「デルス・ウザラー」と聞いて、あぁ、あの黒澤明の映画と思いだされる方もいらっしゃるでしょう。(映画の題名は「デルス・ウザーラ」)黒澤監督がソビエトに出向き、アルセーニエフ原作の国民的文学を映画化した作品は、「七人の侍」「天国と地獄」とともに彼のベスト3だと私は思っています。(写真は映画のワンカット)

さて、原作を書いたアルセーニエフは、1900年代初頭、調査隊を率いてロシア極東の探検を行い、多くの貴重な記録を残しました。そして、その探検行を下敷に、「デルス・ウザラー」を書き上げました。日本では長谷川四郎が翻訳。紀行文学の名作として人気があります。

この原作に、本の挿絵で高い評価を受けているバウリーシンが、絵を提供して出来上がったのが「森の人デルス・ウザラー」です。

実は、こんな見事な絵本が出版されているなんて全く知りませんでした。先月、短い夏休みを利用して、釧路のヒッコリーウィンドに泊った時、そのリビングに置いてありました。版元を調べてみると群像社という小さな出版社。早速連絡して販売させてもらうことになりました。

森を住処とするデルスと調査隊の前に出現する豊かな森と、森で命を育む多くの動物たち。見事な自然描写、細かく描き込まれた生き物たちの表情と植物の見事なこと。バウリーシンは、極東ロシアの大自然の大きさ、美しさを余すところなく描き出しています。映画も原作も、デルスと隊長との友情がじっくりと描き込まれていますが、絵本版の方ではサラリと流してあります。しかし、その一方、襲い来るトラや、ちょっとユーモラスな山猫の姿、細密に書き込まれた鳥達など、絵本ならではの魅力がいっぱい。

森と共に生き、生き物たちと会話してきたデルスですが、ラストはとても悲しい運命が待ち受けています。隊長の厚意で、町に住むことになったデルスは新しい生活には馴染めません。「わし、まったく町に住めん。薪は買う、水も買う、木きると、ヒトしかる」という言葉を残して山に戻りました。その後、森の中で、もらったお金と銃を奪われ人に殺されてしまいます。映画の哀切に満ちた美しいラストを改めて思いだしました。読み応えのある素晴らしい絵本です。ぜひ手に取って見て下さい。(新刊2160円)

 

 

辺境を描かせるとピカイチという監督がいます。デビット・リーンは、「インドへの道」でインドを、ベルナルド・ベルトルッチは「シェリタリングスカイ」で、北アフリカの沙漠を、そして宮崎駿は「もののけ姫」で東北の山奥を魅力的に描き出しました。

黒澤明にも、私的には黒澤映画ベスト3に入る映画があります。それは、ロシア映画界の全面バックアップで撮影した「デルス・ウザーラ」です。

1923年にロシア人探検家ウラディミール・アルセーニエフによるシベリア探検記録[「デルス・ウザーラ」が出版されました。映画公開時に、長谷川四郎訳で 平凡社東洋文庫から刊行されました。東洋文庫を常備している書店が少なかったので、読んではいませんが、映画の方は恐らく黒澤の自然観がベースになっていると思います。

ロシア軍の探検隊の道先案内人となった少数民族出身で、シベリアの荒野を歩き抜いたデルスは、隊長に、

 太陽を指差して「あれ、一番大事な方」、月を指差して「あれ、二番目に大事な方」と言います。

そして、「水風火、とても怖い」(この部分、正確だったかどうか??)と。

 

 太陽と月を指差すシーンでは画面左に昇ってきた月、画面右には沈む太陽を捉えており、私たちが宇宙と共に生きているという今日的テーマをすでに70年代に描いています。

自然と対話しながら奥地へと進み、一行の前に現れた虎に対して、デルスが「森へ帰れ」と話すというシーンは象徴的です。命の輝きを見せてくれたかと思うと、命を奪うという大自然の様々な姿に、釘付けになりました。ダイナミックな黒澤らしい演出ですが、どちらかと言えば、ドラマを観ているというよりは、デルスと共に密林を歩んでいるドキュメンタリーみたいな作品です。

先日TVで「もののけ姫」を再度観ました。描く世界は全く違いますが、デルスもサンも人間社会に背を向けて森へ戻ります。また。デルスの雰囲気は、宮沢賢治の「なめとこ山の熊」に登場する猟師を彷彿とさせます。今回そのDVD版の「デルス・ウザーラ」(本編+製作ドキュメント付き+ブックレット)を入荷しました。風の音、鳥のさえずり、川の流れる音、焚火のはぜる音にまで神経をとがらせた黒澤の映画作りを楽しめます。(定価6000円/販売価格2500円)

 

Tagged with: