍動感ある構図で描いています

 

先日、堀川理万子さんに偶然お会いする機会を得ました。メリーゴーランド京都店のギャラリーで個展をされていたのです。(左の写真はその時展示されていた作品です)その会場におられたので、いろいろとお話を伺い楽しい一時を過ごさせてもらいました。堀川さん、ありがとうございました。

 

★10月27日(土)の安藤誠トークショーは満席になりました。お申し込みありがとうございました。狭い店内のため、締め切らせていただきます。

ささめやゆきの絵本「椅子」(BL出版/古書1650円) は、様々な人生を「椅子」になぞらえて絵と文章で綴った大人向け絵本です。

絵本は「ぼくたちには座る椅子が用意されている。しあわせの分量も かなしみの分量も きまっているんだ。」と誰も座っていない椅子の絵から始まります。その後、様々な国の色々な職業の、お年寄りや子どもと、その人が座る椅子が登場します。

画家は立てかけたキャンパスに向い、ボクサーは、3分間闘っては1分間パイプ椅子に腰をおとし、映画監督は自分の名前の入った椅子にどっしりと座って、演出を始める。どんな人にも、座る椅子が用意されています。その人の人生になくてはならない椅子の物語があります。

表紙は、編み物をするおばあさんが座っている椅子。「祖母の座った藤の椅子、母の座った藤の椅子、おばあさんになった私が座る。祖母のくらしたこの家に、母のくらしたこの家に、おばあさんになった私がくらす。椅子もテーブルも壷までもそのままで、ただ人だけがかわってゆく。祖母がしたように母もしたように。」

学校の椅子、会社の椅子、行きつけのバーのいつもの椅子、そして自宅で寛ぐ時の椅子と、人生に寄り添う椅子が誰にも用意されていることに気づきます。

「西14丁目狼通り38番地 ステージの音をかき消す大笑いの酔っぱらい。それでもピアノにむかう人。汗まみれのYシャツの襟もと、曇ったままのメガネのレンズ。だれがきこうがきくまいがその音色には気品があって、この人は、ここを愛している。自分の場所だというように椅子をぐっとひきよせた。」

これは、ピアノに立ち向かうジャズマンですが、流れるようなサウンドが聞こえてきそうな絵は、レコードジャケットのよう。

もう一点、椅子を主人公にした素敵な絵本があります。池谷剛一「椅子」(パロル舎/古本900円)です。レストランに置かれた椅子が、何故だが誰も座ってくれず、その事に腹をたてたレストランのオーナーは、この椅子を路地裏に捨ててしまいます。誰も通らない路地で椅子は孤独な時間を過ごします。しかし、ある雨の夜、ずぶ濡れの猫がやってきます。「 猫はゆっくりと僕の下にもぐると まるで暖かい毛布でも見つけたかのように 気持ちよさそうにくるまり 降り続く雨空をときどき見上げながら 冷たく濡れた身体を休め いつしか深い眠りにつくのでした。」

その後、この椅子には猫が集まり座るようになりました。「僕は椅子。座ってもらうことが幸せです」という文章でこの絵本は幕を閉じます。優しいタッチの絵が魅力です。

秋の夜長、いつもの椅子に座ってこんな絵本を読みたいものです。

 

 

★釧路ヒッコリーハウスオーナー安藤誠の「ネイチャートーク」が決定しました。10月27日(土)19時スタートです。参加費は2000円です(要予約)

福音館が出版している膨大な点数の「こどものとも」シリーズの中で、レアーなもの、面白そうなものを数点ご紹介します。

先ず、ネットで数千円の高値が付いている2点です。どちらも谷川俊太郎(文)、大橋歩(絵)のコンビによる「これはおひさま」、「おしょうがつさん」です。(どちらも900円)

「これはおひさま」は「これは おひさま」、「これは おひさまの したの むぎばたけ」、「これは おひさまの したの むぎばたけで とれた こむぎ」というふうに、太陽を起点につぎつぎと関連つけてことばが増えていき(「つみかさねうた」といいます)、最後に再び太陽に戻ります。付録の「絵本のたのしみ」で谷川は「子どもの身近な食べもの、飲みものと自然とのかかわりをおりこんでみました。」と述べています。

 

「おしょうがつさん」は、こどもの視線で見たお正月の光景です。元日の日めくりの絵には、谷川のこんないい文章がついています。

「いちって だまって ひとりで たっている いちって おおきな きのようだ」

「1(いち)」を木に見立てる詩人のセンスが素敵です。そして二つの作品それぞれにタッチを変えて描く、大橋歩のイラストの凄腕!

「びんぼうこびと」(700円/付録「ギャラリー絵本のたのしみ」付)は、ウクライナ民話を内田莉莎子が再構成して、太田大八が絵を描いた作品です。真面目な貧乏農民が、ふとしたことでお金持ちになり、ずるがしこい金持ちが没落してゆく、というよくある物語です。けれど戦後数多くの絵本を手掛けた太田の、デザイン性あふれる、そしてウクライナの農民たちの世界を美しい色彩で描いた面白い一冊です。因みに付録の「ギャラリー絵本のたのしみ」は一枚の紙切れですが。堀内誠一が連載で執筆しています。

何故か心魅かれる絵本が、浅野庸子作、浅野輝雄絵による「スペインの小さな村」(500円)。この本にも「絵本のたのしみ」が付属していて、作者の浅野輝雄が、「スペインのアンダルシア地方の古都、グラナダから約7〜80キロメートルのシエラ・ネバダ山脈の中腹にあるピットレス村が、この絵本の舞台です。」と書いています。なんと彼は、この地方が気に入り、妻と小さな子どもと一緒に住んでしまいます。

浅野の妻の庸子が、初めて絵本に関わったのがこの本で、山羊やろばと共に生きる、質素で静かな暮らしが描かれています。現代人が憧れる田舎暮らしの断片をすでに1985年に描いていたのです。ちょっと疲れた時に、絵本を開いて、この小さな村をブラブラしてみませんか。きっとリラックスできるはずです。

★連休のお知らせ 9月10日(月)11日(火)連休いたします。

9月12日(水)〜23日(日)ARK(アニマルレフュージ関西)写真展「Special Friennds」

  保護シェルターで暮らす犬猫の日常を写した作品展です。

 

夏休みに子供に読ませたい本とか、よくありますね。というわけで大人にも読んで頂きたい絵本2冊のご紹介です。

みやこしあきこの「たいふうがくる」(BL出版/古書1200円)は、モノクロで描き込まれた、ある夏の日の物語です。

金曜日。明日は家族で海水浴に行くことを楽しみにしていた少年は、学校に行くと、先生から台風が来るからというので、下校の指示を出されます。家に帰ると、お父さんもお母さんも台風の準備に追われています。そしてやってくる台風。激しい雨と風。

絵本作家の杉田豊は「普通の絵本の構成では比較的読者に対する説明要素も含めて、少し高い視線で見た場面を描くことが多い。勿論四方にひろがる景色などパノラマ的に俯瞰した鳥瞰図のアングルなどもよく見られるが、『たいふうがくる』ではアングルが机の高さ位から床に近いローアングル、夢の中の船は逆に仰ぎ見るような、動き回るカメラ目線を駆使した変化を見せている。」と評価しています。

少年が、ベッドに飛び込むシーンのアングルは、床すれすれの地点から見上げています。動きのある画面構成で、台風の通過する不安な夜を過ごす少年の姿が描かれます。そして、台風が去った翌朝、カーテンを開いた少年の目の前に飛び込んでくるのが、眩しい青空です。いかにも、嵐の過ぎ去った日、カーテンを開けた途端に、目に飛び込む眩しさ。この空の色だけ、モノクロ画面の中で、清々しい青色がとても効果的に使われています。

もう一冊は、谷川俊太郎作、長野重一写真による「よるのびょういん」(福音館書店/古書950円)です。これは、深夜、お腹の痛みを訴えた少年が、救急車に乗せられて病院へと向い、緊急手術を受ける様を、谷川の文章と、長野の写真で追いかけた絵本なのですが、映画を見ているような迫力です。

おそらく、写真の少年とその両親は、役者です。執刀する先生や、看護婦、救急隊員、そして夜の病院で働く人々は、本物ではないでしょうか。これらのアンサンブルが見事に決まっていて、この絵本の構成通りにカメラを廻せば映画になります。写真を撮った長野は、市川崑の「東京オリンピック」に参加しています。極めて映画的です。それにかぶさってくる谷川の言葉も、写真を説明するのではなく、緊張感溢れる物語にしています。

「よるの びょういんは しずかだ。けれど そこには ねむらずに はたらくひとたちがいる。びょうしつを みまわる かんごふさん、ちかの ぼいらーしつで よどおし おきている ぼいらーまん」という谷川の文章に添えられた二枚の写真は、特に素晴らしいです。

 

★本日誠に勝手ながら、17時30分にて閉店させていただきます。

 

ただ今ギャラリーで開催中「災害で消えた小さな命」(複製画)展の主宰者うささんが、代表をつとめる劇団Sol.星の花による「Voice in the Wind その声がきこえますか」が、京都府民ホールアルティ(上京区烏丸一条下る)で上演中。お問い合わせは劇団Sol.星の花京都公演実行委員会まで。7月10日(火)〜12日(木)

 

アラスカ先住民クリンギット族の語り部、ボブ・サム。

宅地開発のために、掘り返され破壊された、祖先の墓に愕然とした彼は、たった一人で元に戻し始めます。20数年に渡るその活動で多くの遺骨や遺品が戻ってきました。と同時に、勝手に各地に持っていかれた遺骨、遺品を家族の手元に戻す、リペイトリエーション運動でも、中心人物として多方面で活動しています。

その一方、クリンギット族の長老から、彼らの部族に伝わる神話の語り部としての地位を託されて、世界各国の人々に伝えています。「かぜがおうちをみつけるまで」(スイッチ・パブリシング/古書1400円)は、ボブが創造した物語を、谷川俊太郎が翻訳し、イラストレーターの下田 昌克による美しい絵で綴られた本です。

「ひとがけものと はなしができ けものとひとと はなしができ どんなものにも こころがあった むかしむかしのおおむかし」が舞台です。

この時代、風にも心がありました。北へ、北へと風は、猛烈な寒さをもった大きな風になりました。凍りついて寒くなった風は、人やけもののいる南に向かいます。しかし、獣も人もすべて、風の寒さを嫌い、隠れてしまいます。即ち氷河時代の始まりです。ひとりでいることに耐えきれられなくなった寒い風は、勢いがなくなり弱くなり、海上を彷徨います。風の孤独に気づいた貝殻が、自分の貝殻で包んで温めてあげようと救いの手を差し出します。物語の最後はこうです。

「そんなわけで いま かいがらを みみに あてると かぜが おうちで くつろいでいるのが きこえる そして わたしたちは みんな そのすごい ひょうがじだいを いきのびた ひとにぎりの にんげんの しそんなのだ」

なんと優しく、力強いことばでしょう。

ボブはあとがきでこう述べています。「どんなものにもこの世界のどこかに<うち>がある、それを忘れずにいるのは大事なことだ。自分がしていることを、誰も気にかけてくれないなどと感じてはいけない。生きていくためにヒトは心を通わせることが大切だ。友だちと自然を分ち合うこと、顔に暖かい風が吹いてくるような気がする。この世界はすべての生きとし生けるものが分ち合う<おうち>なのだ。」

共生という言葉が隅に追いやられて、自らの優位性だけが声高に叫ばれる時代への警告でもあると思います。

自然界のあらゆるものは、それに相応しい場所があることを忘れないでおく、と言い続けるボブは、星野道夫の盟友でもありました。

「どの話にも闇と光の濃密な匂いが感じられる。正確には闇の深さに触れることで生の光が生まれているのだ。大きな海の中の小島。闇のなかの一点の光。そのなかで生きていることはめちゃくちゃな偶然で奇蹟。」

これ、何の絵本の解説かお分かりでしょうか?実は酒井駒子の「金曜日の砂糖ちゃん」です。

穂村弘の「ぼくの宝物絵本」(白水社/古書1300円)は、国内外の名作絵本70冊をオールカラーで紹介してあります。最初のページを開けると、先ず武井武雄を特集した「別冊太陽」の鮮やかな絵が登場します。文庫でも出版されていますが、これは、大きな版のハードカバーで見ないと絶対に損です。

 

こんな本も選んでいるのかと驚いたのが、太田蛍一の「働く僕ら」です。太田蛍一を知っている方は少ないと思います。彼はミュージシャンで、戸川純、上野耕路と組んだ前衛的音楽ユニット「ゲルニカ」で活動。その後1990年に発表したのが、この絵本です。絵本と言っても子ども向けではありません。昔のロシアとドイツ、そしてアジアのどこかの国の雰囲気をミックスさせたような近未来の国が舞台で、テーマは労働です。アバンギャルドに、そして妖しく展開し、得体の知れない魔力が存在しているみたいです。私は、音楽雑誌で彼が一風変わった絵本を書いているインタビューを読んだ記憶がありますが、こんな世界だったとは……..。版元リブロポートがもう無いために、かなり高値が付いていました。

こちらも高値が付いていて驚いたのは、矢川澄子作・宇野亜喜良絵の「おみまい」です。穂村は、ジョン・テニエルが描いたワンダーランドのアリスを、「じっと顔をみると少女というよりも大人の女性みたいだし、角度によってはなんんだかおばあさんのように思えることもある。私はその無表情さにときめきを覚える。」と書いていて、日本では宇野亜喜良の少女たちが、そういう少女に近いと言います。その代表ともいえるのが「おみまい」に登場するマリちゃんです。太い眉、大きな目、への字の口の無表情な女の子です。物語の中で、睨んだり、肩をすくめたりして、一度も笑いません。確かに、このマリちゃんは愛想はないのですが、カッコイイのです。

穂村はこんな少女に出会うと、「未熟な子どもたちが泣いたり笑ったりしながら経験を積んで成長するなんて、とても信じられなくなる。大人たちが安心するためにそういうことをしたいだけなのでは。」と述べています。

穂村らしい解説の楽しい大人向けの絵本紹介本です。お薦めです。