イギリス在住のコラムニストのブレイディみかこは、労働者階級の子供達を通じて英国の現状をあぶり出し、それでもどっこい生きている姿をビビッドに描いてきました。

今回は、労働者階級のうだつの上がらないおっさん群像を描いて、EU離脱に揺れる大国の姿を見せてくれます。「ワイルドサイドをほっつき歩け」(筑摩書房/古書950円)です。

ここに登場するおっさんたちは、BBCが発表した階級表(英国は階級社会であるというのは常識)によると「トラディショナル・ワーキング・クラス」に該当します。著者はこの階級の人をこのように解説しています。

「収入は低いが、資産が全くないわけではない。自分と同じような職業の人々と交際している。フイットネスジムに通うとかソーシャルメディアを使うというような現代風の文化はあまり取り入れない。ダンプの運転手、清掃職員、電気技師などの仕事をしていることが多い。」

著者は、連れ合いの男友達のおっさんや、女ともだちの旦那たちとの付き合いの中から、彼らの人生観や国の将来の展望を、いつものパワフル母さん調で語ります。

「海外には、英国はすでにEUを離脱したものと思っている人たちもいるが、実はまだEUの中にいる。離脱の条件に関する取り決めがぐちゃぐちゃといつまでもまとまらず、もはやすっかり国民がダレている状態」だというのが現状だとか。

政府の緊縮財政政策による医療体制の崩壊、景気悪化による失業、酒で身を持ち崩して妻に逃げられる、等々おっさんたちを取り巻く環境は厳しさが増しています。

「寝ゲロはやべえんだよ。喉に詰まって死んだりするから。年をとったら食道も繊細になるから。自重して飲まないと。」

「うん、俺たちの年になると泥酔するのも命がけ」

などとぼやきながらぐいぐいビールを飲んでいるおっさんたちを、見守る著者の愛情がかいま見えてきます。「おめえ、アンチトランプデモに行ったろ」と友人のデモ参加をワイワイ言い合ったりしながら、おっさんたちは前に進んでいこうとします。帯に「絶望している暇はない」と書かれていますが、その通りの忙しい日々が続いていきます。人情ドラマを見ているような気分になりました。

「労働者の立場が弱すぎる現代に求められている新しい労働者階級の姿とは、多様な人種とジェンダーと性的指向と宗教と生活習慣と文化を持ち、それでも『カネと雇用』の一点突破で繋がれる、そんなグループに違いない」という著者の言葉が力強く響いてくる一冊です。おっさん、頑張ろ!!

 

 

 

 

 

子供の本専門店メリーゴーランド京都の店長鈴木潤さんの、二冊目の著書が出ました。「物語を売る小さな本屋の物語」(晶文社/新刊1815円)です。

「私が生まれた四日市の少し郊外の松本という町にメリーゴーランドができたのが1976年。私が4歳の頃のことだ。当時周りは田んぼだらけでそこにポツンと三階建てのビルが建った。その一階が子ども本専門店メリーゴーランドだった。」

彼女はこの店に入り浸りになり、絵本や児童文学の世界にはまっていきます。そして青春時代、世界を見たいという欲求に動かされていきます。当時、憧れの存在だった筑紫哲也(高校生にしては渋い趣味)がポスターに出ていたピースボートを見た瞬間、東京へ飛び出します。広い世界を見て、今度は就職活動もせずにアメリカへと旅立っていきます。絵本好きの少女は、ストレートに絵本専門店で働き出したのではないのです。この、彼女の疾風怒濤の時代が本の前半に描かれています。

動き出したら一気にいくという資質は、この時代にできたものなのか、先天的に当たって砕けろ精神があったのかは知りませんが、その後の絵本屋人生で大きな力となっていきます。

1996年、彼女は四日市のメリーゴーランドでアルバイトとして働き出します。私が、ここを立ち上げた増田社長の声を初めて聞いた時、どこのヤクザや?と思ったほどドスのある声でした。とても、絵本専門店の社長には見えませんでした。個性的な社長と鈴木さんが、お互いの言い分をぶつけて喧嘩をしながら、絵本書店の運営の面白さにのめり込んでいきます。この二人のやり取りが方々に出てきますが、似た者同士のように思います。

「ある日増田さんが『京都に店出すぞ。潤、京都に行くやろ」と言い出しました。」

そして、京都へ。物件探し、住まい探し、開店準備と慌ただしく時間は過ぎていきます。後半は、京都出店までのスリルに満ちた日々、そして結婚、出産を通じて彼女が考えていることが綴られています。

「ムーミンママの『誰だって秘密の一つや二つ持つ権利があるものよ』というセリフは本当にその通りだと思う。子どもだからといって何でもかんでも親に話す必要なんてないのだ。私は子供が秘密を持ったとき、そのことをそれとなく感じながら見守れたらいいなと思っている。秘密が人を成長させることだってあると思うから。」

二人目の男の子を出産して、子どもを抱きかかえて店に出ておられた時の彼女の姿を覚えています。鈴木さんとは、当店の開店以来仲良くさせてもらっています。

「本が『さあ、面白いから手に取って』と本棚を眺める人たち語りかけてくるような場所でありたい」と本書で書かれていますが、メリーゴーランドはいつ行ってもそんな場所になっていると、私は思っています。

連休明けのある日、中須俊治さん著の「Go to Togo」(烽火書房/1650円)を持って、出版社の嶋田翔伍さんが来られました。アフリカのトーゴ共和国へ向かった青年が、この国の織物の美しさに惹かれて、京都の伝統工芸の技と融合ささせようと奮闘したプロセスを描いた本です。著者も京都、版元も京都。う〜ん、これは置くしかないと店長が判断したそうです。

ちょうどギャラリーも空いているし、出版記念の展覧会の話がまとまりました。急遽決まったことでしたが、嶋田さん、著者の中須さん、お友達の協力で素敵な展示になりました。トーゴの街角のウキウキするような鮮やかな布地屋さんの写真が中央に飾られています。一方の京都の職人西田さんの写真は、窓から差し込む光の中で作業されている姿が渋くてかっこいい。

本の中で中須さんは、生まれたばかりの娘さんに「お父さん、それかっこいい」と言ってもらえるような仕事をしていきたいと述べていましたが、京都の職人さんもトーゴの女性の顔も輝いています。

中須さんは京都信用金庫に勤務しておられた経験から、若い情熱だけで無謀にもアフリカと京都をつなげる、と言った冒険ではなく、作り手の顔が見えるしっかりした商品を届けたいという思いで起業されました。そのプロセスが軽快な文章で綴られています。自分一人で乗り越えられない苦労も、仲間や先輩に支えられて一つ一つ解決していきます。それもただ夢のような話ではなく、人と人がつながるリアルな描写が心地よい本です。この気持ち良さは、きっと著者の人柄でしょう。

現在トーゴもロックダウンされていて、美しい布の展示はできませんでしたが、ブックカバー(3500円)、名刺入れ(4000円)、蝶ネクタイ(4000円)、ペンケース(3000円)、パスポートケース(4000円)、ミニマット(1000円)などの雑貨を展示販売しています。見たことのないトーゴという国を想像しながら手にとってみてください。

トーゴ共和国は、チョコレートで有名なガーナ共和国の隣で、周辺国に比べると経済資源の少ない世界最貧国の一つだそうですが、アフリカンプリントと呼ばれる布にはトーゴで生産されているものが多いのです。そしてその中でもケンテという布は王族に献上される一級品。そういう「ものづくり」をリスペクトし、京都の技術と融合させて新しい価値を生み出し「みんなが笑って過ごせる世界をつくる」ことを目指す取り組みにご注目いただけたら幸いです。

この本の仕様は変わっていて、日本での話は縦書きで、トーゴで起こる様々なことは横書きになっています。その度に読み手は本をひっくり返しながら読まなくてはなりません。面倒くさいな〜と、敬遠していたのですが、読み始めるとちょっとした気分転換という感じで面白く読み進むことができました。本の製作過程の展示パネルもありますので、ご覧ください。

前日の展覧会の準備は、仲間と一つのものを作り上げる楽しそうで、少し懐かしく羨ましく見ていました。人が繋がっていく輪の中に、本屋もちょっと入れてもらえたとしたらこんな嬉しいことはありません。(女房)

『中須俊治「Go to Togo 一着の服を旅してつくる」 アフリカ布と京都のものづくり展』は6/24(水)〜7/5(日) 13:00〜19:00   (6/29  6/30は休み)

 

 

 

 

 

 

MACの創始者スティーブ・ジョブスは、若き日、禅僧になることを人生の目的にしていたそうです。それを押しとどめ、社会の中で役立つことをしなさいと諭したのが、禅師乙川弘文。この禅師がまたすごい人物で、女性問題、アルコール飲酒等々で問題を引き起こした「破戒僧」でした。しかし、多くの弟子から慕われた人物でもありました。

そんな波乱の男の一生を追いかけたのが、柳田由紀子著「宿無し弘文」(集英社/古書1400円)です。この僧もさることながら、世界中に散らばる関係者に会って、弘文のことを聞き出し、文章にした著者のエネルギーと執念に脱帽です。300ページの厚い本ですが、全て聞き語りなのでスラスラと読めます。

 

弘文は、1938年新潟県のお寺の息子として生まれます。京都大学大学院を経て、永平寺で修行、その後アメリカに渡り、アメリカ人に禅を教えていきます。離婚、再婚を繰り返しながらも、多くの弟子を育てていきます。しかし2002年、スイスで娘と共に溺死。64歳の生涯を閉じました。彼の死を知ったジョブスは泣き崩れたそうです。その一年後、彼は癌の告知をされます。

ジョブスの友人、レス・ケイは弘文を「精神的な賢者であるかたわら、未熟な少年でした」と振り返っています。お酒にも、お金にもルーズだったとか…….。

弘文が教えたカリフォルニアにある禅寺慈光寺は、本国の曹洞宗から認可されていませんでした 。それは彼が本国へ届けを出していなかったからです。

「弘文は、日本の曹洞宗を布教したかったわけじゃない。法、つまり仏陀の教えを伝えたかった。弘文には欠点もいっぱいあったけれど、釈迦の心をひたむきに学び、真実に生きた」とは弟子のアンジィ・ポオサヴァンの印象です。

禅僧として不適格者、人生の失格者という評価と、釈迦の教えを真摯に教えた無欲の僧という評価が交錯する弘文を巡って、著者も混乱しつつ、各地にいる関係者に取材していきます。著者の困惑を私たちも抱きながら、旅を続けることになります。

元弟子で現在心理療法士になったステファンは「自分を価値あるものと思うこと。自身の経験を敬うこと、目的のためでなく、ただ座禅すること。毎日が禅だということ」ということを教えられたと懐しく語っています。

多くの関係者が登場し、語るのですが、彼の本質はなかなか見えてきません。ジョブスがなぜこれほどまでに弘文に傾倒したのかについても、様々な意見が出てきます。でも諦めずに著者は彼をめぐる旅を続けます。読んでいくうち、もっと弘文を知りたいと思えるから不思議です。

本書のラストは「弘文さんは生きていた 新潟県加茂市市民課の話」です。弘文の最後を飾るにには、なんとも微笑ましいような、ファンタステイックな幕切れです。

「理想的な座禅とは、呼吸さえも意識しないものです。円を描くように呼吸してごらん」という弘文の言葉が印象に残りました。

 

夏葉社を営む島田潤一郎さんが起こした新レーベルの岬書店から、本に関する書籍が二冊発売されました。二冊共面白い!そこで、本日と明日の二回に分けてご紹介します。

まずは「ブックオフ大学ぶらぶら学部」(1430円)。多分こういうアプローチでブックオフ書店を論じたものは無かったと思います。「ブックオフ大学ぶらぶら学部」代表の島田さんが、書店主やライターなどに、ブックオフについて書いてもらいました。

ライターの武田砂鉄が「ブックオフにあり、新刊書店や目利きのいる古本屋には無い点とは何か。『本のことをよくわかっていない人が、これはたぶんこっちじゃないかと並べてみちゃった感じ』である」と、その特徴をピックアップしていますが、いっときのブックオフはそんな感じがありました。私もよくブックオフに仕入れに行きましたが、なんでこの本がこんな所に?しかもこの価格で出すかな?とニンマリしながら、買った時がありました。

さらに「新刊書店は体調が悪くても楽しめるけれど、ブックオフは体調が悪いと楽しめない」と書いていますが、正解ですね。膨大な量を納めた棚を見つめるには体力と集中力が必要なのです。

京都「ホホホ座」の山下店長も参加してます。4〜5時間ブックオフで楽しむことができる筋金入りの人です。「最近いちばんよかったのは、あれですよ。向田邦子のエッセイを岸田今日子が朗読しているCD。めちゃくちゃいいですよ。」

きっと、均一価格のCD棚で見つけたんでしょうね。私も500円コーナーはじっくりチェックしますが、280円コーナーまではとてもとても身が持ちません。

「ぼく、ブックオフがつぶれたらほんとに困るんですよ。あそこはとにかくほっといてくれるし、広いし、多様性があるし、生活と地続きな感じがあるし。居てて安心するんです。ぼくみたいな『オッサン』がいつまでもいてていい場所ですからね」

この意見には同感です。オッサンが100円文庫棚を真剣に見つめている様はなんかホッとさせてくれます。ところで、ブックオフ店内で携帯電話片手に本のバーコードを読み取っては、店内のカゴに本を山盛り入れている人物、ご存知でしょうか。いわゆる”せどらー”さんです。バーコードリーダーで価格を読み取り、ネット上の販売価格と比較して、安ければ買って、高く売るという商いをされている方々です。

「ブックオフで仕入れた本を、Anazonで売ることによって、差益を得る人種」と、便宜上ここでは、せどらーを定義しています。私もたまには仕入れにゆくので、その時はせどらーになるわけです。(Amazonでは売りませんが)本書では、このせどらーの生態と、日々の業務?についてかなり詳しい解説が付いています。いやぁ〜凄いですね。これで生活している人がいるんですから。せどりのハウツー本まであるんです。

最後にぶらぶら学部代表の島田さんが、2000年代前半のブックオフの状況を「お金がなくて、時間だけがある文化系の若者たちはこぞってブックオフに足を運んだ。」と振り返っています。

「ブックオフはまるでセーフティネットのようだった。社会に行き場のない人たちが集い、カルチャーをなんとか摂取しようとしていつまでも粘る場所。」であり、105円出せば、なんらかの本をゲットでき、新しい文化、芸術を知ることができる場所であったのです。

最近のブックオフは粗視化され、すべての本がデータ化されたため、おっ!この本がこの価格!という驚きは無くなりました。でも、何時間いても文句も言われずに本に出会える場所であることは間違いありません。

本書の裏表紙に、ブックオフそっくりの価格表が付いています。ブックオフへの愛着一杯のシールです。

最近TVのニュースや新聞を見ていると、モヤモヤすることが多くないですか。首相のデタラメさは言うに及ばず、スタンドプレイが上手な某知事など。そこで、内田樹の「サル化する世界」(文藝春秋/古書1200円)をお勧めします。

私がこの本を手に取ったのは、2019年9月13日号の「週刊ポスト」が、「『嫌韓』ではなく『断韓』だ 厄介な隣人にサヨウナラ 韓国なんて要らない」という記事を載せて、後に謝罪して記事を撤回したお粗末な行動について、内田先生がコメントしていたからです。先生曰く

「市民的常識を逆撫でして、世の良風美俗に唾を吐きかけるような言葉を発表する時には、それなりの覚悟を決めてやってくれということである。それで世間から指弾され、発言機会を失い、場合によっては職を失って路頭に迷うことを覚悟してやれということである。覚悟がないなら書くな。」と。問題なのは、職を賭さないけれどちょっと言ってみようというさもしい根性です。ぽろっと言ってみたけど、メディアも、司法も異議ありと言われなかったからいいや、みたいな言論環境だから大丈夫と思った瞬間、やれ謝罪だ、撤回だと騒がれて、一目散に逃げ出してしまいました。

「『職を賭してまで言いたいというほどのことではないが、職を賭さないで済むなら、ちょっと言ってみたいこと』をぺらぺら語り出したのである」

因みに、内田先生はこの記事以降、版元の小学館とは仕事をしないと公言しています。

こんな風に、様々な視点から現代日本の劣化してゆく姿をあぶり出し、どう処方していくのかを論じています。

文学を扱っている本屋としてはなんだそれ、と激怒してしまった箇所がありました。「論理国語」という高校の国語の授業ご存知ですか。生徒会の議事録と生徒会の規約を見せて、年度内に生徒総会を開催できるかどうかを問う問題が模試に出たそうです。

契約書や例規集を読める程度の実践的読解力を「論理国語」という枠組みで育てるらしいのです。先生はこう指摘します。

「これはある種の国語力を育てるというより、端的に文学を排除するのが主目的」

文学なんて非論理的で、役に立たない。だからそんなものに教育資源を投入できない、と考えている「文学抜き」で大人になった政治屋が、音頭を取って導入していると先生は考えています。学問の基礎研究を疎かにしている大学教育の方針転換もその一例です。役に立たないもの=無駄、という考え方です。

「知性に対して虚無的な考え方をする人たちが教育政策を起案している。これは現代の反知性主義の深刻な病態だと思います。」と先生は警告しています。

脳内を突きまくられますが、この国の今と将来を見据えるために必読の一冊です。

 

★HP内で紹介している本は全て通販可能です。まずは、メールinfo@book-laetitia.mond.jpまでご連絡ください。

これ、北海道東の標茶町から根室海峡に向かって流れるポー川のカヌー体験中に、川の様子を表現した子供の声です。詩人ですね。

平均年齢60歳を過ぎたガイドが、この川でのカヌーの指南役です。「京都や大阪はオーバーツーリズムと言われるほど、観光客が多い。その分失われてしまった自然環境もある。環境と観光は共存しなきゃ。標茶湿原の自然を守りながら、魅力を伝えるのが私の使命」とはガイドの井南さんの言葉です。

北海道発の雑誌「スロウ」最新号の特集は、カヌーで辿る川のはなし」(990円)です。登場するのは、士別市の天塩川、中頓別町の頓別川、根室市のオンネベツ川、釧路市の釧路川、苫小牧市の美々川そしてポー川です。それぞれの川で、カヌー体験の楽しさを教えています。鬱陶しい梅雨時に、川とその流域に広がる自然を捉えた写真など眺めるのはいいですよ。

私も何度か釧路周辺でカヌーに乗せてもらいましたが、船が進んでいるというよりは、川が運んでくれる感じでした。この特集は、そんなカヌーの魅力が満載です。

ところで、松浦武四郎という人をご存知ですか。それまで蝦夷地としてしか認知されていなかったこの土地を北海道と命名した人物です。幕末から明治にかけて、アイヌの人たちと交流し、この地を探検しました。1857年、松浦はアイヌ人が提供してくれた丸太船に乗って天塩川流域を調査しています。その中でアイヌの人々の暮らしを見つめ、和人とアイヌとの共存を図ろうとしますが、時の政府と対立し、スポイルされてしまいました。本書には天塩川と松浦の関係を追いかけた小特集も載っています。

また、現在店内で実施している「LIXIL出版BOOKLET最終フェアー」の中に「幕末の探検家松浦武四郎と一畳敷」(1650円)という傑作があります。魅力的な松浦の人間像がわかります。

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朝日新聞で連載されていた近藤康太郎の「アロハで猟師してみました」が、書籍化されました。「アロハで猟師、はじめました」(河出書房/古書1200円)です。

「2016年の秋に、鉄砲撃ちの漁師になった。もとはといえば、東京・渋谷生まれのセンター街育ちで、仕事場もずっと東京だった。」

猟など全くの想定外、アーバンライフを送っていた男性が、ひょんなことから猟師になったのです。移り住んだ長崎県の田んぼがイノシシに荒らされて、やむなく漁師になることを決めたのが発端でした

「人間は狼を絶滅させた。天敵がいなくなった狼や鹿が、今度はあちこちで深刻な農作物被害を及ぼす。人間が生態系を適切に管理できると考えること自体が身の程を知らない奢り」と、著者は考えています。

猟銃所持のライセンスと猟師の資格を取得し、先輩猟師の後をついて、この世界に入っていきます。著者がついた先輩猟師が、こう教えます。「撃ち落とした獲物は、だから必死に、それこそ犬のようになって、はいつくばって探す。しかし、それだけでも、まだ足りないのだ。探してきた獲物を、きれいにさばいて、おいしく料理して、骨の髄まで残らずいただく。そこまでして、初めて『殺したものを生かした』事になる。」

その教えを守りながら、藪に分け入り、獲物を狙うのです。でも、「自然に返って自給自足の生活」的生き方を提唱するつもりは全くなく、「資本主義にも半分は足を突っ込み、原稿料を稼いだりする。しかし、脅迫的な新自由主義からも、半分は足抜けする。」というのが、生き方の基本的スタンスです。これからの時代の生き方の模索として、若い方にも読んでほしい一冊です。

著者は、鴨撃ちだけではなく、縄猟の免許も取得します。そこで鹿を縄猟で仕留めた時、鹿を絞め殺し、血だらけの解体を体験。さらには、罠にかかった子鹿の暴れくるう姿に足が止まります。そこから、多くのことを学びました。

「家畜も、野生のけものも、しょせんは殺す生きものである。違いはない。しかし、そこには、礼節というものがあってしかるべきではないのか。いや、他のいのちに対し、礼節という感情を持ってしまう<けもの>こそ、人間と呼ぶのではないか。」

この本は、縁あって狩猟の世界に足を突っ込んだ男のドタバタ物語として読んでも面白いですが、この体験を通して、変革期の現代社会の姿を、資本主義の崩壊を、新しい働き方を模索してゆくところが真骨頂です。

「七転八倒・抱腹絶倒のドキュメント」とは、よく使われるPOPですが、ホントにそんな一冊です。

 

小川洋子、太田光、中沢新一と異種格闘競技のような対談集を出してきた山極寿一先生が、またもや対談集を出しました。それが「虫とゴリラ」(毎日新聞社/古書1100円)です。対談相手は養老孟司先生。解剖学と人類学と学問の違いはあれど、なんとなく似た者同士の組み合わせですが、このお二人が面白くないはずがない。刺激に富んだ対談集でした。

本の紹介に入る前に、先日NHKの番組で山極先生が、哲学者、歴史学者というジャンルの違う学者と、コロナ後について語り合ったことを書いておきます。番組で先生は、「地球は人間が主人公ではない。多くの細菌、多くの生物の住む惑星であり、人間が主人公の如く生態系を破壊している。」と語り、例えば温暖化の影響などでコロナとはまた違う生物が登場する可能性もあるから、生態系、自然環境をあなどることをしてはいけないと言われたのですが、今回のコロナ騒動下で、最も腑に落ちた意見でした。

その思想が本書にも流れています。自然との感動を分かち合う生き方を求めてゆくことの大事さが語られています。元来、秋になれば山から聞こえてくる鹿や猿の繁殖期の鳴き声や、春には鳥の繁殖の鳴き声に、日本人の情緒は影響されてきたはず。しかし、「今、森が空っぽになっちゃたから、気温の変化や、そういうものでしか判断できなくなっちゃった。自然に対する感覚を失って、人間が機械的な反応しかできなくなったいう気がするんです。」と語っています。

洗剤で荒れた河川を下水道整備でもとの状態に戻した時に、「役所がフナを放しやがった。フナなんて一匹もいなかった川なのに。」と養老先生。

すると山極先生が、役所は日本の水田の構造・生物環境を調べずに「『復元すりゃいいでしょう』って、いろんな生き物を放しちゃった。それで生態系が変わり、外来種もずいぶん増えちゃった」と答え、さらに養老先生が「いちばん悪いのはアメリカザリガニ。あいつら、本当にたちが悪い」と切り返していきます。なんだか、飲み屋さんで、ご隠居のうんちくを聞いている感じで、とても楽しい読書時間です。

最後の山極先生の発言は、これからの生き方を考える上で大切なことが語られているので、長いですが、全文載せます。

「日本列島はもうほんとうに多様ですから。この多様というのをうまく反映させた地域づくりと、自然観をつくっていかないと。工業化っていうのは、均一性に向かうんですよ。もちろん海外からくるものは、みんな均質、質保証って言うでしょう。あの質保証っていうのがね、厄介なんです。ある質っていうのをクリアしなくちゃいけない。だから、その質をクリアしないものは、製品にならない。捨てられていくわけです。こぼれ落ちていくものほど、価値がある。だから、うちはいくつもそのこぼれ落ちたものをいただいて食べてますけども。そっちのほうの、価値観を持たなくちゃいけないと思います。」

そして「こぼれ落ちたものが、いちばん面白いんですよ」と養老先生が締めくくりました。

 

お知らせ 

6月より、営業日・時間を下記のように変更いたしました。

月曜、火曜定休。 営業は水曜日から日曜日まで 13時〜19時とさせていただきます。また、ギャラリーの企画展も7月から再スタートをいたします。度々の変更でご迷惑をおかけいたしますが、よろしくお願いします。通販、メールでの在庫確認は常時できますので、ご利用ください。(info@book-laetitia.mond.jp)

 

 

私はサブカルに関する評論などを読みません。それは、自分自身がサブカルって何?という地点でウロチョロしているからです。アンダーグラウンド系コミックのことを指すのか、オタク系カルチャーをそう呼ぶのか、あるいは極めてパーソナルな音楽や映像を象徴する言葉なのか、イマイチ理解できないのです。

それなのに、この「ポスト・サブカル焼け跡派」(百万年書房/新刊2640円)を手に取ったのは、帯に書いてあった推薦文の言葉でした。

「彼らの饒舌な対話が言論ゲームに陥っていないのは、そこで、我々の暮らす社会は何故こんなことになってしまったのか。そしてどうするべきなのかという精密な検証と誠実な議論が行われているからだろう。」

書いたのは、音楽評論家で「踊ってはいけない国で、踊り続けるために ―風営法問題と社会の変え方」(2013)を出版した磯部涼です。

本の著者は、TVODという二人のテキストユニットで、1970年代から2019年までの音楽シーンを代表する人物を取り上げて、その時代を象徴するものを解き明かしていきます。

チョイスの基準がユニークで、73年〜78年は矢沢永吉・沢田研二・坂本龍一の三人。さらに79年から83年は、ビートたけし・戸川純・江戸アケミと、メジャーもインディーズも取り混ぜての選択です。

「70年代にアイドルを文芸として読む、みたいな態度も編み出されたわけだけど、沢田研二はむしろそういうところから離れていったというか、D ・ボウイ等を手本にして、自ら率先して記号になろうとしたと思うね。心情吐露的に内面を表現することからは距離を置いて、自分を記号的なキャラクターにしていったというか。」

四畳半的な心情や、私小説的ニューミュージックの世界に背を向け、自分の叙情性を放り投げて、実態のないものの中に、その存在を記号化してしまう方向へと突き進んでいきます。

糸井重里作詞による「TOKYO」の歌詞覚えてますか?「空を飛ぶ街が飛ぶ 雲を突き抜け星になる 火を吹いて闇を裂き、スーパーシティが舞い上がる」という、とんでもないシュールな歌詞で、さらにこの歌は「海に浮かんだ光に泡だ」と来たるべくバブルの時代まで予感しています。

こんな風に「精密な検証と誠実な議論」は2019年代まで続くのですが、椎名林檎、バンプ・オブ・チキン、星野源などが登場するあたりから、私にはもう理解ができない…….。ぜひこの本は若い世代の方にお読みいただき、解説をお願いしたいと思っています。X-JAPANまでは、成る程と理解できたんですけどね。

本作品を発行した「百万年書房」は最近立ち上がった出版社で、以前にも「しょぼい喫茶店の本」を当ブログで紹介しています。他にも刺激的な本があります。この出版社のコーナーも常設していますので、手に取ってご覧ください。

お知らせ 

緊急事態宣言は解除されましたが、暫くの間、営業日・時間を下記のようにさせていただきます。

営業日:毎週 火曜日、木曜日、土曜日、日曜日  営業時間:13時〜18時

なお、6月より、月曜、火曜定休 水曜日から日曜日まで 13時〜19時に変更いたします。また、ギャラリーの企画展は6月下旬からのスタートを予定しています。度々の変更でご迷惑をおかけいたしますが、よろしくお願いします。

通販、メールでの在庫確認は常時できますので、ご利用ください。(info@book-laetitia.mond.jp)