文学ムック「たべるのがおそい」(vol.1vol.2各1404円)という本が、福岡の出版社「書肆侃侃房」からでています。

1号の特集が「本がなければ生きていけない」、2号の特集が「地図−共作の実験」です。若手作家、ライター、詩人、歌人がそれぞれに作品を発表していて、1号では藤野可織、穂村弘、2号では津村記久子、森見登美彦らのベテランも登場しています。

「本がなければ生きていけない」は、同じ様なタイトルの特集で、本への熱い愛情を語ったり、大事な本を抱えた作家と幸せそうな写真、などが多い中、こちらはいたってクールなところが心地よい。本を読む事についての思いが短いエッセイで語られています。そして、作家の気になる三冊がそれぞれ紹介されているのですが、どれも個性的です。歌人でありながら、校閲を生業としている佐藤弓生さんが、職場の静けさをこんな風に描いています

「みな鉛筆を手に黙ってゲラを読んでいます。じょわーと電動鉛筆削りの音がたまに響くのも風情があります、鉛筆の匂い、いいですよ森っぽくて」

「いいですよ森っぽくて」って素敵な表現だなと思いました。

また「なお眼鏡女子、男子が多いので、文学フェチかつ眼鏡フェチには天国っていうかむしろ浄土かも」という文章には吹き出してしまいました。

第1号で「公共へはもう何度も行きましたね」ー言わずとしれたフォークの名曲マイペースの「東京」のパロディですーというタイトルで短歌を発表している岡野 大嗣さんの作品が気に入りました。こんな作品です

「映画館で大きく笑う老人を見かけて生前の祖父だった」

「あれは赤い観覧車ではなく観覧車が赤く深呼吸をしているんだ」

「夕方のにおいがホームセンターで行き交う誰もが晩年めいて」

なんだかどれも、そんな感覚を持った覚えがあるような。

この出版社、全国のジャズ喫茶巡りの本を出しているかと思えば、若手短歌作家の短歌集も出しています。最近のものでは、中山俊一「水銀飛行」、杉谷麻衣「青を泳ぐ」、鈴木晴香「夜にあやまってくれ」(各1836円)を仕入れました。

短歌なんて縁遠い世界だと思っていたのですが、若手作家の作品は刺激的で、面白いものがあります。

「お彼岸の花屋に集う蝶々のどれもこれもが命に見えた」

「教える手おしえられる手が重なってここに確かに心臓がある」

どちらも鈴木晴香「夜にあやまってくれ」の作品ですが、ユーモアとハートウォーミングな感性が詰まった短歌集です。