先日、一乗寺恵文社に行った時のこと。お店のスタッフの方が、「店長、海外の本に出てますよ」「え?何で?」

当店が出ているというのは、「手繪京都日和」という林凡瑜さんの絵と文章の本でした。2015年台湾で刊行されたのを恵文社が国内で発行したもので、全編中国語です。カフェ、書店、文具屋、雑貨店等、林凡瑜さんが、京都に長期に渡って滞在していた時に、馴染みにされていたお店(もちろん恵文社も)が、可愛らしい絵と一緒に紹介されています。いくつかある書店の所に、載せてもらったというわけでした。なんて書かれているのだろう、誰か中国語できる方、訳してください。

中身をご覧になりたい方には、店頭でお見せいたします。どうしても購入したい方は、恵文社一乗寺店までどうぞ。恵文社のレジ前平台にど〜んと積んであります。

もう一冊、日本の雑誌「EYES CREAM」の「アメリカ文学は敷居が高いのか?」という特集で、アメリカ文学に強いお店の一店としても紹介していただきました。なんと、誠光社と恵文社一乗寺店の間に挟まれて掲載なんて!もう、横綱と大関の間に幕下が入るようなもんで、大変恐縮しております。

この特集の監修は、同志社大学で教鞭を取られている藤井光さん。柴田元幸、岸本佐知子らと並んで、彼の翻訳ものは人気です。新潮社クレストブックスシリーズで、テア・オブレヒトの「タイガーズ・ワイフ」がよく売れています。先日、今までなかなか古書で出て来なかった、アンソニー・ドーアの傑作「すべての見えない光」(新潮社/古書2400円)をゲットしました。戦時下、ナチスドイツの若き兵士と、盲目のフランスの少女の数奇な運命を描いた大河小説です。500ページにも及ぶ大長編で、年末に読んでみたい一冊です。池澤夏樹は、この作品を「波瀾と詩情を二つながら兼ねそなえた名作」と評価しています。

 

 

当店のお客様で、写真家のYU YORUNOさんが、ドイツでの個展を無事終られて帰国されました。

その個展で販売されていた写真集「C-U-B-A MONOCHROME」の販売を開始しました。タイトル通り、キューバの街角を撮影した写真集です。街を行く人々、特に子供たちの元気な姿が捉えられていて、黒い肌の美しさが際立ちます。開放的な気分と、どこかやるせない不安に怯えるこの街の佇まいが伝わる写真集です。眺めていると、アメリカと国交を回復しトランプと付き合ってゆくはめになり、キューバの古い佇まいが消えてしまうのでは、という危惧が過りました。(表紙2種あります。各6800円)。

 

少し長いですが引用します。

「インターネットとグローバリゼーションの時代において、ようやく僕らは、もう一度普遍的なものについて考え直すことができるようになった。だから僕たちは、現代社会が要求してくる、相も変わらぬ表面的な新しさの呪縛から、そろそろ本格的に降りてしまってもいいのではないだろうか。新しいことは価値とは何の関係もない、と言ってみることで初めて観えてくることは確実にある。」

新聞のコラムや、社会情勢を批判した文章からの抜粋ではありません。早稲田大学で英文学を教えている都甲幸治の「生き延びるための世界文学」(新潮社1600円)に登場する文章です。2000年以降に出版された英語で書かれた文学を読み続け、作者の生年順に並べて論評した文学ガイドとして発表し、文学に何が出来るのかを問うた本なのです。

「文学は、見ず知らずの人々の心の中にまで降りてゆくための強力なツールだ。見た目も言語も、背景となる歴史も違う人々の心の中にさえ、僕たちは物語を通じて入って行ける。そして、同時代を生きる世界に人々が、自分たちと同じ問題に苦しんでいることに気づく」

だから、日本語で書かれていないと言う理由だけで世界の文学を敬遠するのは勿体ない。西加奈子も「世界には、私たちを救ってくれる物語がこんなにあるのだ」と推薦の言葉を寄せています。

2010年に雑誌「ニューヨーカー」が発表した、アメリカの作家ベスト20人のうち、実に9人がアメリカ以外の出身者でした。例えば、タオ・リンは生まれはアメリカですが、台湾出身の両親の母国語は中国語だし、ドミニカとアメリカを往復しながら活躍するジュノ・ディアスは英語とスペイン語で発表しています。また、ラトヴィア生まれのディヴィッド・ベズモーキズは、カナダに移民後、LAで映画を学び、「ヴィクトリア・デイ」を監督し、映画祭に出品されています。

異なった文化背景を持った作家を読むことで、複雑に変化する世界を知る手助けになるかもしれない。本の中で紹介されている南アフリカ出身のクッツェーの代表作「鉄の時代」(河出書房新社1900円)をかつて読みましたが、南アフリカにおける黒人への暴力のリアリティーに圧倒されました。

もう一点、都甲幸治の対談集「読んで、訳して、語り合う」(立東舎1100円)も再入荷しました。以前ブログで紹介したことがありますが、こちらは、いしいしんじ、岸本佐知子、堀江敏幸、柴田元幸、藤井光等々の翻訳の第一線で活躍する方々との文学夜話的一冊です。この中で、藤井光は非英語圏生まれの作家が英語で小説を発表する事が増えているが、マジョリティーに差別され虐げられている世界や、相克する異文化に苦悩する類いの作品とは全く違う作品が、多数出ていると指摘していて興味深いですね。

世界文学の入門としてお読みいただきたい2冊です。蛇足ながら、都甲幸治の翻訳ものでは、フィッツジェラルドの「ベンジャミン・バトン数奇な人生」(イーストプレス/絶版900円)がお薦めです。ブックデザインも素敵です。

 

 

★連休のお知らせ 11月6日(月)7日(火)

翻訳文学、特に英語圏の文学が、その翻訳者の名前で読まれ出したのは、村上春樹の一連の仕事からであることは間違いありません。そして、柴田元幸、岸本佐知子といった翻訳家が、優れた作品を次々と送り出していて、新しい時代に入ってきました。

次の世代のホープとして注目されているのが、藤井光です。1980年大阪生まれで、現在同志社大学英文学科准教授。彼の、刺激的なアメリカ文学案内書とでも言うべき「ターミナルから荒れ地へ」(中央公論新社1300円)を読みました。

サブタイトルに「『アメリカ』なき時代のアメリカ文学」と書かれているのですが、21世紀にデビューした作家たちが、無国籍な感性を身につけていることを指摘し、そこからスリリングなアメリカ文学、そしてアメリカ人の精神性の奥へと読者を導いていきます。紹介されている本は、どれも幻想的で、寓話性の高いものばかりです。例えば、マヌエル・ゴンザレスの「操縦士、副操縦士、作家」は、ハイジャックされた飛行機が舞台なのですが、何故か燃料はなくならず、食料も調達されていて、飛行機は20年間ひたすら飛び続け、機内で生まれた子どもさえいるという、頭クラクラの設定です。これが、何を意味する小説なのかを、同じ様な特異な設定の中で生きる人びとを描く作品を俎上に上げ、21世紀のアメリカ文学がいかに変化していくのか論じられています。

店には、藤井光の翻訳したものも、数点あります。

『不死身の男』と『トラの嫁』と呼ばれた少女の話が交錯するテア・オブレヒト「タイガーズ・ワイフ」(新潮社900円)、毎年繰り返される、死者続出のピクニックを描く短篇等を収録したセス・フリード「大いなる不満』(新潮社1450円)、不毛の大地でひたすらイラつく世界を描く、ウェルズ・タワー「奪い尽くされ、焼き尽くされ」(新潮社1200円)、そして内戦下ベイルートで暴力と犯罪に覆い尽くされた日々を生き抜く少年を描く「デニーロ・ゲーム」(白水社1900円)など。

どれも幻想的世界から奇想の世界をバックグラウンドとした小説ですが、新しいアメリカ文学を知る読書案内として「ターミナルから荒れ地へ」をまずお薦めします。

藤井は、新しいアメリカの作家達にとって重要な先駆者の一人が、村上春樹だということを指摘しています。

「村上文学に登場する土地が、四国であれ、東京であれ、どこか幻想の土地となっていることに学ぶようにして、アメリカの新しい作家たちは自分の世界を作り出そうとしている」

ハルキ的世界は、ここまで浸透しているのですね。