漫画家のヤマザキマリが初めてイタリア語の絵本を翻訳しました。ダビデ・カリ作、レジーナ・ルックートゥーンペレ絵による「だれのせい」(green seed books/新刊1980円)です。
剣を持った一匹のクマの兵士がいました。俺の剣で切れないものは何もない!と豪語して、手当たり次第、なんでも切り刻み、森の木を全て切ってしまいました。
ある日、彼のねぐらに大量の水が流れ込んで、ねぐらが破壊されてしまいます。水を流したダムに押しかけ、番人(オオアリクイっぽい風体です)を、お前たちが俺のねぐらを壊したと斬り殺そうとします。
しかし、彼らは体に弓の突き刺さったバビルサ(イノシシでしょう)が突進してきたので、持ち場を放棄してしまったのだと説明します。で、クマはそのバビルサを見つけ、殺そうとします。が、バビルサが言うには、キツネの放った矢が刺さって暴走したのだと説明します。今度はキツネの元へと向かいます。キツネは言います。小鳥たちが自分の食料を食べてしまうので、方々に矢を放ったのだ、悪いのは小鳥たちだと言います。
そして、小鳥たちのいるところへと行きます。小鳥たちのにも言い分があります。自分たちの住んでいた森の木々が、ある日切り倒されていたので、行き場を失っていたのです。
そして、クマは気づきます、その木を切ったのが自分だったことを。
「クマの兵士は、ほかのだれでもなく、じぶんじしんを ひとおもいに まっぷたつに するしかないことを しりました。」
さて、そのあとクマがとった行動は……。
「自分を不快にさせた”だれか”を懲らしめるつもりでいたクマの兵士は、やがて問題の起因が自分自身にあったことを自覚し、罪の償いを経て、平和という安寧に行きつくのです。自我や名誉という驕りを捨てる勇気を持ったクマの兵士が、小さな小鳥を愛おしそうに抱いている姿の凛々しくも優しい姿には、つい『私たちの世の中もこんなにだったらいいのに』という思いが募ります」
とヤマザキマリはあとがきに記しています。多分、それはこの絵本の作者が、そうあって欲しいという希望だとおもいます。
1954年京都市内に出来た出版社「化学同人」は、名前の通り、自然科学分野の書籍の発行と月刊誌「化学」等の発行で知られる会社です。しかし近年、海外の絵本を中心に新しい展開を始めました。今年夏に当店で、原画パネル展をして好評だったヘレン・アポンシリの「海のものがたり」、「命のひととき」は、同社が出した素敵な絵本です。
あまり他に類を見ない絵本を、他にも多く出しているのでフェアを開催いたしました。化学系出版社だけに、「はじめまして相対性理論」「はじめまして量子力学」(どちらも1980円)なんていう本があります。これ、完全に大人向けです。相対性理論やら量子力学やら、入門書でも手強いのですが、さすがに絵と簡潔な文章で書かれた本書はとっつきやすい!
絵本ではありませんが同社のベストセラーで、私も面白い!と最後まで読めた「元素生活完全版」(1540円)や、”元素”マニア?に人気の「2023年元素手帳」(1320円)も並んでいます。「2023年元素手帳」は、なかなか洒落た作りで、元素に関する知識もふんだんに書き込まれていて、ちょっと使ってみようという気になりますよ。
また、エレーヌ・ドゥルヴェールの作る切り絵・しかけ図鑑が三点出されています。一点は出産をめぐる絵本「NAISSANCE」で、出産に至る九ヶ月、産後までが、さまざまな仕掛けを駆使して美しく描かれています。さすがフランスです。そして「OCEAN」は、海洋の生態系の神秘と不思議を、繊細な切り絵と美しい絵で描いた絵本です。おぉ!と驚いたのは、本の真ん中あたりに登場するダイオウイカで、真っ赤で実にカッコいいのです。もう一点「LE CIEL」は、天空の世界を知るのにもってこいの一冊になっています。こちらも高度な技術を使った切り絵が、あちこちに使われていて、うわぁ!と声を出してしまう楽しさです。なお、この三点は縦37cm、横25cmの大型絵本です。
大型といえば、ベン・ロザリーの「Hidden Planet」と「この地球にすむ蝶と蛾」は縦38cm,横28cmの超大型で、迫力あるネイチャー絵本で価格は3850円。この中身と大きさ、印刷の素晴らしさで、この価格なら安い!
さすが理科系出版社と言いたくなる中身の充実した絵本が並びました。クリスマスのプレゼントにもグッドなセレクションです。29日(木)まで。なお会期中の休業日は26日(月)のみ。
☆年始年末の営業ご案内 12月30日(金)〜1月10(火)休業。
12/27(火)は営業いたします。
京都と大阪の間、大山崎にある「アサヒビール大山崎美術館」は、美術館入口までの道のりが素敵で、ちょうど紅葉も見事でした。山の中腹にある美術館は、資産家加賀正太郎が建てたクラシカルな山荘で、調度品も見事で落ち着いた雰囲気です。
開催中の「こわくて、たのしいスイスの絵本」展(12月25日まで)は、エルンスト・クライドルフ、ハンス・フィッシャー、フェリックス・ホフマンのスイス文化が息づく三人の絵本作家の展覧会です。
エルンスト・クライドルフ(1863〜1956)は、学生時代に体調を崩してバイエルンの山中で寮生活を送ります。その時に出会った大自然が、彼の処女作「花のメルヘン」に影響を与えているのだそうです。美術館では可愛らしい花の精が登場する「花を棲みかに」を観ることができます。
ハンス・フィッシャー(1909〜1975)は、日本では「こねこのぴっち」シリーズ、「ブレーメンのおんがくたい」が人気ですが、鮮やかな色彩と躍動感にあふれていて、原画はやっぱり魅力的です。
フェリックス・ホフマン(1911〜1975)は、実は自分の子供への贈り物として作った絵本が、後になって出版されたものです。三女スザンヌのために作った絵本「おおかみと七ひきのこやぎ」が、絵本作家としてのスタートでした。そして、この本は日本でも長きにわたり読み続けられた絵本です。その後に出た「ねむりひめ」「ラプンツェル」「七わのからす」もそれぞれ、子供達に贈られた本でした。
展覧会では、原画、リトグラフ、手書き絵本など70点が出品されています。長野県にある「小さな美術館」が出版している「父からの贈りもの フェリックス・ホフマンの世界」の図録の印刷の美しさに惹かれて購入しました。季節が変わると景色も変わり散策もできて、私の好きな美術館です。テラスから見える広い空も美しいので、お忘れなく。
京都在住の絵本作家Junaida(ジュナイダ)は「Michi」、「の」、「街どろぼう」、「EDEN」と近年発行した絵本がいずれも高い評価を受け、人気も一気に高まりました。ヨーロッパ風の景色の中に出現するおとぎ話のような謎めいた世界。細密に描きこまれた人物が、鮮やかな色彩の中を泳ぐように動いてゆく様を描き出します。明るさと闇が共存する独特の世界観は、一度見たら忘れられません。
「IMAGINARIUM」(新刊/ブルーシープ3850円)と題されたこの作品集は、現在東京の美術館「PLAY!MUSEUM」で来年1月15日まで開催されている個展の公式図録です。
14歳の時に耳に飛び込んできたパンクロックの影響が今も続き、エレキギターが絵筆に変わっただけで、そのパンクのスピリットは今も一緒だと彼は言います。
「Junaidaの絵をパッと見て、いわゆるパンクを思い浮かべる人はあまりいないかもしれないけど、こういうパンクの表現もあるんだなって、だんだん理解を深めてもらえたら嬉しいです。これまでオマージュしてきた宮沢賢治だって、ミヒャエル・エンデだって、僕にとってはパンクスピリットをビリビリ感じるシビれる存在です。」とインタビューで語っています。
もともと、パンクはサッチャー政権下のイギリスの下層階級の若者たちが、社会への怒りをぶちまけた音楽です。音楽業界からはバカにされ、孤立無援になりながらも、自らの音楽だけをやり続けたミュージシャンたちのスピリットは日本にも輸入され、大きなムーブメントとなりました。不協和音と暴走するメロディーがJunaidaの絵と結びつくかといえば、そうなの?と首をかしげる人も多いかもしれません。しかし、妙にねじれた空間や、可愛らしさを兼ね備えつつ、奇怪な形態にデフォルメされた作中人物や背景を眺めていると、私たちの心の中にある既成概念を吹っ飛ばす力があると思います。
一見すると、可愛らしい少女や少年たちや動物たちが、私たちを見たこともない世界へと連れて行ってくれるのです。その魅力が本書から伝わってきます。
「代表作の『モモ」や『はてしない物語』はもちろん大好きですけど、影響されたとはっきり自覚しているのは『鏡の中の鏡ー迷宮』です。この作品には答えや正解のようなものが一切なくて、読者の数だけ合わせ鏡の世界が増殖していくような、なんともいえない不思議な魅力があります」
そして彼は「 EDEN 」を発表します。「本の中で絵と言葉が立体的に共鳴し合う、特別な本になりました」とインタビューで答えています。
これを機にJunaidaを知らない方は、ぜひ彼の絵本を手に取ってください。「街どろぼう」「Michi」「EDEN」を店頭に置いています。
イランを代表する映画監督アッバス・キアロスタミ。「友だちのうちはどこ?」「そして人生はつづく」「オリーブの林を抜けて」などの傑作をご覧になった方も多いと思います。癌のため、2016年に療養先のパリで76歳の生涯を閉じました。
1970年に詩人のアフマド=レザー・アフマディーが文章を書き、キアロスタミが絵を描いた「ぼくは話があるんだ、きみたち、子どもたちだけが信じる話が」(新刊2310円)と、絵本「いろたち」(新刊1650円)が発売されました。
「ぼくは話があるんだ、きみたち、子どもたちだけが信じる話が」は、幻想的でとても美しい文章と、センスの良いコラージュで出来上がっています。
ぼくは、兄へ宛てた手紙を書きます。しかし、ぼくは手紙をそのままにして、友達に誘われて遊びに出かけます。季節は夏から秋へと変わり、テラスに置いたままの手紙も色が変わってしまっています。ぼくは変化してゆく季節の姿に驚き、その季節のひとつひとつを部屋へ取り込もうと窓を作るのですが……..。シュールな情景がアフマディーの魅力的な筆さばきで立ち上がってきます。同時に、キアロスタミは写真のコラージュに色をつけるという手法で、物語に広がりを持たせています。特に、窓のコラージュ作品は、独特の色彩感覚が溢れています。
もともと、新しい絵本を作ろうとしていた出版社の企画から、全く絵本とは縁のない詩人と映画監督がコラボした一冊だけに、子供向けというよりは、アート作品の趣があります。
「いろたち」は「友だちのうちはどこ?」発表の3年前に絵と文を描きおろした イランではベストセラーになった絵本です。
みどり、きいろ、だいだいいろ、あか、みずいろ、むらさき、くろ、しろ、という色から連想する、風景や食べ物、植物や生きもの、道具などを、子どもと一緒に歌を唄うように描いた本です。キアロスタミは、子どもを主役にして、彼らの視点で映画を作ってきました。同じように絵本にも、子どもたちへの優しい眼差しが溢れています。
「いろのついてないところは、いろえんぴつやマジックでぬっていいんだよ。」最後のページで、キアロスタミが子どもたちへ声をかけています。やさしい美しい絵本です。
☆お知らせ
北海道のネイチャーガイド・安藤誠さんのトークショーを、今年も開催します。
10/29(土)18時より (参加費2000円) 要予約!
湯本香樹実(文)&酒井駒子(絵)という二人の名前で、傑作絵本「くまとやまねこ」を思い出される方も多いと思います。あの本から14年、二人のコンビが復活しました。
「くまとやまねこ」よりも大きな版型で作られたの新作絵本「橋の上で」(河出書房新社/新刊1650円ポストカード付き)です。
橋の上から川を見ていた少年の横に、気がつくと全く知らないおじさんが立っていました。少年は、ボロボロになったセーターを着て話しかけるおじさんをうっとおしく思います。実は、少年はいじめられたり、万引きの濡れ衣を着せられたりして、ここから川に飛び込もうと思っていたのです。
「みずうみを見たことある」とおじさんは聞いてきます。「ただのみずうみじゃない。その水は暗い地底の水路をとおって、きみのもとへとやってくる」
きみだけの湖があって、どんな時もそこにあるとおじさんは言い、「こうやって、耳をぎゅうっとふさいでごらん。遠くからやってくる 水の音が、きこえるよ。」聞こえたら早くおかえり、と言って去っていきます。少年はもう一度耳を抑え、手を離すと、川の音がさっきより大きく感じて、急いで家に帰ります。
その後、おじさんに出会うことなく、少年は大人になっていきます。橋は建て替えられて、昔の面影は残っていません。でも、彼は時々耳をふさいで、地底の水の音を聞くことがあります。
「かすかなきらめきが見えてくる。いまでは、みずうみははっきり見える。わきだす水の、ちいさな波紋まで」
湖の水辺には、死んでしまった人も含め、彼の友達や大事な人が集まっています。微笑んでくれたり、話かけてくれたするのです。
「あのときもし川に飛びこんでいたら、会えなかったひとばかりだ。」
あのおじさんは誰だったのでしょうか。少年にここで死んではいけないと教えてくれた人。少年の寂しさと切なさが詰まったような表情を描く、酒井駒子が見せてくれる命の物語。
幼い時に、怒られたり失敗したりして、生きていくのが嫌になって、橋の欄干のようなギリギリのところでしょぼんとしたことを、忘れてしまっているのかもしれませんが、こんなおじさんが救ってくれたのかもしれませんね。大人は子どもに、今ここで死んではいけないと伝えなくてはなりません。いつも、手元に置いておきたい絵本だと思います。
京都生まれで知床在住の絵本作家、あかしのぶこさんの絵本原画展が本日より始まりました。
今回は、福音館書店「ちいさなかがくのとも」の「あなほり くまさん」(2021/11/1 発行/440円)の原画4点に加えて、現在、知床自然センターのギャラリーで開催中の「しれとこの みずならが はなしてくれたこと」(2022/3 知床財団発行/1980円)から、表紙絵をお借りしてきました。さらに、「しれとこのきょうだいヒグマ ヌプとカナのおはなし」(知床財団発行/2530円)から表紙絵と、福音館書店「ちいさなかがくのとも」の「ふくろうのこ おっこちた」(2020/5/1 発行/440円)の原画2枚という盛り沢山な展示です。
「あなほり くまさん」は母グマと二匹の子グマが、冬眠する穴を掘って眠る物語。「クマは冬眠中に生まれて、春から秋を母親と過ごし、もう一度一緒に冬眠します。つまり、オスのクマならば、生まれた時とその翌年のそれっきり、他のクマの温もりを感じながら眠ることはもう二度とないのです。」(折り込み付録の言葉より)そんな貴重な親子の時間が、知床の森の風景と共に描かれています。あかしさんのクマは、本当に表情豊かで生き生きしています。絵本に登場する脇役のカケスが可愛いんです。
「しれとこの みずならが はなしてくれたこと」は、朽ちた大きなみずならの穴に逃げ込んだヒグマが、みずならの声を聞く物語です。年老いたみずならが、知床の自然と人間の関わりをヒグマに語ります。知床国立公園内の開拓地を保全するための取り組み「知床100平方メートル運動」の活動の一環として、あかしさんと知床自然センターの協力で作られました。1977年、斜里町が始めたナショナルトラスト運動は画期的なものでした。乱開発の危機にあった土地を守るため全国から寄付を募ったところ、1997年には49000人が参加、ほぼ全ての開拓跡地を買い取ることができました。その後も原生の森と生態系の再生を目指し、運動が続けられています。先週旅行中に、知床自然センターでの原画展を見ることができました。京都の個展に、表紙絵を貸してくださったセンターの方々に改めてお礼を申し上げます。ぜひ絵本を手にとってみてください。
「ふくろうのこ おっこちた」は、巣立ちを間近にしたシマフクロウの子どもの表情が楽しくて、私の大好きな絵本です。今回ぜひ原画を展示してほしいとお願いしました。飛ぼうとして落っこちてしまったシマフクロウの子が、びっくりしてガシガシと木を登るところが面白い。シマフクロウの巣箱かけのボランティアをした経験などが、この本を作るのに役に立ったそうです。ずっと温めてきたテーマを絵にした、あかしさんのシマフクロウに対する熱い思いが詰まった素敵な絵本です。
あかしのぶこさんの個展は3回目です。京都と知床をつなぐ絵本を手にとって、ヒグマやシマフクロウに思いを寄せていただけたら嬉しいです。絵本の他に、ポストカード(1枚100円)も販売しています。(女房)
☆「あかしのぶこ えほんのえ展 2022」は9月21日(水)〜10月2日(日) 13:00〜19:00 月・火定休日
オーストラリア生まれの(1974年)画家、アニメショーン作家のショーン・タンについては、新作が出るたびに、あるいは展覧会の印象など書いてきました。
今回も素敵な絵本を紹介します。タイトルは「いぬ」(河出書房新社/新刊1980円)。
「この先地球にどんな運命が待ち受けていようと、それがどんなに途方もなく過酷で、この世の終わりのように思えても、僕らの隣にはきっと犬がいて、前に進もうと僕らをいざなってくれるにちがいない。そうでない未来なんて、僕には想像できない。」
と作家は、犬好きが聞いたら涙するようなあとがきを寄せています。
広い道路の向こうにいるひとりの人間と、こちらにいる一匹の犬。どちらも背を向けています。同じ構図の人と犬の絵が続きます。人はそれぞれ国も年齢も違い、手前に描かれた犬は大きさも色も違います。どこか物悲しい情景が何ページにも渡って描かれています。
しかし、終わりも近づいたページでこちらを振り向いた女性に、真っ黒な犬が振り向き視線を送ります。そして、ページをめくると横断歩道の真ん中で抱き合う女性と犬。岸本佐知子訳によるこんな文章が飛び込んできます。
「きみがわたしの手を引っぱり、膝の裏に鼻を押し当てる。そしてわたしに叫ぶ、昔と同じように叫ぶ、世界は僕らのものだ! そしてまたもとどおり、わたしたちは並んで歩いていく。」
その言葉通り、最後はリードをつけてもらった犬と女性が歩み去ってゆくところで物語は終わります。犬と人間の愛情あふれるつながり。生と死。モノローグのような数少ない言葉と、シンプルな構成の画面だけで深い感動を与えてくれる絵本です。
裏表紙には、いろんな人たちが、犬種の違う犬を散歩に連れ出している様がシルエットで描かれていて、「平和」という言葉が最も適した絵だと思います。
なお、この著者には、人間に酷使されるセミが、最後に脱皮して人間世界から解放されて、自由な世界へと旅立つ「セミ」(新刊1980円)という素晴らしく、切ない絵本があります。
機能性、修理可能性、耐久性に優れたアウトドアウェアやグッズの販売や地球環境に配慮した食品を販売する「patagonia/パタゴニア」から、初めての絵本「しんぴんよりもずっといい」(1650円)が発売されました。(作・ロバート・ブローダー/絵・レイク・バックリー)
「チリの あるちいさな ぎょそんのあさ、イシドラとフリアンは たのしいけいかくを たてています」というところからお話は始まります。二人は海に遊びに行くのです。
海で潜り始めたところで悲鳴を聞きつけ、捨てられた魚網に絡まっているアシカを発見します。二人はアシカを解放して、網を引き上げます。海の底には、網やゴミが数多く捨てられていました。
「ふたりは うみのそこに こんなにたくさん ごみがあることをしって、かなしくなりました。なんだかくやしくて とてもがっかりしました」
捨てられた網が何か新しく役に立たないかと考え、リサイクルセンターに持ち込みます。そこで、網は粉々に分解され、衣服となって蘇ります。
絵本に登場する網は、水中で見えにくいことから「ゴーストネット」呼ばれるものです。データによると、他のプラスチック汚染の4倍も有害だそうです。海洋汚染の現状と、それを解決していこうとする子供達の姿を描くことで、地球のことを親子で考えるような絵本に仕上がっています。
「ふたりは、じぶんたちのちからで、うみのいきものたちを あみやプラスチックのごみから すくえることを しったのです」
実際、廃棄された網からリサイクルして製造されたブレオ社の「ネットプラス素材」は「patagonia/パタゴニア」の衣料品の生地に取り入れています。もちろん、この絵本も100%再生紙で印刷されています。
新しくできた出版社kanoaからミロコマチコの新作「あっちの耳、こっちの耳」(3520円)が発売されました。
「あっちの耳」は、東北の人たちから聞いた野生動物にまつわる物語、「こっちの耳」は、その同じ物語を動物に立って作家が創作したお話。じゃばら式で、表に人間目線、裏に動物目線のお話が表裏一体になっています。「カモシカのおはなし」「クマのおはなし」「ウサギのおはなし」「とりのおはなし」「ヘビのおはなし」「コウモリのおはなし」の六つの話が、それぞれ一枚の紙に収まり、16㎝×13cmほどのサイズですが、じゃばら式なのでずずっ〜と広げると1メートル以上にもなり、6話が一箱に入っているユニークなスタイルの絵本になっています。
さて、「とりのおはなし」は、こんな風に始まります。
「あれは、何年まえかの夏だったかな。実家の庭にちっちゃい池があるんだけど、うちのじいちゃんとばあちゃんがそこでペリカンを見たっていうんだよね。わたしと母は、いや、それはないでしょうって言ったんだけど、」という、「むかしむかし、ある所で」みたいな感じで進みます。この話はオチが面白くて、ペリカンと思しき鳥は、実は池にいた金魚を丸呑みしてしまって、喉が膨らんだシロサギで、じいちゃんたちはそれをペリカンと間違えたみたいなのです。ミロコマチコは、おそろしく喉が膨らんだシロサギを描きこんでいて、思わず笑ってしまいました。
その裏側で展開するのは「赤いくちばし」という、著者の創作したシロサギ側から見た絵物語です。シロサギのおばあちゃんが、孫の鳥たちに同じ出来事の顛末を話しています。両面ともミロコマチコの鮮烈な色彩感覚の絵をふんだんに見ることができます。
6話全て楽しめるのですが、私は、「クマのおはなし」が最高でした。森林調査をしていた人が、森の中でばったりとクマの子に出くわします。「子グマは1メートルくらいの大きさで、木の根っこにまえ足をかけてこちらをじっ…..と見ている。」
近くにきっと母グマがいるはずだと思ってあたりを見回しますが、発見できません。ミロコマチコの描く、深い草むらの奥でこちらを見つめている母グマの顔がなんとも魅力的。全体をグリーン系で整えた世界に対して、裏のクマ目線の「ふしぎないきもの」では、クマから見た不思議な人間といういきものが、赤を基調にして描かれています。
紙芝居が始まるようなワクワク感に包まれます。動物を見た人たちの語り口は素朴で心地良く、画面から飛び出しそうなミロコマチコの躍動感あふれる絵が素晴らしい。オススメです。