内外で高い評価を受けている映画監督、是枝裕和。「そして父になる」「海街ダイアリー」「海よりもまだ深く」などご覧になった方も多いと思います。

是枝監督が、これまでの表現活動を語った「映画を撮りながら考えたこと」(ミシマ社2592円)は、面白い一冊でした。映画監督の本ですが、細かい技術論や、抽象的な映画表現論ではありません。彼はTVドキュメンタリーの出身なので、自分が育ったTV界に言及している部分が多く、日頃何気なく見ているTVのバックステージのことも描かれています。

今、恐ろしく保守化しているこの業界ですが、60〜70年代にかけては、かなりアナーキーな状況でした。是枝は、当時の少年の人気ナンバーワン番組だった「ウルトラマン」シリーズで脚本を書いていた佐々木守を取り上げていました。佐々木は、積極的に戦わないウルトラマンを書いています。「戦いの根拠になる正義がない」というスタンスでこのヒーローを描いていたのが、少年だった是枝には新鮮だったと回想しています。その後、TVは、新しい表現を求めない場所へとシフトしていきます。

吉田秋生のコミック「海街diary1/蝉時雨のやむ頃」を映画化した「海街diary」は素敵な作品でした。鎌倉に住む四人の女性の日々の細やかな感情にゆらめきを描いているのですが、彼が参考にしていたのは、何度も映画化された谷崎潤一郎の「細雪」だったことも、この本で知りました。

一人の表現者が、TV映像にしろ、劇場映画にしろ、業界の悪しき慣習や、体制に抗いながら己の世界を創り上げてゆく物語として、一気に読める本でした。

さて、是枝を育んだTV界に、創成期から今日に至るまで包括的に楽しく読ませてくれるのが、荒俣宏の「TV博物誌」(小学館900円)です。

1961年から69年まで続いた刑事ドラマ「七人の刑事」は、今日の刑事ものの原点とも言える作品ですが、この番組を演出した今野勉とのインタビューも掲載されていて、「月光仮面」「鉄腕アトム」等々を見ながら大きくなった僕たちテレビっ子には、興味のある話ばかりです。一方、大阪局で、東京発の番組とは全く世界の違う高視聴率を稼いだ「番頭はんと丁稚どん」「スチャラカ社員」「てなもんや三度笠」を製作した澤田隆治を通して、何故、関西発の番組はこうも異質なのかを論じています。「アタリ前田のクラッカー」なんて、ある年齢以上でないと全く通じないでしょうが、毎週楽しみでした。

 

 

NHK土曜連続の夜のドラマ「64」を観ましたか?

原作は横山秀夫。一時、この作家の新刊は愛読していました。推理ドラマの部分と登場人物の人生の光と影の部分が錯綜し、見事なエンディングに向かうカタルシスが持ち味です。映画化された「クライマーズ・ハイ」なんか何度観ても、その度に泣いてしまいます。

で、今回の『64」。首都圏に近い都市で起こった誘拐殺人事件を縦糸に、警察内部の権力闘争を横糸にして、極めて映画的なカメラワークで、この事件の闇に迫っていきます。脚本は、やはりこの時間帯で大ヒットしたドラマ「ハゲタカ」の大森寿美男がシナリオ化、音楽は「あまちゃん」の大友良英というベストな布陣。

主演は、前から大注目してきたピエール瀧。このところ、性格俳優として頭角を表してきていますが、元々は「電気グルーブ」というテクノ系バンドのメンバー。私がレコード店勤務の時代には、このバンドは若い人たちに人気で、アルバムが売れた記憶があります。

そんな彼が、いつの間にかワキ役で目を魅くようになりました。個人的には映画「ローレライ」の兵士役が印象に残っています。今どき珍しく、いかつい顔とがっしりした体格は、一見怖そうですが、笑うとチャーミング。「64」では、事件の最先端でマスコミとの対応に苦慮する広報官を演じています。背中で演じ、服の皺の一つ一つが主人公の苦悩を表現して、今のところ彼のベスト演技でしょう。(映画化されて佐藤浩市がこの役をするみたいです)

ところで、若い時は、映画監督の本をよく読みましたが、最近は役者さんの本を読みます。例えば「女優 岡田茉莉子」(文芸春秋900円)。名付け親が谷崎潤一郎、デビューは成瀬巳喜男、そして小津安二郎、木下恵介という日本映画黄金時代を駆け抜け、吉田喜重監督と結婚、難解な吉田作品に主演を演じ、彼を支えた第一線の女優の自伝ですから、面白くないわけがありません。

或は、女優ではありませんが、日大芸術学部を卒業して、ストリップの世界に飛び込んだ二代目一条さゆり7年間の記録をまとめた「踊り子の日記」(トパーズ・プレス950円)。ポルノ映画界に進むか否かで悩んだ末、出した解答はこうです。

「前貼りを貼っていたからこそ、好きじゃない人とでも抱き合える。でも、前貼りを貼らないのだったら、誰にも触れられずにすむストリッパーになったほうが、絶対にいい」

そして、ストリッパーの女王への道を踏み出します。現代日本の風俗の現場を晒し出しながら。一人の女性の爽快な生き方を綴った一冊です。こういう人生もあるんです。

ドラマ「緊急取調室」は、毎週木曜日夜の楽しみでした。その最終回、ひょっとしてこれが言いたいことだったんだという台詞がありました。

警察組織の正常化のため違法な資金を流用する組織上昇部に対して、それを認めない刑事が詰め寄るシーンで、彼はこう言います。

「目的が正しければ、何をやってもいいのか。それじゃ、戦争と同じじゃないか」

脚本はTV版「白い巨塔」で、原作にないアウシュビッツ強制収容所を登場させた井上由美子です。この台詞は、言い方を変えれば、戦争は目的が正しければ、いかなる残虐な行為もやってしまう。それで、ええんか!ということです。それなら、日本のファシズム打倒という正義を唱えれば原爆投下は正当化されるのか、という問題にも通じます。

62才の時に、「誰がこんな国の世話になるか」とカメラを捨てて無人島で自給自足の生活を始めた写真家、福島菊次郎は、捨てたはずのこの国の暗澹たる未来への不安から、82才にして書き下ろしの本を出版しました。それが「写らなかった戦後、ヒロシマの嘘」(現代人文社900円)です。45年8月6日の原爆投下から今日まで続く核の恐怖を描く本書は、決して読みやすい本ではありません。けれど、TVドラマのたった一行の台詞を深く掘り下げていくと、こんな本になるのかもしれません。

話はドラマに戻りますが、主演の天海祐希を支える脇、緊急取調室の面々が充実していました。特に、元お笑い芸人のでんでんは味のある顔で、私のお気に入り。朝ドラ「あまちゃん」の漁業組合長役で知られていますが、地方新聞社の苦闘を描く映画「クライマーズハイ」のベテラン編集マンとか、あるいは一連の園子温映画作品では、強烈な個性を発揮。中でも、「冷たい熱帯魚」の人を殺しては、バラバラにする不気味な殺人鬼は圧巻でした。(ランニンシャツ姿で骨をバラバラにするというもう二度と見たくない程の恐怖でした。

それにしても、毎日刑事ドラマの多い事・・・。

♫ 臨時休業のお知らせ  誠に勝手ながら、3月17日(月)、18日(火)連休いたします。


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2009年度吉川英治文学賞受賞の奥田英朗原作「オリンピックの身代金」が、先日2夜にわたって放映されました。

長編サスペンス「邪魔」、「最悪」を読んだ時、やっと高村薫のサスペンスを超える作家が出たと思ったものでした。緻密に書き込まれた風俗、転げ落ちて行く主人公達の奥深い闇の描写に引き込まれました。そして、東京オリンピック爆破犯の怨念を描いた「オリンピックの身代金」は分厚いハードカバー。オリンピックに酔いしれる大都会東京と、その繁栄から取り残される地方が描き込まれ、息苦しさを感じる小説でした。

それの、TVドラマ化か? ま、あんまり期待しないで見ようと思ってましたが、よく出来たドラマでした。特に、あの当時を再現するために集められた物、物、物。刑事たちのネクタイ一本、女性達の髪型など、作り手のこだわりを感じました。「細部にこそ神が宿る」とよく表現されますが、まさにその通りでした。覚えてますか、あの当時は自販機なんてなくて、お茶は、手のついた小さなプラスチック製のもので、蓋に注いで飲んでいましたね。脚本に強引なところもありますが、4時間のドラマとして、きちんと映像化されていました。

敗戦国のイメージ払拭のためのオリンピック開催に、犠牲にされる多くの地方労働者。富む者と、富まざる者の格差に苛立ち、爆弾を手にする若き東大生。多分に、この状況は8年後に開催される「東京オリンピック」でも同じ構図でしょう。吐き捨てられる非正規雇用者たち、無かったことにされそうな原発事故。オリンピックが始ってしまえば、感動ストーリーや、美談だけ洪水の如く流すマスコミに洗脳されて、そんな格差などあったことを忘れる我々。「お、も、て、な、し」が巷に溢れ、一見、日本は平和で豊かな国だという幻想が覆い尽くす未来を考えると、暗澹たる気分になりますね。

血湧き肉踊る冒険小説ではありませんが、お薦めです。(文庫化されていますので、新刊書店で探してくださいね)店には、この作家のユーモアセンス溢れる「港町食堂」(新潮文庫250円)があります。五島列島、佐渡島、礼文島と島めぐりのエッセイです。

「ケイタイ持っているが、メールの使い方さえ知らない」という作家の毒舌溢れる紀行文は、同じ原作者とは思えないほど軽妙です。

ところで、ドラマで、主役を演じているのは松山ケンイチ。川本三郎原作「マイ・バック・ページ」でも、過激派学生運動家を演じていましたが、「昭和」の雰囲気を出せる役者です。

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まだTVが白黒放送だった昭和31年。

松下電機産業がスポンサーになって放映開始した「ナショナル劇場」が、40周年を迎えたときに記念して発行された、私家版みたいな本がこれです。最初の放映は、宮城まり子主演「てんてん娘」(昭和32年6月まで放映)で、その次が「ナショナルTVホール」(昭和32年7月から同年末)というオムニバス。それぞれ原作を見ると、吉屋信子、小島政二郎、田宮虎彦、川口松太郎という名前が並んでいます。

そして、昭和33年、野村胡堂原作「銭形平次」(昭33年〜35年)が登場。主役は大川橋蔵ではなく、若山富三郎でした。当時は生放送だったので、そのあたりのエピソードには笑ってしまいます。それから、松本清張原作「黒い断層」(35年〜36年)、石原慎太郎「青年の樹」など次々原作ものが続きます。

獅子文六「箱根山」、小島信夫「大学生諸君」、石坂洋次郎「光る海」、曾野綾子「娘たちはいま」、久生十蘭「顎十朗捕物帳」・・・・文学とTVが親密な時代だったことが伺えます。

しかし、昭和40年代に入ると、昨今のバラエティー的コメディが登場します。

「ドカンと一発」(昭和43〜44年)。これ面子が驚きです!クレージーキャッツ+ドリフターズ&藤田まことという布陣です。笑いを生み出すための出演者の努力が凄まじく、いかりや長介は過労でぶっ倒れたそうです。

昭和44年8月、いよいよ「水戸黄門」がスタートします。翌年3月に高い視聴率で放映終了後、代わって「大岡越前」が登場。「ナショナル劇場」は、水戸黄門、大岡越前の二大時代劇の時代が到来するのです。私はこの辺りから、TVを見なくなったので興味がないのですが、日本のTV番組を引っぱってきた時代を振り返る資料としては貴重です。

蛇足ですが、当初、水戸黄門役は森繁久弥が候補に上がっていたらしいのです。彼の黄門さんも、ユーモアがあって面白かったでしょうね。全ページに、懐かしい写真が掲載されていますので、ある年代から上の人には郷愁を呼ぶことでしょう。(1500円)

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WOWOWで放映される連続ドラマには、大掛かりなだけでつまらないハリウッド映画よりも、ずっと上質の作品があります。

例えば、群ようこ原作「パンとスープとネコ日和」は、小林聡美、もたいまさこ、加瀬亮等でドラマ化したものです。この面子といえば、荻上直子監督の作品「かもめ食堂」、「めがね」あたりをすぐに思いうかべますが、そう、あの世界です。

つまり、波乱万丈ドラマチックなストーリーから遠く離れて、ひたすら穏やかな時間が流れるドラマです。それはいわば、小津映画「お茶漬けの味」で、佐分利信が「これ、上手いね」と木暮実千代とお茶漬けを食べるシーンにながれる日常そのままを描いたドラマ。

だいたいのストーリーはといえば、編集者の女性が、突然亡くなった母の経営していた飲み屋を、サンドイッチとスープの店にして、再出発するというもの。下手くそな脚本家なら、店に来るお客の人生を絡めて、あーだ、こーだと御託をならべるところですが、そんなものは全く無し。店と、その周辺の街を散文詩的に描き、そこに生きてる人たちみんなを、肯定してくれる優しさが心地よい。私なども固唾を飲んで最終回まで観てしまった「半沢直樹」の対極にあるドラマでしょうか。

 

監督は松本佳奈。多摩美術大学グラフィックデザイン卒業後、CMの演出家としてスタートし、映画「めがね」(07)のメイキング映像などを手がけて、小林聡美主演「マザーウォーター」で映画監督デビューを果たしました。京都舞台の、この映画も「幸せな時間」はすぐ側にあるよ、という事を静かに見せてくれました。「パンとスープとネコ日和」にもそれは色濃く流れています。

小津映画を何度観ても飽きないように、このドラマも何度でも観たくなる作品です。

ところで、小林主演のこの手合いの”日常映画”で常に共演している(事務所が一緒だから?)もたいまさこが、群ようこと対談している本「解体新書』(新潮文庫200円)は抱腹絶倒です。

もたい「私、じじいって言われるんです」

群「えっ?……….じいさん」

で始まる対談です。対談のテーマは「からだについて」です。山田詠美との「男について」など、おっと、と思わせる対談もあります。

 

 

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