角幡唯介を最初に読んだのは、2010年度開高健ノンフィクション賞を受賞した「空白の五マイル」(集英社900円)です。

角幡は早稲田大学探検部OBで、2002年から翌年にかけて実施されたチベット、ヤル・ツアンボー川峡谷という誰も入ったことのない峡谷を単独で調査、探検を行い全容を解明しました。その記録を本にしたのが「空白の五マイル」でした。

こういう秘境探検もの、海洋冒険ものノンフィクションは、つい手が出てしまいます。ヤル・ツアンボー川峡谷単独行で、生と死のはざまを経験し、彼が学んだことは「冒険は生きることの意味をささやきかける。だがささやくだけだ。答えまでは教えてくれない」でした。

次に手に取ったのは、2016年に発行された「漂流」。これは、本人が漂流した話ではありません。

1994年、フィリピンのミンダナオ島沖合で、一隻の救命筏が発見されて、数名の船乗りが救助されました。彼らは37日間、漂流を続け死の一歩手前で助けられました。船長は日本人で名前を本村実といい、沖縄の漁船でした。救命筏で漂流し助けられたという記事に興味を持った著者は、本村を取材したいと思い立ち、自宅に連絡します。取材の申し込みに対して、電話口に出た妻と驚愕の会話が始まります。妻はこう切り出します

「じつは、十年ほど前から行方不明になっているんです」「えっ…….」「前と同じように漁に出て帰ってこないんです…..。」「前みたいに漂流して…….。グァムに行って、港を出て、しばらくして帰るという連絡があったんですが、それっきり連絡がこないんです…….。」

また漂流した………?

これ、船ごと次元の裂け目に巻き込まれたとか、宇宙人に襲われたという類いのSF小説ではありません。最初の漂流の後、陸に上がった本村はその8年後、再び海に出ます。何故、もう一度海に出たのか、何故、消えてしまったのかを、関係者への膨大なインタビューを基にして書かれたノンフィクションです。神隠しにあったみたいに何の痕跡もなく、海の彼方に消えて、漁師としての人生に幕を降ろしてしまいました。

「彼にふたたび海に行くことを強いた要因の奥底に土地と海の力があったのなら、断片でもいいから、その力を感じ、その臭いをかいでみたい。」

海の男の生い立ち、その後の人生の足跡を追いかけて、グァム、フィリピンにまで向かう長い道程を追体験してゆく長編。人を癒してくれる優しい自然ではなく、荒々しく人生に介入して、自然の彼方に引っぱりこみ、魅入られてゆく著者のドキュメントでもあります。

 

 

 

★安藤誠ネイチャートークショー「安藤塾」今年も開催決定しました。

 

北海道のネイチャーガイドで、釧路ヒッコリー・ウインドオーナー安藤誠さん(写真右・愛犬キャンディと)のトークショーを10月25日(水)19時30分より開催します。数名で満席ですのでお早めに(要・予約 レティシア書房までお願いします) 

       

 

大空に、一羽、また一羽とハゲタカが現れてきます。そして、それが数十羽、もしかしたら100羽以上、地上に舞い降りてきます。そこには解体され、バラバラになった遺体。ハゲタカ達は一斉に肉に、骨に食らいつきます。その様子を遺族たちが眺めています。

チベット高地に住むチベット人にとって、最もポピュラーな葬儀が「鳥葬」です。チベット仏教では、魂が解放された後の肉体は、単なる抜け殻でしかありません。その亡骸を天へと送り届けるための方法として、こういった葬儀がとり行われています。日本語では、「鳥葬」と訳されていますが、中国語では、「天葬」というとか。多くの生き物の命を取り込んで、生命を全うしたのだから、せめて抜け殻同然の肉体ぐらい、他の生命のために与えようという思想が流れているみたいです。死体の処理は、鳥葬を仕切る専門の人が行い、骨も石で細かく砕いて全て鳥に食べさせるので、ハゲタカがいなくなった後には、ほとんど何も残らないのです。

そんな鳥葬の様子を捉えた吉田亮人写真展「鳥葬」を、店から歩いて行ける「gallery SUGATA 」(無料)まで観に行ってきました。

どこまでも広がる青空と、大地で繰り広げられる葬儀は、清いものがあります。風の強い高地は、天に近く、なにもかも風が運んでいってくれます。これ、当然のことながら、スモッグで汚れた大都会の郊外でやったら、説得力のない、単に残酷な儀式でしかありません。

布切れがくくり付けられた多くの竿がたっています。布には経文が書かれていて、お経も風に乗って世界中に広がっていくのだそうです。ハタハタと風になびく音が聞えてくるようです。

骨をついばむハゲタカ達を見つめる人々の静謐な顔を見ていると、人の生も、死も大いなる大地の時の流れの中では、一瞬でしかないと思いました。私たちは、地球に生きる所詮は小さな存在でしかないことを、改めて思いださせてくれる写真展です。(8月6日まで)

もし、宮沢賢治が生きていたら、きっと観に行ったような気がしました。

 

★8月9日(水)〜20日(日)「レティシア書房 夏の古本市」を店内で開催します。個性的な28店のよりすぐりの古本が大集合です!(14日は休み)

暑い日が続きますが、お立ちよりください。

 

★★お詫び。こちらの手違いで27日(木)〜31(日)のブログが更新されていませんでした。申訳ありませんでした。

 

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「日本野鳥の会」創設者、中西悟堂(1895〜1984)は、鳥の研究者であり、歌人であり、詩人であり、そして僧侶でした。寺田寅彦や、野尻抱影、岡潔らの自然科学者の優れたエッセイと同様、やはり彼も沢山書いています。

昭和32年に発行された「野鳥と生きて」(ダビッド社/重版・箱付2800円)もそんな一冊です。

「目もはるかにうちひらけた刈田の近くにも遠くにも、日を受けて黄いろく光る稲城の列が、一個小隊ずつの兵隊のように並び立つかなたに、東の空を極めて大きく孤状に塞いで 立つ滝山が」で始まる「鷲のプロフィル」は、蔵王山頂で見つけた鷲の姿を捉えた記録です。

「晴れた空間に唯一羽、光を浴びて舞いすましているその両翼の張りの立派さは、双眼鏡で検めるまでもなく、イヌワシであった。このあたりのどの山塊に棲むものであろうか?山稜のうしろへ次第に消えようとするその姿は、目に見えぬ糸でひっぱるように、私の足を頂上へと早めさした」

鳥の研究者が、一人ひた向きに、夏の蔵王山を、イヌワシの姿を求めて登ってゆきます。

あるいは、奥日光の秘境、西ノ湖で、思いがけずコチドリがいることを見つけ、「コチドリやイタチの足痕に交じって、夏だというのに、日本には冬しかいない筈のコガモの足痕が点々とあるのである。よく知っている足痕だから、まちがいはない。」とウキウキしながら鳥探しをしている男の姿が見えてきます。

とにかく、学者はよく歩く。若き日、寺で百八日間の座行、二十一日間の滝行、同じく断食を行ったのだから、どんな場所も平気。さらに、ある時期、野原の一軒家に住まいして、ソバ粉と大根と松の実を常食として、日々自然を見つめて暮すという、まるでソローの「森の生活」を実践するような生活を送っていました。

中西は、鳥の研究者であり、森の人でもありました。「敗れた国にも山河はあって、そこに咲くくさぐさや花や、鳴禽の囀りは昔のままだ。その花や鳥、せっかく残された国の宝、われわれの共有財産を、諸嬢よ、むやみにおびやかしたり、むしったりしてはならない。」と「若葉の旅」で述べています。昭和9年、「日本野鳥の会」を設立して、その時代から環境破壊への警告をしていました。

なお、平凡社STANDARD BOOKS シリーズとして「中西悟堂 フクロウと雷」(新刊 1512円)というコンパクトサイズのエッセイアンソロジーもあります。夏休み、高原や山に行かれるなら一緒に持っていくのに最適ですね。

ところで中西は60代手前で、冬でもパンツ一枚で過ごしだして、「心の修行などは、あてにならぬ 躰の修行からはじめよ」とこのスタイルで体操をし、長距離を歩いたらしい。赤塚不二夫の「おそ松くん」に登場するデカパンだったのか、彼は……..。

「ぼんやりと森に目をやった次の瞬間、視界にすっと灰色の影が踊り出ました。そしてその影は、近くに生えている一本の木の脇で立ち止まり、こちらを振り返ったのです。そこに立っていたのは、一頭の立派なオオカミでした。僕はオオカミを見たことはありません。でも、そのとき確かに、目の前に立っている巨大なイヌ科の動物を見て、なんの疑いもなく『オオカミ』だと思ったのです。オオカミは鋭い視線をこちらに投げかけるやいなや、すばやく森の茂みの奥へと走りさってしまいました。」

これは、「そして、ぼくは旅に出た」(あすなろ書房1400円)の著者、大竹英洋が大学時代のある日、見た夢です。そして、その夢に誘われるように、傑作「ブラザーウルフ」という写真集を出していた写真家、ジム・ブランデンバーグに会いたいと思い立ち、彼が住むミネソタ州北部の森、ノース・ウッズへと旅立ちます。

無茶な旅です。アポも取らず、森のどこかに住んでいる写真家に会いに、できれば弟子入りを頼みたいなどというのは。しかし、彼は憑かれたように、森の奥へと向かいます。カヤックなんて乗ったことのない青年が、悪戦苦闘しながら湖から湖を経て目的の地に着くまでが、本の前半です。

後半は奇跡的にジム・ブランデンバーグに出会った著者が、彼や彼の友人で、探検家ウィル・ステイーガートとの交流を深めてゆく様が描かれています。大自然と共に生きている偉大な男たちに、心揺さぶられる描写がとても魅力的です。

ステイーガートは探検家になるのは簡単だと”Put your boots  and start walking” と、言い放ちます。この言葉を受けて著者は、ソローの名著「森の生活」の一節「最も早い旅人は、足で歩く人である」を思いだします。鉄道や飛行機で旅するには旅費を稼がねばならない。そんな事するぐらいなら、すぐに歩き出せというのです。

著者が、自分の写真をブランデンバーグに見てもらった時、彼はこう言います。「大切なことは、なにを見ようとしているか、その心なんだよ。テクニカルなことは、撮りながら学ぶしかない。」

そして、良い写真が撮れたときの気分を問われると、「ハードワークするんだ…….。努力する。その先にふっと、その瞬間がやってくる。」「それは…….降りてくるんだよ」と言います。「降りて来る」というのは、何事かをやろうと努力し、切磋琢磨する人たち共通の経験ですね。

多くのことを学んだ著者が、写真家として自立すべく日本に戻るところで本は終わります。若さだけが持つ特権の素晴らしさ。機会があれば、ぜひ話を聞いてみたい方です。

ところで、彼が自然の姿を伝えていこうと決心したのは、星野道夫の本との出会いでした。やっぱりね。星野の本を読んでいるような錯覚になった時もありました。

(写真はブランデンバーグの作品です)

 

 

住宅のもじゃ化(緑化)を推進する設計事務所「もじゃハウスプロダクツ」が作る、「House “n”Landscape」の最新4号がリリースされました。ちなみに「もじゃハウス」というのは、緑でもじゃもじゃした家のことです。

今回、初の海外取材?ということで、フィリピンのもじゃハウス一泊体験記が、大きな特集が組まれ、気合いの入った写真がたくさん掲載されています。

マニラ市内にお住まいのダニーロさんご一家。古民家付きの土地を買い上げ、増改築を重ねた家は、つる植物が巻き付くフェンス越しからは、家の外観は判別できません。まるで、森の中にある家、いや、家の中の森?とでも表現したらいいのでしょうか。3階の屋根を突き破って伸びるスターアップルの木の写真には驚かされます。

一年を通して常夏の国なので、こんなに緑があれば、蚊がワンサカと出てくるのでは、と恐怖に捉われますが、それほど被害はないとのこと。庭との仕切りの建具にはガラスが入っておらず、風が通り抜けて、極めて涼しいらしい。写真を眺めていると、晴れの日もいいけど、雨の日もいいだろうな、という気分にさせられます。

その後、取材班は、フィリピンから台湾に移動して、緑に覆われた家を探索。台湾には、本屋や図書館に行けば、「緑建設」というジャンル(エコロジーな建築と言う意味があるらしい)の棚があるぐらい、ポピュラーな存在になっているのだとか。もじゃハウスの干潟さんは、思わずここに事務所を構えたい、とつぶやきます。レトロなビルの屋上からだらりと伸びている植物は、まるでビルを侵蝕しているみたいです。次から次へと飛び出すもじゃ建築!

「もじゃハウス豊作状態の台湾!日本だと、もじゃもじゃ過ぎて近隣住民から距離を置かれそうなほどの植物たちとその主を、多くの方が抵抗なく受け入れていらっしゃるこの国は、まさにもじゃハウスにとってのユートピアです。」とコメントが書かれています。

で、もじゃハウスプロダクツが進めようとしている「みどりと共に生きる家」ってどんなん?という疑問に答えるべく、そのモデルプランが、今号の肝です。建物の上に植物が自生する大地を作ることが基本コンセプトで、都会にある20〜40坪のの四角い土地に立つミニマムなもじゃハウスを、具体的に図面で示しています。

眺望が良くて、庭が広くなきゃ植物と共に暮らせないなんてことはない。住まいの広さではなく、視点を変える事で、日々の暮らしに緑の楽しみを見つける。そんな家がこのプロジェクトの理想型です。

一例として、10坪のもじゃハウスの図面を提示しています。「読書好きのインドアな夫婦が2人で暮すには」という設定ですが、家の正面と奥、二階のベランダに木を植えることで、将来、家が緑が囲まれるというのです。読書に疲れた時、視線を見上げた時飛び込んでくる木は、目にも心にも優しそうです。まるで音楽が気持ちよく流れる空間みたいです。イギリスのトラッド系フォークか、アメリカのルーツミュージック系ロックか、チェロ主体のクラシックか、いや、レゲエもいいな〜と、勝手に想像してしまいました。

きっと幸せな空気が満ちた空間であることはまちがいありません。

 

★レティシア書房では「もじゃハウスプロダクツ」の展覧会を開催します。

『フレンドリー建築ショーin京都と題した、もじゃハウスと小嶋雄之建築事務所による建築展です。建築業界一匹狼系の二人が、どんな提案を展示されるかは、見てのお楽しみ!です。新築を考えている方も、全然その気がない方もお気軽にお越し下さい。

会期 5月10日(水)〜21日(日)レティシア書房にて

   (5月15日(月)は定休日です) 

松岩達(文)、冨田美穂(絵)による「おかあさん牛からのおくりもの」(新刊・北海道新聞社1836円)が届きました。

当然ですが、日々口にしている牛乳、チーズ、バター等々は牛からの贈り物です。そんな牛たちを飼っている酪農家の毎日を追いかけた絵本です。牛をよく観察して描き込まれています。

この絵を担当した冨田美穂さんの個展が、来週火曜日から当店で始まります。東京生まれ、武蔵野美術大学卒業後、北海道に渡り酪農業に従事しながら、牛の木版画、絵画を制作されています。知床発のミニプレス「シリエトクノート」に掲載されていた作品に出会ったのをきっかけに、京都初の個展をしていただくことになりました。

リアルな牛の作品を制作されていて、右の作品展のような大きなものが特徴的です。こんな大きな作品、小さな本屋のギャラリーに飾れるの?と思いましたが、今回は、中サイズと小サイズの牛が並びます。

絵本では、反芻する牛とか、牛舎のお食事タイムとかに描かれている牛はリアルであり、また愛嬌たっぷりです。生まれてから、最後に屠殺場に送られるまでの牛と農場との生活が解りやすい文章で書かれています。小学校中学年以上に向けられて書かれた本ですが、大人にも読んでもらいたい内容です。

子牛は、生まれて14ヶ月程で、オッパイが大きくなり、発情期を迎えます。そうすると酪農場に人口授精師が来て、人工授精を行い、赤ちゃんを生ませます。そしてお乳が出ます。そのお乳を分けてもらっているのが私たちです。因みに酪農場にオス牛はいません。彼らは生まれた後、肉牛牧場に引越して、牛肉になるために育てられます。何度かの妊娠後、雌牛は、「おつかれさま」という言葉と共に解体牧場に運ばれていき、加工用の肉にされます。我々は、牛乳から、お肉まで牛にお世話になっているということです。

 

 

そんな牛について、冨田さんは、「初めて間近に見た牛は、とても大きくて。あたたかくて、ふわふわしていてとてもかわいいものでした」と語っています。そして、酪農家が大切に育て、獣医さん、授精師さん、工場の人達など多くの人が誇りを持って働いている姿をしってほしい。食卓に並ぶ肉や、牛乳のことを知ってほしい、とこの本ができました。

個展最終日の5月7日(日)には、知床から作家が来廊予定です。動物好き、北海道好きの方、彼女とお話してみてはいかかでしょうか。東京から北海道に住まいを移し、牛を見つめて暮らしている彼女のハートウォーミングな眼差し溢れる作品展に、ぜひお越しくださいませ。

★冨田美穂「牛の木版画展」 4月25日(火)〜5月7日(日) 月曜定休日

京都人ならだれでも知ってる「糺(ただす)の森」。1994年には、森のある下鴨神社全域が世界遺産に登録されています。毎年、夏の下鴨神社境内で行われる古本市の場所として知っておられる方も多いと思いますが、古本市の時は、暑いのと、本探しと、多くのお客様でごった返していて、この森の素晴らしさなんて味わうことはないかと思います。

森林生態学者、四手井 綱英が編集した「下鴨神社 糺の森」(ナカニシヤ出版 1950円)は、この森の魅力を余す所なく伝えた名著です。(新刊書店勤務時代には、店のロングセラーでした)

この本は、様々な人々が、様々な角度から論じています。樹木学の観点から、生物学の観点から、或は植物学の観点から。

哺乳類研究家の渡辺茂樹が「糺の森のけものと鳥」の章で、述べています。

「イヌ・ネコ以外の哺乳類は糺の森には何もいない。しかし多分それでよいのである。幸い、遠出をしさえすればそれらと出会う機会が未だに日本には残されている。一方で文明の媚薬にどっぷり浸りながら、お手軽に野生を求めるのは都会人のエゴというものである。(求められ側の身にもなってほしい)」

いや、ごもっともです。街のど真ん中にありながら、あの静かさ、風の心地よさ、木々のざわめきを楽しめばよいのです。

第三部「糺の森と私」では、さらにバラエティーに富んだ方々が登場します。俳優の藤田まことは、「必殺仕置人」をここで撮影していたことがありました。かつては、この森の西に松竹下鴨撮影所があり、私も何度か、この辺りのロケ現場を目撃しました。

或は、作家、高城修三が中上健次と夜の森を散策した話。中上は、真の闇は熊野にしかないと信じて、かの地を舞台にして小説を執筆していました。しかし、京都にも深い闇があると高城が持ちかけ、夜中の糺の森に行き、中上は絶句したとのこと。私も、夜にこの森を通過したことがありますが、暗闇の深さにぞっとした記憶があります。

何気なく通っている森の深さを知ることができる貴重な一冊です。ぜひ、本を片手に森へ入ってみて下さい。

★本日、店内イベントのため18時で閉店いたします。ご了承くださいませ。

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カナダ在住の写真家、上村知弘さんの写真展本日より開催です。2012年に続き2回目になる今回の写真展に向けて彼はこう語っています。

「極北で撮りためた自然写真に文章を添えて、写真展という形で発表します。野生の生物に惹かれるのは、彼らが自然という不確かな要素の中で、将来や自分自身に思い煩うことなく、懸命に生きているように見えるからではないでしょうか。その姿や生き方に潔さを感じ、その畏敬の念がシャッターを押させてくれるのだと思います。」大自然のカナダ・ユーコン凖州に暮らして10年目、極北の旅や暮しを通して撮った作品たちです。写真の下には、上村さんのステキな文章が添えられています。どれもが、京都に住んでる本屋には眩しいばかり。

子育て真っ最中の白頭鷲、南東アラスカで海で身体を休めるラッコの一群、厳冬を乗り切る為の栄養源であるシャケをじっと待ち続けるクマ、そして夏の終りと共に戻ってくるオーロラの幻想的な美しい輝きなど、厳しく、美しい自然に身を置いて、撮り続けた12点。

ジャコウウシが、大平原の向こうからこちらに向かってくるところを捉えた一枚は、堂々たる風格。しかし、どこかで観た記憶があるなぁ〜と考えていると、モーリス・センダックの絵本「かいじゅうたちのいるところ」の表紙にいるウシであることがわかりました。マンモスのいた時代から生きてきたのですが、乱獲により一度は絶滅しかけた種です。内毛は、なんと羊の8倍の暖かさ、カシミヤよりも暖かいのだそう。子どもを守る為に、子どもを囲んで円になり動かないので、人間に銃撃されやすかった、などという話を聞いてから、この写真に対峙すると、その威厳ある姿にひれ伏したくなります。

私たちが、上村さんを知ったのは、レティシア書房を始める前、北海道に行った時のことでした。ちょうど先週金曜日に、当店でトークショーをしてくれた、安藤誠さんが経営するロッジ「ヒッコリーウインド」でお会いしました。上村さんは、ネイチャーガイド修行中で、一緒にカヌーに乗ったりしました。彼の写真がヒッコリーに置いてあり、その素晴らしさに見入ってしまいました。

レティシア書房をオープンした2012年、彼が追い続けているドールシープ(高山に住む羊です)の写真展を開催してもらいました。今回の個展にも、雪の中に立つ真っ白なドールシープを捉えた作品が展示されています。マイナス40度の世界で、首を傾けた表情が、なんとも素敵な作品です。(写真集「Dall Sheep/ドールシープ」1620円も販売中です)

大きな作品の手前の平台には、極北の旅の様々なシーンを撮影したものを文庫サイズの本にまとめたフォトブックが十数冊並べてあります。販売はしておりませんが、ご自由にご覧下さい。

ぜひ、個人的に行ってみたいと思われた方は、上村さんと奥様のタミーさんが経営する少人数制の自然ツアー会社“Nature Connections”もあります。またユーコン準州の観光チラシやパンフレットもありますので、お持ち帰り下さい。(店長&女房)

 

★上村知弘さんは11月6日(日)は終日在廊されています。

 

 

 

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恒例になった、ペンション「ヒッコリーウインド」オーナーで、ネイチャーガイドの安藤誠さんの「安藤塾」を昨夜開催しました。安藤さんは、毎年10月の下旬に北海道鶴居村を出発して、依頼のあるところで、北海道のこと、自然とともに生きていくこと、などについて、講演をして回られます。レティシア書房では数えて5回目になりました。

彼が撮影した写真を観ながら、北海道の自然の魅力と、動物たちの生き方に驚かされました。

左の写真のこの虫、ご存知でしょうか。「トビケラ」という虫です。幼虫時代を水中で過ごし、水上で羽化します。とても小さな昆虫なのですが、トビケラにレンズを向けたのは、「彼のあまりにもかぼそく優美なさま、とくにオーロラのような羽のグラデーションと輝きを見つけることができたから。自然ガイドをしていて、自分自身が毎日いただいている発見と感動に、ただただ感謝」と言う理由です。この写真ではよくわかりませんが、画面を拡大した時に、羽の中にまさにオーロラを見出しました。

右の疾駆するウサギは、夏毛の「エゾユキウサギ」です。飼われているウサギとは全く違う逞しい足。疾走している姿はまるでカンガルーのようです。このウサギ、安藤さんがタンチョウの子育てを撮影していたときに遭遇した雄ウサギで、恋に夢中。撮影者の向こうにいる雌ウサギ目ざして、すぐそこに居る人間などお構いなしに、一直線に走って来たというわけです。安藤さんは、このウサギを前に、こう呟きました。

「北海道の自然界において弱者に位置する彼らが、毎日を必死で生きている様に、強い愛おしさを感じた。願わくは、この冬に真っ白になったエゾウサギに出会えたらと。」

プロ、アマを問わずアジア中のカメラマンが参加できる、アジアの自然にフォーカスをあてた写真コンテストNature’s Best Photography Asia2016で入賞したのが、サクラマスの飛翔(左写真)を捉えた一枚です。幻想的な滝の飛沫の中を飛翔する姿が感動的です。安藤さんは、この作品について「彼らは苦しく、困難な状況であっても決して諦めない。黙々と淡々と飛び続ける。このワイルドライフからのメッセージをどう受け取るかは、己の感性だけではなく自分自身の生き方次第なのかもしれない。」とフォトエッセイの中で書いています。(Nature’s Best Photography Asia2016は販売はしていませんが、店にありますので、ご覧になりたい方はどうぞ)

こんな風に、驚きの写真と楽しいトークで、「ヒッコリーウィンド」を訪れた人もそうでない人も、一緒になって和やかに夜は更けていきました。12〜3人で、狭い店内はいっぱいなのですが、この本屋のあたたかな雰囲気が好きだと言って下さるので、毎年旅の日程に入れてもらっています。トークの前後に、音楽好きの安藤さんは、CDの棚の前に座り込んで、「まいったな〜」と言いながらお気に入りのCDを手にしてニコニコ顔。私自身は、この顔見たさにさらにがんばって、CDコーナーを充実させているようなところがあるように思います。

 

★ 11月5日(土)は店内イベントのために18時にて閉店いたします。ご迷惑をおかけいたしますが、よろしくお  願いします。

えらくタイトルの長い雑誌ですが、北海道の自然を様々な角度から捉えた「ファウラ」のバックナンバーが数十冊入ってきました。2004年から10年にかけて出版されたもので、今は絶版状態です。毎号特集が魅力的なので、少しご紹介します。

北海道を代表する動植物の各号の特集は、「エゾモモンガ」、「エゾナキウサギ」、「オオワシ・オジロワシ」、「タンチョウ」、「エゾリス」とけっこう揃っています。知床羅臼にて撮影された鷲の勇姿、堂々たる飛翔姿は王者の風格です。しかし、この雑誌は、単にその姿を捉えているだけでなく、彼らの現状、例えば風力発電用風車に巻き込まれる事例や、鉛弾薬中毒死問題も取り上げ、その環境の危うさに言及しています。

エリアの特集号としては、「奥尻島へ行こう!」、「北の”二つ島”礼文・利尻」、「知床」、「洞爺湖・有株山」、「北海道の『冨士』」、「渓流、渓谷」、「摩周・屈斜路」など、魅力的な地域が並んでいますが、観光案内でないことは言うまでもありません。

思わず読んでしまったのが「ブラキストン線」の特集号です。1880年、函館で貿易商を営んでいたトーマス・W・ブラキストンが、津軽海峡の北と南では動物相が変化していることを提唱しました。後に、この海峡が動物分布境界になっていることが判明、ブラキストン線と命名されました。その境界線のあちらとこちら側を写真と文章で見つめています。へぇ〜、そんなもんがあったのか………です。

お気に入りの写真は「北国の冬を生きる」という号で、オジロワシが、絶命した子鹿の死体に食らいついている作品です。子鹿が正面から撮影されていて、まさに絶命した子鹿の表情が明確です。ワシは鹿の肉を喰らうことで、自らの命を保っているという、命の連鎖をはっきり表現しています。

こんな風に、どのページも見所満載も雑誌です。ネットでは、一部数千円で取引されているものもありますが、良心的?レティシア書房では、オール500円です。

 

 

 

 

★★カナダ在住で、ドールシープを撮影されている写真家、上村知さんの写真展を11月1日(火)〜13日(日)まで開催します。5日(土)夜に、上村さんによるスライドショー 「極北 カナダ・ユーコン&アラスカの旅と暮し」(7時より)を予定しております(要・予約 レティシア書房までお願いします)

10月28日(金)『ネイチャーガイド安藤誠さんの自然トーク「安藤塾」』は、満席になりました。

尚、「安藤塾」は、10月29日(土)19時より「町家ギャラリー龍」にて開催します。こちらの方は、参加者募集中です。お問い合わせは直接 「町家ギャラリー龍」(075−555−5615)まで。