話題の韓国映画「パラサイト・半地下の家族」を観ました。映画館に滅多に行かない人も騙されたと思ってお出かけください!呆気にとられること間違いなしです。

韓国社会の格差をテーマにしているのですが、それをウルトラC級の映画テクニックで大エンタメに仕上げました。

事業に失敗ばかりしているキム一家。しがない内職で食いつなぐ一家は、半地下にある部屋で、夫婦と娘と息子の四人で生活しています。ある日、息子のギウが IT企業の社長の娘の家庭教師に雇われます。まぁ、その邸宅の立派なこと、登場する社長夫人も漫画に出てきそうなハイソな奥様です。家庭教師を始めたギウは、様々な仕掛けをして、父キム、母チュンスク、姉ギジョンを、次々にこの家庭に送り込みます。「高台の豪邸」一家と、「半地下家族」一家が交差してゆく過程でさらけ出される驚くべき真実!この格差には、さらに底があったのです。半地下だと思っていたら、あ〜ははは〜画面に釘付けになりながら、卑屈な笑いをしている自分に驚きます。

残念ながら、これ以上本作の内容については語ることはできません。しかし、観た後必ず誰かと話したくなる力を持っています。私の大好きな映画監督の阪本順治が「感動を越えて、ひざから落ちた。これはもう映画の範疇に収まらない」というコメントを出していますが、いや本当に、転げ落ちそうになりました。

半地下の住人たちを襲う大雨の凄まじさ、それはまるで黒澤明の「七人の侍」のラストのようなすごい雨、しかしその一方で高台の一族は、嵐などどこ吹く風で翌日には自宅に友人を呼んで優雅なランチパーティーを行なっています。

そこで繰り広げられる惨劇から、映画は一気にラストへ突入し、我々観客をはるか彼方へ放り投げてしまいます。生半可な感情や思いなんぞ、捻り潰し捨てて、恐るべきエンディングを迎えます。最後までエンタメ映画を作りながら、今の時代を切り取ったボン・ジュノ監督のしてやったりという高笑いが聞こえてきそうです。

映画監督の西川美和が「どんなに斜に構えている人でも、どんなに映画を見慣れていない人でも、五分で目を離せなくなるように作られています。」とコメントしていますが、映画という表現メディアは、ここまで出来るんだということを思い知らされました。

とにかく、観てください!それしか言いようのない稀有な映画でした。

 

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チェ・グクヒ監督「国家が破産する日」(京都シネマ)は、韓国映画の力強さを見せてくれた傑作でした。

韓国経済が右肩上がりの成長を遂げ、国民が好景気が続くと信じていた1997年。しかし、その裏側では海外投資家が韓国から撤退を始めていました。韓国銀行の通貨政策チーム長ハンは、やがてこの国を襲う危機を予測し、政府へ報告しますが対応は後手に回り、さらには国民には公示せず秘密裏に事を運ぼうとします。それが裏目に出て国家破産の一歩手前まで加速する様を描いた映画です。

主な登場人物は4人。通貨政策チーム長ハンは、なんとかこの事態を国民に知らしめようと奮闘努力するのですが、国民の混乱を招くから非公開にするという政府首脳の姿勢の前に苦戦します。これって、福島の震災の時に原発の正確な状況を公開しなかった政府、東電、そして安全と言い続けた御用学者の発言と全く一緒です。ハンは、最後の手段として、記者会見を開いて事実を公表するのですが、どのメディアも政府への忖度で公表せず、失脚していきます。

二人目は、町工場を営むガプス。デパートからの大量注文が、それまで現金決済だったのを手形決済にされ、この経済危機でデパートは倒産して手形は紙くず同然になってしまいます。国民を蚊帳の外に置いた政府の密室政策に翻弄されて、全てを失います。いわば市民の象徴的存在で、やはり震災の時に翻弄された人々の姿とダブってきます。

三人目は、この危機を金儲けの機会と捉え、のし上がってゆく青年ユンです。常に「政府には騙されん」とむき出しの攻撃で、ひたすら金儲けに突っ走るユンが、実は映画の中で私には最も魅力的でした。損をする奴がいれば、得する奴もいるという資本主義社会を端的に描いています。

そして最後の主人公は、韓国経済を救うためにやってくるIMF代表の理事です。IMF、国際通貨基金は、為替相場の安定を目的とした国連の機関です。加盟国の経常収支が悪化した場合などに融資を実施することで、貿易促進、加盟国の高水準の雇用と国民所得の増大、為替の安定を図る、というのが設立の趣旨なのですが、ここでは他国の経済に介入し自国にとって利益になることを画策する組織として描かれています。自国とはアメリカ合衆国のことです。 IMFがこんなことを実行するのかは、分かりません。ただ、アメリカさえ儲ければ良しの大統領トランプの影がちらつきます。

この四者を巧みに操りながら物語を進めてゆく、チェ・グクヒ監督の手腕は大したものです。二時間ほどの上映時間中、緊張の糸は切れることはありません。面白いのはラストシーンで、この危機から20年後のハン、ガプス、ユンが登場します。なるほど、人生ってこんなに変転してゆくのかと思わされます。

そして映画は、国を盲信するな、メディアの言動を疑え、自分の目で見つめろ、ということを訴えて終わります。お隣の韓国の話ですが、日本の状況も全く同じです。お前の国はどうなのだと突きつけられた映画でした。

 

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海外文学で台湾、韓国の作家が注目されています。白水社エクス・リブリスという海外文学シリーズに、若手の旬な作家の作品が集められています。その中の一冊、呉明益の「歩道橋の魔術師」(古書/1800円)を読みました。

今年、最も鮮やかな印象を残す短編集でした。ノスタルジックな雰囲気に抱きしめられて、読書の快楽を思い切り感じさせてくれました。

呉明益は、1971年台北生まれのエッセイスト、小説家です。本作品には、タイトルになっている「歩道橋の魔術師」のほか、10作品の短編が収められています。そして、幾つかの作品に魔術師が登場し、物語に深い幻想的雰囲気を出しています。

舞台は、戒厳令解除(1987年)の前夜、台北の繁華街「中華商場」。経済成長の熱気ムンムンの商店街に生きる子どもたちが、遊び、学び、働いている姿には、日本の昭和30年代〜40年代のノスタルジックな雰囲気が濃厚です。作者自身、尚場で青年期を過ごしています。だからと言って、そんな気分だけの物語ではありません。

歩道橋に魔術師がいて、現実世界とは違う世界を見せてくれる。しかし、それはともすれば、子どもたちを、現実とイリュージョンの彼方へと引きずりこみます。ただ、物語の視点は、大人になった子どもたちのそれであり、あの時代を見つめ、すでに自分の人生の方向が決まっていたことを冷ややかに思い出すのです。その距離感が、巧みです。

本作を翻訳した天野健太郎は、「呉明益の平易で、かつしっかりとした透明感のある文体は淡々と人物、会話、風景を描写し、でも最後、なにかがこぼれ落ちたように、たしかに心をうつ。」と解説しています。

「たしかに心をうつ。」 ホント、そうなんです。

「わたしは浴室に向かって叫んだ。ねぇ、服借りていい? いいよ、右手の戸を開けると、シャツが入っている。わたしはクローゼットを開けた。するとそこにゾウがいた」

という不思議な描写で幕をあける「ギラギラと太陽が照りつける道にゾウがいた」という小説には、読者の心をうつ、何かが潜んでいます。昨今、簡単に号泣させたり、感動させたりする小説が多いのですが、そんなレベルとは遠く、忘れていた自分の心の痛みや、甘酸っぱい後悔を思い出す傑作短編が並んでいます。

絶対、オススメです。