「2008年11月3日 昼間の高速バスに乗り、京都駅に着いたときは20時を少し過ぎていた」という日記で始まります。消費者金融に多額の借金を残し、自己破産寸前の父を、なんとか社会復帰させようと努力する息子の記録した日記は、2009年8月まで続きます。

だが、ある日、父がフッと姿を消してしまいます。そして、またフッと戻ってきます。その繰り返しの日々。

そんな父親の姿を、写真家である息子が撮影し始めます。

写真家はこう思っています。

「ある日突然いなくなり、しばらくのあいだ姿が見えなくなる。そのような『蒸発』を繰り返すことで、私の父は何もない人間になること。それはおそらく父自身が望んだことだ。何もない人間になれば、自分のことについても、自分のことを考えてくれる他人についても、考える必要がなくなるのだから。」

「何もない人間」って何?を知る為に、写真家は膨大な写真を撮っていきます。一体、父の人生って何だったのか、父の心はどこにいったのか、その闇の奥へと向かった試行錯誤。それを一冊の本にしたのが、金川晋吾の処女写真集「father」(青幻舎2916円)です。

圧巻は最後に収録されている、父自身が撮影した自分の顔の数多くの写真です。自画像と言っていいのでしょうね。多くのことを語っていそうで、実はすべて消去してしまったかのような表情です。

この顔から、何を読み取れるのかは、人それぞれ、その人の人生観で変わると思います。しかし、そもそも外側から判るものがどれほどあるのか。

「やっぱり生きていくのが、面倒くさい」

これは、その父が書き残したメモ書きです。

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