宮沢賢治「銀河鉄道の夜」はジョバンニとカムパネルラという二人の少年が、この世ではない彼方を旅するお話です。しかし、長野まゆみ「カムパネルラ版銀河鉄道の夜」(河出書房新社/古書1300円)は、小説では死んでしまうカムパネルラを主人公にして、彼がこの物語を、そして宮沢賢治を語るというユニークな設定です。「銀河鉄道の夜」を読んだ人には、ほぉ〜そう考えるか、なるほどあのシーンはそういう意味が隠されていたのかなどと興味深く読んでいただけるかも。まだ読んだことのない方は、不思議極まりない物語を作り出した宮沢賢治という人に強く惹かれると思います。

本書は「銀河鉄道通信社取材班」の松本ちかさんが、特殊な通信システムを使ってカムパネルラに取材したものを配信する形で進行していきます(ZOOMみたいなものでしょう)。小説「銀河鉄道の夜」の本文を挟みながら、彼がどのような旅をしたのかが語られていきます。

で、面白いのは、このインタビューに横入りしては、宮沢賢治のことを批判的に言い放つ人物が登場してきます。それは、誰あろう中原中也です。度々登場しては、好きだった女性を追い回したストーカーだっただの、彼を捨てて渡米した婚約者が忘れられなくて、小説やら詩をダラダラ書いていたんだの、言いたい放題ですが、私はあながち間違いではないと思います。好きだった女が住んでいた家をじっと見つめる彼を想像できるのです。

聖人みたいな賢治ではなく、本書では複雑な思いに苦しむリアルな彼の姿を見せてくれます。彼には恋人がいなかったという通説をひっくり返したのは澤口たまみの「宮沢賢治 愛のうた」(夕書房1980円)でしたが、長野まゆみも、彼と彼の愛した女性のことに注目して、進めていきます。

「銀河鉄道の夜」完成前に賢治は亡くなりました。カムパネルラはこう語ります。

「賢治先生は『銀河鉄道の夜』を完成させずに亡くなりました。草稿を書きはじめてから晩年まで、書き直しをくりかえします。しかも、書きなおすたびに原稿を解し、またあらたに構成しなおすのです。そのため、ページ番号も寸断されました。先生が最終的にどうしあげるつもりだったのかは、残された原稿から推測するしかないのです。」

小説は、様々のバージョンが存在しています。そして、どれも面白いのです。何度も何度もくりかえし読みましたが、いつも新鮮なのです。そこが不思議なところです。

●夏季休業のお知らせ  勝手ながら8月9日(月)〜17日(火)お休みいたします

私が出演するZOOMミーティング「フライデーブックナイト」の第1回が、今月20日に決定しました。ご興味のある方は下記アドレスまで

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お昼の休憩とか、次の授業まであと少し時間が…なんて時に、長野まゆみ「ささみみささめ」(筑摩書房/古書1100円)はオススメです。不気味な話、苦笑いする話、不思議な話、呆然とする話、しみじみする話、ぞっとずる話など25編の物語が詰まった一冊です。一話十数ページ、そしてその殆どの運びが上手い!巧み!最後は座布団一枚!の幕切れなのです。

実は、長野まゆみという作家とは個人的に相性が悪かったのです。彼女は、小学校時代に竹宮恵子「空がすき」の漫画で衝撃を受け、少年愛ものの世界に入りこみ、萩尾望都などを読んでいました。耽美的な作風で、鉱石、幻想世界の美少年、といったモチーフを多用して少年同士、あるいは少年と青年の関係を描いた作品を書いています。宮沢賢治への言及も多いので、何冊か手に取りましたが、最後まで読んだ記憶がありません。しかしこの本で、日常の何気ない瞬間を描きながら、予想外の展開へ読者を誘う手法に、上手いなぁ〜と感心してしまいました。

例えば、娘と介護施設にいる父親の葛藤と許しを描いた「ドシラソファミレド」。物語に登場する「もろびとこぞりて」の歌に託された父のメッセージに気づいた娘の目が潤んでくる所に、こちらも涙します。また、小学校の時、なんでも出来る友だちミッチに羨望の念を持っていた主人公Qチャンが、数十年ぶりに出会い、お互いの人生の分かれ道を振り返る「すべって転んで」のラスト、

「運命の別れ道には太い橋がかかっているわけじゃない。うっかり見逃してしまうような細い細い道なのよ。娘にはそれを云いそびれたけど、このあいだ生まれた孫には耳にタコができるぐらい云ってやるつもり」

こんな会話どこかで聞こえてきそうですね。

この作家らしいな、と思ったのが「スモモモモ」でした。語り手である男には、双子の姉がいます。小さい時から雛人形が大好きで、小学校に入る時もピンクのランドセルに憧れ、しっかり者の姉に寄り添っていました。やがて、姉は結婚し、姉の夫とも仲良くなり、一緒の時間を過ごしますが、突然の事故で姉がこの世を去ります。でも、その後も姉夫妻の家で、義兄の好きな料理を用意して時間を過ごします。

「義兄もぼくを姉だと思っている。姉の死を受け入れることができず。事故で死んだのは、車酔いをする姉と席をかわって助手席に乗っていた弟のぼくだと思い込んでいる。周囲にもそう話す。」

世間的には奇妙な風景かもしれないが、誰も不幸じゃない、という幕切れが素敵でした。

 

★年内は12月30日(日)まで営業いたします。年始は1月8日(火)より通常営業いたします。

★イベントのお知らせ「宮沢賢治 愛のうた 百年の謎解き」

2019年1月18日(金)19時より、「新叛宮沢賢治 愛のうた」を出された澤口たまみさんとベーシスト石澤由男さんをお迎えしてトーク&ライブを行います。ご予約受付中(1500円)