本日から2週間レティシア書房が「上野書店」に占拠されるという事態に・・・。

装幀家上野かおるさんの個展のDMが「上野書店開店ご案内」となっていて、これまで上野さんが手がけられた本がズラーっと並んだためなのです。いやはや開店おめでとうございます。実に壮観です。お一人の手になったとは思えないほどバラエティに富んだ本の在りよう。改めて装幀家のお仕事の深さ・広さ・こだわりに驚きました。上野さんは京都生まれ。装幀に関わった本は約4000冊、40年に及ぶ装幀の仕事の集大成です。

「装幀(そうてい)とは、一般的には本を綴じて表紙などをつける作業を指す。広義には、カバー、表紙、見返し、扉、帯、外箱のある本は箱のデザイン、材料の選択を含めた、造本の一連の工程またはその意匠を意味する。」今回の個展に際して、装幀についてのパネルを作り、解説やら、こだわりやら見て欲しいポイントなどを、わかりやすく提示してあります。

そして、並べられた本に可愛い栞が挟んであり、(本の横に出している場合もあります)そこには、その本を装幀した時の想いや、工夫した箇所や見どころなどが書かれていますので、本を手にとってぜひ読んでみてください。。

例えば、「鑑定士と顔のない依頼人」の栞には「本書は『ニュー・シネマ・パラダイス』の監督による初めての原作小説で、2013年に上映された。(中略)装幀素材として渡された画像は、ペトルス・クリストゥス『若い女の肖像』。当初カバー全面にレイアウトしてみたが、突然、表紙に配置することを思いつき、カバーに穴を開けて、眼差しだけが見える仕掛けにした。」とあります。映画を観ましたが、ミステリーなこの本の仕掛けにはうっとりしてしまいました。どんな風かは、カバーをめくって見てくださいね。

さらに、「音楽のような本が作りたい」(木立の文庫)でカバーに使われた槙倫子さんの版画を、本と一緒に飾っていただきました。槙さんの作品で、展覧会の雰囲気がさらに素敵に盛り上がり、表紙と原画を比べることができてとても面白い試みになりました。

本屋で本の装幀の展覧会なんて素晴らしい企画ではありませんか!と思わず自画自賛してしまいますが、ぜひご覧頂きたくご案内申し上げます。なお、展示の本は非売品ですので、上野書店は事実上「売らない本屋」です。ピンクの付箋が付いているのが「上野書店」の蔵書になります。レジにはどうか持ってこないでくださいませ。(女房)

『「上野書店」レティシア書店を占拠します!』は

6月1日(水)〜12日((日)13:00〜19:00 月火定休 

(上野書店店長は1日・4日・5日・12日のみエプロン姿で出勤しています。)

 

 

 

 

 

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「花森安治は<装釘>の字を使った。今、本の見返しや目次ウラ、奥付などには、もっぱら装幀や装丁の字が使われている。釘の字に違和を感じる人も多いのではないだろうか。

『文章は言葉の建築だ。だから本は釘でしっかりととめなくてはならない』 これが花森の本作りの考えであった。」

その思想に基づいて、花森が担当した書籍の装釘を集めた豪華な「花森安治装釘集成」(みずわの出版/古書4000円)を入荷しました。花森は「暮らしの手帳」の表紙でお馴染みですが、それ以外にも多くの本の装釘に携わっています。300ページ弱のこの本を開けば、その広範囲の仕事をつぶさに見ることができます。超ポップな坂口安吾「教祖の文学」、舟橋聖一「満月」の妖艶さ、お洒落な渋澤敬一「ベッドでのむ牛乳入り珈琲」、など多彩な彼の才能を楽しめます。歌舞伎評論の戸坂康二の、一連の歌舞伎本らしからぬ仕上がりには驚きましたし、ハーパー・リーの「アラバマ物語」の様な海外ものも担当していたことは、初めて知りました。もちろん「暮らしの手帖」の創刊号から100号の花森が描いた表紙は全て収録されています。

暮らしの手帖社で、花森最晩年の6年間共に編集部で働いた唐澤平吉と、古書好きにはお馴染みの南駝楼綾繁、そして京都在住の画家林哲夫の3人が編集したこの本は、定価8640円もするのですが、十二分に見合った作品集です。(今回ご紹介している古書は、美本でお買得ですよ)

さて、もう一冊、見逃せない装幀の本が「佐野繁次郎装幀集成」(みずわの出版/古書3000円)です。

1900年大阪に生まれた佐野は、小出樽重に師事して絵を学び、多くの著者の装幀、挿画を手がけます。30年代後半には渡仏し、マテイスに師事しています。新刊書店員時代の私は、佐野の事は全く知りませんでした。しかし、レティシア書房を始めてから、彼の作品を目にする様になりました。深沢七郎の「言わなければよかったのに日記」という本の、カラフルな文字を見たのが最初だった気がします。

手元にある「佐野繁次郎装幀集成」を見ていると、絵のうまさに引き込まれていきます。熊凝武晴「南極観測船航海記」の表表紙から裏表紙にかけて力強いタッチで描かれた観測船。土門拳の「ヒロシマ」の黒い外函に描かれたデザイン。吉井勇「東京紅燈 集」で、細密に描かれた東京の町屋等、見飽きることがありません。佐野の担当した書籍はコレクターが多く、この本もサブタイトルに「西村コレクションを中心として」とある様に、コレクターの西村義孝が集めた作品をメインに収録されています。実際に、そう簡単に目することのない本ばかりですから、この本は貴重です。ネットでは1万円以上の高値(絶版)が付いてたりしますが、持っていて絶対に損のない装幀集だと思います。(今回入荷したものは美本です)

 

★レティシア書房 恒例「女子の古本市」は2/6(水)~2/17(日)です。出店者は女子ですが、もちろんどなたでもご来店くださいませ!今回も25店程にご参加いただきます。お楽しみに!


 

小村雪岱と言えば、泉鏡花ファンならよくご存知だと思います。装幀家として繊細で、ちょっと懐かしい江戸の姿を描いて、懐古的でありながら、極めてモダンなタッチ。大正から昭和初期にかけて、大衆文化のジャンルで活躍したデザイナー的存在です。雪岱の作品を多数収録し、その生涯を解説した「意匠の天才小村雪岱」(新潮社とんぼの本/古書1300円)は、手頃に買える入門編として最適の一冊です。

雪岱は、 大正7年、出来たばかりの資生堂意匠部に入社し、商品や広告のデザインに携わることになります。西欧調のスタイルが主流だったデザイン業界で、小村のような日本調のデザインを使うことは画期的でした。大正12年には資生堂書体と言われる独特の書体に制作に取りかかります、しかし、関東大震災で中断、その後、彼は同社を退社します。

大正3年、泉鏡花の小説「日本橋」が刊行された時、雪岱は20歳そこそこの若者で、もちろん本の装幀なんて経験がありません。余程、鏡花は雪岱に惚れ込んでいたんでしょうね。「雪岱」という雅号も鏡花が与えたものです。入手が極めて困難なこの本の装幀も収録されています。

本書には、鏡花小説に使われた挿画が沢山収録されていて、モダンな感覚が溢れる作品を楽しめます。私が見とれたのは「愛染集」の表見返しです。しどけない姿で夜の屋敷街に佇む遊女と、画面全体を覆う雪、雪、雪。その寂しさと静けさ。

或は、「春告鳥」に載っている、髪の毛一本、一本まで描き込んだ見返り美人風の女性にも、目を見張りました。「新柳集」の鳥の装幀などは、一度でいいから手に取ってみたいと憧れます。

雪岱は、舞台美術の分野にも進出しました。歌舞伎界のトップ役者、中村歌右衛門、市川左團次の舞台美術を担当。六代目尾上菊五郎からは絶大な信用を受けて、昭和6年初演「一本刀土俵入り」の舞台が大当たりしてから今日に至るまで、この舞台美術は踏襲されているのだそうです。

★年内は12月30日(日)まで営業いたします。年始は1月8日(火)より通常営業いたします。

 

★イベントのお知らせ「宮沢賢治 愛のうた 百年の謎解き」

2019年1月18日(金)19時より、「新叛宮沢賢治 愛のうた」を出された澤口たまみさんとベーシスト石澤由男さんをお迎えしてトーク&ライブを行います。ご予約受付中(1500円)


 

 

 

 

何の美術展かは忘れましたが、恩地考四郎の版画が飾ってありました。その時点では、名前すら知りませんでしたが、前衛的で、強烈なインパクトがあったので、彼の名前は頭の中にインプットされました。

明治24年東京に生まれた恩地 孝四郎は、創作版画(複製を目的とせず、版画独特の手法を創作表現の方法として活かした版画)の先駆者であり、また日本の抽象絵画のイノベーターとして評価されている人物です。しかし、美術界の評価よりも、装幀家としての仕事が気になっていました。

それは、萩原朔太郎が大正6年に出した詩集「月に吠える」の装幀が彼だったからです。装幀家としての活動を知りたいなと思っていた時、池内紀著「恩地孝四郎一つの伝記」(4800円)に巡り会いました。本書は、筑摩書房が発行している小冊子「ちくま」に連載されていた「恩地孝四郎のこと」を加筆、訂正し、大幅な書き下ろしを加えた300ページに渡る大著で、図版65点に年表も加えた愛蔵版の評伝です。

「月に吠える」は恩地の装幀家として実質的な初仕事でした。友人、萩原のために素敵な装幀を施した詩集を送り出します。この詩集の装幀に関して、池内は面白い事実を指摘しています。

「正確にいうと恩地孝四郎装幀の『月に吠える』は二つある。初版刊行後五年してアルスより第二版を出すにあたり、大きく改められた。初版がより強く友人の作品と思いをつたえるためであったとすると、再販はおのずからちがっていた。こちらは何よりも、装幀者の意向をこめて手を加えた。」(右の写真は初版の方です)

恩地自身は版画家としてより装幀家として見られることを嫌っており、これは生活のためだと割り切っていたようですが、その一方、1952年に出版した「本の美術」で「本は文明の旗だ。その旗は当然美しくあらねばならない」と書いています。本であるならば、美しくあらねばならないという装幀家の矜持を語っているところをみると、真剣に取り組んでいたのだと思います。

詩人、北原白秋の弟、北原鉄雄が大量部数の粗悪な出版物(なんか、今の出版状況みたいです)に異議を唱えて立ち上げた出版社アルス。より美しい本を少数部数で発行するこの出版社の本の装幀を、恩地は手掛けました。北原白秋「白秋小唄集」、室尾犀星「性に目覚める頃」、三木露風「象徴詩集」などがその一例です。

池内は、「孝四郎と一出版社との幸運な出会いが、わが国の装本の歴史に優雅な一章をつくりだした。」と書いています。残念ながらアルス社の本は、そう簡単にお目にかかりませんが、どこかの美術館で「恩地孝四郎装本展」が開催されることを期待します。

ちなみにご紹介した「恩地孝四郎一つの伝記」は、本好きには支持される、渋い本を出版する幻戯書房から出版されました。定価6264円と高価な本ですが、その内容の濃さは価格を超えていると思います。中身も綺麗で、あんまり古書では出ない本かもしれませんね。

「どんなにいいカッコをしたって、音楽が豊かでなければ、その音楽家は美しく見えない」

ー岩城宏之

「私は、深夜の書斎で耳を澄ます。いろんな本が啼いている」

−久世光彦

「『大目に見る』というのは私の一番好きな言葉です」

ー清水ミチコ

さて、様々な人が登場するこれらのフレーズは、和田誠「ほんの数行」(七つ森書館1400円)の中にあるものです

和田誠が装幀を手掛けた本から、自身がチョイスした数行を取り上げてまとめた魅力的な一冊です。もちろん、取り上げられた本の装幀も掲載されているので、著者が、その文章を選んだ思いを書いたエッセイを読みながら、お〜っ、こんな装幀だったんだと楽しめます。

「男の人がステキだなあと思うのは、お金を出すときと、髭を剃るときと、死ぬときですね」

とは、常盤新平インタビュー集「高説低聴」で、向田邦子が「男の美学」について語った言葉です。スゴイことを言う彼女を、和田は「そのスゴイところがステキだとぼくは思ってしまう」と書いているのが、やはりステキですね。

その本のエッセンスをぐっと凝縮して、一枚の表紙絵に仕上げる力量の豊かさに感動し、何度も、何度も読みたくなる本です。

私の好きな数行は、

「お前さんが舞台からいなくなると、なお残像が残っている。残像というか。残像が残る時のみ、役者は生きている意義がある」

これ、森繁久彌の言葉です。

もう一つ、「人間は、なにかコンプレックスがあると、ほかの方法でそれを乗り越えようとする。その方法というのが僕にとっては歌だったのかもしれない」

という高田渡「バーボンストリートブルース」(山と渓谷社/絶版・初版2200円)からの引用です。この本の装幀は和田のベスト10ではないかと思っています。

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