中国清王朝最後の皇帝、溥儀を描いたイタリア映画、ベルナルド・ベルドリッチの「ラストエンペラー」は、繰り返し観ている作品です。

映画は、紫禁城から一歩も出る事の出来ない皇帝の孤独と、後年日本軍にいいように利用されて、傀儡国家の皇帝に担がれる悲劇を描いていきます。この映画のベースになっているのが、R.F.ョンストン著「紫禁城の黄昏」(岩波文庫300円)です。

ジョンストンは、若き日の皇帝の家庭教師として1919年3月、紫禁城に登城した時の印象をこう書いています。

「この門を通過したことによって、私はたんに共和国から王朝の世界へ移っただけではない。二十世紀の新しい中国から、ローマ建国よりさらに古い時代から続いている中国へと足をふみいれたのである」

ジョンストンの手記は、この門をくぐったその日から、役目を終えてイギリスに帰国するまでの紫禁城の内側を克明に記録していきます。そして中国共産党の協力のもと、世界初の紫禁城での数週間に渡るロケを敢行した映画は、王朝のすべてを映し出していました。

皇帝は、それまでの王朝の在り方に疑問を持ち、王朝改革に乗り出していきます。20年代後半、16歳の若さで、「これまで彼の日常生活を規定してきた慣習と形式的手続きのいくつかを、廃止することに成功した」とジョンソンは書いています。すべての生活をがんじがらめに拘束してきた、旧来の皇帝の在り方への改革です。しかし、それでも彼は門の外に出ることは許されませんでした。もう、殆ど軟禁状態です。

やっとこさ外に出られたものの、日本軍部に操られ満州国皇帝に祭り上げられ、この国の崩壊と共に、中国共産党の囚われの身となり、激しい自己批判に晒されるという数奇な人生でした。

この本は、ヨーロッパ人として初めて巨大な紫禁城に入ったジョンストンが、溥儀との別れの日までを冷静な文章で綴っていて、一級の史料として価値の高い一冊です。

映画では、ジョンストン役をピーター・オトゥールが演じていますが、「アラビアのロレンス」といい、この作品といい、異国に佇む姿が妙に様になる俳優でした。

昨年の4月に3号が出されて以来、お久しぶりの4号ですが、相変わらず濃い内容です。4号(500円)は特集が二つ組まれています。

一つ目の特集は「音楽と、本」です。音楽の本の紹介ではなく、音楽をテーマにした本、或は音楽を感じる本について、海外文学好きの書店員と編集長の対談で、のっけからリチャード・パワーズの「われらが歌う時」(絶版)です。この作家のみすず書房から出た「舞踏会へ向かう三人の農夫」はタイトルと表紙に魅かれて読みましたが、こんな本文庫で出てたんですね。やがて、エリック・マコーマックで大いに盛り上がりますが、この作家は読んだことがないので、興味津々でした。さらに「目で聴く短編小説群V.A」と題して、音楽アルバム風に全12曲(編)紹介されています。執筆者が幻想文学や、SF小説偏りなんで、読んだ本がなかったのですが、どの解説も滅法面白いかったです。紹介されているナボコフの「音楽」を読んでみたいです。

そして、二つ目の特集は「どうぶつ大好き」という動物が登場する本の特集です。このジャンルの本は、「吾輩は猫である」を筆頭に、無数にありますが、見事なセレクションです。早川文庫「幻想と怪奇2」に収録されている、人間がコオロギに包囲される「こおろぎ」は、P・ハイスミスの「鳥」の系列だと思いますが、読んでみたい作品です。また、藤枝静男「田紳有楽」は最強にマニアックなタニシ小説?とか。さらに、「銀の匙」で有名な中勘助には、イエスが処刑された時代に生きた鳩を描いた「鳩の話」なんて小説があるとか。あれも読みたい、これも読みたいという気分になりました。

個人的には、音楽を感じる本というのは、宮沢賢治の詩であり特に「春と修羅」に収録されている、「原体剣舞漣」です。『dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah」で始まる所からリズムに溢れています。、動物ものではマンガですが、和田慎二の「クマさんの四季」(絶版)。黒狼の格好良さはピカイチでした。

☆「本のある部屋」は4号と3号は、在庫あります。1号、2号は出版元にも在庫ありません

 

 

神戸の大学で哲学を教えていた内田先生の本を初めて読んだのは、「寝ながら学べる構造主義」でした。いや、もう抱腹絶倒の哲学入門書でした。フランス現代思想の、特にレブィナスの研究者ですが、難解極まる構造主義の大御所を一刀両断する手腕は、お見事でした。その後、専門の本以外にも多くの本を書かれていて、面白そうなものは読んできました。

タイトルで買ってしまったのが、「健全な肉体に狂気は宿る」(角川新書300円)と「態度が悪くてすみません」(角川新書300円)、そして「ひとりで生きられないのも芸のうち」(文春文庫400円)」です。まだ、新刊書店に勤務していた頃です。毎日毎日「自分探し」だとか「癒し」だとか、「自分を高める」とかいうタイトルの本を見ては、気分悪くなり、吐き気を催す日々でしたが、内田先生の本は、よく効く胃薬みたいのものでした。書店の人文担当者に、「自分探し」の本置くなら、内田先生の本だ!と強引に割り込んだものです。

もちろん、研究者の書く本ですから。そうへらへらと笑って読み飛ばせる本ではないのですが、論理的に構築された文章を、頭に入れて行く作業の快感を体験できます。ちょっと、頭が疲れてたなぁ〜と思うと、けっこう面白い文章に出くわします。

例えば、精神科医師の「春日武彦」との対論を納めた「健全な肉体に狂気は宿る」の中で、「端っこにいれば、いつでも逃げ出せる」という章では、

「日本社会の組織というのは身内に対してすごく甘いですからね。甘い汁はちゃんと吸わせていただいて、組織がバラけそうになったら『三十六計逃げるが勝ち』と逃げる」とか。

いいですね。内田先生は、音楽や映画にも造詣が深くて、「態度が悪くてすみません」では「大瀧詠一の系譜学」と称して、彼の音楽理論が構造主義系譜学の方法の基づいている、と何やら難しい言葉を使って説明していますが、成る程と唸らせます。

内田先生は、古典芸能もお好きで、ご自身もお謡いをされています。そして観世流家元の観世清和さんとの対話を収録した「能はこんなに面白い」(小学館900円)も出版されています。これは、古典芸能に興味のある方なら、お薦めです。

内田先生の本は、文庫棚コーナーの上にまとめて設置しています。

Tagged with:
 

集英社主催の第27回小説すばる新人賞(集英社主催)を受賞された中村理聖さんは、当店のお客様でした。いつもいろんな作家の本を読まれていて、お話をすると小説を書かれていることを知りました。

一度読ませて下さいとお願いしたところ、原稿を見せていただき、僭越ながら私の個人的意見を添えてお返ししました。小説のタイトルは「砂漠の青がとける夜」。京都が舞台の話で、二人の女性とちょっと不思議な中学生と小学校の先生が絡む素敵なお話です。いずれ、単行本化されると思いますので、ぜひお読み下さい。書店のお客様から、文学賞受賞者が出るなんて本屋冥利につきますね。

因みに同賞受賞者には、花村萬月、篠田節子、村山由佳、熊谷達也、萩原浩、三崎亜記等、現在第一線で活躍中の作家がおられます。

国内には数多くの文学賞がありますが、ただ「受賞」という言葉につられて読んだ中には、へぇ〜!と感服したものは沢山あります。芥川賞作品「乙女の告密告」(新潮文庫250円)は、やはり京都出身の赤染晶子さんが描く、「アンネの日記」の新解釈小説。舞台は京都の外国語系大学で、京都弁で進行します。

或いは、小山田浩子さんの「穴」(新潮社800円)。

「向かった先に視線を向けると、黒い獣が歩いていた。」夫の田舎に移り住んだ妻は、目の前に出現した黒い獣をみて、とんでもない世界に落ちていきます。なんだかカフカばりの不条理小説世界ですが、迷路を引きずり回される楽しさに満ちた小説です。

2013年芥川賞受賞作品、姫野カオルコさんの「昭和の犬」は、最近読んだ長編では一番の面白さでした。別に事件が起こるのではありません。昭和30年代の滋賀県の片田舎で少女時代を送った女性の一代記なのですが、いつも身近にいた犬を象徴的に描きながら、昭和から平成への移り変わりを描いていきます。

1937年に発行された絵本「たべるトンちゃん」って、当時評価されたんでしょうか?

トンちゃんとは豚のことです。トンちゃんと女の子の会話をメインに、今どきのデザイン画ばりにデフォルメされた絵が点在している四コマの不思議な本です。著者は1897年生まれの初山滋。(中身の一部を載せましたので、その奇妙さの一部を理解していただけるかも)。発行当時、戦前の昭和は、暗黒の時代へと向かう前兆期でしたが、一方で、妙に明るい時代でもありました。

別冊の後書きで息子さんが、お父さんのことをこう書いています。

「まわりの人たちが、どうしたこうしたなんていうことは、どうでもいい、というマイペース。それを、個性的、ひとりよがり、ヘソまがり、だといって、まわりの人にホめられ、ケナされたって、これまたそんなこたァどうでもいい、という人でした」

帯にもありますが、シュールで、可愛くて、どこか変な絵本です。この本はもちろんオリジナルではありません。復刻です。しかし、この本に愛着を持つ人達が、オリジナルに近い色合いで、箔押し、箱入り仕様でコツコツとつくり上げた一冊です。

最後は「たべる とんちゃんは トンカツや に かはれて ゆき たべられる とんちゃん になりました。おしまひ ビィ」という悲しい文章で終わるのですが、可笑しくてどこまでもホンワカ気分のまま、ページを閉じた後も、不思議な気持ちが残ります。中身は綺麗で2000円です。

 

 

Tagged with:
 

伊丹十三の「ヨーロッパ退屈日記」を担当した編集者、草森紳一は恐ろしい程の本の収集家でした。崩れ落ちそうな本の山の間で生活している写真を見た事がありますが、約3万冊程らしいです。彼が、集めた資料等を駆使して江戸時代を包括するデザイン論の大著が、昭和47年京都の出版社より出版した「江戸のデザイン」(初版6000円)です。江戸時代のあらゆる文化を網羅して、この時代を見事に浮き上がらせていきます。彼はデザインをこう定義しています

「デザインとは、人間の営為であり、生きることの慰めである。慰めであるから、恣意的なものだが、その恣意をいったん封印しなければ『かたち』となってこの世に生起してこないのであり、おそらく私が江戸時代のデザインに、一貫してエロチックなものを感じ続けることができたのは、この慰めをうるために、慰めの恣意を封印する決断を見たからであろう」

百科事典並みの重量級の書物ですが、彼の代表作です。

こんな大作ではありませんが、評論家四方田犬彦との対論集「アトムと寅さん」(河出書房新社950円)は知的スリルに富んだ一冊です。この本で俎上に上がっているのは、戦後の日本的ユートピアを代表するような「鉄腕アトム」と「男はつらいよ」です。私たちにとってアトムは、寅さんはいかなる存在だったのかを、溢れ出る知識と感性で読み解いていきます。漫画史であり、映画史であり、そしてその背後に隠れる戦後日本の精神史にまで話は及んでいきます。

北朝鮮の金日成や金正日が「男はつらいよ」の熱狂的ファンであり、繰り返し見ていたことや、一時、合作の話まで持ち上がっていたなんて、この本を読むまで知りませんでした。

 

Tagged with:
 

1日から5日で、夏のお休みを頂きました。旅行に行くでもなく、いつもと同じように早起き、犬の散歩の毎日でしたが、なかなか伺う事ができなかった個性的な書店にお邪魔してきました。そのお店については、また後日紹介いたします。

さて本日より、青幻舎、パイ・インターナショナル、LIXILの三社のご協力を得て、古書店で開催する新刊アート・ブックフェアを開催します。それぞれの個性がよく出た書籍を送っていただきました。

青幻舎からは、「井浦新の日曜美術館」(1728円)。これは、毎週日曜の午前10時から、NHKで放送されている「日曜美術館」で紹介された作家について、また自分自身の美意識について書いたものです。私もこの番組は毎週欠かさず観ていましたので、早く読みたかった一冊でした。

“SEIGENSYAFOCUS”(各3024円)という新シリーズもいい企画です。一人の作家を1冊まるごと特集するもので、アンディ・ウォホール、フランシス・ベーコン、ジョージア・オキーフの三人が出そろいました。個人的にはジョージア・オキーフが良かったですね。また、NASA全面協力の、殆どアブストラクト写真みたいな「MARS火星」(12960円)は、大きな本ですが、サンプルがありますので中身をじっくりご覧頂けます。

 

 

パイ・インターナショナルからは、「ピカソの陶芸」(2484円)が、最新刊の注目品です。画集は多数でていますが、陶芸作品200点余りを収録した本は、これが初めてでしょう。楽しくなってくる作品ばかりで、ウキウキ気分にさせてくれます。この出版社からは、「はじめて」シリーズの絵本、「宇宙旅行へでかけるえほん」、「ほしぞらえほん」、「からだえほん」、「てんきえほん」(各1944円)を。是非ご覧下さい。子ども向け絵本ですが、ほぉ〜、そうかと納得する事多しです。絵柄も美しく、年代を問わず楽しめます。もう一点、3888円という値段が、えっ、この価格でいいのと思わせる絶景天体写真集、「グリニッジ天文台が選んだ絶景天体写真」は素敵な写真集です。阿呆なハリウッドSF映画観るぐらいなら、こちらをおススメです。

建築関係の専門出版社、LIXILからは、同社の「INAXギャラリー」シリーズから、10点ベストセラー出していただきました。新刊書店勤務時代に、正方形の判型の同シリーズの特集は何度かしました。ユニークな視点が絶妙で、「クモの網」「考えるキノコ」「小さな骨動物園」「種子のデザイン」等。なんだかタイトルだけで中身を見たくなりますね。各1620円。全く新しい視点で世界を見ることができます。「『子どもの科学』で大人になった」お父さん必読の一冊です。

Art Book Fairは9月6日(土)〜14日(日)まで。レティシア書房にて 

 

Tagged with:
 

「京都旧市内の方言(いわゆる京ことば)、御所ことば、職業集団語等2000語を収録、見出し語にアクセントを付け、文例を示し、意味用法の把握につとめた」という「京都語辞典」(東京堂出版 昭和50年発行1000円)が入荷しました。こんな感じです

「オトンゴ(名)末子『あの子オトンゴヤし、甘やかしてイヤハルわ』 八瀬方面ではオトーとも」

「オヤカマッサン 辞去のときのあいさつ語」

「ハシタナイ・カワワタリ・セントキヤス (慣用語)女を変えて、またはお茶屋や場所を変えて遊ぶ客をたしなめることば。」

という具合に京都言葉が網羅されています。井之口有一、堀井令以知共編となっていますが、いやこれだけよく集めたものですね。まぁ、この本持っていたところで、利用できるかと言われば疑問ですが、独特の意味合いを持つ京言葉の奥深さというか、嫌みさをひしひしと感じる辞典です。

前に「チョチョコバってたんや。」と言って、「チョチョコバル?って何?」と関東出身の友人に笑われたことがありました。もちろん「かがむ・しゃがむ」という意味ですが、ちゃんとこの辞書は解説してくれていて、ほっとしました。例文には「そんなとこにチョチョコバって、なんのエー(絵)書いタハルの。」などとありました。改めて聞き返されると、時々、自分の使う言葉に自信がないときがあるもんで。あるいは北山は地名かとおもいきや、これ「接吻」の意味を持っているとか。「北山の衣笠にいた巫女が死んだ人を呼び出したり、口寄せしたところから出た隠語」と解説されています。へぇ〜、ほぉ〜と楽しめる本でもあります。

一緒にこんな京都本も入荷しました

ナカムラユキ「京都文具探訪」(KTC中央出版900円)   

木村衣有子「京都の喫茶店 昨日・今日・明日」(平凡社1100円)

近代ナリコ「京おんなモダン・ストーリーズ」(PHP900円)

こちらは実用性の高い優れた本ばかりです

誠に勝手ながら、レティシア書房は9月1日(月)〜5日(金)まで臨時休業させて頂きます。よろしくお願いいたします。

6日から、新刊アートブックフェア開催です。

 

 

Tagged with:
 

平松洋子の本のタイトル(日本経済新聞社800円)です。

暑い日、あぁ〜一杯の水が欲しいとダダダッと帰宅する。でも、ここは水ではなくビールだろうと我慢する。そして、彼女はこう書きます

「気分はつんのめるばかりなのだが、どうどうと自分をいなして懸命に立ち止まってみせる。だって、ここでほんの少しだけ自分をがまんしたら、あとできっと大きな喜びがやってくるのだもの。それを知っているからこそおとなの知恵です。」

これは、「塩トマト」の章の出だし部分です。さっとお料理できるレシピ集なんですが、書き出しの部分がどれも面白い。文章巧みな彼女だけあって、トントントンと読ませます。

「ジャム添えビスケット」なんて、単にジャムにビスケットを塗っただけの食べ方の紹介ですが、暮らし方にまで話は及びます。何か甘くて美味しいものが欲しい、でも家の中には何もないというような、へこんだ気分を逆手に取って、「ジャムは、トーストのためにだけあるのではなかった」という新発見に似た気分を味わう。ふだんの生活というのは、ちょっとした力の抜き方のこつを知っていれば、気分良く過ごせるというわけです。

エッセイの上手な人は、この国には数多くいます。しかし、短い文書で、きちんと読ませて、ニヤリとさせるとなると平松洋子はベスト5に入るのではないかと、私は思っています。「小鳥来る日」(講談社900円)の中に、「五月の素足」というエッセイが収録されています。素足で歩く喜びを綴った文章ですが、「足の裏」とは、実は裏ではなく、「身体のすべてを一身に背負う、堂々たる『表』なのだ」というオチに持って行くセンスはお見事です。

漫画家の谷口ジローと組んだ「焼き餃子と名画座」(アスペクト600円)、「サンドウィッチは銀座で」(文藝春秋500円)は、エッセイと漫画のコラボで、ぐるぐる〜とお腹が減ってくる作品です。

 

 

 

 

 

 

 

誠に勝手ながら、レティシア書房は9月1日(月)〜5日(金)まで臨時休業させて頂きます。よろしくお願いいたします。

Tagged with:
 

「不思議の国のアリス」の新訳って、まだ出るんですね。

今回の組み合わせは、「ムーミン」シリーズでお馴染みのトーベ・ヤンソンが、1966年フィンランド語版「不思議の国のアリス」のために書き下ろした絵に、第一線で活躍する村山由佳の新訳(メディアファクトリー1350円)というコンビです。

彼女の小説は、読んでないのですが、房総半島で、自然と向き合う生活を綴った「海風通信」を読んで、素敵な文章を書く人だと思っていました。この新訳の後書きでも、ルイス・キャロルの少女への憧憬を踏まえた上でズバリこう言い切ってます。

「恋ではないにせよ、キャロルがアリスをとても大切に思っていたことは間違いないと思うし(愛しくも何ともない少女のために半年もかけて直筆の絵本を作ってやる男はいない)ーそんなふうな、たぶん男なら誰でも胸に抱くであろう<永遠の少女への純粋なる憧憬と保護欲>のようなものを少しでも訳文に滲ませることができるならば、これまで男性の一人称で語る恋物語を多く書いてきた私が『ありす』を訳することにも、なにがしかの意味が生まれるのではないか。そんな風に思ったのだ。」

一方、ヤンソンの挿画ですが、やはりムーミンの世界ですね。おや、貴女はムーミンと一緒にいた人ですよね、と話しかけたくなる魅力的な世界です。数点のカラー作品も掲載されている彼女の「不思議の国のアリス」は本国では絶版になっているみたいです。ヤンソンファンにも、アリスファンにも洒落た絵を楽しんで頂きたい一冊です。

 

ギャラリー予告

昨年、トーベ・ヤンソンの故郷を撮影した写真展をしていただいた写真家、かくたみほさんの新作の個展を開催します。

来年1月20日(火)〜31(日)の予定です。ご期待ください。

 

 

誠に勝手ながら、レティシア書房は9月1日(月)〜5日(金)まで臨時休業させて頂きます。よろしくお願いいたします。