我が国の言語学・民族学の大御所で、アイヌ語研究の本格的創始者の金田一京助(1882〜1971)が、現地で筆録して、実弟の荒木田家寿が、少年少女にもわかりやすいように書き下ろした「アイヌ童話集」(角川ソフィア文庫/古書500円)を楽しく読みました。(元版は昭和37年発行です)

そのままアニメになるような奇想天外な物語や波乱万丈の物語が次々と登場してきます。ただ、ここで一つ押さえておかねばならないのは、アイヌにとって神の観念です。荒木田はこんな風に解説しています。

「アイヌの信仰では、この世の、天地の生きとし生けるもの(といっても鳥獣魚介)はもとより、無生物でも日月星辰から、霊ありと考える宝物類に至るまで、神と考えられるのです。そして、神というものは、神々の本国では私たちと同じように家を建てて村を作ったり、アッシを着て酒を飲み、妻子を愛して、アイヌと変わらぬ生活をしているのですが、人間界へ遊びにくる時に、神々が銘々持有のマスクを着け、それが熊はあの姿、狼はあの姿、その他、鳥の姿、魚の姿等々、それぞれそうした特異のかっこうをしてくるのであって、いわばそれらは、人間界へ遊びにくる姿なのです。」

「ききん魔を退治する話」では「ふと、林のなかからつづいている道に、黒い小そでをきた熊の神と、青い小そでをきたおおかみの神とが、なにか話し合いながらくるのが見えました。」と描かれてます。なんだか、微笑ましいですね。

若殿が人食い馬と友情を結ぶ話やら、子供と大熊の力比べの話やら、アイヌの英雄オキクルミが魔人と戦う勇猛な話など、童話の面白さに浸りながら、アイヌ人の神や自然に対する思いを感じられる素敵な一冊だと思います。

こういった一子相伝などで伝えられてきたアイヌ民族の文学的創造は、金田一が生涯をかけて記録しなければ残らなかったかもしれないと、解説に書かれていました。