梨木香歩の最新作「海うそ」(2014年発行岩波書店1100円)が入いってきました。もちろん、店頭に出す前に読ませてもらいました。

傑作です。私の中で、梨木さんのベスト1は「からくりからくさ」(新潮文庫350円)でしたが、これはそれ以上でした。

舞台は南九州の小さな島。戦前に、この島の調査をした地理学者秋野がむせ返る島の自然と、海の香り、そして照りつける太陽の元で、自分の魂の奥深い所へ下降してゆく旅の話です。

修験僧の霊山があった島を調査する彼の前に、様々な表情を見せる南海の島。その奥深い森の中で、彼が体験する恐れと哀しみ。彼の心の中に解決できない何かが積もっていきますが、島での生活は終わりを迎え、去ります。

そして、戦後50年を経て、再度この島にやって来ることになった秋野が見つめる、魂のさすらいと決着。

「それは老年を生きることの恩寵のようなものだと思う。若い頃は感激や昂奮が自分を貫き駆け抜けていくようであった。今は静かな感慨となって自分の内部に折り畳まれていく。そしてそれが観察できる。若い頃も意識こそしなかったものの、激する気持ちは自分のなかに痕跡くらい残したのだろうが、今は少なくともそのことを自覚して静かに見守ることができる。」

巧みな文章と言葉で、読者をこの島に誘い込み、幻惑に満ちた旅を楽しませてくれる一級品の小説です。

「長い長い、うそ越えをしている。 越えた涯は、まだ、名づけのない場所である。」

旅はまだ続きます。

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最近、何やら安倍首相の顔が醜くなってきている気がします。ま、だいたい総理大臣になったら、途端にその権力の座の重圧と、素人には理解不能なプレッシャーで、顔の表情が「壊れていく」のかもしれません。民主党の野田さんも、ひどかったですね。小泉さんみたいに、全くそのままという無邪気さも如何なものか?と思いますが…….。

お疲れの大臣に、ぜひお読み頂きたいのが、田中優子+辻信一の「降りる思想〜江戸・ブータンに学ぶ」(大月書店1300円)です。田中さんは、江戸時代の専門家にして、「カムイ伝講義」(小学館950円)という白土三平のコミックを通して、江戸時代を論じた傑作があります。辻信一さんは、文化人類学者という肩書きの一方で、「ナマケ者倶楽部」世話人としてスローライフに関わる提言をされています。当店にもいくつか彼の本があります。

その二人がタッグを組んだ本がこれです。こう書かれています。

「本書は『下降』をテーマとしている。思えば、これまでこのテーマに感心を寄せる人はほとんどいなかった。人々がはるかに強い関心を示すのは、いつも『上昇』のほうだった。でも、考えてみれば、これは不思議なことだ。」

いかにして、降りてゆくかを、江戸時代、そしてブーダンを参考にして二人が討論していきます。3.11以降の世界を振り返ることから始まり、右肩上がりの世界の幻想から脱却して、降りる場所の創造に至るまでの果てしない、しかし、これしかもう私たちは未来に生きることができないことを論じていきます。

「ぼくたちは『さがる』のでもなく、『おちる』のでもなく、『おりる』のである。豊かさという幻想から、グローバル経済システムから、人間の本性へと、自然へと、いのちへと、愉しげに降りてゆきたい。」

なんて言葉、疲労蓄積気味の安倍さんの耳元に誰か囁いてみては如何でしょか? ま、効果ないか。

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ルイス・キャロルの「アリス」関係の本が色々と入荷してきました。一度は手にする「アリス」ですが、ポピュラーなのは新潮文庫から出ている、矢川澄子訳、金子国義絵の「不思議の国」、「鏡の国」(こちらは在庫あります220円)でしょう。もう一点、柳瀬尚紀訳の「不思議の国のアリス」(ちくま文庫500円)もあります。こちらは涙無くしては読めません。特にペットを飼った経験のある人なら。

初めて、この本を手に取った時、どういうわけか「訳者あとがき」から読んでしまいました。訳者の元にはトリケと名付けられた捨て猫がいました。しかし、三才の時、病にかかり天国へと旅立ちます。こう書かれています

「臨終の白鳥が歌う『白鳥の歌』というのは聞いたことがないが、トリケは一晩中、それを歌った。つきっきりで、胸をかきむしられる歌を受け止めながら、トリケはもうだめなのだと覚悟した瞬間、訳者は声に出していった。

「よーし、トリケ、『不思議国』に残してやるからな」

そして「金色にきらめく昼下がりを」で始まる、巻頭の詩にトリケは甦ります。(詳しくは、あとがきをお読みください)そこから一気に翻訳を遂行します。続いて「鏡の国のアリス」の翻訳も仕上げます。曰く、「どうやらトリケの残していったエネルギーがそうさせるらしい」と。勢いと流れにのった言葉使いで、この訳は私には読みやすかった。

この翻訳者の名前は、ボルヘスの「幻獣辞典」で知りましたが、あれも、よくぞ日本語に直したものだと感心しました。彼の翻訳では「もつれっ話」(れんが書房900円)も入いりました。タイトル通り「もつれにもつれたお話」です。

さらに人気の一冊、金子国義絵・翻訳「不思議の国のアリス」(メディアファクトリー・初版3000円)もあります。これは、アリス関係本では、最も美しい本の一冊でしょうね。一時、高価で取引されてました。

同時に、洋書の「Alice」(1500円)の大型本も入荷してきました。白黒のイラストが、アリスの世界にぴったりの一冊です。そしてもうひとつ「少女への手紙」(新書館1300円)。書簡集なのですが、全編短篇童話です。

ほぼ同時に、数冊入ってくるのも、何かの縁なんでしょうかね?

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店内にある雑誌の山(それ程ではないですが)を掘っていると、ほ〜こんな特集が読めるのかと、ちょっと驚かされるものがあります。

児童文学の雑誌「飛ぶ教室」2014年冬号は「手紙」を特集。ねじめ正一の長編詩「てがみヒコーキ」から始まる、色んな作家が描く手紙に秘められた物語。村井しいこの「くま、ときどきゆうびんはいたつ」なんて楽しい児童文学や、今江祥智「手紙日和」(絵は宇野逢亜喜良です)や、まはら三桃「錦町商店街からのご案内」のような青少年向けの小説でありながら、清々しい気分にさせてくれる優れた短篇まで網羅されています。手紙って、なぜかホットさせてくれます。お値段は300円。

海外文学の翻訳家として人気の柴田元幸責任編集の「MONKEY」2014年春号は「猿の一ダース」と題して、一番読みたい作家11名が並んでいます。村上春樹「シェラザード」(装飾はクラフト・エヴィング商會)、川上未映子「彼女と彼女の記憶について」(装飾は森岡書店店主、森岡督行)等ズラリ並びます。どれも、装飾が素敵で、このコラボは雑誌でしか出来ないでしょう。細部にまで目の行き届いた文芸雑誌です。表紙も良くて700円です。

このいかにもかちっとした文芸雑誌の対極にあるのが、「旬がまるごと」11月号です。特集は「じゃがいも」。美味しそうなじゃがいもがど〜んと写っている表紙を開けると、表題通りぜんぶじゃがいも。日本初のポテチをつくった人の話とか、3分ぐらいでつくる最高のポテサラとかバラエティーに富んだ内容で楽しませてくれます。こちらは200円です。

もう一冊お薦めは、「Sewitch」89年8月号、特集は「小林薫」。これは、貴重ですね。沖縄を舞台にした映画「ウンタマギルー」出演中の小林薫を追いかけたノンフィクション。一緒に掲載されている彼のポートレイトも素敵です。この映画に関連して、店でも人気の大竹昭子が「幕間のドラマ」というタイトルで、この不思議な映画を作らしめた沖縄の「島の波動力」をレポートしています。こちらは300円です。

こんな具合に、雑誌も探しだすと中々面白いものです。

 

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本好き、特に古書好きにとって、ある種の文庫レーベルは魅力的です。

中身を見るよりも先に、手に取ってしまうオーラがあります。代表的なものとしては、筑摩文庫、講談社文藝文庫、中公文庫、岩波文庫、そして今は消滅した旺文社文庫や、福武文庫等です。

しかし、河出書房も中々いい文庫を持っています。河出文庫といえば、澁澤龍彦の一連の作品を文庫化していますが、私にとって最初の出会いはジャック・ケルアックの「路上」(550円)でした。内容が面白かったというより、この表紙の文庫を持ち歩くことがクールだったみたいです。オリジナルタイトル”ON THE ROAD”をシンプルに「路上」と訳したのも魅かれた理由かもしれません。

だから、河出文庫といえば、翻訳物でした。吉田健一が翻訳した娼婦の告白記「ファニーヒル」(450円)。「私は幾ら死の方が勝つことを願っても死の力が回復し、それは自失と絶望の状態に置かれる」などという吉田らしい表現に惑わされながらも、最後まで読んだ記憶があります。蛇足ながら、この後、持って回った言い方の吉田には波長が合わずに、彼の著作を読んでいません。

河出文庫にはジャンキー文学の最先端で、その後、映画、音楽へ様々な影響を与えたバロウズの「ジャンキー」、「裸のランチ」とかも出版されていましたが、全く肌に合いませんでした。それよりも、圧倒的に面白かったのは中上健次の「十九歳の地図」(300円)でした。

「喉元に反吐のような柔らかくぶよぶよしたものがこみあげてき、それをのみこむためにつめたい外の空気をひとつすった。これが人生ってやつだ」

というラスト近くの文章に痺れて、薄暗いジャズ喫茶の扉をくぐっていた青春の悶々とした日々を懐かしく思いだします。

今回、いくつかまとめて仕入れた中に、こんな本もあったんだ、と思ったのは、漫画家の萩尾望都唯一のエッセイ集「思い出を切り抜ぬくとき」(400円)です。70年代後半に「グレープフルーツ」という本に書かれたものをまとめたものです。解説はよしもとばなな。文庫もこうやって探してみると面白いですね。

 

イベントご案内

来週22日(火)〜27(日)まで、アイヌ民族運動家で、木版作家の結城幸司さんの「纏うべき風」展を開きます。一週間の個展ですが、ご本人も北海道から来られます。そこで、期間中の25日(金)夜、店内にて、結城さんのお話を聴く会を開催いたします。彼の作品をバックに、「アイヌモシリの神話と心話の世界」と題して、興味深い世界のことを聴ける会です。

●4月25日金曜日、19時30分より(約1時間) 参加費1500円。先着13名です。参加ご希望の方はレティシア書房まで(075−212−1772)

 

 

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一昨年、今年と二度にわたってカナダ、ユーコンに棲息するドール・シープの写真展をしてもらった上村知弘さんの写真集「Dall Sheep」(1620円)が地元京都の出版社青菁社から発売されました。本日、京都市北区にある出版社まで出向き、早速店頭に並べました。

「ドールシープという初めは聞き慣れない動物でしたが、その真っ白な姿を見てから彼らの虜になりました。山々に住む白い野生の羊、ドールシープが住む山頂に立つと、極北の自然の広大さと美しさを感じます。」

その思いから、上村さんは2004年カナダ、ユーコンに移住してドールシープを追いかけます。小さな子どもを見つめる母親が印象的と書かれている通り、過酷な自然環境で生きる母親と子どもの姿が、四季を通じて撮影されています。

降り続ける雪の中、斜面にじっとしている一匹、爽やかな夏の香り一杯のなかで、佇む親子、太陽の光を背中に浴びて、ワ〜イ、ワ〜イと飛び跳ねるのが楽しくて仕方ない子ども、山の彼方に虹のかかった大地で餌を探す彼らを捉えた作品など、魅き込まれるものばかり。

最終ページ、満天の星空の下で眠る一匹を、ロングショットで捉えた作品があります。孤独な空間ですが、その寝顔の幸せそうなこと。一体、どんな夢を見ているのだろうと聞いてみたくなります。

上村さんは、最後にこう語っています。

「美しい極北の大地あってこそのドールシープ。氷河期から生きてきたこの動物が、将来もずっと極北で暮らし続けていくことを願っています」

誰にも邪魔されずに、彼らだけの楽園が続いて欲しいものです。

彼の作品はネット上で公開されています。また、カナダでの日々の暮らしを綴った「Life in the North」も一度ご覧下さい。(下の写真は一昨年の写真展の時の上村夫妻。一緒に写っているのはうちの駄犬マロンです。)

イベントご案内

来週22日(火)〜27(日)まで、アイヌ民族運動家で、木版作家の結城幸司さんの「纏うべき風」展を開きます。一週間の個展ですが、ご本人も北海道から来られます。そこで、期間中の25日(金)夜、店内にて、結城さんのお話を聴く会を開催いたします。彼の作品をバックに、「アイヌモシリの神話と心話の世界」と題して、興味深い世界のことを聴ける会です。

4月25日金曜日、19時30分より(約1時間) 参加費1500円。先着13名です。参加ご希望の方はレティシア書房まで(075−212−1772)

 

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来週22日(火)〜27(日)まで、アイヌ民族運動家で、木版作家の結城幸司さんの「纏うべき風」展を開きます。一週間の個展ですが、ご本人も北海道から来られます。そこで、期間中の25日(金)夜、店内にて、結城さんのお話を聴く会を企画しているところです。彼の作品をバックに、「アイヌモシリの神話と心話の世界」と題して、興味深い世界のことを聴ける会です。

時間19時30分スタート(約1時間) 参加費1500円。先着13名です。参加ご希望の方はレティシア書房まで

 

店でも何点かアイヌ関係の本を在庫しています。先ずは、各種の児童文学賞を受賞した安藤美紀夫さんの「ポイヤウンベの物語」(講談社文庫絶版500円)です。アイヌ民族の叙事詩「ユーカラ」を元に描いた英雄物語です。

アイヌ民族の神話、昔話になると菅野茂「アイヌの昔話」(平凡社ライブラリー700円)と山本多助「カムイ・ユーカラ」(平凡社ライブラリー700円)は必読の二冊です。石狩峠を支配するクマの神、キムン・カムイが登場する「強情クマ神が語った話」は、まるで優れた短編小説を読んでいるようなお話で、初めて読んだ時に「キムン・カムイ」という言葉が頭の中で響いていました。

今を生きる人達の生活を知るには、やはり菅野茂の「アイヌ歳時記」(平凡社新書600円)です。筆者のふるさと二風谷の四季の暮らしと行事を見つめた新書で読みやすく、大自然を、動物を、植物を神として生きてきた彼らの生活の思想が理解できます。サケのアイヌ風食べ方なんて面白い話がある一方で、サケとアイヌ民族の今の立場に疑問を投げかける筆者の鋭い意見もあり読み応え十分です。

もう一点、アイヌ民族の世界観を丸ごと捉えた山田孝子「アイヌの世界観」(講談社 900円)は文化人類学者の立場で、彼らの言葉の深い意味と、それがどのようにして形成されていったかを解き明かしていきます。

そうそうミニプレス「murren」最新号の「アイヌ特集号」(525円)も忘れてはいけない一冊です。

 

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細部まで行き届いた脚本が完成し、この役者が出演を了解すれば間違いないという、いわば映画製作の至福が伝わる作品を観ました。

「あなたを抱きしめる日まで」は、イギリスを代表する女優、ジュディ・デンチが主演の優れた映画でした。98年製作の「恋におちたシェイクスピア」の、たった数分の貫禄の演技で、圧倒的存在感を見せつけ、「007」シリーズでボンドの上役Mでお馴染みですが、昨年の「007スカイフォール」は、近年屈指の007映画でした。後半はまるで、舞台劇みたいで、ジュディの独壇場でした。

その彼女が今回演じているのは、若い時に出産した子どもと離別させられた年老いた母親役です。子どもの現在を知りたくて、イギリスからアメリカへと旅する一種のロードムービーです。上映時間90分弱。1934年生まれですから、今年80歳。皺の一本、一本までが、まるでこの母親の苦悩を表現しているみたいです。台詞の一つ一つに、その佇まいに彼女の生きてきた時間への後悔、葛藤、侮蔑等、複雑に入り交じった感情をこめて、巧みな表現は唸ります。騒ぐ事なく、静かに静かに。だからこそ、最後の台詞とその顔のアップに説得力がありました。オーソドックスな優れた映画は、こうして出来上がるという一作です。

 

店にもちょっと珍しい映画関連本が入荷しました。日本映画を専門に出版しているワイズ出版の本ですが、 「川島雄三 乱調の美学」(1100円)、「冬のつらさをー加藤泰の世界」(1900円)、「女優魂中原早苗」(1300円)、「中平康伝」(2100円)、「映画監督深作欣二」(2100円)、「石井輝男映画魂」(1900円)、「次郎長三国志ーマキノ雅広の世界」(1300円)とマニアックな書籍がズラリ集まっています。なかなか、古書として出てこないものばかりです。

レアなCDが入荷しました。一枚は女優、加賀まりこの全編朗読アルバム「愛しあう二人のための愛のレッスン」(1800円)。服部克久が「シェルブールの雨傘」、「太陽がいっぱい」、「青い影」等の名曲を華麗にアレンジして、彼女が男と女のショートストーリーを密やかに語っていきます。短篇小説の朗読に音楽が付いたもので、1971年に発表されました。写真は立木義浩。そして、この短篇のようなお話を書いたのが、安井かずみです。

その安井かずみの、これまたレアなアルバムは、唯一、全曲彼女が歌っているアルバム「ZUZU」(2300円)です。全て彼女が作詞、作曲陣にはかまやつひろし、沢田研二、布施明、加瀬邦彦等々の豪華メンバーです。初めて聴いたその感想は、「下手くそおぉ〜」でした。が、何度も聴いていると、フレンチポップス、ボサノバ、歌謡曲の優れた部分を貪欲に取り入れて、不安定な歌唱力を逆手に取って、奇妙な魅力をだしています。

CDと一緒に近代ナリコ編集の「たとえば好きたとえば嫌い 安井かずみアンソロジー」(河出書房850円)、島崎今日子「安井かずみがいた時代」(集英社1400円)も入荷しました。一緒に読むと、彼女の魅力が解る様な気がします。

さて、こんな女子力高感度アップに対抗するために、おじさん気合いの一発!として入荷したのが、「ゴジラ」に始まる東宝SF映画のほぼすべてを作曲した伊福部昭の作品を日本フィルハーモーニーが演奏する「ゴジラに捧ぐ」(1400円)。「宇宙大戦争」、「海底軍艦のマーチ」等全27曲。拳を握りしめる気合い十分のサウンド!これなら、安井かずみのごとき軟弱者は踏み倒してくれよう!!と期待しましたが、惨敗。

1966年、青山にコシノジュンコがブティック「コレット」を開きました。宇野亜喜良がロゴデザインを担当した、この店には新しいキラキラした女性たちが集まりました。その中に、安井かずみも加賀まりこもいました。煙草片手に車を運転して、一気に時代を加速させていったパワーには、さしものゴジラでも敵いませんでした。

 

 

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「花咲いて思ひだす人皆遠し

窓越しに、つぼみがほころぶアモンドの木を見ていたら、ふっと正岡子規の俳句が頭に浮かんだ」

という文章で始るこの本の著者は、日本人ではありません。京都工業繊維大学大学院で学び、日本建築史、日本庭園史をご専門にされる京都在住のエマニュエル・マレスさん。フランス人です。彼が「縁側から庭へ■フランスからの京都回願録」(あいり出版1296円)を出版しました。

「私がこれから書こうとしているのは「失われた京都」や「誰も知らない京都」というものではない。またフランスの芸術家や知識人が書く様な才藻奇抜に日本文化を描いたエッセイでもない。さらに言えば、日本に住んでいる外国人の自己啓発、現代的なサクセスストーリーでもない」

では、専門知識を総動員した専門書かといと、違うんですね。縁側に興味を抱き、「縁側の近代化ー夏目漱石の文学を通して」という博士論文を執筆する話から始まり、庭の魅力に取り憑かれていく様を、専門知識を織り交ぜながら、わかりやすい日本語で書かれています。各章の始まりで、読者の好奇心をくすぐる様な書き方が絶妙です。阪急電車のあずき色の車体の話からスタートしたり、谷口ジローの傑作漫画「坊ちゃんの時代」のワンカットを提示して、漱石と縁側の深い関係性に誘ったり。或は、いきなり鴨長明の「無名抄」の引用から始まり、古文は苦手だけどこの古風な世界が好き、なんて文章に出会うと、どんどん読みたくなってきます。足利義政とナウシカが一緒に出てくる「第九章腐界にてー植治の庭」なんて、面白すぎです。

このどんどんページをめくりたくなる気分は、たぶん、不思議で、様々な美を醸し出す京都の庭に魅かれて、知的好奇心の赴くままに一直線に学んでゆく著者のワクワクする気持ちと一緒に、ワクワクする楽しさを体験させてもらっているからかもしれません。

知らないこと、知るって楽しいよね、という当たり前の事を教えてくれる一冊です。

エマニュエルさんとは、少しお話をさせていただきましたが、魅力的な方でした。またゆっくりお話を聴きたいものです。

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