今、最も行ってみたい本屋の一つ、東京の「title」店主の辻山良雄さんの二冊目の本「365日のほん」(河出書房新社新刊1512円)を入荷しました。

「本屋は本を紹介することが仕事です。Title では開店依頼、『毎日のほん』と題してウェブサイドで一日一冊、本を紹介していますが、この『365日のほん』は『毎日のほん』とは別に本を365冊選びなおし、紹介文を書きました。日本には四季がありますが、性格が異なる四つの本棚を思い浮かべて、その季節の本棚に合った本を並べています。そうしてでき上がった小さな本が、この『365日のほん』。暮らしの近くでいつでも手に取っていただけるよう、ポケットサイズの大きさにしています。」

考える本、社会の本、くらし・生活、子どものための本、ことば、本の本、文学・随筆、旅する本、自然の本、アート、漫画の各ジャンルに分けて、春夏秋冬それぞれに相応しい本が紹介されています。「春ははじまりの季節」と書かれた「春の本」の巻頭を飾るのは荒井良二「あさになったらまどをあけますよ」。

「いまこの瞬間に世界のどこかで、今日も窓を開けている人がいる。開け放った窓からは風が吹き抜け、透き通った朝の光は、山ぎわ、海辺の町、川面を同じように照らす。それだけのことがいかに奇跡的で、人の心をどれだけなぐさめてきたことか」

と、震災後の祈りとも言える絵本を、簡潔な文章で紹介されています。とてもいい文章です。

今日マチ子の傑作反戦漫画「cocoon」を「男がはじめた戦争は、いつも本当にくだらない」とズバリ言い切っています。このコミックの真実をズバリです。私もこのブログで今日マチ子を紹介したことがありあますが、そうなんだ!!これが書きたかったんです。

「人間が住み着く以前から、変わることのなくそこにある地球。その本質に触れるのは、素朴で硬質な文章」と星野道夫「旅をする木」を紹介。何度か星野の本はブログで紹介しましたが、こんな文章、私には書けません。

紹介された本を実際に読み、その感想を本に一杯書き込むのは如何でしょうか。それを著者に見せてあげたら、喜ばれるかもしれません。

「本は誰かに読まれることで、はじめてその本になります。そして、その本を自分の本棚に並べておくことは、そのなかに書かれている世界が、いつでも自分の手の届くところにあるということです。普段からそうした一つ一つの世界と通じ合っていれば、その人はいくつもの世界を視ることができるようになるでしょう。」

著者は、そんな思いで日々、レジに立たれているのでしょう。新刊ばかりなので、どこでも入手できます。是非、今年の読書計画に役立てて下さい。

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正木香子の「文字と楽園」(本の雑誌社/古書1100円)を読みました。

ぐっとくる本とか、しみじみした感情に包まれる本、あるいは迫力に押しつぶされそうな本は沢山あります。けれども、愛しい気分にさせてくれる、読み終わった後も書架から出して、表紙をそっと撫でてみたくなる本は、あまりありません。これはそんな貴重な一冊でした。

サブタイトルの「精興社書体であじわう現代文学」とあります。精興社は1913年、東京活版所として設立された印刷会社です。。活版印刷の品質の向上を目的として、新しい書体を開発し精興社タイプと呼ばれる、細身の美しい書体を作り上げました。

古くは、1958年から83年まで25年間、串田孫一が創刊した「アルプ」の活版印刷を担当していました。岩波書店をはじめ、多くの出版社で採用されています。例えば村上春樹「ノルウェイの森」、川上弘美「センセイの鞄」、吉田篤弘「つむじ風食堂の夜」、あるいは三島由紀夫「金閣寺」と、読書好きなら一度は出会った書体です。

著者は、この文体が使用された本を十数本選び出して、美しい文字が作り出す世界を教えてくれます。吉田篤弘の「フィンガーボウルの話の続き」に入っている短編「白鯨詩人」をあげながら、こう書いています。

「この本には、文字を目で味わう楽しみがあふれている。物語が料理だとするなら、背後にある皿の美しさの「ほう」と見とれる瞬間がある。でもそれはまぐれや偶然で起きることではない」

作家が紡ぎ出した無数の言葉に命を吹き込み、読者に伝え、言葉の彼方の世界へと連れ出すような書体。その魅力を持っている精興社書体への思いが、ピックアップした本への愛情と共に語られていきます。

個人的にこの書体に着目したのは、新潮社が発行する海外文学シリーズ「クレストブックス」でした。新潮社装幀室が手掛けた、毎回変化する美しいブックデザインと、本文の読みやすさに魅かれました。それまでの、他社のお堅いイメージの書体による翻訳物は、ちょっと苦手でした。クレストブックスの流れるような美しさは、海外文学初心者には、ありがたかったです。創刊から2010年まで編集を担当した松家仁之は、「文字と楽園」によると、最初から精興社ありきで考えていたらしいです。

日頃、何気なく本を開く私たち。どんな字体を使用しているかなんて気にしている人は少ない。しかし、読んだ後も心に残り、再び読もうとする本は、人の半生と同じくらいの歳月を生き抜いた、精興社書体のような日本語書体の偉力なのかもしれません。

 

「本を読むというのは元来のんびりした趣味であって、それこそ川辺に椅子を出してそよ風の中で読みすすみ、時に柳の葉が頬をなでるというようなエレガントなものであるべきだ」

と池澤夏樹は書評集「風がページを」(文藝春秋1100円)で書いています。

静かに時の流れる中で、本を読む事の至福を撮影したアンドレ・ケルテスの写真集「読む時間」(創元社2376円)は、とてもステキな本です。様々な場所で、様々なポーズで読書する人たちを捉えたこの写真集の、お気に入りのページをぐっと開いて、机の上、或は食卓に置き、そして、今度は自分の読みかけの本を開いて読み出す。ちょっと疲れたら、先程開いた写真集を眺める。すると池澤が述べたようなエレガントな時間が流れてきます。次の日には、違うページを開いて立てかけておく。本は傷むかもしれませんが、それがこの本の正しい使用法です。(と、思います)

「読む時間」の巻頭に谷川俊太郎が「読むこと」という詩を寄せています。その後半を引用します

「いまこの瞬間この地球という星の上で いったい何人の女や男が子どもや老人が 紙の上の文字を読んでいるのだろう 右から左へ左から右へ上から下へ下へ(ときに斜めに) 似ても似つかないさまざまな形の文字を 窓辺で木陰で病床でカフェで図書室で なんて不思議・・・・あなたは思わず微笑みます 違う文字が違う言葉が違う声が違う意味でさえ 私たちの魂で同じひとつの生きる力になっていく しばらく目を木々の緑に遊ばせて あなたはふたたび次のページへと旅立ちます」

本なんて読まなくても生きていける、でも本を読む幸せを知っている人なら、この写真集を捲るたびに微笑むことでしょう。41ページには、おそらく阪急電車だと思われる車内で、頭を剃った和服姿の女性が、手元の本に目を落としている作品が載っています。車外から射し込んでくる日光が彼女の手元をやさしく照らしています。タイトル通り「読む時間」が流れていきます。

★レティシア書房臨時休業のお知らせ 4月17日(月)18日(火)連休いたします。