2011年3月11日の震災をめぐる、ある日の記憶を絵本作家達が絵と言葉で振り返った「あの日からの在る日の絵とことば」(創元社1836円)は、ぜひ持っていて欲しい一冊です。あの大震災から、すでに8年。「もうすべてコントールされている」などと発言をした総理大臣は論外としても、私たちの記憶からあの震災のショックは薄れつつあります。

この本を編集したのは、いつも素敵な企画展をされているギャラリー&ブック「nowaki」の筒井大介さんです。彼は、編集者としてこう書いています。

「この本は三十二の絵本作家による、ごくごく個人的なエピソードの集積で出来ている。それは一見あなたには関係ない、もしかしたら些細に思える、あの日にまつわる、在る日の物語。 しかし、読み進めるうちに、いつしか自分を重ねる瞬間がやってくるかも知れない。自分の物語を誰かに聞いて欲しい。近しい誰かの物語を知りたい。他の誰かの抱えているものを、気持ちを、共有する事はきっと出来ない。それでも、みんなあの日から同じ地続きの日々を生きている。何かを乗り越えたりせず、ただただ抱えて生きていく。」

荒井良二、ささめやゆき、スズキコージ、原マスミ、町田尚子、ミロコマチコ、坂本千秋等々、第一線で活躍する作家たちが、あの日の、あの時を語ります。それは個人的な体験かもしれませんし、震災を直裁的に描いたものでもありません。けれども、この本に参加した作家たちは、あの日を抱えて、明らかにそれ以前とは違う今日を生きてきているのです。

私も繰り返し読んだ「希望の牧場」の、作画を担当した吉田尚令は、2013年にこの本を出した時の思いを伝えています。「希望の牧場」は、福島の原発事故で大打撃をこうむった牧場主の絶望と希望を描いた絵本で、高い放射線量の浪江町へ取材に行きました。

「2013年、森さん(注:原作者の森絵都)や僕らは牧場や牛飼いの核にある強さのなかに希望を見たように思う。それを絵本に記録しようと試みた。いずれその強さが消え去り、様変わりするのかもしれない。だけど2013年には確かにあったと信じている。それを絵本のなかに記録しようとしたんだ。こんな強さがあったのだと。」

作家たちの思いに寄り添いながら、それぞれにあの日を忘れずに生きていきたいものです。バカ高い東京オリンピックのチケット買うぐらいなら、この本をバンバン買って、お友達や知人にプレゼントしていただきたいと思います。自戒をこめて、私もこの本を側に置きます。

nowaki」さんでは、3月16日から4月1日まで、この本の原画展も開催されます。ぜひ、見に行ってください。

 

 

ご近所のギャラリー&BOOKSのお店「nowaki」さんに、DMを持って行った時のこと。ちょうど「nowaki」さんで開催されていた個展を観た瞬間、うわぁ〜、お腹の減る作品ばかり!と驚いたことがありました。

美味しそうなうどんが描かれた作品がズラリ並んでいたのです。絵を描かれたのはマメイケダさんで、このうどんの考案者が一井伸行さん。その時、ギャラリーにおられたので、ご挨拶させていただきました。

昨日、大阪のミニプレス出版社BOOKLOREから「ノブうどん帖」(1728円)という本が送られてきました。著者は一井伸行さん、絵はもちろんマメイケダさんです。

一井伸行さんは、「私はごく普通のサラリーマン家庭に生まれましたが、ある日突然うどんを打ち、出汁をとることになりました。今ではいろんなところで、うどん出汁のワークショップを開催しています。」と言う方で、プロの料理人ではありません。

著者自身もユニークですが、そのお父さんがまた格別に面白い。40年程前、お父さんは唐突に会社を辞め手打ちうどん屋を始めました。最初は閑古鳥が鳴いていたのですが、当時珍しかった手打ちうどんの美味しさが評判になり、大繁盛して支店を出すまでになりました。軌道に乗ったと思った途端、今度はアメリカ村でパスタやる!と言い出して、パスタ屋にさっさと転身してしまいます。ここで終わるかと思いきや、これからは農業や!と、10年以上続いたパスタ屋を閉じて、さっと長野県白馬村に移住してしまいました。著者も「すごい親父」と語っています。

そんな父の店で作ったうどんの出汁の味が忘れられず、多くの人に知ってもらいたくて、ワークショップを続けておられるのだそうです。この本には、著者のエッセンスが凝縮されています。すぐに役立つものばかりです。第一章はお父さんの話を中心にしたエッセイで、第二章はお出汁のレシピ。そして第三章が、友人たちのイメージに合わせて考えたうどんです。

「私が思い描くその人の印象を紙に書き出して、それを味や香りや食べ心地に置き換えて組み立てる。思いつきは良くても、食べておいしいと言うところに辿り着くまでには、なかなか仕上がりません。何度も試作を重ね、おいしく出来上がったらその人を訪ねて、一緒に食べる」という遊びを続けてきました。そんなうどんのレシピが溜まってきたので、マメイケダさんが絵にしました。名付けて「うどんスケッチ集」です。全て一井さんの友人知人のイメージに合わせたうどんが、たくさん描かれています。nowakiの店主、菊池美奈さんも登場。「ごまつゆ肉みそ」が、彼女のイメージとか。実に美味そうな面白い一冊です。