「雑誌Spectator41号」(古書/600円)は丸ごと「つげ義春」でした。この中で、無名時代の彼と親交を結び、貸本漫画の世界で試行錯誤してきた遠藤政治氏が、かつてのつげをこう語っています。

「いずれにしろ、あの時代は食えなかったけどバカみたいに真剣だったですね。僕はつげと永島(注:漫画化の永島真司)のおかげで貴重な経験をさせてもらったね。二人が偉いなと思ったのは、二人とも結局短編作品で生きてゆくわけでしょう。僕はそれに反対して、つげにも『それじゃ食えないだろう』って言ったんですよ。でも二人ともそのまま描き続けましたよね。心の奥深いところで、人生をかけて創作するというか。偉いですよ、あの二人は。」

「人生をかけて創作」した作家だからこそ、今も輝いているのですね。個人的に若い時は、貧乏くさいつげ漫画は苦手でした。最初にいいなぁ〜と感じたのは漫画ではなく、紀行文集「貧乏旅行記」(晶文社/古書950円)でした。「世の中の裏側にあるような貧しげな宿屋を見ると、私はむやみに泊りたくなる」という性格の作家が、ふらりと宿場や錆びれた漁村、鄙びた温泉を巡った記録です。

1989年。つげ52歳の時、「山奥でひっそり独居することをこの数年来夢想していて、近ごろ旅に出ると隠棲するにふさわしい場所探しもついでにそれとなくしてみたりしている」

52歳で繁栄にも名誉にも後ろ向きな姿を読んでから、この作家の描く世界がぐっと自分に近づいたと思います。

Spectatorには、三つの漫画が収録されています。「退屈な部屋」は、タイトル通り”退屈”を漫画化したような世界ですが、人生盛り上がりも、盛り下がりもせずに淡々と生きてゆく幸せが描かれています。なんだか、はっぴいえんどが歌う世界に似ています。

2017年、つげは日本漫画協会賞大賞を受けたのですが、贈呈式当日蒸発します。その一週間後戻ってきたつげは、こう言いました。

「僕はわりと昔から嫌なことは逃げるんです」

つげ関係の本で、一点レアなものが当店にあります。昭和53年、限定1000部で北冬書房から出た「つげ義春選集」(古書/ナンバリング入3000円)の第六巻で初期作品集です。少女マンガの原型とも言える「愛の調べ」、まるで西部劇みたいな「怒れる小さな町」などが収録されています。