絵本作家、酒井駒子の絵と散文が楽しめる「森のノート」(筑摩書房1800円)が入荷しました。元々、筑摩書房が発行している小誌「ちくま」に2014年から2年間連載していた「引き出しの森」に加筆したものです。

「ちくま」は書店店頭で無料配布しているものですが、発行部数が少ないのかあまり見かけることはありませんでした。どうしても欲しかったので版元に連絡して2年間分送ってもらいました。今でも、書架から出しては、少しづつ読んで、眺めています。

淡いタッチで、少年少女の孤独な心の奥まで見せてしまうような彼女の画風は、今更説明する必要はないと思います。作品に付随している短い文章に注目です。

「演習か何かだろうと思う。飛んでくる軍用機をあんなに近くで見るのは初めてだった。カラマツの森とカーキ色の機体とのコントラストが不穏で何度も頭の中で思いだす。機体にはフロント以外、窓が一切無かった。ぬるんとした生き物みたいだった。」

軍用機の不気味さを「ぬるんとした生き物」として、殺戮の恐怖を表現しています。で、この文に描かれている絵は、白いワンピースを着た少女が、小さな鳥と戯れている様を描いた作品です。もしも、この軍用機が爆弾を落として、少女を吹き飛ばしてしまうことを想像すると、ぞっとしてきます。

絵が単に文章の挿絵になっていないところも、この本の面白いところです。例えば、バレーのコスチュームを纏った少女が、仔グマと踊っている作品の後に続く文章は、「道の途中」というタイトルで、郊外の古い建物に入った時の印象と、散歩途中の橋で見つけた小さな子ども用手袋のエッセイ。「小さなミトン。欲しいような気がしたが、通りすぎる。子狐の、細い棒のような手に、はめてみたい」と、クマさんの手を取って踊る少女の切なさがシンクロしているように感じました。上手い本作りですね。

酒井は、多くの本の表紙の絵を描いていますが、岩瀬成子の「マルの背中」(講談社1200円)の表紙絵も素敵です。母親と二人暮らしの少女が、ある日”幸運の猫”を貰いうけます。真白な猫とそれを見つめる少女を描いています。大人が考える以上に、過酷な世界で生きている子どもの世界を象徴的に描き出した作品ですが、個人的にはここに登場する駄菓子屋のおっちゃんを描いて欲しかったです。

 

 

 

 

 

 

★安藤誠ネイチャートークショー「安藤塾」今年も開催決定しました。

北海道のネイチャーガイドで、釧路ヒッコリー・ウインドオーナー安藤誠さん(写真右・愛犬キャンディと)のトークショーを10月25日(水)19時30分より開催します。(要・予約 レティシア書房までお願いします) 

 

 

 

人気作家の江國香織が、古書店のブログで紹介されることは皆無ですが、本の紹介エッセイが好きです。彼女に興味を持ったのは、「絵本を抱えて部屋のすみへ」(白泉社/ハードカバー/絶版450円)でした。ガブリエル・バンサン、M・センダック等の海外の絵本作家を紹介しているのですが、その中で田中弘子(文)、田中靖夫(絵)の「ファミリー・レポート」が取り上げられています。これ、かつてよく出入りしていたジャズ喫茶の窓辺に立てかけてあった絵本です。犬小屋を持たない犬とニューヨーカーたちの十数編の物語です。NYという都会のイキな空間を捉えた絵本でした。

もう一点、最近入荷したのが「活発な暗闇」(いそっぷ社1050円)です。これは、彼女が選んだ詩を集めてあるのですが、カーヴァー、ブローディガン、サバ、ロルカ等の海外の詩人がかなり収録されています。

「ホテルの窓から外を見ると ニューヨークは雪だ、夥しい数の巨大な雪片、まるで 無数の透明な洗濯機がこの都会の 汚れた大気を撹拌して、洗濯しているようだ。」

ブローディガンの詩ですが、マイルス・ディビスのクールなジャズサウンドが、聴こえてきそうなぐらいかっこいいなぁ〜と、個人的には好きな詩です。

江國自身このアンソロジーを「かなり無秩序な、無論ひどく偏った、でもどう見ても力強いアンソロジーです。」と書いています。「力強いアンソロジー」という表現は、的を得た言い方です。林芙美子、室生犀星、金子光晴、中原中也の間に、「クマのプーさん」のA.Aミルン、幻想的歴史小説「シルトの岸辺」で日本でも人気の高いジュリアン・グラックが顔を出す、というアナーキーな編集は作品が持っている強靭な精神を伝えてきます。

さらに彼女はイギリスの詩人、アルフレッド・テニスンの「来るんじゃない 私が死んだならば」を自ら翻訳して収録しています。この詩は「来るんじゃない 私が死んだならば お前のおろかな涙など 私の墓にこぼしてくれるな」という直球ど真ん中の力強いものです。

中でも私が一番好きなのは、八木重吉の、たった二行の詩「雪」です。

「雪がふっている さびしいから 何か食べよう」

なんか、ほっとしません?

この新装改訂版の表紙絵は酒井駒子です。駒子ファンも見逃せません。

 

絵本作家、町田尚子さんの個展を観に行った時、いやぁ〜人を食った顔だなぁ〜と拍手喝采したのが彼女の新作絵本「ネコヅメのよる」(WAVE出版/新刊1512円)でした。この表紙を見ればわかりますよね。昨今猫ブームとかで、大量に猫本が出版されていますが、この本がピカイチだと思っています。

 

主人公は家猫ですが、人間が一人も出て来ません。そして、極端に少ない言葉。「おや?」「あれ?」「もしかして」「そろそろかもしれない」なんてフレーズに絵が一枚づつ付いているのですが、猫を見つめる視線が、まるで映画のカメラを覗いているみたいです。ローアングル、ロングショット、超アップ、大俯瞰と変化していきます。そしてある夜、猫達が行き着くステキな場所へと我々を誘ってくれます。妙に擬人化を施さないとこがいいです。猫に興味のない人もフフフと笑えてきそうな一冊。玄関に立てかけておいたら、この顔ですから厄払いもしてくれるかもしれません。

 

 

さて、もう一冊、やはり素晴らしい絵本の紹介です。酒井駒子(絵)、LEE(文)による「ヨクネルとひな」(ブロンズ新社/新刊1620円)です。仔猫のヨクネルのかよわい表情、女の子ひなちゃんの素直な感情が、酒井駒子さんらしい繊細なタッチで描き込まれていて、高いクォリティーの絵本に仕上がっています。ひなちゃんの顔、手の動き等隅々にまで、仔猫への愛しさが溢れています。ぐっすり眠っているヨクネルの表情も、よく猫を観察されているなぁ〜と感心します。駒子ファンなら、必読の一冊です。古書では、「金曜日の砂糖ちゃん」(850円)、「BとIとRとD」(1300円)、「ビロードのうさぎ」(1250円)、「くまとやまねこ」(1050円)もあります。

さて、こちらも新刊ですが、五味太郎「絵本図鑑」(青幻舎3024円)も見逃せません。1973年から2016年までに発表された、五味太郎の作品が網羅されています。全作品の表紙を収録、またエポックメーキング50と題して本人のコメント付きで中身が紹介されています。後半には五味太郎覚え書きがあります。

また、メリーゴーランド店主、増田喜昭さん他の方々が、五味太郎について語っていますが、その中で、編集者の小野明さんが興味深い指摘をされています。

「五味太郎は垂直好きだ。ビル、煙突、立木、塔、灯台、殿中、旗、信号、標識、杖…….。 絵本のそこかしこに立っている。」

絵本はページをめくる行為が水平方向の動きを促進するので、そちらに強い。だから垂直なものは、水平方向の動きに対して読点を打ち、画面全体をリズミカルにもする。画面がはずみ、軽快にする作用を持っている、との指摘です。これから五味太郎の絵本を見るときには、この点を注意して見てみるのも面白いかも。

★レティシア書房では、新刊書・古書の色々な絵本を置いています。

 

次週9日(火)から始まる「女子の古本市」に出る本のご紹介第二弾です。

酒井駒子が表紙の絵を担当した、岩瀬成子著「そのぬくもりはきえない」(偕成社650円)。彼女らしいデッサンの少女「波」ちゃんと、静かに佇む愛犬「ハル」を描いて、この長編小説の世界を表現しています。とある家に飼われている犬の散歩を任されたことから始まる事件を通して、少女の葛藤を描いていきます。駒子ファンなら持っていて欲しい一つです。

この著者のものでは、「朝がだんだん見えてくる」を読んでいました。この小説、70年代初頭、岩国にあって、ベトナム戦争拒否の兵士たちの支援をしていた、べ兵連(ベトナムに平和を!市民連合 作家の小田実が代表)の活動家が、経営していた喫茶店「ほびっと」をモデルにしています。岩国出身の作者は実際にこの喫茶店に出入りしていて、その体験を元に、中学生の女の子の意識の変化を描いた小説です。物語の構成が巧みで読ませる作家です。

同じく、犬が登場するのがクリスティーン・ハリスの「ジャミールの新しい朝」(くもん出版450円)です。トルコの小さな町に一人ぼっちで暮らす少年が、ある日、やせっぽちの犬に出会います。徐々に犬と心通わす少年。しかし、大地震が彼らを襲います。地震というスペクタクルを利用しながら、それまで周囲に対して頑に心閉ざしていた少年の心の変化を描いていきます。ラスト、救助に駆けつけたおじさんが、少年に向かって、この犬は誰のものと問いかけ、少年はこう答えます

「ぼくの犬だよ、ぼくの大事な友だちなんだ。」

爽やかな幕切れ。どちらも子供向けの小説ではありますが、心がボキッと折れそうな時にこそ、大人の貴方に読んでいただきたい作品です。読んだ後は、飾っておいても。

やはり、ホッとさせてくれるのが、坂崎千春の「クウネルがゆく」(マガジンハウス500円)ですね。緑の星グウタラ星の住人、クウネル君の日常を描いた脱力系イラストですが、こんな文章に出会いました。

「郵便局(小さくてもいい)、本屋さん(中くらいがいい)、パン屋さん(もちろんおいしくなくちゃ)、公園(芝生と噴水があれば申し分ない)、この町にはクウネル君が必要とするものが、ちゃんとそろっています」

これって、幸せを感じさてくれる町の定義ですよね。こちらも部屋に飾っておくには良さげな一冊です。

鬱陶しい気分の日々を慰めてくれる本を探してみるのも、この古本市の楽しみですよ。しかも安い!!

 

「女子の古本市」 2月9日(火)〜21(日) 15日(月)定休

 

絵本作家酒井駒子さんを中心として、クリエイター達が、絵本を一から製作するための「絵本のつくりかた1」(美術出版社・絶版1050円)が入荷しました。

100%オレンジさんとつくる「おりがみ絵本」、「ポップアップ絵本」等の楽しい紹介を経て、駒子さんの絵本づくりの秘密に触れる「絵と物語が生まれるところ」へと続きます。美術系の大学卒業後、和物のテキスタイルデザインの仕事をしていた彼女が、何故絵本の世界へ飛びこんだのか、四苦八苦して最初の絵本を出してゆくまでが語られていきます。

本の後半はもっと実践的です。製本の仕方、印刷とDTPに関しての知識まで網羅されています。さらに、新井良二さんの対談、武井武雄さんの紹介、最後には「絵本作家に必要な資質とは何か」という五味太郎さんのインタビューが掲載されています。そして、free style bookという中身が真っ白な本が付いていて、それぞれに絵本を描いてください、という趣向いなっています。

この本は絵本を作りたい人のための本である、と同時に、こんな風にして絵本は出来上がるのかという楽しみ方もあります。駒子さんの絵本「くまとやまねこ」(河出書房新社950円)、「きつねのかみさま」(ポプラ社800円)、「ビロードのうさぎ」(ブロンズ新社1150円)、「金曜日の砂糖ちゃん」(偕成社850円)、「BとIとRとD」(白泉社1300円)なども、すべて美本で入荷しましたのでご覧下さい。

もう一点、ルース・エインズワース作 石井桃子訳 酒井信義「ちいさなろば」(福音館書店900円)。ひとりぼっちのろばが、けがをしたサンタのトナカイに変わってソリを引き、サンタさんから素敵なプレゼントをもらうという筋立ての絵本ですが、ろばの表情が素敵です。

プレゼントを配るために、サンタのソリは、町中をすっ飛ぶのですが、その絵は、宮崎アニメばりの疾駆感があります。豪華なクリスマスツリーも、料理も登場しませんが、ハートウォーミングな気分になること請け合いの絵本です。クリスマスプレゼントにいかがでしょう。

当店人気のミニプレス「はしっこに馬といる」(1836円)と一緒に馬&ろばでプレゼントしたら、「センス良いね」って言われるかも。(何だこれ??と怪訝な顔される可能性もあり)

 

平凡社の出している「太陽」は、古本市定番の雑誌です。

今回も350円〜400円前後で十数冊出ています。2000年7月「キャパ」、88年10月「泉鏡花」、1999年12月「ヒコーキ野郎」等々。

「太陽」の他にも、面白い雑誌が沢山出ています。やはり、出たかと思ったのは、筑摩書房が出している小冊子「ちくま」です。これ、実は私も出版社からまとめて買いました。その理由は、表紙が絵本作家の酒井駒子が描いているからです。今回出ているのは2014年1〜4月号の四点セットで、価格は300円です。酒井駒子の表紙シリーズは今でも続いています。ファンの方はぜひ。

神戸の出版社が出しているミニプレス「ほんまに」の15号と16号もあります。15号の特集は「街の本屋海文堂閉店に思う」、16号は「続・神戸の古本屋」で、若手古書店オーナー同士の対談や、老舗店店長のお話、さらに神戸の古書店地図まで付いた保存版で(版元品切れです)どちらも200円です。

書店がらみの本なら、「東京人」が特集する「神田神保町の歩き方」の2002年版、2004年版が各200円で出ています。どちらも資料として持っていたい雑誌です。書誌関係では、1975年に創刊された「本の本」の創刊号から最終号まで全16冊セットで3200円というものあります。作家別に特集を組んだりしていますが、面白いのは76年発行の日記文学の特集号です。十数名の文学者の日記が論じられています。

常連雑誌の「WAVE」 からは、ボリス・ヴィアンの特集号です。ヴィアンや、その当時の最先端をゆくアーティストが夜ごと集まった「サンジェルマン・デ・プレ」を中心に解説している内容の濃い一冊です。巻頭文はヴィアン自身による「サンジェルマン・デ・プレの定義」です。こちらは400円。

最後にレアな一冊を。「Coyote/コヨーテ」が特集した2004年11月発行「星野道夫の冒険」です。これ、星野がどんな本を読んで、旅に出たかが書かれています。また、アラスカの自宅に持ち込んだ700冊の蔵書リストが掲載されています。左棚1列目「宮沢賢治の彼方へ」右棚1列目「路上にて 開高健全ノンフィクション」といった具合に、彼の書架を眺めている雰囲気です。こちらは絶版で1800円。探している人も多いので、お早めに。

★レティシア書房一箱古本市は、23日(日)までです。

尚24日(月)〜27(木)まで休業いたします。

★イベントのお知らせ

当店のお客様の作家、中村理聖さんが23日、「もりのみやキューズモール」で読書会をされます。詳しくはHPをご覧下さい。

酒井駒子さんの絵本が10冊ほど揃ったので、ギャラリースペースに並べました。

小川未明原作「赤い蝋燭と人魚」(偕成社1150円)は、ご存知のように悲しいお話ですが、酒井さんの深い美しい色合いに魅かれて最後まで読んでしまいます。(そしてまた泣きそうになります。)

須賀敦子の文による「こうちゃん」(河出書房新社1250円)にこんな文章があります。

『こうちゃん、灰いろの空から降ってくる粉雪のような、音たてて炉にもえる明るい火のような、そんなすなおなことばを、もう わたしたちは わすれてしまったのでしょうか。』

そんな言葉に呼応するように、酒井さんの絵は深く静謐な画面をつくりあげていきます。けっして明るい絵本ではありませんが、大切にしたいことがいっぱい詰まっています。

「くまとやまねこ」(河出書房新社950円)は一番のお気に入りです。大切な友である小鳥を失った哀しみから立ち直れないクマは、じっと殻に閉じこもったまま、暗い心を抱いていました。ある日、山猫と出会い、小鳥の死と向き合いそして受け止めます。メデタシメデタシの終わり方のない絵本には、死を背負いながら生きていく切なさに満ちています。

 

絵本の他に、酒井さん装丁の本もあります。糸井重里「夜は、待っている」(糸井重里事務所1200円)小川洋子「最果てアーケード」(講談社1100円)川上弘美「七夜物語」(上下セット2100円朝日新聞社)。また、雑誌「Pooka+」の酒井駒子特集号(1000円)など。お見逃しなく。

 

Tagged with: