私は、時代小説を読まない。まず、長い。司馬遼太郎なんて文庫で平気で5巻とか6巻とかあります。そんな長編を読む時間はない。それに、時代小説は、当然ながら登場人物の名前が漢字だらけで、誰が誰だかわからなくなってしまうし(私だけ?)。さらに、役職が山ほど登場するでしょう。与力、同心、旗本、大目付に老中と官職野郎が溢れ返ってさらに混乱。ゆえに、読まない、いや、読まなかったのだが…….。

藤沢周平の短篇集「日暮れ竹河岸」(文藝春秋700円)を知って、方向が変わりそうです。藤沢はご承知のように、文章が美しい。日本的美意識が隅々まで浸透しています。しかも、この短篇集にはお武家様は登場しないので、江戸の街中に慎ましく生きる人達の、人生の一瞬を切り取ったほろ苦い話ばかりです。

その中の一編「おぼろ月」。老舗の糸問屋の娘で、嫁入りもきまっているおさとは、何もかも順風な人生なのだが、これが私の人生?と不安が過るある日、友人宅に行った帰りに、転けてしまい下駄の緒が切れてしまいます。そこへ、直してあげましょうとちょいといい男が声をかけてきます。知らない男についてゆく不安と、どこか悪い気がしない自分の感情が交錯する。お酒でも誘われるかもと思っていた矢先、男はでは行きますかと立上がります。

「はいっ?どこへ?」おさとは兎のようにとび上がって言った。「どこへって、お家に帰るんでしょう?」

一人勝手な妄想にふけっていた娘を尻目に「男は気をつけてな、と言って、あっけなく背を向けた」

安堵感と胸の高ぶりに、ふふふと笑いながら、おぼろ月夜の道を帰っていきます。ただ、それだけのお話ですが、いいんですね。粋ですね、この男も。

たまたま、この短篇集を読んでいる時、ビートルズのバラード集「ビートルズ・バラード・ベスト20」をかけていました。ちょうど名曲”Here Comes Sun” が鳴っていました。これがバックグラウンドミュージックとしてドンピシャだったのです。ギターのイントロ部分が、おさとの、ちよっと切ない気分を表現しています。え?ビートルズが藤沢に合う?? そのままこのアルバムを聞きながら読み切りました。私の思い込みかもしれませんが、いやぁ〜、こんな事ってあるんですね。ためしに、他のミュージシャンのアルバムかけてみたのですが、イマイチでした。

そう言えば、当店の朗読会で、藤沢の短篇に、ギターを伴奏されていた方は、エリック・クラプトンを弾いていて、藤沢の描く冬の情景にピッタリだったことを思いだしました。

なお、このバラード集はCD化されていません。今手元にあるレコード(国内盤/帯付き2500円)でしか聞く事ができません。ルソーの絵みたいなジャケットも面白い、ちょっとレアなレコードかも………。

 

書評家の岡崎武志さんの新刊「気がついたらいつも本ばかり読んでいた」(原書房)を読んでいたら、こんな記述にぶつかりました。

「蓮實重彦を代表とする映画の高踏的ファンのあいだで、フランシス・レイが好き、というのは、文学好きのあいだで、相田みつおが好き、というぐらい勇気がいる。しかし、好きという気持ちはどうしようもない。」

岡崎さんは、映画「男と女」のサントラを担当したフランシス・レイのことを賞賛しているのですが、ロマンティシズムとリリシズム一杯の、あの音楽を誉めるのは、気が引けるのかもしれません。私は大好きです、このサントラは。

これほど冬にピッタリの音楽はないと思います。もしかしたら夏にかけたら、うざい!と再生を止めてしまうかもしれません。ところが晩秋から冬にかけて聴くと、これほど季節に寄り添った音楽は、ないでしょうね。映画界に革命をもたらした「男と女」は、その後多くのTVコマーシャルでパクられる程有名でしたが、映画を知らなくても、雪の降った日にエンドレスで流しておけば、見慣れた街の風景が全く違ってみえてくるかも。

映画音楽というのは、もちろん映画に属しているのですが、「男と女」は完全に独立した力の持った音楽でありながら、映画の世界を深く語るだけのサウンドを持つ希有なアルバムです。店にはレコード2000円、CD1400円を置いています。どちらも、オリジナルの映画ポスターをジャケットに使用しています。

このサントラで歌っている歌手であり、出演者でもあったピエール・バルーが昨年82歳で亡くなりました。歌手であり、俳優であり、レコードレーベル「サラヴァ」の創設者であるという、多面的な活動をしていました。彼のデヴュー作品、フランシスとコラボしたアルバム「VIVRE」(1800円)も、これまた冬に聴くべき音楽だと思っています。梅雨時分に聴くと、ドロドロと心が溶けてしまいそうなので御注意ください。

モノクロームな光景とアンニュイな雰囲気、そして孤独感。フランシスのアコーディオンがそっと寄り添うところがニクイですね。ピエールはこんな風に冬を歌っています

「冬のある日、光を浴びて君が目覚めた とまどう冬 冬の太陽 君が見つめている僕だけの心が目覚めた 鳥は僕の夏に向かって鳴いた」

★2月8日(水)〜19日(日)レティシア書房恒例「女子の古本市」を開催いたします。

東京、岐阜、神戸、大阪、滋賀、京都から20数店の女性店主がセレクトしたステキな本が、所狭しと並びます。ご来店お待ちしています。

 

 

 

 

「テイク・ファイブ」という有名なジャズの曲があります。確か、煙草のCMでも使われたいたので、広く知られていると思います。

この曲をパキスタンの音楽家が、インドの楽器シタールとパーカッション、バイオリンのアンサンブルで演奏して、それがyoutubeで公開され、あれよあれよという間に広まり、本場NYのジャズミュージシャンと共演を果たすまでを描いた映画「ソング・オブ・ラフォール」。これ、ミュージシャンのサクセスストーリーと思うと、違うんですね。

「ロリウッド」と呼ばれるパキスタン映画産業の中心都市、ラホール。しかし、70年代後半から、時の政権がイスラム原理主義を強化し、音楽活動が制限され、90年代に台頭し始めたタリバンによる歌舞音曲の破壊によって音楽の世界は衰退の一途を辿ります。

そんな中、一部の音楽家たちが伝統音楽の継承、再生のために立上がります。往年の音楽職人たちを集めて楽団「サッチャル・ジャズ・アンサンブル」を結成し、シタールやタブラなどの古典楽器を用いて、ジャズに挑戦します。このままでは、パキスタンの長い伝統に培われた音楽は消えてします。その危機感が「テイク・ファイヴ」を全く新しい音楽として甦らせます。え?え?これがあの「テイク・ファイヴ?」と、最初は戸惑いましたが、びよろ〜ん、びよろ〜んと鳴り続けるシタールと、渋い音色のパーカッション、タブラのサウンドはなかなか気持ちいいのです。アジア的というか、哀愁溢れる異国情緒満載です。

映画は、直接的に今日のパキスタンの政治状況を描き出すことはしませんが、音楽が自由に演奏できないこの国の現状が見えてきます。NYのジャズミュージシャンに迎えられて、大劇場で本場のオーケストラと共演するのですが、俺たちのジャスをアジアの小国がやってるから、暖かく迎えてやろうみたいなアメリカ人の奢りも感じました。

しかし、NYの路上でゴミバケツを引っくり返して、パーッカションにして音楽を奏でるミュージシャンに、「俺たちと同じ貧しいミュージシャンだね」と彼らが拍手するところは素敵でした。

 

「全世界に知ってほしい。パキスタン人は芸術家でテロリストじゃないことを」

という台詞が染み入る映画でした。

監督はシャルミール・ウベード=チナーイ。パキスタン、カラチ生まれ。人権や女性問題を主題としたドキュメンタリーを多く手がけるドキュメンタリー監督、活動家。それらの短編ドキュメンタリーの数々は世界中の映画祭で賞を受けています。本作が初の長編ドキュメンタリー映画です。

 

 

 

★レティシア書房は12月29日〜2017年1月4日まで休業いたします。新年は1月5日から平常通り営業いたします。


瀬戸内寂聴に歌唱力、そして文才を高く評価されたジャズシンガー安田南は、70年代を彗星の如く駆け抜け、亡くなった日時、死因が全く明かされませんでした。彼女の3枚目のアルバム「Some Feeling」が再発されました。

 

時計の針を少し戻します。私の大学時代、授業をさぼって、学校の側にあった当時は”おしゃれ”なジャズ喫茶で、煙草プカプカしながらジャズを聴いていた時のこと。突然流れたフォービートの「赤とんぼ」。なんだ!これ?!と仰天したのが安田南との出会いでした。

彼女は、歌手としてだけでなく、自由劇場、黒テントなどの舞台出演、エッセイの執筆など、多彩な活動をしていました。片岡義男とのコンビで放送されていたFM番組「気まぐれ飛行船」のパーソナリティを楽しみにしておられた方も多いはず。

今回再発売されたアルバムも異色です。全曲かきおろしの日本語歌詞のアルバムです。いわゆるスタンダードナンバーなど全くありません。だから、オーソドックスなジャズではなく、歌謡曲風であったり、ブルースぽかったり、あるいはオールドソング風だったりと意欲的でしたが、当時全く売れませんでした。今、聞き直すとジャンルなんぞ軽く吹っ飛ばして、自由奔放に男と女の世界を歌った作品であることがよくわかります。6曲目「舟歌」なんて、八代亜紀が歌ったら素敵な演歌になる傑作です。

昨今のスマートで上品なジャズジンガーに比べると、ごつごつした日本語が耳に当たって、読書のお邪魔になるかもしれませんが、暫く本を閉じて、クールな感性に満ちた彼女の声に耳を傾けて欲しいものです。(2000円)

蛇足ながら、70年代人気だったTVドラマ「鬼刑事アイアンサイド」の日本語版を歌っていたのは彼女です。

もう一つご紹介します。コシミハルの「Moonray」(2800円)です。武満徹に天才だと言わしめたシンガー&ソングライターです。このアルバムは、ずばり古き良き時代へのノスタルジーです。「ケ・セラ・セラ」、「ス・ワンダフル」、「ラ・メール」等13曲。情緒過多になることもなく、適度なノスタルジーとスイング感で楽しませてくれる辺りが、このシンガーの持ち味でしょう。ちょっと古めの映画に出てくるオシャレな男女が集う、カフェの片隅にあるジュークボックスから聴こえてくるサウンドを楽しむようなアルバムですね。ジャケも、昔のシングル盤仕様のダブルジャケットの、コケティッシュな彼女の写真で、アルバム全体の雰囲気を掴まえていて秀逸です。 [

 

Sorry…….安田南は売り切れました

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昨日、二人の歌手の死去の報に接しました。りりィと、レナード・コーエンです。

「わたしは泣いていますベッドの上で/わたしは泣いていますベッドの上で/あなたに会えて幸せ」で始まる「私は泣いています」がヒットしたのは1974年でした。

元々、彼女が自分で作曲、英語詞を付けたものを日本語に直して歌ったところ、97万枚という大ヒットになった曲です。しゃがれた声でブルース感覚に溢れた歌い方は、あの当時異色でした。シングルを購入して、こんな歌い方ができる日本人がいるんだ、と思いながら聞き込んだ覚えがあります。

その後、女優として、多くの作品に登場しました。驚いたのは井筒和幸監督が撮った、素人のど自慢大会のドタバタを巡る喜劇「のど自慢」で、最後まで歌わない役柄で登場した時でした。「あ、リリィや!」と劇場で叫びそうになりました。

享年64歳、肺がんでした。年齢的にあまり変わらない人の死に接すると、自分ももういつ死んでも不思議ではない年齢になったんだな、と思ってしまいます。

もう一人のレナード・コーエンは、カナダ出身のシンガーソングライターです。詩人、小説家でもあり、その第二作「嘆きの壁」は日本で翻訳されました。(当店にもありましたが、現在売切)また、臨済宗の和尚(?)でもあります。

若い時は、もの哀しい歌い方を敬遠していましたが、年を重ねるに従って、その深い味わいに惹かれていきました。

年をとって飄々とした感じになる人はいます。作家で言うなら、永井荷風であり、俳優で言うなら笠智衆みたいな。しかし、コーエンは、かぶさってくる老いに耐えきれず、倒れ込みそうになる一歩手前で、己を支えて、人生の孤独をサラリと歌いきってしまうのです。力が入っているという雰囲気ではなく、フワッと、しかし、ぐっと心に染み込んでくる妙味。

一度虜になると離れられません。50歳の時リリースした”Various Positions”(国内盤1200円)も傑作であることは間違いありませんが、78歳の時にリリースした”OLD IDEAS”(輸入盤LP+CD 3000円)の枯れた味わいをぜひ聴いていただきいものです。享年82歳でした。

 

 

★他店のイベントお知らせ

銀閣寺「古書善行堂」にて。11月13日(日)「古本屋ツアー・イン・ジャパン」の小山力也さんが来店されます(12時〜17時)。古本を巡るお話が出来そうです。何やら、特典も有りそう。詳しくは善行堂075−771−0061まで

浄土寺「ホホホ座」で開催中の「PANKICHI個展『本屋と女の共犯関係』」展には、PANKICHIさんが書いた本屋さんのイラストと物語が一緒になった作品展です。その本屋の中に当店も入れて頂きました。13日(日)まで開催です。

明日は、善行堂→ホホホ座→レティシア書房という本屋巡りで決まり(!?)ですね。


 

 

深さ16cm,縦横20数cmの立派な箱を開けると、400ページ程の豪華ブックレット。その製本と写真の上質な出来上がりにため息をつきながら、ブックレットを除けると、なんと紙ジャケ仕様のCDが78枚。ほぉ〜と見ているだけで、気分が良くなってきます。抱きしめたくなるような気分です。丁度、上質の製本を施された文学全集を持った感じに似ているかもしれません。

で、そのCDボックスですが、クラシックピアニスト、グレン・グールドが生涯にCDS Columbiaに吹きこんだアルバム全部を収めたものでタイトルは

“GLENN GOULD’S  Remasutered  The Complete Columbia Collection”です。

1955年、バッハ「ゴールドベルク変奏曲」を録音。発売されるや爆発的人気となり、57年から、ワールドワイドなツアーを敢行。「バッハの再来」と絶賛されました。しかし、演奏会の有り様に疑問を持ち、65年のシカゴでの公演を最後に、コンサートから退き、レコード録音とラジオ、TVの放送媒体のみを活動の場としました。

私はクラシック音楽への造詣がありませんので、専門的解説は出来ません。しかし、この人のピアノの音に一度取り憑かれると、抜け出すこができません。リリカルな音があれば、冷ややかで人を寄せ付けないサウンドが延々続く時もあります。文学的であるかと思えば、まるで電子工学の技術者の如く、全く隙のない世界を作り出すこともあります。

CDは、1955年のファーストレコーディングから、82年録音の「R・シュトラウス:ピアノ・ソナタ&5つのピアノ小品」までの78枚のCD、さらに彼自身の語りのCD3枚が網羅されています。値段は25000円。生涯楽しめるボックスです。

なお、44枚目のCDは、カート・ブォネガット原作の映画「スローターハウス5」に収録されたグールドの演奏を収録したものです。時空を吹っ飛ぶ複雑怪奇なファンタジーを、「明日に向かって撃て」や「スティング」のモダンな感覚のジョージ・ロイ・ヒルが映像化しました。TV放映された時、偶然見たのですが、面白い映画でした。さすがに、音楽までは覚えていませんでしたが……..。

酷暑の夏に聴くと、体中のエネルギーを吸い取られそうですが、これからの季節にはピッタリの音楽かもしれません。一年で、最もつまらない番組ばかりを放送する元日とか、終日グールドにつき合うなんて如何ですか。

 

★毎年恒例になりました『ネイチャーガイド安藤誠さんの自然トーク「安藤塾」』は、10月28日(金)7時30分より開催が決定しました。(要・予約 レティシア書房までお願いします) 

★★カナダ在住で、ドールシープを撮影されている写真家、上村知さんの写真展を11月1日(火)〜13日(日)まで開催します。5日(土)夜に、上村さんによるスライドショーを予定しております。(要・予約 同じくレティシア書房までお願いします)


 

 

 

 

 細野晴臣選曲、監修によるCD「ETHNIC  SOUND  SELECTIONS」。それぞれに、「既視」「祖先」「律動」「恋歌」「哀歌」というタイトルが付いていて、そのタイトルに因んだ曲が、全世界から集められました。ブルガリア、イラク、トルコ、韓国、中国、パキスタン、タンザニア等々あらゆる国の曲が収録されています。さすが、細野晴臣です。

このCDの正しい(?)聴き方は、真面目にじっと聴かないことです。遠くの方から、ふわっと聴き取れるぐらいの感じで流してください。そうすると、それぞれの国の巷で流れている音楽が、周りの雑踏とほぼ良くミックスされて、自分が異国の中にポツンと立っている気分になれます。例えば、「恋歌」に収録されているビルマの「ザディアナー・サチャー・ウェイラー」などは、夏の暑い日に部屋の向こうから、かすかに聞えてくると、素敵な午睡が楽しめます。音楽なんて、あんまり聴かないなぁ〜という方にもお薦め。価格はワンコインランチより安い、1枚400円! 400円で世界一周です。

日常の暮しを見つめる優れた小品を書いている石田千が、日本各地を周り、その土地の唄と、そこに暮らす人々を紹介する「唄めぐり」(新潮社1400円)が入荷しました。この作家の「月と菓子パン」(晶文社650円)「屋上がえり」(筑摩書房700円)を読んで、ケレンのない、地味ながら優しい文章のファンになったのですが、「唄めぐり」の方は、エッセイというよりノンフィクションと言った方がいいかもしれません。

秋田県「秋田米とぎ唄」、香川県「こんぴら船」に始まり、福島県「あまちゃん音頭、新相生馬盆唄」まで全25曲。日本中を駆け巡ります。どの章も、歌詞が収められ、唄の生い立ちを調べ、唄を現地で聞いて、その土地で生きる人々とどう関わってきたのかが、著者らしい素敵な文章で綴られています。例えば、宮城県「大漁唄い込み」では、活気を取り戻した石巻港のせりの様子をこう締めくくっています

「声をはりあげていた競る港の人は、みな懐中に鼓舞する拳を握っている。目の前に、いのちをかけて働いてきた海がある。あおく冴える波にむかって、船がまた出ていった。まえは海、まえは海。大漁網を、唄で引っぱる。」その風景がすうっと現れてきます。

また「唄っこきいて、石っこながめて、雪っこでころんで、はっと汁の味っこ覚えて、うれしかった。そうして、お参りも無事すませた。あとは、お湯っこで、酒っこ」なんていう岩手県「げいび追分」の最後の文章に出会うと、なんだかこちらも、ぴょんぴょん飛びはねて、どぶんとお湯につかり、美味しいお酒にのどをならしているような気分になりました。

「耳のなかで縛られた真紅の焔が/高くころがり大きなワナ/焔の道に火とともに跳ねる/思想をわたしの地図としながら。/「せとぎわであろう、じきに」とわたしは言った/ひたいをあつくして誇らかに。/ああ、あのときわたしは今よりもふけていて/今はあのときよりも ずっとわかい」

象徴詩のような言葉が並んでいますが、最後のフレーズで音楽好きの人には、あ〜あれか、とピンと来るでしょう。そう、ボブ・ディランの「マイ・バック・ページ」の一番の歌詞です。なんのこっちゃ理解不能にもかかわらず、”Ah , but I was so much older then ,I’m younger than that now.”というリフレインに心躍らされて来ました。

大学時代に初めて聴いて、衝撃を受けて、片桐ユズルの翻訳した分厚い詩集を買って、解った様な気分でキャンパスを闊歩していたことを思いだします。しかし、その後、ディランは、うっとおしい存在になったり、聴きたくもなくなったり、しかし、急にのめり込んだりという事を繰り返してきました。ボブ・ディランというミュージシャンは、私にとって不思議な人です。

思うに、気分的に後ろ向きの時とか、やましい時なんかに、ディランは忍びこんでくるのかもしれません。だからと言って、癒してくれるとか慰めてくれるとか、そんなことはありません。その時のそのままの姿を肯定してくれて、ま、そんなものでしょう、とため息混じりに去ってゆく・・・ような気がします。

64年、ディランはこんな言葉を残しています

「内側から素直に出て来る歌だけを歌いたい。歩いたり、話したりするのと同じように歌が書きたいのさ」

彼の言葉を集めた「自由に生きる言葉」(イーストプレス600円)には、そんな言葉がギッシリ詰まっています。

私のお薦めはアルバム”SLOW TRAIN COMING”(US盤800円)です。

「ぐだぐだ言わず、働いて、安酒飲んで寝ちまえ」みたいな積極的後ろ向き人生を歌ってくれているのが、心地よいアルバムです。忌野清志郎が、名曲「いい事ばかり ありゃしない」で、「新宿駅のベンチでウトウト、吉祥寺あたりで ゲロ吐いて すっかり 酔いも 醒めちまった 涙ぐんでも はじまらねえ 金が欲しくて働いて 眠るだけ」と歌っていますが、あの気分です。

でも、そんな歌こそが、ほんの、ほんの少しだけの生きる力を与えてくれると思うのです。

 

 

本日より、当ブックストアは、ジャズクラブに模様替えしました。壁面一杯に個性的な音を出すジャズミュージシャンが揃いました。

「中川秀夫JAZZイラスト展」開幕です。

中川さんが愛したクールでホットなジャズメンがズラリ勢揃い。哲学者のような風貌のベーシスト、ロン・カーター。ストイックな風情のサックス奏者エリック・ドルフィー。鋭い目つきで、ファンキーな音や、どや!という顔つきのオルガニスト、ジミー・スミス。周りがホットでも、オレ、クールだもんねというピアニスト、ビル・エバンス等々、お馴染みのミュージシャンの横顔がです。

ジャズなんか聴いたことのないって方にも、ぜひご覧いただきたいです。音楽が聞えてきそうですよ。「アメリカが誇れるアートはジャズと西部劇だけだ」と言ったのは、クリント・イーストウッドでしたが、確かにジャズという音楽ジャンルは、アメリカという国なくしては生まれてこなかったものでしょう。

壁一面に飾られたイラストを見ていると、それぞれに悪戦苦闘しつつ、個性的な音作りに生涯を賭けた彼らの姿が迫ってきます。是非DMに!と推薦したドルフィーがフルートを演奏している作品(写真下の右側)は、見事にこの音楽家の持つ資質を捉えていうように思います。極めて日本的な、禁欲的な音使いに溢れる墨絵のようなモノクロームの世界。それを、アメリカ人が表現しているなんて不思議です。もし、天国に行けたら、まっ先に聴きたいのはこの人です。

★中川秀夫JAZZイラスト展 6月28日〜7月10日(日)

火、金、土、日は、作家在廊予定。

 

★「かっこいい〜」と思わず叫んでしまった女性が、下の写真です。

アメリカに「アラバマシェイクス」というロックバンドがあります。リードボーカルは、Youtubeで映像を見た時、え・・・と、この人、男性?女性?どっちかわからない風貌で、めちゃくちゃパワフル。ダイエットなぞ、どこ吹く風といわんばかりの巨体から、絞り出すように歌うブルース。有無を言わせないパワーにただただ圧倒されました。

自らの正しさを声高に主張せず、相手の愚かさを糾弾せず、そんな人間同士が戦うことの無意味さを歌う“Don’t Gonna Fight”を一度見て下さい。アメリカのマツコデラックスなんて言わずに、性別や人種の境界線を越えてゆく姿を堪能して下さい。(ちなみに彼女は白人の母親と黒人の父親を持っています。)CDは店に置いてます(US盤1600円)。女性ロッカーというレッテルを吹き飛ばすブリトニー・ハワードは、ひれ伏したいくらいカッコイイ人でした。

★復活を!

日本で悪役やらせたらベスト5の俳優といえば、成田三樹夫、金子信夫、佐藤慶、石橋蓮司、そして郷鍈治だというのが私のセレクションです。その郷鍈治の連れ合い、ちあきなおみには、これはもう見果てぬ夢なのかもわかりませんが、復活して欲しいと切に思っています。切れ味、凄みとも独特だった郷鍈治亡き後、彼女は、ぷっつりと歌謡界から消えました。石井隆監督作品「GONIN」で、ちあきの「赤い花」が挿入歌として巧みに使われていましたが、男と女の暗い情念を歌い上げた絶品でした。そんな彼女が古いスタンダードや、ポピュラーナンバーを取り上げて、グッド?オールドアメリカンの世界を歌った「Three Hundreds Club」(1200円)が入荷しました。ノスタルジックを込めて歌う、彼女の魅力を発見できる作品です。

★マニア必読の本入荷

大手CDショップのディスクユニオンが出版社を設立。「DU BOOKS」という名前で、音楽マニア必読の本を出版しています。その中の一冊、鈴木惣一郎「細野晴臣 録音術」(2000円)が入荷しました。フォーク、ロック、歌謡曲、ニューウェイブ、テクノ、ワールドミュージックとあらゆるジャンルの音楽を自分のものとして、刺激的な音楽をクリエイトしている細野晴臣が、彼の創作現場を支えたレコーディングエンジニアへのインタビューを通して、日本のポップスがどう作られて来たのかを見せてくれる労作です。もちろん、細野自身のインタビューも満載です。近年の傑作「ホソノバ」に谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」のほの暗さが充満しているなんて話は興味津々です。

彼がサントラを担当したますむらひろし版「銀河鉄道の夜」(1400円)も再入荷しました。