「虔十公園林」をご存知でしょうか。実際にある公園ではありません。宮沢賢治の小説のタイトルです。

いつも子供たちからバカにされている少年虔十が、ある日、野原に杉の種を撒き、育てようとします。周りの人達は、あんな所に杉が育つわけないとバカ呼ばわりしますが、なんと、すくすくと育っていき、子供たちの遊び場へと変わっていきます。雨の日も、晴れの日も杉林を見回る虔十でしたが、あっけなくチフスで死んでしまいます。

彼が死んでから20年。彼の町は発展し、森も林も消えています。しかし、彼の名前を付けた「虔十公園」だけは、ここに住む人達が開発のためには売るまいと、守っていました。そして、多くの人達の憩いの場所となっていたのです。

「全く全くこの虔十公園の杉の黒い立派な緑 さわやかな匂い 夏の涼しい陰 月光色の芝生が これから何千人の人たちに 本当のさいわいが何だかを教えるか数えられませんでした そして林は虔十の居た時の通り 雨が降っては すき徹る冷たい雫をみじかい草にポタリポタリと落し お日様が輝いては 新しい綺麗な空気をさわやかに はき出すのでした」

という文章で終わります。賢治がこの小品を書いたのは1934年。住民が、自分たちの周囲の自然を守るというナショナルトラスト運動を予感させる貴重な作品だと思います。

この作品を、ますむらひろしが漫画化した「ますむらひろし版宮沢賢治童話集」が入荷しました。2014年に新聞掲載されたものを書籍化したもので、「オッペルと象」も同時収録されています。26cm×19cmの大型の判型で表紙の絵も、印刷も装丁も素敵な出来上がりです。「やまなし」「ひかりの素足」を収録したものも同時に入荷しました。版元は子供服でお馴染みのミキハウス。丁寧な作りには、賢治への深い愛情が感じられます。(どちらも1400円)

「猫マンガのますむら」らしく、登場するのはすべて猫。「ひかりの素足」は元々辛いお話ですが、猫で描かれると、猫好き、動物好きには涙無しでは読めないかもしれません。

同社はあべ弘士による「なめとこ山の熊」(売切)、荒井良二「オツベルと象」(売切)など、やはり隅々まで手を抜かない作りで賢治の絵本シリーズを刊行中です。どれも目が離せません。