佐藤究の長編小説「テスカトリポカ」(古書/1400円)を読み切りました。本年度、直木賞と山本周五郎賞のW受賞作品です。読んでみて、よく直木賞を獲得できたものだ、とまず驚きました。実際審査委員長の林真理子が、この作品を直木賞にすべきかどうかで大激論になったと語っていました。

ご承知のように直木賞はエンタメ系の小説に贈られる賞ですが、オーソドックスな小説の醍醐味をもたらしてくれ、品格のある作品に与えられることが多いと思います。が、「テスカトリポカ」は、とんでもなく暴力的で残忍な描写が支配する小説です。

メキシコの麻薬カルテルに君臨していたバルミロは、メキシコでの対立組織との抗争に敗れて、ジャカルタに潜伏していました。そこで、日本を追われた元医者の臓器ブローカーに出会います。二人は、誰もやったことのない臓器密売ビジネスを日本で始めるのです。

何らかの事情で無戸籍になってしまった児童を見つけては、悲惨な状況から救い出し、育て、新しい親を探す団体を立ち上げます。しかしこれは表向きで、実際は、子ども達の臓器を摘出して、移植手術を待ち望む裕福な人々に売りつけるのです。やがてこの二人の周りには、自らの暴力的衝動を抑えられない男達が集まってきて、組織は大きくなっていきます。

液体窒素で手足を凍らせてハンマーで打ち砕く、なんていう拷問などとんでもないシーンもあります。麻薬、殺人、アステカの恐るべき邪教、超人的な身体能力を持った少年、闇医者、麻薬中毒の保育士等が入り乱れて、物語は怒涛のごとく進行します。何度か、あれ?これノンフィクション?と思うほどの描写もあって、そりゃ直木賞選考委員の先生達が揉めたのもわかります。

聞くだに恐ろしいアステカ神話の世界が、現代日本の川崎に蘇り、麻薬資本主義の怪物達が咆哮る物語で、日本語をアステカの一言語であるナワトル語でフリガナするという独特の文体を読者に突きつけてきます。(そこが少し読みにくいというのが弱点なのですが)

究極の犯罪小説は、ラストがどうなるのか、途中から心配になり最終ページに近づくにつれてソワソワしましたが、ここに登場する不思議な少年コシモに救われました。途中、中だるみする所もありましたが、このエンディングのおかげで不安な気持ちが吹き飛びました。ひょっとしてコシモは神の国から降臨してきたのかもしれません。

⭐️本の紹介をZOOMにてさせたいただく「フライデーブックナイト」。次回は9月17日(金)です。

⭐️北海道のネイチャーガイド安藤誠さんのトークショーを今年も開催します。

10月24日(日)19時スタート(2000円)要予約