木村元の「音楽が本になるとき」(木立ちの文庫/新刊2420円)は、音楽の本というジャンルを逸脱しながら、音楽の本質について考察した稀有な書物です。

「丸竹夷ニ押御池 姉三六角蛸錦(まるたけえびすにおしおいけ あねさんろっかくたこにしき)」という、京都の人なら口ずさむ通り名を歌った歌で始まるように、著者は京都生まれ。上智大学卒業後、音楽之友社に入社、一貫して編集者として活動し、2007年アルテスパブリッシングという音楽関係の書籍専門出版社を立ち上げました。(もちろん同社の本は当店で扱っています)

本書は、地元京都市下京区にある「木立ちの文庫」よりリリースされました。

「感動というのは、ある種の甘美な自己肯定感と、安易にそれに浸ることを許すまじとする自己規制の感覚とのせめぎあいだということである」

著者は、このことは音楽だけでなく、読書にも当てはまると言います。映画も演劇もそうだろうと、個人的に思います。第1章「泣くのは恥ずかしい」は、感動という現象について掘り下げています。

また、著者の専門分野であるクラシック音楽についての情報や、オタク的知識の羅列といった音楽本にありがちな展開はほとんどありません。音楽という表現形態を深く追求します。理論的、哲学的考証で、私たちに著者が投げかけてくる言葉について、考えることえを求めてきます。だから、決して読みやすい本ではありません。しかし、理路整然とした文章を解きほぐしてゆく面白さを体験させてくれます。

「音楽をするということは、楽譜に書かれた普遍的な芸術を再現することであると同時に、楽譜に書かれていないことを読みとってくれるたったひとりの聴き手に、みずからの思いを届けれることでもあるのだから。」

この文章を読んだとき、新刊書店員として新米の頃にある先輩に言われたことを思い出しました。「本屋は本を売る場所ではない。本と本の間にあるものを売るんやで」と。さらに、「数多くの人に向かって売るんやない、ひとりに向かって売るんや」とも言われました。そう言われてもなんだか訳がわかりませんでした。ちょっと似ているなぁと思いました。今になれば、本を仕入れる時、あるいはブログを書いている時など、あの人に向けて、この人を思い浮かべて、というのが確実にあります。

取り扱い中のアルテスパブリッシング社の出版物は「文科系のためのヒップホップ入門」1&2、「すごいジャズには理由がある」、「現代ジャズのレッスン」、「 YMOの 音楽」、「ミシェル・ルグラン自伝」、「魂のゆくえ」、「ポップ・ミュージックを語る10の視点」

どれも魅力的ですが、個人的オススメはピーター・バラカンの「魂のゆくえ」ですね。

 

ピーター・バラカンの名前を知っている人は、きっと音楽大好きの人だと思います。1951年ロンドン生まれ、74年に来日。その後、ラジオのパーソナリティとして、各種の番組に出演して、ロック、ポップスを中心にして世界の音楽を紹介してきました。

世界の音楽に対する知識とその素晴らしさを伝える文章力、そして、自分の立ち位置をしっかりと踏まえた上での政治的発言などで、最も信頼している音楽評論家です。「Taking Stock ぼくがどうしても手放せない21世紀の愛聴盤」(駒草出版/古書1300円)は、よくあるベストヒット音楽チャートからは見えてこない素晴らしい音楽を紹介した一冊です。

私にとってバラカンさんは、アフリカ音楽への興味の扉を開けてくれた人です。彼がいなければ、アフリカ、中近東、南米など、いわゆるワールドミュージックなど聞いてこなかったかもしれません。

本書でも、数多くのアフリカ圏の作品が取り上げられています。あっ!これ、彼の愛聴盤だったのかと、嬉しくなってきたのがマリ共和国のサリフ・ケイタの”Moffou”(1500円)です。サリフは、アルビーノ(先天性色素欠乏症)なので、肌はピンク色、髪は金髪です。その病気に対してマリの社会は理解がなくで、迫害を受けてきました。

13世紀に遡るマリ帝国創始者の末裔に当たるサリフは、家庭でも迫害され、音楽活動禁止を宣告されます。その反対を押し切って、世界に飛び出していきます。そんな彼の生い立ちや、そこから生まれてくる音楽を紹介してくれます。本アルバムのオープニングを飾る“Yamore”の素晴らしさをバラカンさんはこう説明しています。

「やさしいラテン風のパーカッションとアコーディオンの演奏に、これこそアフリカの音楽の大きな魅力と言える女性バック・ヴォーカルの反復フレーズに重なるように、サリフの伸びやかな歌がさりげなく滑りだします。」

私たちが持つアフリカの大地のイメージ、そのままの風景が広がってきます。心晴れわたる音楽ってこういうことだと思います。初めて聞いた時、あまりの素晴らしさに呆然としました。「この1曲だけのためにでも欲しくなる名盤」と書いていますが、その通りです。3曲目”Madan”は、体が思わず動きだし、どんな踊り方だっていい、足を踏み鳴らし、手を振り回す。そんな気になる一曲です。この曲を聴きながら、京都市動物園のゴリラと一緒に踊っている自分を夢想しましたね。

バラカンさんの本を読んだら、このCDも、あのCDも欲しい!と思います。音楽ファンには危険な本かも………。

「飲み屋ってのは、ハゲたらダメなんだよ。コーヒー屋のオヤジはハゲればハゲるほど、コーヒーがうまくなる。味に濃さが出る。でも飲み屋のオヤジがハゲると酒がまずくなる。これ、ほんとだから!オレが長いことやって来れたのは、ハゲなかったからだよ」

なんて言ってるのは、東京下北沢で40年続くロックバー「イート・ア・ピーチ」のオーナー中居克博さんです。彼は1974年にこの店を始めました。凄いですね、40年も同じ場所で、ロックバーを営んているなんて!

こんな名物オヤジたち11人の人生観、音楽への思い、店への愛着を描いたのが、和田静香「東京ロックバー」(シンコーミュージック/古書650円)です。

中居さんの話を続けます。彼が、店を継いだのはなんと19歳。前のオーナーが体を壊したため、やってみるかと言われて、うんと言ったのが始まりでした。いきなり大学生に店を譲る人も、譲られて拒否しなかった方も、なんだか凄い。筆者は「70年代ってお店を開くことが今よりもずっと堅苦しいものじゃなく、しかもロックが学生のものだったから学生がロック喫茶をやるのはそんなに奇をてらったことでもなかったようだ。」と書いています。

日本最古のジャズ喫茶は横浜にある「ちぐさ」。昭和8年開店です。私も行ったことがあります。で、最古のロックバーとなると1972年開店の「フルハウス」だろうということで、千葉県の稲毛にあるお店に筆者は向かいます。オープンした頃、日本中を震撼させた連合赤軍による「あさま山荘事件」を、持ち込んだTV で客と一緒に店で観ていたと語る高山真一さんは66歳。彼は電電公社(現NTT)に務めるサラリーマンでした。それが、どうして東京でもない千葉の片隅に店を開いたのか、面白いエピソード満載。そして今の心境をこう語っています。

「飲みすぎたからいつ脳こうそくになってもおかしくはない。一応は丈夫だけど、血液はドロドロだよ。この年になるとね。健康を一番考える。」

間食なし。納豆と魚焼いた朝ごはんを8時に食べ、自分で畑をやり、野菜を作る。まるで健康雑誌に登場しそうな人物です。でも、自分の店についてこんなことも言ってます。

「勉強してますよ、そうしないと若い子にバカにされちゃうし、ここが老人ホームみたいになるのはイヤなんでね。」

同感です。私も店を開けるとき、若い人に支持されない店には絶対したくないし、上から目線で語るジジイになりたくない、と思っていました。

昨年、当店で個展を開いてもらった九州の造形作家9cueさんと、彼女が是非行きたかったという市内のロックバーにご一緒しました。あぁ〜、この雰囲気、懐かしい!何十年もロックを聴いてて良かったとつくづく思いました。

“No music No life”ですね。

お知らせ 

緊急事態宣言は解除されましたが、暫くの間、営業日・時間を下記のようにさせていただきます。

営業日:毎週 火曜日、木曜日、土曜日、日曜日 営業時間:13時〜18時

通販、メールでの在庫確認は常時できますので、ご利用ください。通常営業再開はHPにて告知いたします。(info@book-laetitia.mond.jp)


 

 

 

 

京都新聞朝刊に毎日連載されているコラム「凡語」、本日はこんな文章で始まっています。

「この国の憲法9条はまるでジョン・レノンの考え方みたいじゃないか?戦争を放棄して世界の平和のためにがんばるって言っているんだぜー日本のキング・オブ・ロック、故忌野清志郎さんは著書にそう記す。」

昨日、5月2日は彼の命日でした。11年前、彼が亡くなった時の喪失感は、今もそのままです。音楽家としても、人間としてもリスペクトしていました。

小さな出版社、百万年書房から、忌野清志郎「使ってはいけない言葉」(新刊/1430円)が発売されました。これは、様々な雑誌や書籍で書かれた彼の膨大な言葉を、六つのカテゴリーに分類して選び出した本です。

「誰でも好きなことを歌っていいような世界がくるまで頑張りたいと思います。いちいち、反戦歌を歌ったから何だかと言われたりね、そういうことをしないで、反戦歌もラブソングもさ、全部同じレベルで、みんなが素直な気持ちで聴けるその日まで、頑張り続けるつもりで頑張っているんですよ。」

「凡語」によると、彼の母親は再婚で、前の夫はレイテ島で戦死しています。彼が見つけた母親の短歌には、亡くなった夫を思い、「戦争への不条理がにじんでいた」とのこと。だからこそ「『反戦は遺伝子に組み込まれていると思った』と語っている」と書かれています。

反原発ソングを吹き込んだり、「君が代」をパンクロック風に歌ったり、過激な部分ばかりがマスコミに取り上げられていましたが、彼の気持ちとしては、いい歌を歌うだけさ、だと思います。政治的に利用されることを嫌い、その手のインタビューに答えなかったのも彼らしいと思います。残念ながら、58歳で旅立ってしまいました。

音楽家を含めて、表現者を「プロの自由労働者は、才能や技術が枯れてしまったら一寸先は闇、というある種ギリギリの生き方を選択した人間なんだよ」と定義しています。芸術や文化への理解の乏しい政治家たちに聞かせたい言葉です。

私が最も好きな彼の言葉は、これです。

「そう簡単に反省しちゃいけないと思う。自分の両腕だけで食べていこうって人が。」

私は、技術者でもないし表現者でもありません。でも、この言葉には仕事への凜とした姿勢を感じるのです。

東日本大震災の時、もし彼が生きていたら、きっと十八番のカバー曲「上を向いて歩こう」を歌いながら、被災地を回っていたと思います。歌を愛し、人を愛した生涯でした。

お知らせ コロナウィルス感染拡大の緊急事態下、これ以上感染者を出さないために、4月23日(木)より当面休業中です。予定しておりましたギャラリーの個展もしばらくの間お休みいたします。この「店長日誌」は毎日更新していきますので、読んでいただけたら嬉しいです。ご希望の本があれば、お取り置き、または通販も対応させていただきます。(メールにてご連絡ください。)

★★ 5月7日(木)午後2時より4時ぐらいまで開けています。ご用があれば声をかけてください。

 

 

ドキッとするようなタイトル「重版未来 表現の自由はなぜ失われたか」(白水社/古書900円)の著者、川崎昌平のことは、全く知りませんでした。タイトルと表紙のカワイイ系キャラのイラストと、本書の半分を占める不思議なコミックに興味を持ちました。コミックの舞台になっているのは、検閲が極端に強化され、表現者が迫害されている社会です。地下に潜った出版社に勤務する人たちが、法に違反した人々を殺戮してゆく軍人の追跡を振り切って、出版活動に従事するという物語です。陰惨な設定にも関わらず、キャラはカワイイ系ばかりが登場してきますので、そのギャップに戸惑います。

物語が進行していった終わりの方に、「表現の自由はなぜ失われたか」という著者の論考がボンと差し込まれます。時代設定は2030年。その時代を生きる男が10年前を振り返り、「京都アニメーション放火事件」や「愛知トリエンターレ事件」が、表現の自由を脅かしてしまったと後悔するのです。風変わりな設定ですが、ひたひたと押し寄せる検閲社会への警告の書です。

コミックの中で、地下に潜った編集者が「怖いのは・・・・・本がー表現が残せない未来だ」と発言します。「表現が残せない」、即ち表現が無理やり封じ込められることに、音楽・書籍販売に携わってきた私は3回遭遇しました。しかも、ソフトで穏便なやり方で。

1度目は、日本のロックバンドRCサクセションが反原発の歌詞を含んだカバーアルバムを出したが、レコード会社の親会社が原発関係に絡んでいたので、それを”考慮”して、自主的に発売を取りやめた時。

2度目は、EP-4という京都のバンドがメジャーデビューアルバム「昭和大赦」を発売した時です。アルバムジャケに藤原新也が撮影した写真が使われたのですが、それは、当時話題になった金属バットで両親を殺害した少年の家でした。その時もレコード会社は、社会的影響を”考慮”して、”自主 “回収を求めてきました。因みに、最初にこのアルバムについたタイトルは「昭和崩御」でしたが、「それは如何なものか」となり、大慌てでタイトルを変えた曰く付きアルバムです。(今はどちらも販売されています)

3度目は、オウム真理教がサリン事件を引き起こした時です。オウムは出版部門を持っていて、多くの出版物を出していました。事件が事件だっただけに、その社会的影響を”考慮”して、店頭からの撤去を、やはり”自主 “的にお願いされました。

社会への悪影響という問題はあるとはいえ、どれも、どこかの、誰かへの忖度が働いているような感じでした。私は「表現の自由を犯すな」みたいな社会的正義感でなく、ある種の生理的嫌悪感から、RCのアルバムの時は、レコード会社批判のポスターを店員たちが書いたものを張り出し、2度目の時は、そのまま販売を続け、3度目の時も、返本せず販売を続行し、おかげで店内を公安の方にウロチョロされました。

確か、各々の事件の後、業界の団体から「それは如何なものか」みたいな文書が送られてきましたが、店員たちと、なんかようわからん文章やな〜と話をしたと記憶しています。

たかだか20年余の仕事の中でさえ、これだけあった忖度。今はもっとあるのではないでしょうか。役者であり、ミュージシャンのピエール瀧が麻薬で逮捕された時、彼のバンド「電気グルーブ」のCDが自主回収されたことを知った時、変わってないなと思いました。その時、坂本龍一が「音楽に罪はない」と抗議したのはさすがでした。

コミックのラストは、ディストピア社会を生きる編集者が「一緒にボロボロになりながら本をつくっていこうよ」と言うところで幕を閉じます。出版社も書店も、そうあって欲しいと思います。私自身も、「生理的嫌悪感」を失うことのない本屋でいたいと思います。

 

お知らせ コロナウィルス感染拡大の緊急事態下、これ以上感染者を出さないために、4月23日(木)より当面休業中です。予定しておりましたギャラリーの個展もしばらくの間お休みいたします。この「店長日誌」は毎日更新していきますので、読んでいただけたら嬉しいです。ご希望の本があれば、お取り置き、または通販も対応させていただきます。(メールにてご連絡ください。)

★★ 5月2日(土)午後2時より4時ぐらいまで開けています。ご用があれば声をかけてください。

 

 

Goldmundの “AlL Will Prosper”(輸入CD1650円)のジャケットは、西部開拓時代のむさ苦しい男たちがテントの前に並んでる写真。中を開けても、解説もなけりゃ、ミュージシャンの紹介もないという、今時珍しいCDです。ウィキペディアによるとキース・ケニフという音楽家がやっているバンドの名前らしいです。

一言で言えば、ワイオミング、テネシー、テキサスの大草原を吹き抜ける風を感じます。これらのアメリカの都市に行った経験はありませんが、真っ青な空と、一面に広がるトウモロコシ畑を通過してゆく心地よい風のような音楽です。ギターとピアノだけで演奏されているのは、アメリカンスタンダードとも言えるもので、「アメイジンググレイス」「テキサスの黄色いバラ」「シェナンドー」など、あれ?どこかで聞いた曲ばかりです。オリジナルの英語タイトルしか記載されていないので、日本タイトルがわかりませんが、あぁ〜懐かしいとノスタルジックな気分へと誘われること間違いなしです。ゆっくりと、長い時間をかけて歌われ、演奏されてきたトラディッショナルな曲が持っている詩情を、ポツリ、ポツリと囁くように演奏したアルバムですね。

もう一人、ご紹介します。マンドリン奏者のデヴィッド・グリスマンです。

マンドリン、ギター、ベース、バイオリンに4人によるスインギーなサウンドです。彼はカントリーミュージック系の人物です。しかし、フランスのジャズギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトの名曲「マイナースィング」を演奏しているからでしょうか、これはヨーロッパに匂いがしてきます。それも、どちらかといえば北欧系。短い夏の日。森の中でみんなと楽しむランチの後ろで奏でられる楽しさと哀愁に満ちた音楽です。”Hot Dawg”というタイトルのアルバムは、ジャケットも素敵です。(輸入盤1400円)

どちらも、名作とか名盤ではありませんが、聴く人の気持ちを和らげてくれる音楽です。大文字山のてっぺんで、京都市内を見ながら、風に吹かれて聴いていたいな〜。

2019年1月末にフランスを代表する映画音楽家ミシェル・ルグランが亡くなりました。その一周忌を記念して、国内編集盤として2枚組CD「エッセンシャル・ワークス」(3000円)が発売されましたので、早速入荷しました。

「シェルブールの雨傘」「ロシュファオールの恋人たち」「華麗なる賭け」等リリシズムに満ちたメロディーで映像に躍動感を与えてきたルグランの全貌を知るのに最適なCDです。

ルグラン自身がセルフカバーをした映画音楽集と、様々なシンガーやミュージシャンが彼の作品を取り上げたソングブック集に分かれています。1枚目には、ルグラン作曲の名曲がずらりと並んでいます。

映画を知らない人でも、十分に楽しめます。華麗なストリングスとロマンチックな旋律。このひとの音楽には、心をウキウキさせる魔力がひそんでいます。アメリカには、やはりウキウキさせる素敵な曲を書いていたヘンリー・マンシーニという巨匠がいますが、微妙に違うのです。フランス人ならではのイキなセンスが一杯です。私はルグランの音楽を聴いているだけで生きているのが楽しくなってくるのです。

2枚目のソングブックでは、よくもまぁ、こんなに多くのシンガーやミュージシャンが彼の曲を歌っているものだと感心しました。あのタイタニックのテーマ曲でおなじみのセリーヌ・ディオンも登場します。一時、日本でも大人気だったアンディ・ウィリアムスが歌った「おもいでの夏」は、ラジオでもよくかかっていたので、ご存知の方も多いと思います。スキャットボーカルグルグループ、スィングル・シンガーズが歌う「華麗なる賭け」のテーマ曲「風のささやき」などは、これ以上切なく、甘く、そしてシャレたバージョンはあり得ません。また、今やアメリカ映画界を代表する監督のクリント・イーストウッドが、70年代初頭に監督したラブ・ストーリー「愛のそよ風」の主題曲「ブリージーズ・ソング」の爽やかさも耳に残ると思います。

私のベスト1は、ブラジルの名シンガー、エリス・レジーナがフルオーケストラをバックに歌った「ウォッチ・ホワット・ハブンズ」。若干36歳で亡くなったエリスのチャーミングな歌いっぷりが素敵です。ルグラン自身、晩年このカバーをよく聴き返していたようです。旅先に持ってゆくも良し。家で、朝・昼・夜と選曲を変えて聴くも良し。試聴できますので、お聴きになりたい方は、ぜひどうぞ。

ルグランについては、音楽書専門の出版社アルテスから「ミシェル・ルグラン自伝」(新刊/3080円)があります。映画音楽ファン、フランス映画ファンには読んでいただきたい一冊です。この本には貴重な写真も多数あって、あのアラン・ドロンが「風のささやき」のフランス語版を歌うシーンを捉えた一枚を発見!しかし、この録音が日の目を見ることはありませんでした。ドロンが下手だったのでしょうか……….?

 

 

牧舎の前で、それぞれ牛を連れた男3人を描いた絵に惹かれて仕入れたCD。

アーテイストはハリー・マンクス/Harry Manx。タイトルは”Faith Lift”(US盤1700円)。アメリカの大地を吹き抜ける風が感じられるような音楽だろうと予想して、スタートボタンを押すと……。

えっ、えっ、なんだこの男??

いや、想像以上に心の中に染み込んでくるのです。生い立ちを調べてみると、これまた驚きでした。英国のマン島で生まれ、カナダに移住して育ち、70年代後半にヨーロッパに戻り、膝の上にギターを横にしてギターを弾くスタイルのシンガー&ソングライターとして活動を始めます。その後、日本に移って10年以上暮らし、インドの音楽家 ヴィシュワ・モハン・バットの演奏を聞いて、インドに渡って彼に師事し、5年間在住。インド楽器を習得し、2000年にカナダに戻り、ソルトスプリング島を拠点に活動を開始、という世界を渡り歩いて自分の音楽を作ってきた人です。CDジャケの内側の写真を見ると、50代のおっちゃんです。この手のシンガーにしては、CDがまた変化球的編成で、バイオリン、チェロ、ビオラというクラシック音楽風アンサンブルです。

彼のボーカルは、最初の印象通り「アメリカの大地を吹き抜ける風を感じさせる音楽」。

コマーシャル的なことに背を向けて、ひたすら自分の音楽を追求しています。色々な音楽を聴いていると、たまに風が吹いている気分にさせてくれるアルバムに出会うのですが、これもまたそんな一枚です。ガーシュインの名曲「サマータイム」。こんなアレンジもあるんだと感激です。

インドの弦楽器MohanVeenaも彼が弾いていて、時たまオリエンタルな世界が広がるのも面白いところです。彼のデヴューアルバム”Dog my Cat”(US盤2400円)も入荷しました。こちらはアメリカのルーツ音楽の味わい十分な一枚です。旅先で聴いたら、気分最高ですね。

さて、もう一人ご紹介します。こちらは女性のブルース系シンガーです。名前はダニーワイルド/Dani Wilde。1985年、英国生まれ。父の影響を受けて、幼い頃からシカゴ・ブルースや60年代のモータウンなどのソウル系レコードを聴いて育ち、地元で聞いたブルースフェスに魅了されて、シンガーへの道を歩み出します。今回入荷したのは”Live at Brighton Road”(US盤1900円)でCDとDVD(スタジオライブ)の二枚組です。

個人的に、アメリカの姉御肌のソウル&ブルース系シンガーが大好きで、このジャケを見た途端、姉御!と言いたくなりました。(でもまだ30代前半です)。ゴスペルフィーリング溢れるフォーク的な曲と、ブルースロックな飛ばしまくる曲で構成されたスタジオライブ盤です。こういう女性達ってみんなカッコいいいですね。ホッとさせてくれたり、元気出さんかい!と気合いを入れてくれます。

★連休のお知らせ 1/20(月) 1/21(火)連休いたします

★1/22(水)〜2/2(日) レティシア書房冬の古本市プレ企画「こんな本が揃いました」展

★2/3(月)2/4(火)古本市準備のため連休いたします

★2/5(水)〜2/16(日) 恒例となりました女性店主による『冬の古本市』を開催します。今年も神戸・大阪・岐阜・東京・御殿場・京都などの女性店主の選書です。ぜひお立ち寄りください。


 

 

 

寒くなってきてなかなか寝床から出られない朝、目覚めに聴くと、しゃぁないなぁ〜起きよかと気合いが入るのが、憂歌団の「お政治おばちゃん」という陽気なブルースです。まずは、歌詞をご紹介。

「あたしゃ天下のお政治おばちゃん あたしゃ天下のお政治おばちゃん 心は正義の血で燃えている あたしゃ差別は許さない 女性差別は許さない 恋などしている 暇はない テレビに差別はないかいな ラジオに差別はないかいな レコードに差別はないかいな あたしゃ天下のお政治おばちゃん

こんなあたしも過去はある こんなあたしも過去はある 涙無しでは語れない 男をいびって50年 文句をたれて50年 いいたいほうだい50年」

と続いていきます。何やら、社会派の歌に聞こえてきますが、そこは憂歌団のボーカル木村秀勝のルーズでブルース感覚一杯の歌い方です。関西人ならではのノリで、ファン、ファン、ファンという気分にさせてくれて、憂鬱な気分もどこかへ消えていきます。

この曲の入った憂歌団の「セカンドハンド」がアナログ(1800円)、CD(2500円)を同時に入荷しました。独特のアイロニーと哀愁感一杯の彼らのサウンドは、誰にでも(特に関西人なら)するりと、あるいは、ゆるりと心の中に入ってきます。憂歌団初期の本場ブルースの名曲をカバーした「Blues 1973~1975 」(CD1600円)も入荷中です。こちらは、日常の雑事を片付けるときに最適です。思わず首をフリフリ、ステップを踏みたくなります。

 

 

★音楽専門出版社アルテスパブリッシングと取引を開始しました。藤井丈司「YMOのONGAKU」(2750円)、「ミシェル・ルグラン自伝」(3080円)、村井康司「現代ジャズのレッスン」(2090円)、岡田暁生「すごいジャズには理由がある」(1980円)、長谷川町蔵✖︎大和田俊之「文科系のためのヒップホップ入門」、「 文科系のためのヒップホップ入門2」(どちらも1980円)、そして、ピーター・バラカン「魂のゆくえ」(1980円)を入荷しています。

ミシマ社から「バンド クリープパイプ」(新刊2090円)が出ました。

これは、「インタビュー」(ミシマ社2420円)や「善き書店員」(ミシマ社1980円)等の著者木村俊介が、今年バンド結成して10周年を迎えるクリープハイプのメンバーに、インタビューしたものです。4人のメンバー一人一人から丁寧に話を聞き取り、インディーズアルバムの成功とメジャーデビュー、解散の危機、バンドへのバッシング、ミュージシャンとしての身体的トラブルなど、10年間の様々な困難の中で、彼らが何を感じたのかが語られています。

しかし音楽に限らず、表現の場で問題にどう対処し、乗り越え、時にはその渦中で自分自身をどう見失ってゆくのか、他者とのコミュニケーションの難しさ、表現者として、人間としてどう伸びてゆくのかを、インタビューから浮かび上がらせた本だと思います。

フロントマンの尾崎世界観(ボーカル・ギター)は、こんなことを話しています。

「他流試合のような場面では、とくに積極的に『自分のなにがダメなのか』を人に訊いたり、確認し たりしています。そのあたりの勉強は、必ず音楽に返ってくると思っています。 そうやって『知らない、わからないという自分の至らなさ』に向き合うプロセスのなかでは、気づくことがいくつかある。その新鮮さを、かつてそうだったように音楽で感じられるのが、ほんとうはいいのですが。でも、十代の頃からバンドばかりずっとやってきたなかでは、それなりに音楽というものの本質が見えてきています。」

これは、一人の若者がいかに謙虚に自分の表現に向き合っているのかを、木村が聞き出した場面です。尾崎は、この春から夕方の放送のラジオ番組でパーソナリティーを担当しています。リスナーの年齢層が高いところで、さらに研鑽しようとしています。初回のゲストは落語家の立川談春さん。立川の話し方を聞いて、彼はこう語っています。

「談春さんは『自分の言葉は、確実に伝わる』という確信を持ちながら喋っているように見えるんです。そこを見習いたいと思って、話をさせてもらいました。」

彼の学びへの姿勢はとても素敵です。「何事も勉強」こんな古臭い言葉が新鮮な輝きを伴って蘇ってくる一冊です。

クリープハイプの曲では「ただ」がオススメです。youtubeで聴けます。