ヨゼフ・スデックという写真家をご存知でしょうか。わが国でも「プラハの光」というタイトルで出版されていたことがありますが、今や高額のお値段が付いています。

スデックは、1896年チェコに生まれました。第一次世界大戦に出征し、右腕を失いますが、1920年代から写真家として活動を始めます。主に、プラハの町を撮影地として選び、光と影を巧みに使った作品を発表してきました。しかし、第二次世界大戦勃発と同時にチェコがナチス支配下に入り、撮影が制限されたことにより、自分のスタジオから眺めた作品を撮り始めます。

洋書ですが、”Josef Sudek”(900円)には、そんな写真が何枚か収録されています。静物画みたいな作品は、どれもいい雰囲気を持っています。風に煽られたカーテンが、椅子に引っかかっている作品なんて、柔らかな風と、ほのかに差し込む太陽光線の輝きを捉えて、絵画のようです。私のお気に入りは、子供用の乳母車と、そこに置かれたザルと木の箱を写した作品です。何の変哲のない、慎ましい日々の暮らしの匂いが感じられます。

室内にあるもの、窓から見えるものを、普通に撮った作品を眺めていると、不思議と心落ち着きます。写真に力がある証拠かもしれません。

もう一人、こちらは写真家の巨匠とも言えるマン・レイの図録を入荷しました。生誕100年を記念して大丸ミュージアムで開催された「マン・レイ展」の図録(3000円)です。2冊セット箱入りという豪華本です。1冊は写真を、もう1冊は、絵画、オブジェ、素描、水彩、版画等、写真以外の作品を収録してあります。前衛的な写真で知られる彼ですが、そういう作品以外の肖像写真、ファッション写真が沢山あります。

一方の絵画・オブジェの方は、楽しさ溢れる現代アート作品ばかりです。思わず吹き出したのは、りんごとネジ釘を一緒の置いたオブジェ「僕の愛するもの」です。どう面白いか、私の拙い言葉では言い表せませんので、ぜひご覧ください。この作品の下にマン・レイのこんな言葉が載っています。

「これらのイメージは、人を楽しませるものではなければならないーこれが正しい鑑賞への唯一確実な道なのだ」

現代アートは、まず楽しくなくっちゃ。観て、触って(可能ならば)、遊べる、そういうものだと思います。

 

これから開催される「美と、美と、美、資生堂のスタイル」展、公式図録(新刊/2200円)も入荷しています。資生堂が創り上げてきた美の世界を、様々な角度から照らした作品展で、現在巡回中です。京都は高島屋で開催されます。

 

 

 

 

トップ・モデルとして活躍した山口小夜子(1949- 2007)は、今、世界中で活躍しているアジア人ファッションモデルの先駆者でした。黒髪のおかっぱ頭と切れ長の目で「日本ブーム」を起こし、77年にはアメリカのニューズウィーク誌の「世界の6人のトップモデル」に選ばれました。

かつて、勅使河原三郎の前衛舞踊の舞台で、彼女の踊る姿を観たことがあります。思っていたよりずっと背が高く、存在感のあるカッコいい人でした。その山口の、モデル時代から女優、舞踏家としての半生を、膨大な写真、ポスター等で振り返った「山口小夜子 未来を着る人」(河出書房新社/新刊2916円)を入荷しました。

高田賢三、山本寛斎らのファッションショーで注目され、パリコレへと進出します。その独特の雰囲気が、欧米で日本ブームを巻き起こします。神秘的で、鋭い目線は、それまでのトップモデルのスタイルにはなかったものです。73年発行「毎日グラフ」の表紙などの古い写真も混ぜながら、モデルとして活躍した全盛時代を見ることができます。

この本に収録されている、イッセイ・ミヤケを着た写真(右)は、彼女の魅力を完璧に表現しています。能面のような無表情で、こちらを見つめる目の奥に冷たい炎が燃えています。

1973年、彼女は資生堂の専属モデルとなり、同社のCMに出演。86年まで続きます。資生堂は彼女の起用で、それまでの欧米一辺倒の美から、日本的な美を作り上げていきます。資生堂時代のポスターも数多く収録されていますが、写真家横須賀功光とアートディレクター中村誠とのコンビで創り上げられた香水のポスターは、大胆なトリミングで観るものを圧倒します。我々世代には、山口小夜子といえばこの頃の美しい大胆な姿が強烈に残っています。

竜安寺の襖に描かれた竜の前で撮影された「流行通信」の写真などは、芸術作品です。80年代の「流行通信」は、けっこう過激で面白い写真がいっぱい掲載されていました。その一方、彼女は舞台、映画女優としてのキャリアを積んでいました。77年、寺山修司「中国の不思議な役人」で飛躍し、舞台をダンスや舞踏の世界へと広げていきます。彼女に触発されたアーティストはさぞ多かったことでしょう。一昨年、公開された山口のドキュメンタリー映画「氷の花火」のことを以前ブログに書いていますので、よかったら読んで下さい。

時代の最先端を疾走しましたが、急性肺炎で58歳でこの世を去りました。それまでの日本女性の美しさから、クールで強くミステリアスな女性の美を創造した功績は大きいと、改めて思いました。

※紹介したばかりの「山口小夜子 未来を着る人」(河出書房新社/新刊2916円)は、売切れました。