某月某日、とあるCDショップのジャズボーカルコーナーにて、「お店のお薦め」を聴いていました。皆さん、それぞれに個性があって、表現力も豊かでした。あれも、これも欲しいと思い始めた矢先、美空ひばりのCDがセットされていました。それは、65年発表の「ひばりジャズを歌う」(日本コロンビア2000円)でした。あぁ〜あのレコードのCD化か〜と早速ヘッドホンを耳に当てました。

歌い出しを聴いた途端、今迄の歌手が、すべて吹っ飛びました。上手いとか、巧みとかそんなレベルではありません。日本の国民的大歌手で、波瀾万丈の生涯だったという事実を差し引いても、他を圧倒しています。それは、何故なんでしょう。

それは一重に「濃さ」だと思います。

だからと言って、問答無用に押し込んでくる濃さではないんですね、これが。サブタイトルに「ナット・キング・コールをしのんで」とあるように、彼の十八番が並んでいて、曲によっては、スマートに、スムーズに、あるいはしっとりと歌っているのですが、その一言一言に彼女の魂が宿っています。すべての人を取り込んでしまう大きさと強さを持っているのです。曲によっては、日本語で歌っているのですが、解説で竹中労がこう語っています。

「みごとに、コールの歌の魂を、私たちの国のことばに移しかえている。ひばりのハートは、あかるくて悲しいコールのフィ−リング(情感)に溶け込み、何の抵抗もなく、私たちを黒人ジャズの世界にさそうのである。」

日本語で、黒人ジャズの感性を歌いこむなんて前人未到ではないでしょうか。何がきても怖くないという自信。ジャケットのひばりの笑顔には、世界の歌を歌い込める喜びに満ちています。

ところで、平岡正明が「美空ひばり 歌は海を越えて」(毎日新聞900円)で、もう一人の国民的歌手、山口百恵との比較で面白い指摘をしています。

「ロックンロールを歌ってあれだけうまい百恵がジャズを一曲も歌っていないこと、ジャズを歌わせたら最高のひばりがロックンロールを一曲も歌っていないことだ」

この後、スリリングなひばり論が展開していきますので、興味のある方はどうぞ。

「円山町瀬戸際日記」(鳥羽書店1700円)。著者は内藤篤。職業は弁護士。この人、弁護士業の傍らで、自分で映画館を立ち上げ、館主として東西奔走し始めたのです。本の帯が面白い。

「とるものもとりあえず駆けつけねばならぬー2006年1月の開館ほどなくして、観客総数6名という不入りに驚愕した蓮實重彦氏より、緊急アッピールの檄文がとんだ。あの日からー山あり谷あり、祝10周年」

弁護士業界に馴染めない著者は、エンタメ業界に近いポジションで業務を続けていましたが、映画や音楽が大好きな性分が高じて、なんと映画館をオープンさせてしまったのです。その名は「シネマヴェーラ渋谷」。2006年から15年まで、その孤軍奮闘の日々を綴った日記です。上映特集を決めて、配給元との交渉、宣伝チラシの制作、上映中のイベント、トークショーの依頼等々、もう毎日戦闘モード100%です。そして開場するも、不入りの日々。しかし、この人はめげない。前向きで楽しんでいる。それが、日記から立上がってきます。「山口百恵特集」、「岸田森特集」と趣向を凝らした上映をドンドン実行していきます。いや、この映画館ぜひ行ってみたくなります。

もう一冊。野村誠「音楽の未来を作曲する」(晶文社1300円)、こちらも帯がすべてを物語っています

「音楽をめぐる冒険談だけど、照らされるのは僕らの生きざまですー西村佳哲推薦」

推薦の「西村佳哲」という名前だけで、興味持たれる方も多いと思います。著者の野村さんは京大理学部卒業の現代音楽の作曲家、演奏家です。生きた音楽を創り出すというテーマで、お年寄りとの共同作曲を老人ホームで、また、動物の鳴き声との共演を動物園で、あるいは火の音楽会というイベントをキャンプ場でと、従来の枠組みをぶっ壊すような音楽会のつるべ撃ちです。表紙の写真は銭湯の音楽会というところですね。

そして3.11。

震災の後も積極的関わって行く途上で、原発反対の立場の彼は気づきます。反対ばかりの人の向こうには、賛成ばかりの世界もある。そして、こう考えます。

「賛成、反対と二極化した対立をしている場合じゃない。放射能と共存を強いられている現状。この国で生きていくために、対立してる場合ではない。」様々な対立や衝突が醸し出す醜い不協和音。それを美しく響かせるための作曲ーそれが著者の究極の目的です。

映画好き、音楽好きには面白く読めるのは当たり前ですが、この二冊は、「私」というちっぽけな存在が、「世界」とどう交わり、進むべき道を探求するのかという、いわば人生指南(古い言葉ですな)書です。

当店では、いろんなジャンルの音楽を販売していますが、仕入れる時に、最も大事にしているのは「気分が良くなる」音楽かどうかですね。今日はそんな音楽を紹介します。

一つ目は、畠山美由紀の「みんなのうた」(1200円)。16人編成のビッグバンドを引き連れて歌うは、なんと「君恋し」「私の青空」そして「浜辺の歌」と日本的情緒一杯の昭和の歌。「夕暮の仰ぎ見る輝く青空」なんて歌詞で始まる「私の青空」。家路につく電車の中で、車窓に広がる夕焼けを見ながら聴けば、まぁ、今日も無事終わったかな、今夜もビールが上手いなぁ〜という気分です。ラストナンバー「浜辺の歌」はお休み前にどうぞ。

現役タクシードライバーの”タクシーサウダージ”のおっちゃんのセカンドアルバム「ボッサ・モンク」(1800円)。カバーもオリジナルも全曲日本語で歌います。どれがカバーで、どれがオリジナルか判断出来ない程完璧な出来具合です。哀愁一杯のギターの響きに乗って流れてくる言葉が美しい。この人、言葉の持つリズムに極めて敏感なのでしょうね。タイトルに使用されている「サウダージ」は、郷愁、憧憬、思慕、切なさ、などの意味合いを持つ、ポルトガル語です。そんな意味にぴったりの音楽です。タクシーのおっちゃんとして、いろんな人の人生の断片を見て来た人が醸し出す、まっ、人生こんなもんですわ、ねっ!と肩をたたいてくれそうです。

三人目は、メリッサ・カラードの「オールドファションド・ラブ」(1600円)。この人、あっという間に世界をセピア色に変えてしまう魔法の持ち主です。歌っているのは、アメリカの古き良き時代のスタンダードナンバーばかり。懐かしく、温かくて、心の奥にしまい込んでいる在りし日の思い出へと連れて行ってくれます。お子様ランチ、ペコちゃん、百貨店の屋上で食べたソフトクリーム、イチゴ一杯のクリスマスケーキ等々。「昔は良かったね」と、そして、思い出が一杯で良かったね〜と微笑んでくれるような音楽です。

最後にご紹介するのは、日本のシンガーで、MAYAの「ジャズ・ア・ゴーゴー」(1800円)。コンセプトはジャズとシャンソンをミックスしたサウンドです。で、はっきり言ってシャンソン的な歌唱力は、まだまだだと思います。しかし、その下手さをカバーしているのが、ここまでしかできないけれど、自信あるわよみたいな、前向きな開き直りですね。「オォ〜シャンゼリゼェ〜」と歌われると、ほれ、あんたも歌いなと誘われているみたいです。

さて、どの歌手がいいかなと迷われたら、どうぞご試聴して下さい。

 

★2月9日(火)〜21日(日) 「女子の古本市」開催します。

 今回は、東京・神戸・姫路・岐阜・伊勢・大阪・滋賀・京都などから、24店舗(女性店主)の選書です。

 きっと面白い本に出会えますよ。

 

 

 

ビートルズで一番好きな曲はと問われれば、「ゴールデンスランバー」です。僅か1分30秒程の短い曲ですが、その美しさは際立っています。

「黄金の眠りがおまえの瞳を満たし 微笑みがおまえの目を覚ます おやすみかわいい子 泣かないで 子守唄を歌ってあげよう」

これ、子守唄なんです。夕日を眺めながら甘い眠りに誘われる情景が浮かんできます。この曲をそのまま小説のタイトルにしたのが伊坂幸太郎ですが、こちらも見事な出来映えでした。

そして、ビートルズのアルバムでベストは?の私の答えは「イエローサブマリン」でしょう。

この中に「愛こそすべて」という曲があります。一時この曲が大嫌いでした。フランス国歌「ラ・マルセイエーズ」がイントロで鳴ったり、エンディングで急にイギリス民謡「グリーンスリーブス」がコラージュされたり、また”All You need is love”と、のんしゃらな繰り返しが鼻についたりして、敬遠していました。

しかしこの曲が、自分ができることしか出来ない、見えないものは何も見えない、だからかっこ つけても意味無しなんだと歌いながら、やっぱ、愛が必要なんじゃないの、とやや自嘲気味に終わることで、そう簡単に愛で救われることなんかないけど、それしかないね、と教えてくれる内容であり、様々なレコーディングテクニックを駆使して作り上げたことを、ようやく理解しました。

アベちゃんとお友達はきっとこの曲を聴かずに青春時代を通過したんでしょうね。いつまでもかっこつけてるなんてやめませんか。

ところで、この完成度の高いアルバムのタイトル曲「イエローサブマリン」は、日本で全く別のスタイルでヒットしたこと覚えておられますか? それが金沢明子「イエローサブマリン音頭」です。英語と日本語をごちゃまぜに入れながら、え?これって最初から音頭だった?と思わせるほど、見事に、チャチャンがチャン!と手拍子が入れられます。軍隊行進曲風のアレンジを加えて、ハチャメチャな曲に仕上げたのは、大瀧詠一。彼が亡くなってもう1年が過ぎようとしています。

イギリスのフォーク系の人達が歌ったビートルスカバー集”Rubber Folk”(1200円)が入荷しました。

これ、素敵です。アメリカのシンガーがやると大げさすぎたり、豪華すぎたりして、もう結構ですな気分になりますが、こちらは渋い選曲と知性あふれる歌い方で、ふっと時間が空いた時に聴いていただきたいCDです。アコーディオンの柔らかなサウンドで歌われる「ミッシェル」は本家本元よりいいかも。

大晦日はこれです!

 

土曜日NHKのタモリが出演している「ブラタモリ」は、欠かさず見ている番組です。地図好き、器械好き、歴史好きの好奇心溢れる姿を見ていると、こちらも楽しくなってきます。毎回のマニアックなトークも、??だらけですが、ワクワクさせてもらってます。

タモリのジャズマンとしての側面と、彼の魅力について特集した雑誌SWITCH 「特集ジャズタモリ」(500円)。私が彼のジャズを聴いたのは、大学時代、三条河原町にあったJAZZ喫茶「BigBoy」でした。え、何これ???とびっくり仰天した記憶があります。真面目にやってんのか、遊んでいるのか定かではないまま、思わず聞き込んでしまいました。因みに彼のCDはすべて廃盤で、ネットでは高値で取引されています。

1972年、日本を代表するサックス奏者渡辺貞夫が、博多でピアニスト山下洋輔を迎えて公演を行った後の打ち上げで、タモリはその至芸を明け方まで披露し、山下を唖然とさせます。その後、山下はタモリと再会、ジャズマンとしてのタモリが一気に花開いていきます。

「笑っていいとも」以降、TVの人気者として全国に名前が知られた後も、私にはジャズマンタモリの印象は消えませんでした。この雑誌には、黒のタートルネック姿で、マイクを握ったり、トランペットを手にしたクールな写真が沢山収録されていますが、間違いなく、ここにはジャズマンとしての彼がいます。東北、一関のジャズ喫茶「ベイシー」のオーナー菅原正二は「ジャズというジャンルはない。ジャズな人がいるだけだ」という言葉を残していますが、タモリはまさにそれでしょうね。

山下を介して親交を結んだ糸井重里が、タモリが音楽に対して、極めて謙虚な人間であり、また、客に対しても、仕事仲間に対しても、親切な人物だと評価していますが、懐の深い人間なんだと思います。みうらじゅん、笑福亭釣瓶といった人達のタモリ評も満載です。

ところで、タモリを引っ張った山下の本に「セッショントーク」(冬樹社1200円)があります。山下洋輔がいろんな人とスリリングな対話をしているのですが、柳家小三治師匠との「漫談・フリージャズ」とか、生物学者、日高敏隆との「でたらめをつくる」、俳優室田日出男との「新宿。ジャズの街から」とか、ジャズはあまり聴かないという方にも、読んでいただける本です。私のお薦めは、矢野顕子との対談で、こんなタイトルです

「イイ音楽は笑い転げて、聴くもんだ」

至極名言だと思います。

 

 

 

弥勒世果報(みるくゆがふ)ーundercooled

「undercooledという曲は、2003年アメリカが大量破壊兵器があるという虚偽の理由でイラクに攻め入った頃、もっと頭をひやせ、という気持ちで作った曲です」

これ、作曲した坂本龍一の言葉です。その曲に沖縄で活躍する「うないぐみ」という女性ボーカルグル−プが歌詞をつけて歌ったのが「弥勒世果報ーundercooled」です。「海の美しさ、青い海の美しさ」と沖縄の自然を湛えるところから曲は始まります。そして、戦場となった沖縄を思い、こう歌います

「決して忘れられぬ 戦の世の哀れ 子供たちに語っていこう 子供たちに語っていこう 星の光 我々の地球の光 弥勒の世の 願いを立てる 願いを立てる」

とこの地の人々の平和への願いを歌います。

ジャケットの絵はCocco。UA(ウーア)が、歌の途中で「つぶやき」で参加しています。このシングルCD(1080円)は、諸経費を除いた売上げが、辺野古新基地反対を目的とする辺野古基金に寄付されます。ネットでも、CDショップでも買えます。(当店にもありますが)ミュージシャン達の思いに参加してください。

ところで「弥勒世果報」は沖縄古来の信仰で「弥勒神」がもたらす理想的な平和で豊かな世の中の意味です。そして「undercooled」ー「もっと頭を冷やせ」と言われる最も相応しい人物は、今、アベちゃんであることは、皆さんよくお分かりのはずですね。

もう一枚ご紹介します。ガザ空爆の渦中、悲惨な運命に翻弄される子供達を前にして、なす術のなかった日本人ミュージシャンが作った曲が、世界18か国のミュージシャンによって演奏されたCDです。アースキャラバンテーマ曲「SHARE」です。多くの国の人達が一つの曲を演奏すると、どれもその国が育んできたリズムで、こうもいろいろ変えてしまうのかと驚かされます。音楽の深さ、広さを再認識させられました。

(参加国)日本、台湾、カナダ、アメリカ、スペイン、韓国、パレスチナ、ルワンダ、インド、ペルー、オーストリア、タイ、イスラエル、ウクライナ、イラン、バングラデシュ、オーストラリア、イタリア

すべての人達が幸福にならない限り、個人の幸福はないという思想を展開したものです。音楽好きの宮沢賢治なら、きっと天国から、おっ〜、これはこれは、と喜んでいることでしょう。

 

 

杉浦日向子原作の映画「合葬」(原作についてはブログで紹介済み)を観て来ました。なんと、館内は数名というガラガラの状態でしたが、佳作でした。

監督は京都生まれの小林達夫。1985年生まれですから、今年30歳。これが劇場公開第一作です。主要スタッフを観ると、とんでもない人選です。撮影の渡辺伸二(57歳)はTV、映画で引っ張りだこの松竹の第一線カメラマン。照明の高橋齋は、北野武の作品のうち、17作品で現場を仕切っていた人です。美術の馬場正男(88歳)にいたっては、なんと黒澤の「羅生門」から製作に参加していました。

つまりトップクラスの映画職人相手に、彼等からみたらキャリア的には若造の監督は、一歩も引かず、一コマ、一コマ、一流の技術を得て、見事な映像を作り上げました。それだけでも拍手ですが、こんなに端正で美しい時代劇を処女作で創り出すなんて、驚きです。

原作は、江戸幕末にテロリスト集団と断罪され滅ぼされた彰義隊に、それぞれの事情で入隊した三人の若者の青春と無惨な最後を描いています。映画も概ね、その通りに映像化していきますが、原作の持つ、繊細なタッチを画面に捉えるには、やはり実力派のスタッフは必要だったのです。ワンカット、ワンカットが、絵画のように美しく迫ってきます。圧巻はラスト近くの政府軍との合戦シーン。彰義隊が引き篭もる寺の池に群生する蓮を捉えたカメラが、遠くの方で聞こえる合戦の声に向かって移動していきます。そこへ、激しい雨が降ってきます。雨粒で揺れる蓮。これは、原作に書かれた雨脚の見事な映像化でした。

時代劇でありながら、派手な立ち回りは少なく、物量で見せる合戦シーンもありません。ひたすら時代に流されてゆく若者達の儚い生の一瞬を描くことに終始します。

ラストは、原作と全く違います。「ジョゼと虎と魚たち」で鮮烈デビューし、NHK連続ドラマ「カーネーション」で大いに楽しませてくれた脚本の渡辺あやは、原作ではそんなに比重の重くなかった人物を、ラストで生かせます。成る程、こんなエンディングもあるのかと、やはり感心しました。

音楽を担当しているのがASA-CHANGE&巡礼(右写真)という無国籍音楽を演奏するバンド。エンディングの曲に圧倒されました。ご詠歌、インド古典音楽、ガムラン、謡曲がブレンドされているのですが、見事なオリジナルな曲になっていて、映画の終わりに相応しい曲でした。今年の一曲と聞かれたら、これです。

あれだけ入りが悪いとすぐ終了するかもしれませんが、磨き上げられた美しさに満ちた映画として、お薦めします。

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毎回、本好きにはたまらない、いい本を出す夏葉社から田口史人の「レコードと暮らし」(2376円)が出ました。なんだ、アナログマニアの音楽談義かと敬遠された方、ちょっと待った!!です。

これ、重箱の隅をつつくような音楽マニアの本ではありません。音楽なんて、全く登場しないのです。なのに、レコード本?? これは「音楽を売るために作られたのではないレコード」の歴史を振り返る珍しい本です。

この種のレコードをジャンル分けすると

「宣伝用に配布された」、「学校の卒業記念」、「政治、宗教団体のプロパガンダ」といったところででしょうか。聞いて欲しい目的があり、それがなくなると、廃棄される運命にあります。そして、その代表的なツールが、ぺらぺらのソノシートです。

1959年発行の「朝日ソノラマ」は、一ヶ月分のニュースを記事とソノシート数枚にまとめた雑誌で、「音の出る雑誌」として大人気になりました。そして付録として、より多くの雑誌で配布されていき、やがて少年少女雑誌の付録として定着します。70年7月の「小学6年生」の付録ソノシートは、当時開催されていた「大阪万博」の開会式のダイジェストと各パビリオンの紹介が収録されていて、子ども達はこれを聞いて、万博に行こう!と親に詰め寄ったらしいです。

もちろん、企業も販促ツールとして活用します。野村証券はノベルティ用として製作、「結婚式の祝辞のコツ」とか、実用的な話が収録されています。信用金庫組合が「信ちゃんは人気者」なんてテーマ曲の入ったソノシートを、全国に撒いていたこともあったとか。家の中を探したら一枚くらい出てくるかもしれませんね。

ちょっとマニア心をくすぐるのが、高級クラブ「ラモール」が、69年にクリスマスパーティーの案内状に製作したものです。柳原良平の作画というのも贅沢ですが、描かれている「ラモール」の看板部分に蛍光塗料が塗ってあり、暗闇で光るという仕掛けです。

というように、この本は、ソノシートが家庭に溢れ、それをレコードプレイヤーにのせて、様々な情報を入手していた一時代のことを、多くの写真を掲載しながら検証していきます。

しかし、よくもまぁ、こんなに出していたもんですね。私には覚えがありませんが、四角い紙に薄いシートの貼ってあるCDサイズのレコードをフォノカードと呼び、これをレコードプレイヤーで聞くということもあったみたいです。パッケージはどれもオシャレです。恐らく、こんなレアものを収集している人は沢山いらっしゃるのでしょう。

とにかく、楽しめる一冊です。

★10月23日(金)19時30分

北海道釧路ヒッコリーウインドオーナー&ネイチャーガイドの安藤誠さんのネイチャートーク&スライドショー「安藤塾」 決定。要予約

★11月13日(金)19時30分

世田谷ピンポンズ ライブ 要予約


イギリス北部の荒涼たる大地に、北極海からの冷たく激しい風が吹き付ける。その荒々しい自然の前に身を屈める人達。政治的にも、人間的にも卑屈になりそうな時に、遠くから聞こえてくる切ない声。ともすれば、風の中に消えてしまいそうなのに、強靭な精神力で立ちつくす。ダブリン出身のバンドU2のアルバム”The Unforgettable Fire”(800円)にはそんな息づかいがあります。

同じヨーロッパでも、スウェーデンから登場したThe tallest man on earth、直訳すれば「世界で最も背の高い男」という名前のシンガーのアルバム”Dark Bird is Home”(1800円)は、U2のように戦闘的ではありませんが、北の涯から物語を紡いでいます。デビュー当時のボブ・ディラン風と評価されていますが、北欧の澄み切った空や、星降る夜が醸し出す物語が聞こえてきそうです。寒い国に旅される方にはお薦めですね。

同じような強い風でも、テキサスのど真ん中を吹き抜ける風は、不毛です。テンガロンハットにロングブーツ、そして片手にはびんビールという典型的なアメリカの風景の中で、ゴチャゴチャ言わんと仕事せんかい!ほな、いくで〜!! と、言わんばかりのガッツだけで、トウモロコシ畑にはいってゆく男たちの背中が見えるようなのが、サニー・ランドレスの“Bound  by the Blues”(1600円)。個人的には、こういうアメリカ男はご遠慮いただきたいのですが、音楽はいい! いやな仕事が待ち構えている朝、気合い一発ケンカモードに突入できます。

一方こういうマッチョ男からは離れて、トム・ウェイツの”Closing  Time”(950円)は、しがない酒場で安物のバーボン片手にブツブツ与太っている男の、曲がった背中が見えてきそうです。初めてこのアルバムを聴いた時(やはり酒場でしたが)しびれましたね。酔いつぶれる一歩手前で踏みとどまり、まぁ、明日もあるかとムクッと起き上がる格好良さを学ばせてもらいました。

ところで、昨日から始まったARK写真展の中に、「バンジョーファミリー」と名付けられた作品があります。三匹の雑種の犬の写真(左)です。

ホンワカモード全開で、ボビー・チャールズの名作”Bobby Charles”(1300円)に収録されている、和みの名曲「スモールタウントーク」が聞こえてきます。口笛で始まるこの曲には、きっとバンジョーファミリーの面々もホイホイ付いて行くのではないかな。

 

 

 

 

まとめて入った文庫本の中で、面白いなぁ〜と思わず読んでしまったものがありました。

それは、音楽評論家の黒田恭一の「音楽への礼状」(小学館文庫400円)です。

音楽にはあまり興味のない人が読んでも、これ聴いてみたいなと思わせるような一冊です。この本では、総勢40名程の、主にクラシック、ジャズの音楽家が取り上げられています。クラシックに、ジャズか…..なんか難しい評論?と思われる方もおられるでしょうが、全然違います。先ず、本文の前に、それぞれの音楽家達に向けた賛辞が、読んでみたいと思わせます。              

例えば、レナード・バーンスタインは「タバコのことを考えると、いつもきまって思いだすのが、あなたのことです」。マリア・カラス「今でもぼくは、あのときのあなたの寂しげな微笑みを思い出します。」。マイルス・デイビス「あなたは、バックミラーを捨てて、常にジャズの前衛を走ってこられた」

なんていう簡潔な言い方で、いずれも超個性的な音楽家を掴み取り出します。

本文中、 最も共感を持ったのは、ジャズベースの大御所、チャールズ・ミンガスについて語った章です。ミンガスは、ご承知のように数限り無い人種差別や迫害を受けながら、商業主義に堕落しない作品を作り続けてきました。大学時代にミンガスの「直立猿人」というアルバムを暗いジャズ喫茶で聴いた時の、脳天をハンマーで殴られたような気持ちを思いだします。決してヤワにならない強靭なベースの音は、常に時代に対峙してきました。黒田は書いています。

「偽善でねじれた微笑より、怒りで血走った目のほうがはるかに美しい、ということを、ぼくらは、この頃、忘れすぎているかもしれません。」

著者は、ミンガスの姿勢から、今を生きる私たちの姿をこう見ています

「かりそめの仲良しごっこをしていれば、あれこれややこしいこともありえない、と思えば、踏まなくてもいいところでブレーキを踏み、怒りを押さえ込みます。怒ることをおさえこむのが習い性となったひとは、噴火にいたるはずもない、かすかな地響きにもおびえ、その結果、感情の凹凸を失います。」

ネット上のお友達ごっこを「かりそめの仲良しごっこ」に置き換えると、より鮮明に見えてきます。

本のタイトルは「音楽への礼状」となっています。著者が聴いてきた数多くの音楽から、多くのことを学んだことへの感謝を綴ったファンレターです。