レティシア書房恒例の「夏の古本市」本日より始まりです。

第一弾は7月29日〜8月3日「古本ジャンボリーズVS大阪若手古書店」と銘打ちました。

「古本ジャンボリーズ」とは、岐阜の「徒然舎」、伊勢の「古本ぽらん」、名古屋の「太閤堂書店」がタッグを組んだチームです。「徒然舎」さんは、当店でもお馴染みの古書店ですが、今回の目玉は、鴨居羊子作&絵の絵本「クレヨンサーカスがやってきた」(福音館こどものとも)3000円です。この絵本は初めて見ました。しかも、美本です!

「ぽらん」さん、「太閤堂書店」さんもおそろしく個性的で、「まじない秘法大全集」やら戦後間もなく発行された「観察絵本キンダーブックス」やら、「糸井五郎/僕のDJグラフィティー」やら、ニンマリする本の宝庫です。

対する大阪からは、「書肆アラビク」「本は人生のおやつです」「居留守文庫」「Folk  old bookstore」「ON THE BOOKS」の面々が迎え撃ちます。

上下巻「ベケット伝」みたいな分厚い本や、え、こんな本文庫になってたの!と私もお客様も驚いた「大坪砂男全集」3巻セット、傑作アンドレ・モーロアの「パリの女」(800円ですぞ)、表紙がカッコいい文庫「サガンという生き方」やつげ義春の大型本など、濃い内容の本が並んでいます。

で、この対戦のご意見番として、京都は銀閣寺の「古書善行堂」にご参加いただきました。

負けてられへん!と気合いを入れて選書していただいた本がズラリ。特別の「500円(1コイン)」コーナーも設置しました。佐藤忠男監修の「原節子のすべて」という超レアな映画のワンシーン一杯の写真集が、なんと500円。(これはいいな〜と思っていたら、今さっき売れました!残念・・・)

というわけですので、お目当ての本はぜひお早めにゲットして下さいませ。

夏葉社の島田さんと、書評家の岡崎武志さん、そして装丁家和田誠さんが組んで、庄野潤三のアンソロジー小説集を作りました。「親子の時間 庄野潤三小説撰集」(夏葉社2592円)です。

今どき、函入りの本を、しかも庄野潤三のような地味な作家のアンソロジーなんて、大胆ですね。

庄野潤三は1921年大阪生まれ、朝日新聞社に勤務する傍ら、小説を発表してきました。自分の家族とその周囲のことのみを、ひたすら描いてきた作家です。そういう意味では、家族の冠婚葬祭を描き続けた小津安二郎と並んで、極めて珍しい作家です。

編者の岡崎さんは、「夕べの雲」(講談社文芸文庫)に収録されている「山茶花」だけを例外として、現在入手可能な文庫には収録されていない作品を選んでいると、後書きで述べておられます。その理由が、彼が高校二年の時に、あっけなく亡くなった父親の死を認められない自分にあり、その時に読んだ「山茶花」で救われたことによると前置きした上で、

「親子の一方が退場すれば、それは二度と取り戻せない時間であることを『山茶花』は教えてくれた。私はあの時の体験で、ようやく父の死を直視できたし、その日から、庄野潤三がかけがいのない大切な作家となった。」と書かれています。

自分の家族の日々だけを見つめたという意味では私小説の極みになるのですが、このジャンルの小説に色濃く覆われている陰鬱な、破滅的なイメージからは遥か彼方にいる作家です。庭に差し込む柔らかな太陽の光、窓辺のカーテンを揺らす風、畳の香りが安らぎを与えてくれます。私もそんなに沢山読んではいませんが、手放したくない作家の一人です。和田誠さんの表紙の、暖かな家の門構えの絵が、すべてを語っています。

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アフリカンポップスを代表するシンガー、パパ・ウェンバを聴くと、気分はアフリカの大地へと飛んでいきます。黒い肌、ほとばしる汗、そして乱舞するリズムの饗宴。日本ではボサノヴァやレゲエ程人気がないみたいで残念です

そんなサウンドを聴いていると、店内にある1冊の本をめくりたくなってきます。FrancesKennett”World dress”(洋書3000円)。これは、北米、ラテンアメリカ、ヨーロッパ、アフリカ、中近東、中央アジア、東南アジア、インド、極東、オセアニアのエリアに分割して、そこに生きる人達とその民族固有の衣裳を紹介した、タイトル通り「世界各国の服」の本です。

ぱらぱらとページをめくりながら服を眺めていると、個性的な色彩とデザインが、どうしてその国に根付いたんだろうと、思いがふくらみます。着るもの、頭に冠るもの、顔を隠すもの。そして履くものに、それぞれその人達の歴史と文化が詰め込まれています。ネイティブアメリカンや、アフリカの人達のカラフルな衣裳は、割とよく目にしますが、一時、麻薬の生産地で有名になった「ゴールデントライアングル」と呼ばれるタイ、ミャンマー、ラオス接する山岳民族の衣裳などは、私には面白かったです。

ところで、日本は何が紹介されているか気になるところですが、なんと葵祭の斎王代がトップというのには驚きました。やはり衣裳は、祭事と結びついているのですね。アイヌ民族の女性の刺繍の衣裳や、お坊さんの美しい紫の法衣が紹介されていました。

さて、パパウエンバを聴いていると、もう一冊思いだす本があります。川田順造著「サバンナの博物誌」(ちくま文庫)400円です。西アフリカのサバンナに住むモス族の暮しと、この地の自然を語ったエッセイです。川田さんは文化人類学者として研究の日々を送る一方、エッセイの名手でもあります。明晰な文章で、サバンナに生きる人々の姿を描き出します。本書には妻の小川待子氏の挿画が数多く掲載されています。この絵が、また味のあるものばかりで、絵を見て、音楽を聴いて、文章を読んで、そしてビールをもう一杯。アフリカへの旅の始まりです。

 

 

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新刊書店員時代、大人向け絵本をメインに出版しているパロル舎に注目していました。幻想的で、どこか不気味で、ノスタルジーを感じる様な作品が多くありました。とりわけ、金井田英津子画、萩原朔太郎の「猫町」(1400円)は傑作でした。

そのパロル舎の特集を組んだ時、入荷してきたのが、寮美千子さんの「父は空、母は大地」という絵本でした。1954年、ネイティブアメリカンへの抑圧を押し通すアメリカ政府に対して、部族長シアトル首長のわが大地への思いを元に多くのテキストが残されました。それを翻訳、編集し、篠崎正喜の絵と共に一冊の本に仕上げたのがこれです。

大地と共に生きることを謳い上げています。

「ヨタカの さみしげな鳴き声や 夜の池のほとりの カエルのおしゃべりを 聞くことができなかったら 人生にはいったい どんな意味があるというのだろう」

そして、こう言います

「あらゆるものが つながっている わたしたちが この命の織り物を織ったのではない わたしたちは そのなかの、一本の糸にすぎないのだ。」

わたしたちが、今最も見つめなければならないこの世界のあるべき姿が、平易な言葉で語られていきます。

パロル舎からは、彼女の本が数冊出ていましたが、先ず読んだのは「星兎」です。これはとても切ない話で、ラスト、うさぎが友人のユーリと別れるところは、涙ものです。

「うさぎの脚が、埠頭のコンクリートを蹴った。まるで、地球という惑星を蹴っとばすみたいに、うさぎの体が、宙に跳んだ」

そのパロル舎は数年前出版活動を中止しました。しかし、今週末までの「奈良祭りin祇園祭」に寮さんの著作をいくつか新刊本として並べてもらえる事が出来ました。。それは寮さんが奈良在住の作家だったからです。何年かぶりの再会となりました。

小林敏也さんの絵も楽しい「小惑星美術館」の最後は、「いまも地球は、美しい夢を見ている」で幕を閉じ

ます。美しい夢を見続けてもらえるような生き方を選択したいものです。

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昨日は、祇園祭のメインイベントの「鉾巡行」でした。御池通にある銀行に向かった時、いや〜相変わらず凄い人、人、人。でも、遠くの方から、一番手の長刀鉾がユラリ、ユラリと真っ青な空を背景にしてやって来るのが視界に入ったりすると、あ〜夏だなぁ、と思います。

ところで、この祭りって文学には登場したことあるのでしょうか? 西口克己という作家が「祇園祭」という小説を書いていますが、残念ながら読んでいません。森見登美彦が「宵山万華鏡」(売切)で、六人の登場人物の宵山の一日を描いた小説を書いていましたが、これはやはり奇妙なテイスト満載のお話でした。

代表格は川端康成の「古都」(売切)になるのでしょうか。ヒロインが宿命の女性に出会うのが、このお祭りでした。京都弁って、実際の会話を聴いていると、はんなりしていて良いのですが、書き言葉で、延々登場してくると、小説としてのテンポが今ひとつという気がします。京都を舞台にした傑作と評価の高い作品ですが、私は森見の方を推します。

蛇足ながら、筑摩書房が「文豪怪談傑作選」というシリーズで多くの作家のアンソロジーを出しています。小川未明、森鴎外、泉鏡花、太宰治等で、その中に川端康成もあり、「片腕」というタイトルで出版されています。川端的妖しい世界と、ねっとりしたエロティシズムが堪能できるアンソロジーで、こちらはお薦めします。(このシリーズは数日中に何点か入荷します)

 

祇園祭を描いた映画といえば、溝口健二の「祗園囃子」(53)。舞台は祗園の花街。艶やかな木暮実千代、初々しい若尾文子のはんなりした京都弁が心地よく響く一方、この街で大きな力を持つお茶屋のおかみを演じる浪速千栄子の、脅したり、懐柔したりのしたたかな女将役が抜群です。もちろん、コンコンチキチンのお囃子は、ちゃんと響いています。溝口映画としては、他の有名な作品に比べて地味ですが、個人的には好きです。

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私は都会の暗闇に潜む男たち、女たちを、或は巨大な警察組織で苦闘する男たちを描いたサスペンス小説の愛好家です。「公安」という言葉が帯に書いてあるだけで、手が出ることさえあります。そんな世界の魅力を教えてくれたのは大沢在昌の「新宿鮫」シリーズだったことは間違いありません。

川本三郎著「ミステリと東京」(平凡社900円)という本があります。東京を舞台にした作品を糸口にして、変貌する東京を様々な角度から論じた都市論へと展開されていきます。

取り上げられる作家は久生十蘭、中井英夫、宮部みゆき、大沢在昌等数十名です。宮部みゆき「理由」、桐野夏生「OUT」、乃南アサ「凍える牙」、高村薫「照柿」、戸川昌子「猟人日記」等、女性作家の傑作はもちろん取り上げられていて、詳細に論じられています。

とりわけ、桐野夏生の作品に登場する探偵、村野ミロには、林芙美子の「放浪記」に登場する、作家自身である「私」の自由な精神を受継いでいるという指摘は、成る程と唸りました。

ところで、この本で取り上げられている作家で、小泉喜美子は全く知りませんでした。1982年に発表された「血の季節」。これ、ドラキュラ奇譚です。ドラキュラが東京に表れるという奇妙な話ですが、時代は戦争真っ最中の昭和初期。クライマックスが昭和20年の東京大空襲という設定で、その炎の中からドラキュラが現れるという設定です。

作者の小泉喜美子は昭和9年生まれで、20年の東京大空襲の被災者でした。だから、その描写は凄まじいそうです。空襲で燃え上がる東京とドラキュラ幻想を組み合わせた小説、ぜひ読んでみたいですね。(文春文庫で出ていましたが絶版です。)

なお、彼女は、この小説の刊行の3年後に、新宿の酒場の階段から落下して死亡しました。享年51歳という若さでした。

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晴れ間の少ない、うっとおしい日々が続いていますが、こんな時はピエール・バルーの音楽をボリューム少し低めに流しておくのが、精神的によろしいかと。(写真のCDはすべて在庫しています)

バルーは66年の映画「男と女」に出演、一躍有名になりましたが、シンガーソングライターとして比類なき才能を持っています。若い頃、ボサノヴァに出会い、フランスでボサノヴァを広めたのもこの人です。音楽レーベル「Saravah」を立ち上げ、多くのフレンチポップスの名盤を発表しました。彼の「ル・ポレン(花粉)」には加藤和彦、高橋幸宏、清水靖明らトップクラスのミュージシャンが参加していました。

もう、かなり前ですが、京都日仏会館に来た時は、私も聴きにいきました。低い、でもどこかに哀しさと優しさを含んだ歌声は健在でした。

彼の音楽は、気分が良い時に聴くと、深呼吸がしたくなり、憂鬱な時は、その憂鬱さを何処かへ隠し、そして悲しい時は、その悲しみをそっとしておいてくれるという、セラピストみたいです。投げやりに歌っているように聞こえるのですが、妙に説得力があります(フランス語なんで実は意味わからないんですが)。派手な音作りでもないのに、音楽がモノクロの世界になったり、鮮やかな色彩の乱舞になったりする不思議さ。坂本龍一が「歌で元気をもらった、元気を与えたってのは嫌いです。寄り添うというのがいいなぁ〜」と発言していましたが、バルーの音楽はそうですね。

彼は本も書いています。「サ・ヴァ、サ・ヴィアン」(求龍堂・初版1300円)です。彼は自分の歌作りを

「私も映画の子で、小さい頃から”シネマ・エデン”でありとあらゆる映画を見ていたせいか、歌詞を書くときもワンシーンごとに話が進み、映画などの撮影で、レールにカメラを乗せて移動しながら撮る方法であるトラヴェリングや回想場面を使って、映画と同じ作り方で歌を作る。それが私の歌詞の特色である」と書いています。

成る程なぁ〜、彼の音楽を聴いていると、ふわ〜と飛翔する気分になるのはこういうことにあったのか。

 

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「必要な本を出版するのが出版社なのでなく、出版産業を維持する必要が本を出版しているというのが現状ではないか」

アインシュタインの「相対性理論」がベストセラー狙いで出版されたのではなく、人の社会、文化が必要に迫られたからこそ本になったのであって、売って儲けようなどということではなかった。

これは、元東京堂書店店長の佐野衛さんの「書店の棚、本の気配」(亜紀書房1000円)の一節です。この神田の老舗書店には、二度程行ったことがあり、佐野さんがお仕事をされている様子も見たことがあります。地味な本、売らなければならない本を紹介しながら、経営ベースにのせていくことにご苦労されていたと思います。

「書店の棚、本の気配」は、彼の書店員時代を振り返った一冊で、数十年、ひたすら、真摯に本を売り続けた著者の思いが語られています。だからでしょうか、「2009年から2010年の日録」には多くの作家、著名人が登場します。その中にこんなのがありました。

12月22日 荒川洋治さん来店 12月28日 辻原登さん来店 1月25日 立花隆さん来店 3月1日 車谷長吉さん来店 、7月20日 石田千さん来店、そして、7月29日 菅原文太ご夫妻来店。(この日録には、文太さんから何度も専門書に関する問い合わせ、注文があったことが載っています。)

また、辻邦生とは30年にも及ぶつき合いをされていて、こう書かれています。

「『パリの手記』のような、思索を記録することによってできあがるエッセイが好きだ。」

ドラマチックな展開があるわけではありませんが、本に「奉職」した一人の書店員の、仕事への愚直なまでの真面目さが溢れています。以前、ご紹介した島田潤一郎「あしたから出版社」に続いて、本の業界の尊敬すべき人の一冊です。

蛇足ながら、装丁は矢萩多聞。この方の「偶然の装丁家」(晶文社1100円)も前に紹介しましたね。

 

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たった一人の出版社「夏葉社」の島田潤一郎さんが、初めて店に来られたのは2年程前です。静かな佇まいと、控えめな立ち居振る舞い。

この人も瀬戸際まで行った人か?

と思ったのは、レコード店勤務時代に、知己を得た二人のロッカー兼レーベル代表がそうだったからです。礼儀正しく、もの静かな方がライブでは豹変。あまりの落差に仰天しましたが、その半生を聞いてさらに仰天。死ぬか生きるかの瀬戸際までいった人の凄みに圧倒されたことがありました。

さて、島田さんが、晶文社から「あしたから出版社」という本を出されました。その前半部分で、出版社を立ち上げるまでの日々を赤赤裸々に書かれています。

「従兄が死ぬんだって。瞳孔が開いて、もうダメなんだって」

最愛の従兄を失った日から始まった希望の見えない日々。葛藤、後悔、諸々の負のスパイラル。明日からの生き方を見失い、仕事も続かなくなる。不器用にしか生きられず、転職もままならない。その時代、

「ぼくは、そのころ可愛がっていた野良猫のところへ行き、猫と一時間ばかり遊んだ。冬の夜だった。人生が真っ暗だというのは、こういうことなどだ、と思った。」

やがて、彼は本を出す仕事に希望を見出し、編集の仕事も、出版社勤めの経験も全くないのに、単独で出版社を立ち上げます。それが「夏葉社」で、創業以来、今日まで一人です。営業には「青春18切符」を駆使して全国を回られます。

この本はつらい人生から明るい未来への活路を切り開いたサクセスストーリーではありません。ただ、ひたすら仕事に純粋になれる素晴らしさを教えてくれる本です。本を慈しむ、ただそれだけです。そして、たった一人だと思っていたのに、いつの間にか彼を支える書店員や出版関係の人がいたことを知ります。だから夏葉社の本は、どれも眺めているだけで、触れるだけで島田さんの愛情が溢れ、彼を支える多くの仲間たちを裏切らないように一生懸命なのです。よかったら一度、店内で触って、嗅いで、読んでみてください。(店内に「夏葉社コーナー」があります)

島田さんの本は新刊書なので、残念ながら当店ではお取り扱いしておりません。この本は書店員も、そうでない人も読むべき本です。そんな本を平積みしていない書店はないとは思いますので、新刊書店でお買い求め下さい。「読めば元気になります」。その通りの本です。

島田さん、いつまでも応援させていただきますよ!

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書評と呼ばれる本は、もう数えきれないくらい出版されていますが、どんどんページをめくりたくなる本に出会うのは難しいものです。映画評論もそうですが、ストーリーの追っかけだけに終始したり、技法の解説に明け暮れる、あるいは重箱の隅をつついた様な知識の羅列的書評集は、退屈してきますね。

最初に、この書評集は信頼できるなぁ〜と思ったのは、池澤夏樹の「読書癖」(みすず書房)です。91年に第一集が出され、99年には第四集が刊行されました。長ったらしい批評ではなく、簡潔な文章で様々な本が論じられています。書評というよりはエッセイです。え、これだけ??という禁欲的態度が、逆に読んでみようかと思わせます。(店頭に、第一集と二集があります。各900円)

作家が書いた書評は、その道のプロだけあって巧みですが、俳優の山崎努の「柔らかな犀の角」(文藝春秋900円)は、この名優の、ちょっとシニカルな語り口に乗せられる本です。山崎は、暫く前に取り上げた池澤夏樹責任編集の「世界文学全集」にも目をつけていて、全巻予約。ここでは、やはり「オン・ザ・ロード」を取り上げています。そして、作家、池澤の資質をこう言います。

「池澤の表現には隠し立てがない。このように、読んでいないものは読んでいないとはっきり言ってしまう。わからないものはわからない。わかったつもりで間違ったと気づいたときは、間違ってたな、ごめん、と訂正する。」

山崎書評も直球ストレート勝負で、明瞭です。映画デビューの黒澤明の「天国と地獄」の犯人役に始まって、最近の「クライマーズ・ハイ」の独裁的新聞社主まで変幻自在な演技を楽しんできたのと同様に楽しめる書評集です。(しかし、忙しいのに、よくこれだけ読んでますね)

最近の作家では、桜庭一樹の書評集がお薦めです。くだけた言い回しで、乱読につぐ乱読の読書生活を語ります。「本のおかわりもう一冊」(東京創元社950円)に、こんなフレーズがありました

「映画評だと、沢木耕太郎と四方田犬彦がやっぱり好きだな…….。だいぶんエモーショナルで、ちょっとだけ偏屈で、風の向くままで、それでいてけっして騙されない。男の子のこういうところにはあこがれのきもちが永遠にあるなぁ」

いや、同感です。桜庭の小説は、ちょっと濃すぎて敬遠していましたが、書評集は面白いですね。文庫版「少年になり、本を買うのだ」(創元ライブラリー450円)もあります。笑えて、成る程と納得し、読んでみようと本屋に行く気分にさせます。本年度、モスクワ映画祭でグランプリ受賞した映画「私の男」の原作。ちょっと、読んでみようかな。

 

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