書店に関係した本は、山のように出ていますが、海外の作家15人を集めたアンソロジーは珍しいのではないでしょうか。ヘンリー・ヒッチングス編集による「この星の忘れられない本屋の話」(1000円/出品・本は人生のおやつです)。編集者ヒッチングスが、作家たちに自分の人生のどこかで関わりを持った書店、あるいは古本屋にまつわる話を書いてもらいました。作家たちは、ウクライナ、コロンビア、旧ユーゴスラビア、中国、エジプト、インド等々世界各地から選ばれています。トルコ出身のエリフ・シャファクの「物語がわたしの故郷」にこんな羨ましい文章が登場します。

「フェリーに乗って行き来しながら、ヨーロッパ側の本屋では古典文学やアカデミックな本を買い、アジア側の本屋ではカウンターカルチャー系の本屋雑誌やファン雑誌を入手していました。」

フェリーに乗れば、アジア側にも、ヨーロッパ側にも行けるイスタンブールならではの地理的メリット。作家を育てたのは、街の本屋だったんだ、と納得の一冊でした。

以前、ブログでも確か紹介した雑誌「MONKEY」の「音楽の聞こえる話」(400円/出品・クロアゼイユ)は、私には価値のある一冊でした。今、最も好きな作家小山田浩子に出会ったのが、この雑誌に収録されている「動物園の迷子」でした。見当がつかない小説とでも言いましょうか。まるで、文章の中で、こちらが迷子になってしまう物語なのですが、そのシュールで不思議な世界に浸っていると、何故か気分がいいのです。

柴崎友香に心引かれたのも、ここに掲載された「バックグラウンドミュージック」でした。葬儀のために、久々に故郷の島に戻ってきた姉と弟、二人の少しの時間を描いた短編です。この中に、姉のこんな独白があります。

「どこにいるにしても、なにをしているにしても、好きな音楽をかけられればいいと思う。好きな音楽が聞こえていれば、なんとかやっていける」

よくある台詞ですが、この物語の中では光り輝いていました。この短編を読んでから、柴崎の新刊は手にします。好きになれそうな作家に出会えるところが、文芸雑誌のいい所です。