沖田修一監督作品「おらおらでひとりいぐも」(京都シネマにて上映中)は、老いも若きも観てほしい映画です。一人暮らしのおばあちゃんの映画ですと言ってしまうと、なんだか暗そうなんて思うかもしれませんが、大丈夫。笑えます。でも、老人を茶化しているわけでもなく、しっかりと見つめています。

1964年東京オリンピックの年。東北生まれの桃子さんは、お見合い結婚を投げ捨て、東京へと向かいます。そこで見染めた男性と結ばれ、子供も二人授かりました。それから55年。夫に先立たれ、子供とも疎遠になり、外出するのは病院と図書館で本を借りる時ぐらい。ひとりで暮らす家は、いつも静かでした。

突然、3人の男が現れます。実は彼らは桃子さんの心の声が人の形となって現れたのです。ワイワイガヤガヤと雑談したり、家の中で踊ったりと、何かと騒がしいのですが、実際には見えない人たちなので当然なのですがふっと消えたりします。そうしてまた、静かな空間で、いつもの生活に戻ります。

映画は、この3人との交流と、桃子さんが回想する若い時の自分の姿を交互に織り交ぜながら、老いた彼女に寄り添います。「老い」と「孤独」というテーマを沖田監督は、大胆で、そして軽妙洒脱に仕上げていきます。

前作「モリのいる場所」でも、老人画家、熊谷守一を描いた沖田監督は、とんでもなくユニークな手法で、私たちが否応もなく向き合う孤独と老いを見つめ、それでも一人で自由に生きてゆくんだという心意気を描きました。映画後半、森を散歩する桃子さんが、まるで森と会話するように、ゆっくりと歩みながら、ひとりで生きてゆく心持ちを高めているところは感動的です。

桃子さんを演じた田中裕子が絶品でした。

1973年8月、ストックホルムで発生した「銀行強盗人質立てこもり事件」における人質解放後の捜査で、人質が警察に銃を向けるなど犯人に協力して警察に敵対する行動を取っていたことが判明しました。また、解放後も人質が犯人をかばい、警察に非協力的な証言を行ったこともありました。本来ならばありえないような人質と犯人が親密になる状況を「ストックホルム症候群」と呼ぶようになり、その後もハイジャック事件などで、見られるようになりました。

この言葉の語源となった立てこもり事件を映画化したのが、「ストックホルム・ケース」(京都シネマにて上映中)です。犯罪映画というものの、正統派のサスペンスものではありません。いや、笑ってしまうような作り方です。

アメリカ人丸出しの格好で銀行に押し入ったラースは、行員3人を人質にして、犯罪仲間の釈放と逃亡資金を要求します。逃亡用の車を手配する時に、「マックィーンの『ブリット』で彼が乗っていた車を用意しろ」とかいう辺りから、もうメチャクチャです。やがて、事態は膠着して、長期戦に突入していきます。最初は恐怖だけだった女性行員のビアンカとの間に不思議な共感が生まれていきます。

怖いのか、不真面目なのかわからん強盗を演じるイーサン・ホークの演技が面白いです。B・ディランの「明日は遠く」をハモリながら強盗に押し入り、突入した警官を抑え込むや否や、お前も歌え!と脅迫、歌わすという無茶ぶりですが、本当のところ悪人ではないのかもしれません。

後半は、金庫室に閉じ込められた犯人と人質との会話が主になっていきます。そして、あろうことか、ラースとビアンカは結ばれてしまうのです。映画の最初に「事実を元にした物語」というクレジットが出ますが、さすがにこれはフィクションではないかしら。

ラスト、当然ラースたちは逮捕されてしまいます。一方のビアンカは、浜辺で子供と遊ぶ夫を虚ろな視線で見つめています。愛する家族のもとに戻れて幸せなはずなのに、なぜかそうとは見えない表情で幕。彼女が何を思っているのか、映画は何も語ることなく終わります。ヨーロッパ映画らしいエンディングです。

 

★四条河原町にある書店「京都メリーゴーランド」で、昨日より「ミシマ社のヒミツ展」が始まりました。当店でされた時とは一味も二味も違う展覧会です。

 

 

 

富山県のローカルテレビ局「チューリップテレビ」が、自民党市会議員の政務活動費使用で不正があったことをすっぱ抜きました。その一部始終を記録した「はりぼて」(京都シネマにて上映中)を観てきました。

開催していない市政報告会の領収書、勝手に数字を書き込んだ領収書などが、どんどん出てきます。当初の言い訳を、記者にグイグイ追及された議員たちが、いともあっさりと、トランプみたいにゴネまくることなく、「申し訳ありませんでした」と謝罪会見を開き、辞職してゆくのです。尊大な態度で記者に接していた議員も、次のシーンでは頭を下げているのですから、ほんま、笑ってしまいます。

市議会のビルに集まってくるカラスたちの鳴き声が、所々に入ります。どう聞いても「アホウ、アホウ」と鳴いているよう。頭を下げる議員、アホウと鳴くカラスが交互に登場します。情けない。

最初に、偽の領収書を突きつけられた議員は、”富山市議会のドン”と言われた人物で、ちょうど議会で議員給与の値上げ法案を提出して根回しの結果議決されたところでした。しかし、疑惑発覚後議員辞職に追い込まれ、その後半年の間に14人の議員が続々と辞職していきます。

さらに、この失態を追及していた議員もセクハラ容疑で告訴されるという、開いた口が塞がらない状況です。

「仁義なき闘い」で金子信雄が演じた小悪人の醜悪さに大笑いしましたが、あれ以上です。きっと、伊丹十三が生きていたら、この事件をベースに面白い劇映画を作っていただろうなぁ〜と思いました。

しかしこれはお話の出来事ではなく本当のことなので、笑っていてはいけない状況です。が、あまりの愚かさに、映画館内もため息と失笑しかありません。2020年には、全国一厳しい条例を制定したものの、不正が発覚しても辞職しないで居座る議員の状況も描かれています。

さらにこの議会、女性が全くいない。おっさんばっか。こりゃダメだ。出直し選挙で少しは増えたみたいですが、まだまだです。地方議会だけでなく、国政でも変わりません。選ぶ者の責任が突きつけられます。笑って、笑って、ゾッとさせられる、エンタメ作品になっていました。ぜひご覧ください。

 

 

黒沢清の最新作「スパイの妻」(ベネチア国際映画祭監督賞)を観ました。演出、撮影、照明、役者の演技等どれを取っても素晴らしい。映画好きならご存知のように、黒沢監督は独特のセンスで、ホラーやサスペンス映画を作ってきました。寒々しい映画館で観た「Cure」なんて、怖くて怖くて震えました。

彼にとって初めての歴史ものとなった本作は、まるでオペラみたいに堂々とした展開で、太平洋戦争下の日本で、軍の秘密を知ってしまったある夫婦の運命が描かれていきます。

1940年代の神戸。優作は貿易商を営み、妻の聡子と西洋風の自由な生活を謳歌しています。ところが仕事で満州国へいったとき、優作はそこで日本軍の秘密を目撃してしまいます。それは、関東軍の細菌部隊による人体実験でした。その事実を世界に公表しようとする優作と、そのことを夫から知らされた聡子に憲兵隊が迫ってきます。

東出昌大が、従来の黒沢映画によく登場する突発的な暴力を振る舞う憲兵隊隊長を好演しています。一方、聡子は当初、夫の行為を愚行と非難するのですが、やがて、自らの思いで夫の行為を助けようとします。豹変するあたりの聡子を、蒼井優が完璧に演じ切ります。蒼井優無くして、この映画は成り立たないと思います。

後半は二人の脱出劇と情愛を巧みに絡めて、緊張感を持ったまま観客をラストへと導いていきます。サスペンスとメロドラマを縦糸に、陰影深い映像を横糸に上質の織物のようなクラシカルな演出で、あぁ〜いい映画を見せてもらったという100%の満足感をもたらしてくれます。

強圧的で暴力的な戦時中の権力と、それに抗う個人の正義という図式は、そのまま今の状況を映し出していきます。そういう意味では、黒澤らしい「ゾッとする」作品でもあります。

なお、監督の本として「映画のこわい話黒沢清対談集」(青土社/2100円)、「映画はおそろしい」(青土社1600円)の二冊を、店に置いています。

 

★町田尚子さんのおなじみ猫のチャリティーカレンダーを、販売しています。価格は550円(税込)。今年のテーマは日本映画です。なお、カレンダーの売り上げの一部は動物愛護活動の寄付になります。

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「金沢美術館」「すみだ北斎美術館」など、多くの建築を手がけてきた建築家妹島和世が、大阪芸術大学アートサイエンス学科の新校舎建築に携わった数年間をドキュメントした映画「「建築と時間と妹島和世」を観ました。この建築家に特に興味があったわけではなかったのですが、監督をしたのが写真家のホンマタカシでした。写真家中平卓馬を追いかけたドキュメンタリー映画「きわめてよいふうけい」の撮影を担当したことはありますが、映画監督は初めての作品。ちょっと興味が湧いたので映画館へと向かいました。

建築家の脳内にあった抽象的な概念が、有機的な建物へ、具体的なモノとして仕上がってゆくまでを、現場の定点観測を巧みに入れながら、60分少々で描いていきます。

舞台となったのは、大阪芸術大学アートサイエンス学科の新校舎(2018年11月完成)です。妹島の頭にあったのは、「公園のような建物」でした。周囲の緑豊かな風景という特性を生かし建物を構想していました。直線でデザインされた建物ではなく、緩やかにカーブする曲線を取り入れた建物で、森の中の丘みたいな印象です。

ホンマは、その様子を低速度撮影という手法で、完成まで撮影していきます。コマ撮りアニメのような感じで、徐々に形を表す建物と周囲の風景を捉えています。花が咲くまでを高速で撮った映像を見たことがあると思いますが、まさにアレです。

妹島が、何度も建築模型を作り、現地に足を運んでは修正を加えてゆく様は、一人の建築家の脳内の抽象と具象を行きつ戻りしているようで興味深い。完成した新校舎は、なだらかな曲線で周囲に溶け込み、校舎の中に光が差し込み、穏やかな風が流れ込んできます。この校舎にあるベンチに座り込んでぼっ〜としていたら、いい時間が過ごせそうです。

建物を作ったというよりは、素敵な景観を生み出したように見えますが、それはこのプロジェクトにとって成功だった、と言えるかもしれません。ホンマ自身は、こういった作品をいくつも製作したいそうですが、機会があれば観てみたいと思いました。

ホンマの著書「たのしい写真 よい子のための写真教室」(平凡社/古書1100円)は、気楽に読める写真論でおすすめです。

 

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大学時代、ジャズ喫茶に入り浸っていました。京都、大阪はもとより、東京まで行ったりしました。大学の方は、映画館かジャズ喫茶に行かない”ひま”な時に出かける場所でした。当時のジャズ喫茶は、誰も皆、それぞれに腕を組んでひたすら大音響で流れてくるジャズに向かい合っていました。私語厳禁。店によっては、めくる時に音がするので新聞を読むのも禁止でした。

その頃から、岩手県一関市にあるジャズ喫茶「ベイシー」は有名でした。実際に行った人に聞いてみると、あそこは世界が違う!という言葉が返ってきたことを覚えています。

「ベイシー」と、ここを切り盛りする亭主菅原正二に焦点を当てたドキュメント「JAZZ KISSA BASIE  Swiftyの譚詩」(京都アップリンクで上映中)を見てきました。マニアックな音響論議やレコード話に終始するような映画なら嫌だなぁ〜と思っていたのですが、これが全く違うのです。

真摯に音楽に向き合ってきた男と、彼を支持する多くのミュージシャンたちが、音楽とは、あるいは音とは何かを語っていました。

矢野顕子はコメントでこう書いています。「自分の道を懸命に歩むもの同士は魅き合う。ジャズであり、オーディオであり。でもやはり人間なのだ、坂田明が言うように。音は人なり。」

この店の持っているレコードと、それを鳴らす音響システムはもちろん目を見張るものです。でもモノじゃないんですね。ここに集まってくる人なんです。自分たちの音楽を模索し続けるミュージシャン、新しい試みを迎え入れる店の常連たちが共に作り上げた音楽共同体がここにはあります。

それを見守る菅原正二。「ジャズ喫茶がしぶとく生き残っているのは、ジャズという音楽がしぶといからだよね」と映画で語っていましたが、そうだと思います。70年代から80年代、本場アメリカではジャズが下火になり、多くのミュージシャンが日本やヨーロッパに出稼ぎに出ていました。しかし、その後盛り返し今や多くの愛好家が育っています。

もの静かに語るオーナーの言葉には、この店を守り続けてきた矜持、ジャズを愛する思いがあふれています。だからこそ、ここで新人時代映画の撮影をした女優鈴木京香など、ジャズとは違う分野の人もオーナーの人柄に惹かれて多く登場するのです。

ラスト近く、サングラスをしていたオーナーがそれを外して、愛用のカメラを向けるところがあります。ちょっと助平たらしい顔が、チャーミングで魅力的。店のスタッフは、ほぼ女性でした。

日本独自のジャズ文化については、マイク・モラスキーが「ジャズ喫茶論』(筑摩書房/古書2100円)、「戦後日本のジャズ文化」(青土社/古書1950円)で、詳しく論じています。興味のある方はお読みください。

 

 

 

 

 

 

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込)。今年のテーマは日本映画です。なお、カレンダーの売り上げの一部は動物愛護活動の寄付になります。

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チリのパブロ・ラライン監督作品「エマ、愛の罠」のヒロイン、エマはとんでもない人物です。さて、応援できるか、反発して劇場を出るか………。

のっけから凄いシーン。街の信号機がメラメラと燃えてしまいます。カメラが引くと、火炎放射器を持った女性が立っています。それがエマです。彼女は、若手ダンサーとして活躍していたのですが、とあることから職を失い、さらに、夫で振付師のガストンとの関係も冷えていきます。

さて、ここからです。エマは相談にのってくれた女性弁護士ラケルを誘惑し、彼女の夫のアニバルとも関係を持ちます。かと思えば、別居中のガストンを挑発し始めます。濃厚なセックスシーンが登場します。挙句に、エマは妊娠して子供を産みます。彼女の家には、ラケル、アニバル、ガストが、所在無げに集まります。父親は誰?もう、わやくちゃです…..。エマの、一見無自覚にも見える行動について映画は何の説明もしません。もちろん原因があるのですが。何度か登場する火炎放射器シーンも唐突です。

ヒロイン、エマを演じるマリアーナ・ディ・ジローラモがカッコいい。ミステリアスで中性的なルックス、大胆な行動力、揺るぎない意志、狙った獲物に一直線に突っ込む獰猛さ、をすべて兼ね備えています。

ラストは、ガソリンスタンドでガソリンを補充しているエマの姿で終わります。おい、おい、まだやるか!

でも、私はこうなのというエマの自信と行動力を見ていると、これもありかと納得してしまいます。その生き方には反社会的とか、反倫理的とかいうレッテルを貼ることもできるのですが、そんなもん、この火炎放射器で焼いてやるわ!というエマの声が聞こえてきそうです。

80年代後半にアメリカ合衆国のヒップホップの影響を受けてプエルトリコ人が生み出した音楽「レゲトン」。そのエネルギッシュなサウンドにのって踊るエマだけでも見て欲しい映画でした。

映画の中で、背中にドラムとシンバルを背負って、リズムを刻みながら踊る大道芸人が登場するのですが、やってみたいな、と思いました。

 

★発売決定!町田尚子さんのおなじみ猫のチャリティーカレンダーを、10月中旬より販売いたします。価格は550円(税込)です。今年のテーマは日本映画です。

ARK(アニマルレフュージ関西)の2021年度カレンダーを入荷しました。

・大きいサイズは1000円(撮影は児玉小枝さん)・卓上サイズは800円(ARKスタッフ撮影)

売り上げは全てARKに寄付します。ぜひ店頭で手に取ってください。

 

 

 

 

 

 

今年のノーベル物理学賞は、ブラックホールの研究者に決まりました。ブラックホールの中心にある特異点の解明が研究課題だとか新聞で読みました。特異点の存在については、クリストファー・ノーラン監督の傑作SF「インターステラー」に登場するのです。登場人物たちが、宇宙船の中で科学的、物理的問答を行うのですが、なんだか、ようわからんかった…….。

ノーラン監督って、厄介な監督です。一度見ただけでは「??…..」みたいな映画を作り、しかもそれが?のままでも想像以上に面白いので、映画館に通い、挙句にDVD を買って、何度も見るという羽目になります。「インターステラー」しかり、「ダンケルク」しかり、「インセプション」しかり。

そして、今公開中の「TENETテネット」も、最高に面白いのに、最高にわからん映画です。

オーケストラの指揮者が、コンサートホールで今まさに指揮棒を振り下ろした瞬間、会場をつんざく爆破音と咆哮するマシンガン。流れるようなカメラワークに、私たちは付いていきながら、どうなってんの?と不安が募るばかり。巧みな映像の処理と展開にワクワクドキドキ。映画ならではの楽しさです。

さて、主人公のCIA隊員は、「時間逆行装置」の存在を知り、恐ろしい陰謀があることを突き止めます。時間逆行装置には時間が順行する「赤の部屋」と、時間が逆行する「青の部屋」があります。それぞれの色の部屋では、それぞれの方向に時間が進む、または戻るのです。 時間を逆行させる装置には様々な独自のルールがあります。主人公は時間を行きつ戻りつして、陰謀をつきとめてゆくのですが、え?それどう意味?どう理解するの?という鑑賞者の気持ちなんぞ無視して、どんどん進んでいきます。それでも観入ってしまうのは、トリッキーな場面展開や、切れ味鋭いアクションシーンのオンパレードによるものです。

時間が逆行している世界では何もかもが逆行しています。カーチェイスシーンでは、みんな後ろ向きに走っているのです。これはすごい映画を体験している!と、ゾクゾクしてきます。もうノーランの魔術に巻き込まれてしまっているのです。

徹底的にデジタルに背を向けて、アナログフィルムのこだわるノーラン監督の演出だからこそ、画面に厚みがあります。そこが他の凡庸な監督と違うところです。「時間」という極めて難解なテーマを、あえて映像化しようと挑戦した監督に大拍手です。多分また、DVD買うな……..。

 

 

 

 

京都シネマにて上映中の「はちどり」は、オススメの一本です。監督はキム・ボラ。1981年生まれですから、39歳。この若さで、こんなにも静謐で、深く心に染み入る映画を作るなんて驚きです。母国の大学を卒業後、アメリカのコロンビア大学で映画を学び、その時制作した「リコーダーのテスト」が多くの映画賞をとりました。その作品で9歳だった主人公の少女ウニの、その後の物語が「はちどり」です。中学生のウニを演じるパク・ジフに監督が出会ったのが、映画の成功への第一歩でした。

思春期の少女の心の不安や孤独、やるせなさを、繊細に描き出した作品です。1994年のソウル、家族と集合団地で暮らすウニは14歳。両親は小さな店を切り盛りして、子供たちをいい学校、いい大学へ行かせたいと頑張っています。家父長制を象徴するような父親、その父を見て育った長男、反抗的な長女、そして仕事と家事で手一杯の母。そんな家庭環境の中で、ウニは学校とも馴染めずに、他校の男子とデートしたり、ウニを慕う女子中学生と仲良くなったりという、居場所のない毎日をなんとなく過ごしています。思春期の少女の姿を、監督は静かに時間をかけて寄り添い、町の雑踏や小鳥の鳴き声、空を渡る風の音など、ウニの周りにある音を巧みに拾いあげていきます。ウニを見つめる優しさがあふれています。

 

ひとりぼっちだったウニの前に、塾で漢文を教えるヨンジという女性教師が現れます。彼女との付き合いを通じてウニは、少しづつ、少しづつ、心を解放していきます。ラストシーンのウニの表情は、笑っているのでもなければ、下を向いているのでもない。複雑な感情を隠し、どう生きていくのかもわからないけれど、一歩踏み出そうとしているウニを演じたパク・ジフの顔を、忘れることができません。

「はちどり」というタイトルについて、世界で最も小さい鳥のひとつでありながら、その羽を1秒に80 回も羽ばたかせ、 蜜を求めて長く飛び続けるこの鳥は、希望、愛、生命力の象徴とされていて、その姿が主人公のウニと似ていると思った、と監督は語っています。ラストは未来へ飛び立つ前のウニの表情なのです。

 

ARK(アニマルレフュージ関西)の2021年度カレンダーを入荷しました。

・大きいサイズは1000円(撮影は児玉小枝さん)・卓上サイズは800円(ARKスタッフ撮影)

毎年カレンダー発売に合わせて写真展を開催してきたのですが、春の段階で、どうなるかわからないとキャンセルの連絡が入ったのでカレンダーが完成して嬉しいです。売り上げは全てARKに寄付します。ぜひ店頭で手に取ってください。

 

 

 

京都シネマで上映中の、期待度大のドキュメンタリー映画「ようこそ映画音響の世界へ」を観てきました。「映画音楽の」ではありません。「映画音響の世界へ」です。

映画には、役者のセリフ以外にも多くの音が存在していることをご存知ですよね。屋外ロケなら、車の走る様子、人の話し声、信号機など町の音や、自然の奏でる、例えば川のせせらぎや風の音などが背景に流れています。室内なら靴音や食器のぶつかるカチャカチャという音、赤ん坊の泣き声等々。また、アクション映画には、銃撃音や爆破音、殴り合いの様子、SF映画ならば、宇宙船やロケットのエンジン音や宇宙人の声等々、音響を担当する音響デザイナーがいなくては映画は成立しません。試しに、DVDなどで映画を観る際に、音をオフにしてみたら随分印象が変わります。映画をより密度の高いものにするための技術者が音響デザイナーです。

1927年に初めての本格トーキー映画『ジャズ・シンガー』が誕生。それ以降、映画音響は様々な形で進化しています。本作では、ジョージ・ルーカス、スティーヴン・スピルバーグ、ソフィア・コッポラ、デヴィッド・リンチ、アン・リー、クリストファー・ノーランなど、独創的なスタイルを持つ映画監督たちが、作品における音へのこだわり、音響の芸術性を語っています。そして彼らと組んできた音響デザイナー達が、それぞれの現場で苦労の末にどれほど素晴らしい”映画の音”を作り出してきたかを、具体的な作品を示しながら尊敬を込めて振り返っています。「ゴッドファーザー」も「地獄の黙示録」も、何度も観ている映画ですが、音響という視点でもう一度観てみようと思いました。

ハリウッド全盛時代、各スタジオは音響にはほとんどお金を使わず、すでに使用してきたものをくり返し使ってきたのだそうです。西部劇では、どの映画でも銃撃音が一緒だったという例も登場します。
そこに、革命的手法をもたらしたオーソン・ウェルズやアルフレッド・ヒッチコック、さらにビートルズが映画音響に与えた影響、そして最近のSFX技術とともに更なる進化を遂げる姿を描いていきます。「スターウォーズ」で人気のキャラクター、チューバッカの声が出来上がるプロセスも興味深いです。
監督はミッジ・コスティン。本人も音響デザイナーとして活躍し、数々の賞を受けています。女性の視点で、この業界の多くの女性達の活躍を描いています。嬉々として仕事をしている姿がとても素敵でした。じいさん内閣を立ち上げた首相にもお見せして、勉強をしていただきたいものです。(写真はコスティン監督)