昨日の夜、NHK総合で19時30分から放映していたドラマご覧になりましたか。 技ありの、刺激的で挑発的なドラマを作るプロデューサーに拍手。タイトルは「ドラマ&ドキュメント 不要不急の銀河」。

コロナ感染拡大の危険な状況下、三密の条件揃った現場でどうやってドラマを制作してゆくのか。スタッフ一同の涙ぐましい努力が、先ずドキュメンタリーとして作られました。もちろん出演者全員、このドラマに関わっているスタッフです。ドラマの方の脚本を書いている又吉直樹も登場します。さて物語の舞台は、「銀河」というスナック。コロナ感染拡大で営業が苦しくなっています。マスターをリリーフランキー、その妻を夏帆、祖母を片桐はいりが、それぞれ演じています。

マスターの台詞で「スナックが、自分の生きがいを担っていて、ここがなければ人生終わっている人もいるはずだ」というのがありました。おぉ〜、これは小池知事が、夜の飲食業を十把一絡に「夜の街」と、なんだかバイキンの巣窟みたいに発言し続けたことへの、異議申し立てみたいに感じました。そういえばドラマの背景には、必ずと言っていいほど東京都庁が画面に入っているのです。いやでも「夜の街」を連呼した知事の顔が浮かんできます。

この知事を、武田砂鉄は「日本の気配」(晶文社/古書900円)でこう語っています。

「小池は徹底的にテレビを意識している。『いいね!』や『リツイート』で自分の人気を”メディア ミックス”してきた人たちとは異なり、とにかくワイドショーのトップニュースに君臨することに力を注ぐ状態が続いた。」

記者からの質問の最後に微笑む所作など、まさにTVの向こうにいる視聴者対策でしょう。武田は「テレビに氾濫することが政治家の力量だと思っている節がある」とまで書いています。

武田砂鉄は、以前ブログで紹介した栗原康「死してなお踊れ」の巻末に載っていた見事な解説で、印象に残りました。

「日本の気配」では、様々な政治家(首相夫人も登場します)や、社会の現象を基にしつつ、この国を覆い尽くそうとする嫌な雰囲気をあぶり出していきます。

著者曰く「ムカつくものにムカつくと言うのを忘れたくない。個人が物申せば社会の輪郭はボヤけない。個人が帳尻を合わせようとすれば、力のある人たちに社会を握られる。今、力のある人たちに、自由気ままに社会を握らせすぎだと思う。」

もともと、晶文社のHPに連載したものを中心に、各種メディアに発表したものを一冊にしたものですが、「改めて読み返すと、いちいちそんなことまで言わなくてもいいのに、と思うのだが、今、いちいちこんなことを言わなくてはいけないのだ」と後書きに書いてます。それほどに、日本にイヤな雰囲気が重苦しくのしかかっているのかもしれません。

無防備にTVやメデイアの情報に晒されて、判断力低下に陥りそうな今こそ、ズバリ切り込んでゆく武田の文章は心強い味方です。最後まで通読していませんが、ことあるごとにページを開いて刺激を受けています。

 

 

 

 

NHKで土曜日夜に放送している「漱石の妻」ってご存知でしょうか。今、はまっているドラマです。

このドラマで漱石の妻のことを、初めて知りました。漱石が結婚して、帝大の教授を経て、国民的作家となっていく様を描いています。漱石には「シン・ゴジラ」で獅子奮迅の活躍をしていた長谷川博己、その妻には尾野真千子。彼女は、NHKドラマで織田作之助原作の「夫婦善哉」の健気なヒロインを演じていました。

で、この芝居の上手い二人の、時にはエキセントリックな、時にはドタバタ喜劇風の、時にはペーソス溢れるやり取りが、実に見物。あくまでフィクションですが、感情の起伏の激しい漱石という作家の姿が、見事に立上がって来ます。先週は、漱石の養父役で竹中直人が登場、立派になった子供に金をせびる小心な男を、演じていましたが、これが絶品でした。ちょっと、漱石の生い立ちを調べてみたくなりました。ドラマの原案になっているのは、夏目鏡子・松岡譲著「漱石の思い出」です。

漱石といえば、「坊ちゃん」、「わが輩は猫である」以外は、何故か知識人の憂鬱と苦悩を描いた小説が目立ちます。漱石が生きた明治時代を描いた関川夏央原作、谷口ジロー漫画による「坊ちゃんの時代」(アクションコミックス全5巻2500円)は、お薦めです。

漱石を中心にして、鴎外、啄木、秋水等の多くの文学者を登場させて、明治という時代を描いた群像激です。文学だけでなく、変転してゆく社会の様と時代に翻弄される人々の姿を全5冊に描き込んでいます。明治43年、天皇暗殺を企てた容疑で、社会主義者幸徳秋水らが逮捕、処刑された「大逆事件」のことも、この本で学びました。この全集は是非とも、高校の現代史のテキストに使用していただきたいものです。

第二部「「秋の舞姫」は森鴎外と、彼を追いかけて日本に来た舞姫エリスの愛憎を中心に、日本とヨーロッパのはざまで苦悩する鴎外を、第三部「かの蒼空に」では、彗星の如く登場した歌人、石川啄木の青春。第四部「明治流星雨」では、先程の大逆事件に翻弄される秋水を描き、最終の第五部「不機嫌亭漱石」で、病に倒れた漱石と明治の終りを描いて完結します。各巻300ページあまりの力作を、じっくりとお読み下さい。

当店在庫の全5巻の中で、第2巻だけ本の帯が違っています。他は「手塚治虫文化賞受賞」と文字の入った赤い帯ですが。第2巻は初版出荷時の白い帯で「それは鴎外の青春であった。」のポップが印刷されています。

 

★★10月28日(金)『ネイチャーガイド安藤誠さんの自然トーク「安藤塾」』は、満席になりました。

尚、「安藤塾」は、10月29日(土)19時より「町家ギャラリー龍」にて開催します。こちらの方は、参加者募集中です。お問い合わせは直接 「町家ギャラリー龍」(075−555−5615)まで。

 

★カナダ在住で、ドールシープを撮影されている写真家、上村知さんの写真展を11月1日(火)〜13日(日)まで開催します。

尚、11月5日(土)の、上村さんによるスライドショー 「極北 カナダ・ユーコン&アラスカの旅と暮し」は満席になりましたので申し込みを終了いたします。ご了承ください。

 

木曜夜8時のお楽しみ、松尾スズキ主演「ちかえもん」が昨日最終回でした。

いやぁ〜楽しませてもらいました。さすが朝ドラ「ちりとてちん」で落語をとことんひねった脚本家だけのことはありました。飴売りのお調子者の男が、近松の幼い頃の遊び相手の人形だったと思い至ったところなどは、泣けてしましました。傑作浄瑠璃「曾根崎心中」で、モデルとなった心中事件の二人が生きていたハッピーエンディング、ラストに流れる吉田拓郎の曲に拍手喝采。このドラマをきっかけに文楽に行ってみようかな、という人が増えたらいいですね。

ところで、当代随一の浄瑠璃語りの竹本住大夫へのインタビューをまとめた「文楽のこころを語る」(文春文庫350円)で、大夫は、この演目を「何もかもがきれいずくめの浄瑠璃で、私はあんまり好きやおまへん」と意外な告白をされています。それどころか、「近松ものは、なんでこないに人気があるんや」と近松ものへの距離感を表されています。

「文楽を初めて観にきた、という人にはストーリーもようわかるし、時間的にもそう長くはないし、いいのかもしれまへん。このへんが、外国でも日本でも受ける理由ですかいなあ。」

平成9年、パリでこの演目を11日間にわたって公演した時、すべて大入り満員だったそうです。

はんなりした大阪弁に誘われて、文楽の世界へと連れて行ってくれる入門書です。

文楽をこよなく愛した作家、小田作之助短篇集「聴雨・蛍」(ちくま文庫750円)に、人形遣いの吉田文五郎の芸道修行を聞き書き風の文体で書いた「吉田文五郎」という小品があります。大阪弁を一人前に駆使して作品が出来れば、大した作家と思っていた彼は、ここでも生き生きとした大阪弁を使っています。

「こつこつとこの報われん道を歩いてきたのかもわかれしめへん。贅沢な暮らしみたいなもんしよ思ても一日も出来まへなんだ。考えてみたら暗い道だした。けど。その暗い道を阿呆の一つ覚えに提灯ともして、とぼとぼ六十年歩いて来ましたんだす。」

これ、標準語でしゃべられると、なんか、フンと横向きたくなりそうですが、柔らかい大阪弁だと、そらぁ、ようきばらはったんやな、ともっとお話を聞いてみたくなります。

 

日曜日の夜10時、NHKBSドラマ「昨日のカレー、明日のパン」って7回連続ドラマやってますが、ご存知でしょうか。女房に付き合ってなんとなく見ていたら魅き込まれていきました。

TVの連続ドラマって、一部を除いて、私にはつまらない極みです。オーバーな感情表現、予定調和で、意外性のないエンディング。そんな中にあって、このドラマは新鮮でした。まず登場人物がユニークです。夫を亡くした女性と、夫の父親という二人きりの家族を中心に、隣家に住むキャビン・アテンダント。彼女は微笑む事ができなくなって仕事を辞め、引きこもっています。逆に笑顔を止められない産婦人科医、患者の来ない歯科医など。

ストーリーは一応あるのですが、見事にドラマの基本を外して、バラバラのエピソードをぶちまけながら進んでいきます。台詞の可笑しさ、突然な場面転換と、まるでオフビートです。しかし、先週(3回目)あたりから、まき散らした断片を少しずつ拾いながら、ジグソーパズルを完成させるかのように進行していきます。

きらっと光る台詞は多いのですが、息子の嫁に「ギフ」(義父)と呼ばれる鹿賀丈史演じるやもめ男が、嫁の同僚の女性と山に登りながら、こんな事をいいます。

「自分で背負った荷物なんて、自分で下ろせばいいんですよ」

これが、凡庸のドラマだと、心に重い荷を背負いながら一人孤独に歩む男と、見守る女性というパターンに陥りがちですが、このドラマに限ってそんなことはありません。

ひょいと肩の力を抜かせるシナリオは見事です。森絵都の小説に「宇宙のみなしご」(角川文庫350円)という佳作があります。真夜中に他人の家に忍び込んでは、屋根に登り空を見上げる少年、少女のお話です。この小説も多くのエピソードをまき散らして、見事なエンディングに向かっていきます。物語の最後に待っている幸せを予感させるようなドラマです

シナリオは木皿泉。ドラマ「すいか」「野ぶた。をプロデュース」等の人気作家です。主演の仲 里依紗も表情がホントに素敵です。「昨日のカレー、明日のパン」は先に小説として出版されて、今回ドラマ化されたものです。

泣け!笑え!驚け!なんて野暮な事を視聴者に求めていません。ちょっと不思議な人達が織りなす日々を、一緒に楽しみませんかというドラマのようです。偏った登場人物ばかりなのに、頷くところが多く、上手いですね。