80歳の鋤田正義さんが、カメラぶら下げて、飄々と街を歩いているのを見たら、写真好きなおじいちゃんだ……ときっと思われるでしょう。

鋤田正義、カメラマン。只者ではありません。70年代、彼の写したロックバンドTーレックスのマーク・ボランの、白黒ポートレイトが大旋風を巻き起こし、多くのギター小僧に愛されました。その後、デビッド・ボウイと親交を深め、彼を被写体とした優れた作品を発表し、YMO、忌野清志郎などのジャケット写真を撮影してきました。今まさに旬の、是枝裕和映画のスチール写真なども手掛けてきた人物です。

鋤田のドキュメンタリー映画「SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬」には、多くの人物が登場します、YMO時代に親交を結んだ坂本龍一、高橋幸宏、細野晴臣。デザイナーの山本寛斎、ポール・スミス。スタイリストの高橋靖子、俳優の永瀬正敏、リリー・フランキー、映画監督のジム・ジャームッシュ、コピーライターの糸井重里たちなどが、それぞれに彼へのリスペクトをこめて語ります。

ニューヨークやロンドンを、ゆっくりした足取りで歩く鋤田が映し出されますが、多くの大物アーティストを撮影してきた気負いや、大御所ぶったところが全くありません。被写体になった人物、ボウイはもちろん、YMOの三人しかり、みんな彼との間に、強い信頼関係が築かれています。細野晴臣は、他のカメラマンに撮影されると、まるで武士が刀で切り込んでくるような恐怖があるが、鋤田にはないと表現していました。相手の懐にすっと入り込んで、安心させるような力があるみたいです。上から目線でしゃべらず、威張りもせす、真っ直ぐに相手を信頼し、好奇心一杯で新しいことに飛び込んでゆく、彼の人間力の魅力を映画は浮き彫りにしていきます。

糸井重里が、鋤田を「とても柔らかい人」だと語っていました。さすが、コピーライター!見事な表現です。「柔らかい人」って、とても魅力的ですね。でも、なかなかそうはできません。特に、年齢を重ねてきて自分の世界観を確立すると尚更です。

ロックスターを撮影してきたカメラマンのドキュメントと言うよりは、深い表現力を持った、一人の男性のしなやかな心の在り方を学ぶ映画として、オススメです。

店頭にある忌野清志郎の「メンフィス」 (CD900円)のカバーフォトも鋤田作品でした。