「ば〜か、まだ何も始まっちゃいねえんだよ」

という威勢のいい啖呵で、映画「浜の朝日の嘘つきども」は始まります。物語の舞台は、福島県南相馬にある古い映画館「朝日座」です。2011年の大震災からなんとか続けてきたものの、コロナで打撃を受け営業が困難になり、館主(演じるは江戸前落語の柳家喬太郎)は閉館を決心して、映画館の前でフィルムを焼き始めました。そこへ突然飛びこんできてそのフィルムを奪い取り、この映画館は「閉鎖したらだめ!再開する!と宣言した女性がいました。「いや、もうすべてやったきたんだ」とつぶやく看守めがけて、言い放ったのが、冒頭の言葉です。

館主も観客も、素性がよくわからないまま、茉子というその女性のエネルギッシュな行動を追いかけてゆくことになります。タナダユキ監督のセンスの良さが光るのは、ここからです。「ニューシネマパラダイス」みたいな映画愛に満ちたセンチメンタルな映画にシフトせずに、茉子の人生に焦点を合わせるのです。

彼女は高校時代、震災が原因で家族問題で悩み、自殺しそうになったところを教師の田中茉莉子に救われます。この田中という教師、もう男にはだらしなくて、すぐにふられて、そのたびに好きな映画を観て大泣きする女性でした。田中と茉子が出会い、先生と生徒という関係を超えて友情を育て、お互い助け合いながら生き、そして永遠の別れをするまでの女性同士の物語が、映画の主軸へとなってゆくのです。

田中を演じたのは大久保佳代子。面白いTVタレントだと思っていたのですが、見事な演技でこの女教師に陰影を持たせます。主演は彼女と言っても過言ではありません。乳がんを患い、死を眼の前にした田中を見守るとても悲しいシーン。が、その最後の言葉を聞いた途端、皆大笑いさせられます。泣くことと、笑うことが同時に襲ってくるシーンがやけに哀しく愛おしい。

さて映画館は、茉子の奮闘努力で一時的に持ち直しますが、大きな借金のためついに解体の日を迎えます。このまま、解体されるかと思いきや、なんとハッピーエンドなんです!え?嘘!映画みたいやん!

そうなんです。映画って嘘の世界なんです。その2時間あまりの嘘に付き合って、泣き、笑い、驚き、共感する。そして、こんな面白いものがあるんだったら、もうちょっと頑張ろうか、と思わせてくれるのが映画なのです。

「音楽で人は救えない。でも寄り添うことはできる」と言ったのは、坂本龍一だったと思います。「音楽」の部分をそのまま「映画」に変換できると思います。

家族という存在に悩みつづけてきた茉子が、血の繋がりではなく、田中先生と新しい関係を持つことで、一歩踏み出してゆくまでを描いた映画です。主演の茉子を演じた高畑充希もとてもチャーミングでした。

とても、お勧めの作品です。

⭐️本の紹介をZOOMにてさせたいただく「フライデーブックナイト」。次回は9月17日(金)です。

⭐️北海道のネイチャーガイド安藤誠さんのトークショーを今年も開催します。

10月24日(日)19時スタート(2000円)要予約

 

 

 

 

インドネシアにある小さな村、ラマレラ村。ガスも水道もない。さらに、火山灰に覆われた山が迫っているこの村では、作物が全く育たない。1500人もの村人の生活を支えているのは、鯨漁。年間10頭の鯨の収穫があれば、村人全員が1年間、暮らしていけるのです。

その鯨漁は、手作りの木製の船に乗り込み、先頭に立ったモリ打ちが、巨大な鯨に向かって、ダイブしてモリを射つという古代からの漁法です。

この村の、鯨との付き合いと暮らしを3年間にわたって撮影して、ドキュメンタリー映画「くじらびと」にしたのが写真家の石川梵です。写真集「 THE DAYS AFTER東日本大震災の記憶」(飛鳥新社/古書1900円)、太古の記憶を求めて地球をめぐるノンフィクション「時の海、人の大地」(魁星出版/古書1100円)、そして映画の原作とも言える「鯨人」(集英社新書/古書600円)など、店には彼の本を置いています。私の尊敬する作家です。

おぉ〜こんな映像初めて観た、と感動したのは空撮で捉えた鯨漁。真っ青な海、その大きさに比べればちっぽけな船が、船よりも数倍大きな鯨に近づいて行く。壮大な自然の中で繰り広げられる死闘。ラマレラ村では。食べる糧を取るということは命を賭けることなのだ、という真実が胸に迫ってきます。

映画の中で、この海域で獲れるマンタ漁の最中に、マンタにかかった網に絡まれて深海に引きずりこまれて命をなくした若い村人の物語が出てきます。悲しみにくれる家族は、それでも新しい船を作り海に出てゆく。鯨とともに生きるしか道がない事実を村人は知っています。鯨はモリを撃ち込まれても、何度も何度も抵抗し、船に体当たりを敢行します。そして、海面はその血で真っ赤になっていきます。

残酷とか、かわいそうとかは全く思いませんでした。それどころか、モリ打ちが海面に飛び込む瞬間には、興奮しました。人間にはどこかに狩猟民の血が残っているのでしょうか?

個人的には捕鯨には反対です。しかし、この村では、鯨漁は命と命のやり取りなのです。

「自分たちは食うために必死に鯨と戦う。鯨も生きるために必死に抵抗する。どちらが勝つかは神様が決めることだ。」

とは、石川梵著「鯨人」に登場するモリ打ちの言葉です。

野蛮でも残忍でもなく、神聖ですらある鯨漁の姿を通して、「鯨人」の中で著者はこう結びます。

「生き物と生き物との間で交わされる命のやりとりの崇高さに、私は痺れるほど心動かされた。その高みの前には、今、話題になっている鯨の保護か捕鯨とかいうような時事的な問題はむしろ些少に思えた。全ての生き物は生きるために他者の命を奪う。それは殺戮ではなく、命の循環であり、尊い生の営みなのだ。」

映画のラストは、穏やかな海に、ソプラノ歌手森麻季の「アベ・マリア」が流れます。まるで、大海を泳ぐ鯨が歌っているようでした。

 

⭐️本の紹介をZOOMにてさせたいただく「フライデーブックナイト」。次回は9月17日(金)です。

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10月24日(日)19時スタート(2000円)要予約

 

 

 

 

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「LIL BACK」というダンサーのドキュメンタリー映画が、UPLINK京都で上映されています。おススメの一本です。

暴力と貧困が常に身近にある街メンフィス。ティーンエイジャーになったらギャングになってゆくのが当たり前というこの街から、とんでもない男が飛び出しました。チャールズ・ライリー(愛称リル・バック)。メンフィス発祥のストリートダンス”メンフィス・ジューキン”にのめり込み、努力を惜しまず実力をつけ、チャンスを着々とものにしていきます。ジューキンがどんなダンスかを説明するのは、私には難しいのですが、マイケル・ジャクソンのムーンウォークをもっと複雑にして、うねるようなヒップホップサウンドにのって踊るような感じ、とでも言ったらいいでしょうか。

映画は、ストリートで踊る、彼だけではなく多くの若者たちの独自のジューキンダンスをとらえます。若者の投げかけた言葉が衝撃的。

「俺たちは人殺しになるよりは、ダンスがしたい」

リル・バックも、ひとつ間違えば拳銃をぶっ放す危ない男になっていたかもしれない。そうならなかったのは、ジューキンダンスと、母親の愛情があったからです。ストリートで、誰もいない駐車場で、深夜の街中で踊るダンスには、酷い境遇を突き抜けようとする強靭な力が表れています。

リル・バックが凄いのは、ダンスのテクニックを磨くために、臆することなくクラシックバレエに挑戦してゆくところ。アメリカには、才能のある子供たちに奨学金で教える学校があり、彼もこの学校で表現力に磨きをかけます。そして、やがてクラシックバレエの名曲「白鳥」をジューキンダンスで踊ります。

そのビデオを世界的チェロ奏者ヨーヨー・マが見て、こいつは面白いと感じて自分のパーティに呼びよせます。ヨーヨー・マのチェロに乗せて踊るリル・バックを、たまたまその場に居合わせた映画監督のスパイク・ジョーンズが携帯で撮影し、動画を流したところ、大反響を呼び彼のダンスが一気に広がってゆくのです。人の出会いと、その千載一遇のチャンスをしっかり掴んだリル・バックに感動しました。

メンフィスの硬いコンクリート路面上で踊り続けた男が、メンフィスの希望の光になったのです。そして、彼に追いつけ追い越せと、多くの若者たちが今も踊り続けているのです。その高みを真剣に目指している間は、ギャングになったっりして道を踏み外すことはないでしょう。

ひたすら好きでいること。好きな事のために努力をし続けること。それは、こんなにも人生を大きく変えることにもなる。かっこいいよなぁ〜。 YouTubeで「LIL BACK」と検索すれば、彼の魅力一杯のダンスを見ることができます。いいなぁと思われたら、いい音を出してくれるUPLINK京都でぜひご覧ください。

 

●北海道のネイチャーガイド安藤誠さんのトークショーを今年も開催します。10月24日(日)19時スタート(2000円)要予約

 

 

 

 

 

 

 

「南極料理人」「キツツキと雨」「モリのいる場所」、昨年公開された「おらおらでひとりいぐも」と、独自の映像美作品で楽しませてくれる沖田修一監督の新作「子供はわかってあげない」は、彼の最高傑作ではないかと思える傑作でした。(京都シネマにて上映中)

原作は田島列島のコミック「子供はわかってあげない」で、ズバリ、一夏の高校生の純愛物語です。この映画が面白いのは「夏」という季節の描き方。先ず、どの家にもクーラーがありません。(ひょっとしたらヒロインの家にはあったのかもしれませんが)もちろん、時代は現代ですが、あるのは扇風機と風鈴です。静かに扇風機が回り、風鈴が涼やかな音を奏でる。そして水泳部に所属するヒロイン美波の学校のプールの青さ、後半に登場する父親の住まいの向こうに広がる海の青さ。それらが一体となって涼しい風を送ってくれます。それだけでホッとします。

猛暑だ!大型台風だ!熱中症だ!と、凶暴なイメージになってしまった夏のイメージを、本来この季節が持っていた爽やかさへ戻してくれます。そんな夏に包まれて、美波の一夏の物語が始まります。再婚した母と、優しい義父と、やんちゃな弟に囲まれて幸せな生活を送っていた美波は、とあるきっかけで本当の父親を探し出し、会いに行きます。

出会った父親は、なんと新興宗教の教祖!正確に言えば、元教祖。え?なんで教祖なんてやってたの?まぁ、人生色々ワケありです。でも、映画は大げさな描写や感情的なシーンを交えずに、そこはかとないユーモアと、小津映画のような静謐さで、娘と父親のほんのひと時の逢瀬を見つめていきます。笑って、ほろっとさせて、夏が去ってゆく哀愁を演出して幕を閉じます。

父親を演じた豊川悦司が、小津映画常連の笠智衆にダブって見えるという意見もあるようですが、まあそういう部分と、老いてもどこかカッコいい部分が混ざり合って、新しい彼の魅力も楽しめます。水着姿だけは、う〜ん、ちょっとという感じでしたが。(苦笑が起こっていました)

古本屋のオヤジ役で高橋源一郎が出演していますが、サマになっていました。この本屋の棚もなかなか魅力的でした。もっと、ゆっくり見せて欲しかったな〜。

 

待賢ブックセンター「処暑の古書市」を開催中です。9/5(日)までです。勝手ながら、8/29日(日)は臨時休業させていただきます。 

 

●北海道のネイチャーガイド安藤誠さんのトークショーを今年も開催します。10月24日(日)19時スタート(2000円)要予約


 

 

 

ベトナム映画「走れロム」(京都UPLINKにて上映中)は、汚水、腐りかけた食べ物、安酒と煙草の匂いにむせかえるようなサイゴンの裏町が舞台です。この町に住む少年ロムは、巨額の金を手に入れることができる「闇くじ」の当選番号の予想屋として生計を立てています。

もともと違法な賭けなので、そこに集まる連中は信用できない輩ばかり。通りの街角では賭け金をめぐる暴力が日常風景になっています。そんな欲望と暴力に満ちた町を、ロムは誰よりも早く自分の予想番号を伝えるために疾走します。その姿をカメラは一緒に走りながら捉えていきます。おそらく本物の町でロケしたのだと思いますが、まるで「走ること=生きること」みたいなロムの姿を見るだけでこの映画は価値があります。

ベトナム政府公認の真っ当なくじの当選番号の末尾2桁を予想して、金を賭ける違法くじ。そこには胴元やら、賭け屋やら、走り屋が複雑に絡み合い、しのぎを削っています。ベトナムの労働者階級の8割が知っていると言われるこのくじは、一気にひろがる都市開発に取り残され、仕事もなくした人々が、膨らんだ借金を返すために、ハイリスク/ハイターンの金をつぎ込み、社会問題化しているらしい。映画は、その辺のことをきっちり描いていないので、もう一つ、ちゃんと理解できません。

でも、いいのです。親に捨てられた孤児のロムが、ライバルでもあり友達でもあるフックと、騙し騙され、殴り合いながら、金を求めて疾走する姿がこの映画の全てです。

委細構わず、ツッ走れ! 監督は1990年サイゴン生まれで、本作が長編デビューのチャン・タン・フイ。どうだ、おもろいやろ!お前も走れ!と叫ぶ監督の声が聞こえてきそうな傑作です。

 

●夏季休業のお知らせ  勝手ながら8月9日(月)〜17日(火)お休みいたします

私が出演するZOOMミーティング「フライデーブックナイト」の第1回が、今月20日に決定しました。ご興味のある方は下記アドレスまで

https://ccacademy.stores.jp/items/60fd4e1bbc1e6422b5501a4b

先週、爺さん主演のスパイ映画「83歳のやさしいスパイ」をご紹介しましたが、今回は過激な婆さん4人が暴れまくる?映画をご紹介します。

シルヴァン・ショメ監督の長編アニメ映画「ベルヴイル・ランデブー」です。2003年のカンヌ映画祭に出品され、高い評価を得て、その後、世界各国の映画祭で数々の賞を受賞しました。

おばあちゃんと暮らす孤独な少年シャンピオンは、買ってもらった自転車に大喜び。そこで一念発起したしたおばあちゃんは、世界最高の自転車レース、ツール・ド・フランスに向けて孫の特訓を開始します。デフォルメされた練習シーンが楽しい!

その甲斐あって、なんと彼は出場を果たします。しかし、レース途中でマフィアに誘拐されてしまうのです。孫を奪還するため、愛犬ブルーノと共に追跡の途中、知り合った三つ子のミュージシャンの老婆が、助っ人となって参加。巨大都市ベルヴイルで、マフィアと立ち向かい、とんでもないカーチェイスを展開するという物語です。

今や、CGが主流となったアニメ映画ですが、監督は3D技術を駆使しつつも手描きにこだわり、不思議な雰囲気を持つベルヴイルの都市空間を生み出します。その中でアンバランスな体形で奇妙な動作をする人物が、観る者を驚かせ、存分に楽しませてくれます。

この映画、ほとんどサイレント映画のようで登場人物はほとんど喋りません。目の動き、動作ですべてを表現していきます。チャップリンなどのサイレント映画へのオマージュに満ちています。ラストの大追跡も、まさにサイレント時代の活劇の雰囲気です。

で、何が凄いって言って、おばあちゃんと3人のミュージシャンたち婆さんの行動力です。ミュージシャンたちが料理をつくるシーンでは、手榴弾を川に投げ込み、そこにいるカエルを殺して、シチューにしてしまいます。

また、彼女たちがステージで演奏するシーンが実に楽しいのです。ステージに楽器はなく、冷蔵庫をピアノ代わりに、新聞紙をクシャクシャにする音をドラム代わりに、掃除機をベース代わりにするのです。そこに加わるおばあちゃんは、自転車の車輪をヴィブラホン代わりに。こんなライブがあれば、見てみたい!

そしてラスト、ポスターにあるように、おばあちゃんとマフィアの対決です。もちろん、彼女は武器なんて持ってません。え?どうなるの?? 大丈夫!拍手喝采(実際劇場内で拍手が起きました)の結末が待っています。

「極めて個性的な長編アニメーションの傑作。そのあまりに突き放した人間の描き方に驚き呆れ、笑いながら超一流の表現を楽しんでいるうちに、黙々と行動するおばあちゃんのけなげさが、ワン公のトラウマが、シャンピオンの哀れさが、要するに人生のほろニガさが、側々と伝わってくる」とは高畑勲のコメントです。さすがにうまいこと言いますね。

元気の出る映画ですよ!

 

 

とある老人ホームで行われている虐待、窃盗の証拠を探すために、一人のスパイがその老人ホームに送り込まれました。スパイの御年83歳。多分、映画に登場した最高齢のスパイでしょう。「京都シネマ」にて上映中のチリ映画「83歳のやさしいスパイ」は、探偵事務所の募集に応募して合格したセルヒオが、ホームに潜入し、携帯電話の使い方も不慣れなのに、眼鏡型の隠しカメラなんかも使ったりして、大真面目に仕事をしていきます。

驚いたことに、これ、ドラマではなくドキュメンタリーなんです。つまり、探偵事務所に雇われた素人のおじいさんが潜入する、その様子をカメラに収めているのです。ホーム側には、もちろんあらかじめ記録映画を撮りますという了解を取っているとは思いますが、果たして入居者のご老人たちは、どこまで理解していたのでしょうね。

とにかくセルヒオは、このホームの入居者たちと暮らし始めるのですが、映画は、彼が老婦人たちと仲良くなってゆく様子を、様々な角度から撮影してゆきます。妻を亡くして間もないセルヒオは、とても優しい人で、ユーモアがあり、知性も兼ね備えているので、女性たちにモテます。

まるでハートウォーミングなドラマを観ているようで、上手い作り方です。監督はマイテ・アルベルディという若い女性。長編ドキュメンタリー作品で評価の高い監督みたいです。

入居者の笑顔、寂しげな表情、遠くを見つめる虚ろな横顔などを収めながら、一方でセルヒオという老人の人間性に迫っていきます。黒柳徹子が「老人ホームの映画の多い中で、ユニークさは、特別!」というコメントを寄せています。

映画館では、後部の座席に女房と並んで座ったのですが、前方を見ると、髪の毛の白い方ばかりがズラリ。そちらの景色もなかなか壮観でした。

 

映画館に足を運ぶとき、この辺りまで描いてくればいいなぁ〜と思いながら席に着き、まずまず期待通りだと、うん良かったという感想になります。

しかしたまに、こちらの意に反して、え?ここまで描くの?こっちへ行くの?みたいな映画に出会い、未知の世界へと誘い入れてくれると、傑作だった!と言ったりします。

カナダ映画「やすらぎの森」はまさに、そんな傑作の一本でした。世のしがらみを捨てた男たちが、誰も人がやって来ない森の奥の湖畔で、最後の人生を愛犬と暮らす日々を送っています。こう書くと、余裕ある人の引退後のアウトドアライフが頭に浮かんできますね。

誰もいない湖で、素っ裸で泳ぎ、愛犬と戯れ、畑を耕しているシーンはありますが、この作品、美しい情景描写で終わる映画ではありません。

男たちは三人。映画が始まってすぐに一人は亡くなります。残った二人の老人は、それまでと同じ生活を繰り返しています。ある日、そこへ、闖入者が現れます。少女時代に不当な措置で精神病院に入れられて、60年以上も外界と隔絶した生活を送ってきたジェルトルードです。

最初は、男たちと打ち解けなかった彼女ですが、この自然環境が彼女に力を与えていきます。そして、男の一人チャーリーと少しづつ近づいていきます。そして、お互いを認め合い夜を共にします。80歳を過ぎた老人二人の営みを、繊細に、優しく、誠実に撮っているのです。これには、感動しました。BGMは森で鳴く鳥の声と、ストーブで弾ける木の音だけです。

こんなシーン、男性監督には無理だと思っていたら、やはり監督は女性でした。1970年生まれのルイーズ・アツシャンボー監督は、丁寧に、丁寧にこの二人を撮ってゆくのです。

その一方で、老後を自由に生きている男たちが、自らの死について、自分で決着をつけようとしていることがわかってきます。三人とも青酸カリの瓶を持っていて、今日は死ぬにもってこいの日だと決めたら、その瓶の中身を飲むのです。チャーリーと最後まで一緒だったトムも、もう自分の体がこの冬は越せないと判断し、この世を去る決心をします。チャーリーと二人で穴を掘り、そこに入り、薬を飲みます。愛犬がどうなるか、ちょっと辛いシーンが待っています。

ジェルトルードを演じたアンドレ・ラシャペルは、1931年生まれのカナダを代表する女優。本作で引退するということで、70年近くに渡るキャリアに幕を閉じました。80歳を過ぎて、老いた自分の裸体を見せるなんて、簡単にできることではないと思います。よほど、この役柄が気に入ったのでしょう。その後、癌のため2019年11月に亡くなりました。享年88歳でした。

歌手の加藤登紀子は、「生と死の境界線を超えるテーマなのに、対話が詩のように美しい。」と表現しています。そうなのです、ほんとに詩のような映画なのです。心に響いてきます。劇中、トムが歌うレーナード・コーエンの名曲「バード・オン・ファイア」で、涙が溢れました。

 

 

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東京国際映画祭を始めとして、多くの映画祭で絶賛された映画「メランコリック」。劇場で見逃したものをDVDでやっと観ることが出来ました。監督、脚本、編集の田中征爾の才能に、もう拍手、拍手です。長編第1作で、東京国際映画祭監督賞受賞ですからね。

ストーリーだけ聞くと、血だらけスプラッタムービーみたいですが、そんなことはありません。

東大卒業後、アルバイトばっかりして、うだつの上がらない生活をしている和彦という青年が主人公です。たまたま行った銭湯で、アルバイト募集のチラシを見た和彦は、その銭湯で働くことを決めます。ある夜、銭湯は終わった時刻なのに、店内の照明が付いているのを見て不審に思った和彦は、とんでもない現場を目撃してしまいます。風呂場で、殺人が行われ、死体をボイラーに放り込んでいるのです。そして同僚は、実はヤクザに雇われた殺し屋だったのです。

そんな風呂屋のサイドビジネスになんとなく参加した和彦は、それから巻き込まれていくのですが、驚くべきことに映画のラストは大ハッピーエンドなんです。信じられます?

やばい事をやっているのに、どうしたことか登場人物全てが、極端なまでに淡白で危機感もなく、粛々とやっている感じ。むしろ脱力感があります。和彦の家族も、これまた飄々としていて、食事シーンなんか小津映画みたいな雰囲気です。

脇役として多くの作品に出ている村田雄浩が「いつの間にか登場人物に心を奪われている。最後には登場人物のその後が気になってしょうがなかった」と絶賛の文章を寄せています。和彦、和彦の恋人、同僚の殺し屋、風呂屋の親父、和彦の両親が、どうなってゆくのか私も心配してしまいます。こういう映画はどう考えても、最後は血みどろの悲惨な幕切れが待っているものですが、幸せ感いっぱいのエンディングなのです。それにしても風呂屋で飲むビールって美味しそう!

見終わってわかったのですが、映画が語っていたのは幸福って何だという事です。奇想天外な物語から、青春映画の眩しさを作り出した監督には脱帽しました。

本作品は、監督と二人の男性の三人のチームで製作され、クラウドファンディングで資金が集められて出来上がりました。なんとかして面白い映画作るぞぉ〜という熱意が作り上げた賜物ですね。ホント面白いし、めちゃ笑ってしまいました。オススメです。

 

昨日より公開の始まったドキュメンタリー映画「アメリカンユートピア」(京都シネマ)。音楽は人を幸福にするものなのだということを、久々に感じることのできたドキュメンタリーでした。

70年代のアメリカロックシーン、斬新な音楽性で一世を風靡したトーキングヘッズのリーダーのデビッド・バーンが、2018年に発表したアルバム「アメリカン・ユートピア」を元に、2019年にブロードウェイでショーがスタートしました。そのショーを、アメリカの差別問題を映画にしてきたスパイク・リーが監督しました。

圧倒的な舞台パフォーマンス!ハイレベルなマーチングバンドが舞台狭しと踊り、多種多様な打楽器が乱舞します。デビッド・バーン以下、パフォーマーは、パーカッション、キーボード、ギターを担いで踊るのです。全員グレーのスーツで素足。ギター、キーボードには配線がなく、全員が舞台を自由自在に動き回るのです。

デビッド・バーンは、世界中の民族音楽の持っている力強さを吸収し、自分の音楽をよりワールドワイドなものにする手腕を持っています。坂本龍一と組んだ映画「ラストエンペラー」で、見事オスカーを受賞しましたが、あの時も中国のトラッドなサウンドを取り込んでいました。

静かに展開していた舞台にパーカショニストが登場し、パワフルな音が響き渡たった瞬間、踊り出してしまいそうになります。日本的な音もあって、村祭りでトランス状態になって踊っている感覚になってきます。

血沸き肉踊る音楽が続きます。その音に包まれているときに感じる高揚感、あぁ〜音楽ってこんなに幸せにしてくれるんだ!! なんども目頭が熱くなってきました。踊りたいのに映画館では踊れない。あぁ、もったいないと思いながら、一曲終わるごとに拍手はしていました。混迷と不安の中を生きる私たちの意識を揺さぶり、その彼方にある喜びの世界に放り投げてくれます。

天国に召される時(あ、地獄行きか)に、こんな音楽を聴けたら、楽しい人生だったよねと思えることでしょう。

この熱狂に、皆さん酔って欲しいと思います。もう一回観に行くぞ!!